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第3138号 2015年8月24日


【寄稿】

小児思春期1型糖尿病患者のケア
患者と共に長い人生を歩む覚悟を持って

南 昌江(南昌江内科クリニック院長)


 小児思春期糖尿病における治療の最大目標は,“将来,その患者が自立して生きていく”ことであり,私たち医療者に求められるのは,患者の発症年齢によらず,発症当初から一貫した姿勢で患者や家族と接することである。家庭は最も重要な治療の場となるため,患者会などで医療者や患者家族間のコミュニケーションを図っていくことが大切になる。

「患者本人」が治療の中心であることを意識付けていく

 子どもが病気になって初めにショックを受けるのは両親,特に母親であろう。そのため,子どもの治療以外に母親のケアも重要で,当院では「母の会」を開催している。初めて参加する母親は,ショックと悲しみで多くの不安を抱えているが,同じ境遇にある先輩の体験談を聞くことで,不安は軽減されることが多い。母親の気持ちや考え方は子どもに大きく影響を与えるため,最初の悲しみの時期を過ぎたら,患者が将来自立した大人になるためにはどのように育てていけばよいかを一緒に考える必要がある。適切な時期になったら治療の主導権は患者自身に任せるべきであり,子離れ,親離れのタイミングを考えながら,自分のことは自分でさせ,少し遠くから見守るくらいの姿勢で育てることが大切である。

 とはいえ,乳幼児期の治療は当然母親が行う。血糖変動はこの時期の特徴でもあるため,重症低血糖や顕著な高血糖を回避することを目標にし,あまり血糖管理に神経質になりすぎないようにする。保育園や幼稚園に行く年齢になったら,朝夕+おやつ時のインスリン3回注射法か,インスリンポンプでの治療を行う。インスリン注射や血糖測定のために,母親が毎日保育園や幼稚園に出向くことは子どもの精神的成長を妨げることにもなりかねないため,避けたほうが良いだろう。食事やおやつは基本的な栄養のバランスを意識した上で,成長に十分なエネルギーを摂取1,2)していれば,他の子どもと同様で問題はなく,特別扱いはしないよう両親や先生に説明を行う必要がある。

 学童期(小学生)の患者には,サマーキャンプ()への参加を勧めている。同じ病気の子どもと出会い,友人を作ることは,自分一人ではないという安心感と勇気につながるためだ。小学校低学年の患者の中にはインスリン自己注射や血糖自己測定(SMBG)を自分では行えない子どももいるが,キャンプで同年代の子どもが自分で行っている姿を見て,積極的に取り組みはじめる患者も多い。自己注射ができるようになれば,治療を強化インスリン療法に変更することができる。

 学校行事は全て他の生徒と同じように参加できる。体育や遠足など,活動量が多い行事に関しては,低血糖に注意し,当日のインスリンの減量や必要に応じた補食の摂取を事前に指導する。学校生活の環境も重要であり,学校側に正しく理解してもらうために医療者からの説明が必要なケースもある。

 炭水化物の量の計算ができる年齢になったら,カーボカウントを用いたインスリン量の計算方法を指導するが,個人の成長度,性格や病気の受け入れの度合いによっても,その時期は異なる。小学校中学年になると思春期が始まり,急に血糖値が高くなることに不安を抱く患者もいる。成長ホルモンや性ホルモンの増加が主な原因で,正常に成長している証しであるため,インスリンの増量が必要であることを患者本人にきちんと説明するとよい。

 当院では,「治療の中心は自分である」ことを意識付けるために,基本的に中学年以上には自分でSMBGを記録し,診察も本人一人で受けてもらうようにしている。その際に病気以外の話もすることで,学校環境,病気の受け入れ,性格,家庭生活や家族との関係などを感じることができる。親が同席している場合でも,必ず本人との会話を重視し,親との会話が中心にならないよう心掛けることが大切である。

仲間の存在が,悩みや苦しみを乗り越える力に

 発達段階の中で,中高生のころは最もコントロールが乱れやすいと言われている。身体の急激な成長と性的成熟によりインスリン抵抗性が増大することに加え,心理的にも自己への不安や親への反発など不安定な時期であるが,自己評価形成の重要な期間でもある。ここで“糖尿病である”という大きな現実に直面し,悩みや苦しみはさらに大きくなるかもしれない。患者自身や家族が正しく糖尿病を理解し,受け入れることが最も大切であり,友人や学校の先生,医療者など,周囲の人間が患者を特別扱いすることなく,温かく見守る姿勢が求められる。

