医学界新聞

対談・座談会

2015.09.21



【座談会】

『総合リハビリテーション』誌43巻9号より
リハビリテーション専門職種の動向

伊藤 利之氏
横浜市総合リハビリテーションセンター顧問
中村 春基氏
日本作業療法士協会会長
半田 一登氏
日本理学療法士協会会長
深浦 順一氏
日本言語聴覚士協会会長)
藤谷 順子氏
国立国際医療研究センター リハビリテーション科医長=司会


 日本リハビリテーション医学会創立から半世紀以上が経過し,リハビリテーション医療はいま節目のときを迎えている。『総合リハビリテーション』(医学書院)誌では,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士を代表する協会長が集まり,リハビリテーション専門職種の現状と課題,さらに次のステージに向けた展望についてディスカッションを行った。本紙では同座談会のうち,「回復期での新たな役割」についての議論の模様を抜粋してお伝えする[座談会全文は『総合リハビリテーション』誌(43巻9号)に掲載]。


回復期の役割――退院後の生活の見通しを立てる

藤谷 回復期での役割についてお伺いしたいと思います。先ほど在宅でのリスク管理のお話でもありましたが,嚥下障害や失語症は,回復期から在宅を見通す必要が大きい課題ですよね。

深浦 嚥下障害の方は,回復期の後半では安全な食事の作り方や食べ方を本人,家族や介護者の方に確実に習得していただく必要があります。せっかく退院したのに,すぐ肺炎となる方がおられますが,家族や介護者の方にきちんと理解していただくのは,結構大変だと思います。

 失語症の方も家で自己練習できるように,本人,家族や介護者にその方法を身につけていただくことは重要だと思います。2年,3年かけて改善される方もいますので,言語聴覚士による評価と適切な自己練習を長期にわたって行うことが必要だと思っています。どちらの障害においても,本人,家族や介護者も治療者の一員であるという観点が必要なのでしょう。

半田 回復期リハビリテーションに関して今,疑問を感じている点があるのですが,介護保険下でリハビリテーションを受けている人にアンケートを取ると,一番の要望は,「もっと上手に歩きたい」というようなことが多く,急性期と同じなのです。介護保険制度が始まる前は,1つの病院でリハビリテーションを一生懸命やるなかで,どこかで医師を中心として障害受容という段階がありました。障害手帳をつくったりして,切り替え点があったのです。ところが,今はその切り替え点がないままの気がするのです。生活期の人たちまでも,急性期や回復期と同じように元のように回復したいという願望をもってすべてが構築されています。以前はリハビリテーション科でしっかり説明をしたり,説得をしたり丁寧な対応が行われていました。今,そういった障害受容などの切り替えをどこが担うべきかといったら,やはり回復期ではないかと思うのです。

深浦 患者さんや家族に対する指導で,これからは,自分の家での生活をできる範囲で自立するためにはこういうことが必要ですよというところに,指導の中身がなかなかシフトしていませんね。

伊藤 一番根本にあるのは,さっき,半田会長が言われた障害受容の問題です。やはり価値観の変換をどういうふうに導くかではないでしょうか。障害があるなかでどう生活するか。それは,今後の見通しだと思います。要するに,生活する見通しを立てるということですが,これは回復期でしかできないと思います。ボディイメージを再構築して,生活に対する見通しをどう立てるか。見通しがあれば新たな気持ちになって,そこに向かって生活できるわけです。そういう機能が,今の回復期では非常に弱いですね。

 そこに追い討ちをかけるのが在宅復帰率です。70%を守るために家へ帰そうとするでしょう? 家族がしっかりしている30~50代の方々は帰しやすいものですから,その人たちをまずは帰すわけです。そうすると,彼らのリハビリテーションは在宅復帰でストップしてしまい,そのあとの社会生活とか,職業復帰などへのリハビリテーションの道が断たれてしまいます。在宅生活が目標になっていると,ケアマネジャーさんたちもその先まで考えてくれないし,本人も一度家へ帰ってしまうと閉じこもってしまう。ですから障害者支援施設などは利用者が減少しています。

 家に帰って,「次の計画はこうですよ」という話にしたいのですが,そこをケアマネジャーに任せてしまう。ところがケアマネジャーはそういう教育を受けていないわけです。回復期病棟の専従医はリハビリテーション医でないことが多いですから,やはりリハビリテーション専門職の3者が,生活の見通しが立てられるような予後予測をきちんと行えるかが重要だと思います。

中村 その通りだと思います。実際に患者さんを診ていますと,予後予測を立てて,体験させないと理解してもらえません。

伊藤 そうしないと分からないですよ! 初めてのことですからね。

中村 そうです。自分で体験して,「これはできる」,「これはできない」と,そのなかでイメージをつくっていく作業なので,先生の言われた通り,回復期の集中的な3か月間の中でそういうチャンスをつくってあげないといけないと思います。

伊藤 今は,CTもMRIもあるので,技術的には発症から3か月も診れば,予後予測は確実にできますし,それはリハビリテーション医でなければ絶対にできないことではなくて,皆で協力し合えばできると思います。そのときに大事なのがカンファレンスです。

深浦 障害児教育の現場では個別支援計画というのがあって,幼児期からずっと流れていくようなシステムを作っています。これと同じように,脳卒中なんかの場合には,障害発症から将来的な支援計画を最初の段階で立てて,それが節目で修正されながら進んでいく。そういうものが,一人一人の障害や疾患の生じた方たちに必要なのかなという気がします。それが全くないから,つまり計画的でないから,今みたいなことが起こるのではないでしょうか。

伊藤 一番重要なのは人だと思います。キーパーソンがずっと診ていることが必要だと思います。例えば子供たちの場合,学校の先生は代わるけれども,主治医は代わらない。医師が子供たちをずっと診てきたという歴史があります。ですから,子供たちの場合は主治医がキーパーソンになっていることが多いのですが,それがプツンプツンと切られている。

半田 以前は理学療法士のやりがいとして,受け持った脳卒中患者や家族と人生を共にするような時間軸がありました。亡くなるまでずっと家族ぐるみで付き合うことも少なくありませんでした。いまは病期によってプツプツ切れますから,理学療法士としての面白さとか,やりがい,あるいは目的がはっきりしません。目の前を患者が流れていくという感じしかないのです。われわれのころは,面白い理学療法の仕事をさせてもらっていたと思います。そういう面白さが,いまのセラピストにないのはかわいそうだなと思います。

伊藤 そうですね。野球と同じで,先発完投型だったのが,いま先発は5回までという分担ですからね。でも,チーム一体となった動きになって試合には勝つ。そこのところを,どうつくるかですよね。

藤谷 連携が大事ということですが,連携には時間がかかりますね。紙に書いて送れば大丈夫,というわけではないですね。

伊藤 私は,そこは制度で縛ったり誘導することはできないと思っています。地域の力ですから,人が動かない限り無理だと思います。いまみたいに書類を回すようなやり方では心までついてきません。われわれが動きやすいように制度はつくってほしいのですが。

藤谷 エビデンスを出すまでの時間はなくても,あるべきモデルというのはどんどん示していかないと政策には反映しないですよね。

(抜粋部分終わり)

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