医学界新聞

寄稿

2016.02.29



【寄稿】

「レター」の書き方の作法

片岡 裕貴(兵庫県立尼崎総合医療センター 呼吸器内科・臨床研究推進ユニット/京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻医療疫学分野)
辻本 啓(兵庫県立尼崎総合医療センター 腎臓内科・臨床研究推進ユニット)
辻本 康(京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻医療疫学分野)


A:『□□』誌の最新号に「○○」という結果が載っていました。メタ・アナリシスなので,結果は信頼できると思います。
一同:ほぉ。
B:『△△』誌の最新号には,「□□」という結果が載っていましたよ。こちらは観察研究で●●バイアス,■■バイアス,▲▲バイアスがあります。
C:●■バイアスもあるね。
D:(早く終わらないかな~)

 今日もどこかで行われている抄読会の風景です。こうした状況に心当たりはありませんか? 「原著論文を読み,それを臨床に応用していくのが大事」。これは皆さんが納得されるところだと思います。ですが,それがどこまで達成されているかを胸に手を当てて考えると,「うまくいっていないかも」と思われる方もいるのではないでしょうか。仲間と行う抄読会も,時間とともにマンネリ気味になってしまうこともありますから。本稿では,そうした状況を打開する一つの策として,原著論文に対して「レター」を書いてみることを提案したいと思います。

原著論文を読むことで,系統的レビューの理解も深まる

 そもそも原著論文を読む意義は何か,そこから考えていきましょう。Guyattが「Evidence-Based Medicine(EBM)」という言葉を使い,「検索」を用いてエビデンスを探し,臨床に応用するという枠組み1)を提示したのが1991年のこと。2016年は25周年に当たります。

 日本にこのEBMが普及しはじめたころ,「批判的吟味を行い,バイアスを指摘することが重要である」「ランダム化比較試験こそが全て」といったイメージが独り歩きしました。現在はそうした時代を経て,「数字で表される効果量と,その数字に対する確信性(エビデンスの質)の両方を提示することが重要である」2)という考え方へと,次第に変わりつつある状況と言えます。

 また,医学論文が爆発的に増える昨今になって求められるようになったのが,各臨床疑問に対する単一研究ではなく,系統的レビューを前提としてそのまとめを提示することです2)。「“まとめ”が存在するのだから,個々の原著論文を読む意義はなくなった?」もちろんそんなことはありません。系統的レビューが原著論文の集合である以上,各原著論文の枠組みを理解できていなければ,その応用である系統的レビューを理解することもできません。系統的レビューを理解するためには,個々の原著論文の理解も欠かせないのです。系統的レビューを前提としたEBM時代にあっても原著論文を読む意義は,そこにあると言えるでしょう。

 では,原著論文を読む際はどこに重きを置いて読むべきかを確認しましょう。本稿では,みなさんがスルーしてしまいがちな「方法(method)」の箇所をきちんと読むことをお勧めします。批判的吟味を行い,バイアスをきちんと指摘できるようになる。そして,そのバイアスが研究の結果に及ぼしている影響を差し引いた上で,「研究で提示された効果量にどこまで確信が持てるのか」を考えてみる。それが重要なポイントです。そこまで行った上で,目の前の患者さんに応用するかどうかをさらに判断していくことで,EBMの実践は可能になると考えます。

自分の考えを発信すれば,フィードバックを受けられる

 さて,ここまで原著論文との付き合い方を述べてきました。ここからが本題です。せっかく時間をかけて論文を読み,何かを考えたわけですから,その「自分が考えたこと」を著者や掲載誌の読者に投げ掛け,フィードバックを受けてみたいとは思いませんか。今回提案する「レターを書くこと」で,それを実現することができます。

 レターとは,通常,各雑誌に掲載された論文に対し,発表1か月以内に受け付けている短い意見記事を指します。このレターを書く権利は誰にでもありますし,きちんとした内容を書くことで科学に対する影響力を持ち得るものです。最近,レターの意義を示した例といえば,「ディオバン事件」が挙げられます。この事件が明るみになるきっかけも,結果の不自然さを指摘する一通のレター3)からでした。

 では,どのようにそうしたレターを書けばよいのか。ここからは,私たちが系統的レビューを学ぶ過程で身につけた,「論文のバイアスを指摘するレターの書き方」をお伝えしていきます。特に本稿が取り上げるのは,「方法」に対する批判についてです()。

 「方法」に対して指摘するレター
論文の「結論」は「結果」に応じて内容が決まり,「結果」は「方法」に応じて決まります。目的・状況などに応じて決められる「方法」の部分に何らかのバイアスが存在すると,結果がゆがみ,結論の説得力も弱まることになります。本稿で提案するレターの書き方は,その部分を指摘する方法です。