 このくらいの年齢になるとインスリン投与方法やSMBG,カーボカウントなどの治療技能は十分に習得できるものの,病気の受け入れ,家庭環境,性格など,患者個人に合わせた治療を行っていくべきである。悩み,苦しんだときに,話を聞いてくれ,心から信頼できる人(家族,友人,学校の先生,医療者)や同病の仲間は非常に大きな存在であり,サマーキャンプや患者会はそのような仲間をつくる場としても良い機会である。

 大学生や専門学生になると,寮生活や一人暮らしをすることも多く,不安を持つ子もいれば,のびのびしている子もいる。病気の受け入れ,食事やインスリン調整などの自己管理ができている患者とそうでない患者がいて,本当にさまざまである。親の管理下での生活から一変し,アルバイトや友人との外食,飲酒で生活が不規則になり,血糖コントロールが乱れやすい時期とも言える。20歳を過ぎてもあいさつができない,予約や時間の約束が守れないなど,時に当たり前のことができない患者もいる。これから大人になり社会人として生活していくためには,病気の有無は関係ない。社会のルールを守り,社会の中で自立して生きていけるよう,遅くともこの時期までには,その意識を持って自己管理ができるよう指導していかなければならない。これまでに患者会やサマーキャンプに参加したことがない患者であれば,サマーキャンプのヘルパー(ボランティア)としての参加や,ヤングの患者会の参加も自己管理や社会性を身につける上で有用であろう。

医師同士の信頼関係構築が円滑な移行の鍵

 小児科から内科への移行3)は大学進学などを契機に行われることが多い。しかしながら,家庭環境やその地域の医療環境,患者の心身の発達度などによって適切なタイミングは異なるため,柔軟性を持つことが望ましい。若年の糖尿病患者は,初診時は親と同席することが多いが,特に小児科から移行してくる場合は,初診時以降も親が同席し,親が会話の中心になりがちである。前述したように患者本人の自主性を認識させるためにも本人を中心とした診療であることを説明し,精神的な自立を促す指導が求められる。

 欧米に比べて日本は小児糖尿病患者が少なく,糖尿病を専門とする小児科医も非常に少ないが,小児科では十分に時間を掛けた親身な診察が受けられ,小児期特有の疾患などにも対応してもらえるといった利点がある。一方,内科には糖尿病専門医は多いものの,中には2型糖尿病と同様の厳しい食事療法を指導する医師や,インスリン調整の指導を行わない医師などがいることも事実であり,思春期に小児科での治療を経て移行した若い患者にとっては戸惑いを感じることがある。

 担当医師が変わる際,患者は少なからず不安を覚えるものだが,その不安を軽減するためには,やはり医師同士の信頼関係構築が欠かせない。書面上のやりとりだけでなく,実際に顔を合わせての勉強会,交流などがあれば紹介がスムーズになるだろう。心身共に自立し,糖尿病を受け入れ,うまくコントロールできている患者であれば,紹介先は糖尿病専門医であれば問題ないと思われるが,そうでない患者の場合には,可能であれば思春期から青年期の糖尿病診療の経験のある専門医を紹介するとよい。その際に,医学的なデータに加え,①心身の成長,②糖尿病の受け入れ,③家庭環境,④性格などの情報がその後の治療において大変参考になる。

 小児思春期に発症した患者は,就職,結婚,出産と,人生の大きな行事を,ともすれば一人で乗り越えなければならないときもある。私たち医療者は,常に患者と共に長い人生を歩んでいく心構えで患者・家族と接していくことが何よりも大切であると感じる。

:日本糖尿病協会を中心に,小中高生の1型糖尿病患者を対象としたサマーキャンプが各都道府県で開催されている。集団生活を通して病気の自己管理に必要な知識・技術を身につけると同時に,仲間をつくる場にもなっている。

◆参考文献
1)American Diabetes Association. Evidence-Based Nutrition Principles and Recommendations for the Treatment and Prevention of Diabetes and Related Complications. Diabetes Care. 2003 ; 26 Suppl 1 : S51-61. [PMID : 12502619]
2)日本糖尿病学会編.科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013.南江堂;2013.p233.
3)日本小児内分泌学会糖尿病委員会.国際小児思春期糖尿病学会――臨床診療コンセンサスガイドライン2006-2008 日本語訳の掲載について.日児誌.2008;112(1):112-28.


みなみ・まさえ氏
14歳で1型糖尿病を発症。1988年福岡大医学部卒業後,東女医大病院糖尿病センターにて研修。その後,九大第2内科,九州厚生年金病院,福岡赤十字病院勤務を経て,98年南昌江内科クリニックを開業。日本内科学会認定内科医,日本糖尿病学会専門医。著書に『わたし糖尿病なの――小児糖尿病の少女医師を志す』(医歯薬出版),『アイデアいっぱい糖尿病ごはん』(書肆侃侃房)など。