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第3157号 2016年1月11日


レジデントのための「医療の質」向上委員会

本連載では,米国医学研究所(IOM)の提唱する6つの目標「安全性/有効性/患者中心/適時性/効率性/公正性」を軸に,「医療の質」向上に関する知識や最新トピックを若手医師によるリレー形式で紹介。質の向上を“自分事”としてとらえ,日々の診療に+αの視点を持てることをめざします。

■第13回(最終回):未来を担う医療者のキャリアを考える
医療の質を向上できるプロフェッショナルの条件は?


前回からつづく

 本連載では,医療者の役割を考える上で欠くことのできない「医療の質」の視点を,若手の皆さんにとって身近な事例を交えて解説しました。

 最終回となる本稿では,若手医療者が今後のキャリアを築いていく上で考慮すべき点を座談会形式で提案します。

本リレー連載の著者

小西 竜太氏(関東労災病院救急総合診療科副部長・経営戦略室長)
一原 直昭氏(米国ブリガム・アンド・ウィメンズ病院研究員)
反田 篤志氏(米国メイヨークリニック予防医学フェロー)
遠藤 英樹氏(松戸市立病院救命救急センター医長)

今後の医療者に求められる姿勢は?

一原 医療をめぐる社会環境の大きな変化は,読者もよくご存じと思います。これに伴い,医療者の役割や求められる技術も変化しています。ただ医学的知識・技術を持つだけでなく,社会保障の全体像や,医療の安全・質の問題を理解し,その中で自分たちの役割を問い続けていかねばなりません。

小西 医療の質を向上させる上で忘れてはならないことは,①患者を自分の親だと思って診ること,②医療者になると決心したころの初心を忘れないこと,の2点だと私は思っています。精神論も甚だしいですが,日本における医療の質改善は自浄的努力の上に成り立っているのが現状です。医療者一人ひとりの姿勢が,診療行為だけでなく,医療安全や改善活動にも大きく影響しています。

反田 本連載でいう「患者中心」の姿勢ですね。私はそれに加えて,より高いレベルの職業的自律性が必要だと思います。国民医療費が年々増加し,財政に与える影響が問題視される中で,提供される医療の質に対する患者の意識は高まり,社会全体の監視の目は厳しくなっています。医療者自らが,本連載で触れた医療の質の6つの側面や,さらに医療システムや社会全体への影響について,常に自問し,改善し続けることが求められます。

遠藤 本連載では病院等における医療の質について主にお話ししましたが,人々の健康を支えるという医療の目標は,本来は医療施設だけで完結するものではありませんからね。社会という大きな枠組みの中で医療をとらえ,改善していくためには,慣習や組織という小さな枠を取り払って,ゼロベースでの思考や活動をすることが必要となるかもしれません。

反田 同感です。例えば,食生活の乱れによる高度の肥満で,さらに喫煙もしている抑うつ症状のある男性が心筋梗塞を発症したとします。PCIと高度な入院医療で救命できたとしても,その患者が退院後も乱れた食生活と喫煙を続ければ,心筋梗塞の再発は防げないかもしれません。予後改善のためには,病棟だけでなく,外来での長期的な行動変容促進,保健師の介入,地域ネットワークの活用など,さまざまな取り組みが必要になります。

一原 単なる「医術の専門家」から,「患者の代弁者」へ,さらには,「チーム医療の推進者」,「組織パフォーマンス改善のプロ」,そして「社会保障・保健システムの最前線の担い手」としての姿勢を持つことが求められるということですね。

多様化する医療者のキャリア

一原 本連載の著者は皆,臨床を超えた活躍をしています。「医術の専門家」にとどまらない広い視野を持ち,キャリアの可能性を広げていくにはどうしたらいいか,若手医療者に向けたアドバイスはありますか?

小西 臨床以外の領域に取り組む前に,まずは臨床に没頭する時期を経ることも必要だと思います。医療の問題を日々肌で感じてこそ,解決の糸口を探ることができる。何らかの専門医になることは最低限のラインです。

 その上で,基礎研究や臨床研究をベースとした従来のキャリア以外にも,医学教育,医療経営,テクノロジー・技術開発,医療経済・政策などさまざまな選択肢があることを知ってほしいと思います。医療の質改善に限って言えば,臨床の周辺領域や他産業にアイデアのシーズが隠れていることが多く,Cross-Borderな人材が必要とされています。

反田 医療機関のマネジメント,公衆衛生的な研究,民間企業やNPOへの参画など多様なキャリアがあり得ますね。

遠藤 医療者としての経験や視点を生かす場が,医療施設の外にある。特に公衆衛生に関連したキャリアは,今後ますます重要になってくるでしょう。統計や疫学に加え,医療政策,マネジメント,質改善,リーダーシップ,プロフェッショナリズム,システム思考などを学べる公衆衛生大学院が日本でも増えていくと思います。

一原 皆さんスケールが大きいですね(笑)。そこまで大きな話でなくても,若手医療者にとって身近なところにも意義のある取り組みはたくさんあります。例えば,自分の職場でレジデントや学生の教育を充実させるとか,上司と一緒に診療のアウトカムを調べて改善点を探るとか。それらをきちんと文章にまとめて,学会等で発表すれば,社会の役にも立ちますし,人脈も広がります。自分が次に進むべき道も見えてくるかもしれません。

新たなキャリアは時代のニーズに合わせて生まれる

一原 皆さんは,今後はどのような道に進む予定ですか。

遠藤 私は昨年から米国ノースカロライナ大公衆衛生大学院でPublic Health Leadership Programに在籍しており,日本に足りないと考えているリーダーシップについて学んでいます。与えられた役割をきっちりこなすマネジメント能力の高さでは日本人は世界有数だと思いますが,未解決の問題や新出の問題をとらえ,解決に導こうとするリーダーシップ能力は足りていません。公衆衛生大学院での学びを基に,リーダーシップを広める活動をしていきたいと考えています。

一原 日本の医療者のキャリアとしてこれまではなかった選択肢ですね。

遠藤 はい。既存のキャリアではないため,具体的なモデルを示すことはまだできませんが,新規のキャリアを創出する楽しさを感じています。米国デューク大のCathy Davidsonが,「2011年度に入学したアメリカの小学生の65%が,大学卒業時に今は存在しない職業に就く」と予測しているように,医療分野でも時代のニーズに合わせた新しいキャリアが出現してくると思います。

反田 私はメイヨークリニックで得た知見を生かしながら,日本の医療全体の設計や方向性を見据え,提供される医療の質を総合的に上げていく仕事に携わっていきたいと思っています。日本の医療を俯瞰するために,ヨーロッパやオーストラリア,アジア諸国の医療も学んでいきたいですね。ただ,常に現場視点を忘れないように,臨床にも携わり続けていくつもりです。

小西 私はこれからも,総合内科医として臨床の最前線に立ちながら,病院マネジメントを両立させていきます。

一原 私は医療の質にかかわる研究と発信を通して,日本と世界の社会保障システムに貢献することが目標です。

 臨床のみでは飽き足らない能力と知的好奇心を持つ若手医療者たちの多くが,今までは基礎研究や臨床研究に従事していました。今後は医学研究に加え,さらに多様な分野にも活躍の場を広げてほしいと思います。

 めざすべき医療者像

今月のまとめ
▲ 医療者には高いレベルの職業的自律性が求められる
▲ 医療は医療施設だけでは完結しない。今後は臨床や狭義の医学研究以外にも,医療者の活躍の場が広がると予想される
▲ 臨床以外の分野を学ぶ場も広がってきている

(了)

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