 最初に行うことは,指摘すべき内容の整理です。次の2点を行いましょう。

 ① 方法に書いてある内容に含まれるバイアスを見つける
 ② そのバイアスに結果を弱める働きがあり,結果的に結論の説得力を弱めているのではないか,という指摘を考える

 この2点で十分です。ただ,バイアスの見つけ方や,定量的な影響の見積もりは少し複雑です。本稿ではその詳細を割愛しますが,論文を読んでいく上では重要なスキルですので,ぜひ成書4,5)をご参照ください。

 次に行うのが投稿規定の確認です。雑誌ごとに,タイトルの有無,著者数,文字数,引用文献数,締切などの細かい規定が設けられています。これらを各雑誌(出版社)のウェブサイトで確認しましょう。投稿規定に沿って書かれていないものは,それだけでリジェクトされてしまいますから注意が必要です。

 さて,実際にレターを書くに当たっての基本構造は下記のとおりです。

 ①タイトル
 ②著者名,所属
 ③論文を「褒める」
 ④「(科学的に)けなす」
 ⑤引用文献

 ③の「褒める」パートは型どおりで,論文の臨床的意義などの評価できるポイントを短く書きます。「great interest」「appriciate the author’s efforts to~」といった言葉を使って褒め,その上で「however, we would like to point out 3 concerns」などと気掛かりの箇所を指摘します。なお,コピー&ペーストはそれだけで不正と見なされるため,当該雑誌に載った過去のレターを参考にしながら,自分の言葉に置き換えて書いていきましょう。続く④の「けなす」パートは,先ほど述べたバイアスの見積もりについて記述する部分です。抄読会のときに指摘するようなバイアスの影響について,可能な限り引用文献をつけ,定量的に論じていきます。

 本稿で紹介した方法で作成したわれわれのレターは,実際にいくつか採択されました。よければご参照ください(紙面の都合,参考文献に2本記載)6,7)。初めは手間取るかもしれませんが,慣れてくれば書き上げるのは数時間もあれば十分です。書き上げた後は仲間に見てもらい,誤った英語の使い方がないか,もっとうまく指摘できないかなどの点からブラッシュアップすることもお勧めします。

 締め切りに遅れないように投稿すれば,あとは返事を待つだけ。有名な雑誌に自分たちの書いたレターが載るとうれしいですし,著者から返事が来るともっとうれしいものです。本稿からわかるとおり,レターを書く上で行うことは,実は抄読会で行っていることと大きく異なるものではありません。そう考えると,マンネリ気味の抄読会も「レターを書くこと」まで見通すようにすると,深みのある会にできるのではないでしょうか。

 皆さんも,レターという形で自分たちの意見を世に出してみませんか?

◆参考文献・URL
1)Guyatt, GH. Evidence-based medicine. ACP J Club. 1991 ; 114 : A-16.
2)Guyatt, GH, et al. Users’ Guides to the Medical Literature : A Manual for Evidence-Based Clinical Practice. 3rd ed. McGraw-Hill Education ; 2015.
3)Yui Y. Concerns about the Jikei Heart Study. Lancet. 2012 ; 379(9824) : e48. [PMID : 22500880]
4)Higgins, JPT, et al. Cochrane Handbook for Systematic Reviews of Interventions. Version 5.1.0 ; 2011.
5)相原守夫.診療ガイドラインのためのGRADEシステム.第2版.凸版メディア株式会社;2015.
6)Tsujimoto H, et al. Risk of misinterpretation and limitation of the diagnostic accuracy. Pediatrics. 2015 ; 136(4) : e1167. [PMID : 26430143]
7)Tsujimoto H, et al. Methodological concerns about a systematic review and meta-analysis of the mortality risk of darbepoetin alfa versus epoetin alfa. Am J Kidney Dis. 2015 ; 66(6) : 1102. [PMID : 26593316]


かたおか・ゆうき氏
2007年東北大医学部卒。兵庫県立尼崎病院を経て,京大大学院医療疫学分野にて臨床疫学を学び,14年より現職。市中病院で臨床研究ができる環境作りに取り組む。本稿の内容に関するお問い合わせは,srws.hcru@gmail.com(メールを送る際,@は小文字にしてご記入ください)まで。

つじもと・ひらく氏
2013年滋賀医大卒。兵庫県立尼崎病院で研修し,院内の研修会や,院外のe-ラーニングを通して臨床疫学を学んでいる。

つじもと・やすし氏
2009年和歌山医大卒。兵庫県立尼崎病院を経て,15年より京大大学院医療疫学分野で臨床疫学を学ぶ。

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