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第3168号 2016年3月28日


Medical Library 書評・新刊案内


経験型実習教育
看護師をはぐくむ理論と実践

安酸 史子 編集

《評 者》浅田 匡(早大教授・教育実践学)

「人は経験から学ぶ」――新しい看護教育学の実践書

 看護はヒトを相手とする専門職である。医療者として,看護師にはできなければならない看護技術を習得することが求められる。それは,基礎看護学,成人看護学など7つの領域別に固有な看護技術を含め,習得すべき看護技術が言葉で説明され,繰り返し練習(訓練)される。しかしながら,ヒトを相手にするが故に,看護には正解はない。看護とは,専門的看護技術に支えられながら,一人ひとりの患者との相互作用において成り立つのであり,看護実践という状況に埋め込まれている。したがって,看護師にはその場での経験に基づく具体的な看護行為が求められる。

 本書で示された「経験型実習教育」とは,看護における看護師の経験のリフレクションに焦点を当てた教育プログラムである。指導型とされる,技術伝達ととらえられがちであった看護技術教育を,看護本来の意味からとらえ直そうとしているのが経験型実習教育であろう。具体事例が数多く示されているが,そこに共通するのは,看護学生が「できなかったこと」から「考えて,患者にすべきことをやってみて,看護がより良くできる」という学習プロセスである。それを自ら意味付ける経験が,正解のない看護場面において患者にとってより良い看護ができるような看護実践力を育成することになるというのが編者の理想であろう。

 本書は,「看護ができなかったという経験」から学生自身がその考えに気付き,状況をより詳細に把握する,患者の視点から考える,といったことが自ら考えられるような構成に確かになっている。しかし,看護は行為であり,患者にとってより良い看護行為ができなければならない。その意味で,「経験を意味付ける」ことと,「できる」(行為)ということとをどうつなげていくかは,経験型実習教育の今後の課題であるとともに,看護教育の中心課題でもあるだろう。

 しかしながら,経験型実習教育は看護学生の気付き(アウェアネス)のレベルにとどまっているのではないだろうか。この課題に対しては,本書でも指摘されているように,教師の役割が重要となる。看護学生の経験の意味付けを促進する役割とは,非指示的カウンセリングにみられるリフレクターあるいはファシリテーターの役割であろう。すなわち,看護学生の経験を映す鏡の役割である。その意味で,教師と看護学生との相互作用はカウンセリングのプロセスとも読み取れ,そこでは共感や全面的な受容といったスキルが教師には求められている。それ故,看護学生の気付きがポイントとなり,看護技術と直結するつながりを本書から直接的に読み取ることは不十分になっているのかもしれない。モデルとしての教師など,教師の役割をさらに検討することが求められよう。

 このように,いくつかの課題はあるにせよ,本書は看護師を育てるための実習教育に焦点を当てながら,「人は経験から学ぶ」という考えを基盤とし,看護教育を看護だけではなく教育という視点から体系的に,かつ具体的に示した書である。借り物ではない看護教育学を志向した書であると言えるだろう。

 本書で示された資料や具体例に基づき,多様な実習教育が各地で行われ,看護教育学として結実していくことを期待したい。

B5・頁280 定価:本体3,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02406-8

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