医学界新聞

2016.03.28



第8回日本医療教授システム学会開催


 第8回日本医療教授システム学会総会(会長=東京医大病院・阿部幸恵氏)が3月3-4日,「専門職者間の思考と絆を学ぶ・教える――多職種連携教育(IPE)の基盤をデザインする」をテーマに,東京医大病院(東京都新宿区)にて開催された。

地域の医療現場で多職種連携を深めるには

阿部幸恵会長
 地域包括ケアの構築には,「専門職による『医療・看護』『介護・リハビリテーション』『保健・予防』が効果的な役目を果たす」ことが期待され,地域での多職種連携が不可欠になる。パネルディスカッション「地域でのIPEとIPWの実際」(司会=富山大・奥寺敬氏,広島文化学園大大学院・岩本由美氏)では,多職種協働の実践「IPW;Inter-Professional Work」や教育「IPE;Inter-Professional Education」を地域でいかに実践するかが議論された。

 初めに発表した万代康弘氏(岡山大)は,医療現場に根差した多職種シミュレーション教育について二つの取り組みを紹介した。一つは昨年から行っている岡山県新見地区の病院への出張シミュレーショントレーニング。「IPEは卒後も必要」との観点から,氏が地域の病院に出向き,現場の多職種を対象に実施する。指導者育成も行い,今後は地域で自立して実行できるトレーニングシステムの構築をめざしているという。そして二つ目は,岡山大病院の薬剤師対象のシミュレーション実習だ。薬剤師がバイタルサインのチェックや病態把握を行い,看護師に患者の状態を相談したり,若手医師に薬剤の選択を提言したりできるようになることを目的とする。氏は「薬剤師の教育には薬剤師の指導者が当たるのが望ましい」と述べ,同じ専門職同士で指導・学習ができる教育のパッケージ化も考案している。さらにIPEのプログラム作成の要点として,現場で起こり得る状況の設定,負担を少なくすること,目標を事前に共有しておくことなどを提示した。

 「多職種連携について,施設を越えて地域で学ぶ機会が少ないのでは」。こう語ったのは獨協医大越谷病院の浅香えみ子氏。救急医療の現場に身を置く氏は,地域や在宅医療に関心を持ち,月1回の連携事例検討会に出席するようになったという。その経験から,複数の職種との連携には言葉や価値観の違いを乗り越えることが課題であるとし,「各職種が何に価値を置き,何を考え,何をしたいのか,職能を理解し共有する場が必要」と言及した。氏は,そのような場が設けられれば職種間の相互理解を促進し,連携・協働の成果を生むIPWの一つの姿になるとの見解を示した。さらに今後のIPW推進には,専門職者としての専門性の理解や対話力の向上が期待されると述べた。

 介護福祉士の山本満智子氏(郡山健康科学専門学校)は,新潟県南魚沼市の地域住民を主体とした地域医療再編の取り組みから,介護福祉職の課題を検討した。人口減少と医師不足,近隣病院の再編に危機感を抱いた魚沼医療圏の住民や医療者は,「住民の医療知識を深めることが,効率のよい医療体制をつくる第一歩」と位置付け,2011年に「地域医療魚沼学校」を開校した。同校が実施するIPEの実践から,介護福祉職の課題として住民の生活を客観的に見る視点と,それを他の医療者に伝え,議論できる語彙力の不足を挙げた。また,介護福祉職教育に複数の課程があることから同職種間の連携すらままならない現状を指摘し,地域包括ケアの実現には,卒後IPEにおいても介護福祉職の専門領域や同職種間連携の理解を含めた教育が必要と訴えた。

 訪問看護師の立場から発表したのは山本悦子氏(医療法人社団翔洋会)。訪問看護を必要とする患者は高齢者に限らず,がん患者や難病認定者,小児患者などさまざまで,患者・家族をサポートする専門職も多職種からなる。地域の多職種連携は「“多”事業所の医療・介護・福祉のケアミックス。“他”事業所だからこそ情報共有が重要」と語り,異なる職種間での連絡・連携・協働が欠かせないと語った。そこで氏は,訪問看護師が病院へ出向き,訪問看護の実際や症例のフィードバックを行う出前講座や,病院の看護職が訪問看護の現場を体験できる研修会の実施例を紹介。多職種が参加し交流を深めることで,日々の医療の質向上に努めていると語った。今後は,急性期病院との連携や,同職種間の連携を深めることも必要になるとの考えを示した。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook