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第3120号 2015年4月6日


Medical Library 書評・新刊案内


トラブルに巻き込まれないための
医事法の知識

福永 篤志 著
稲葉 一人 法律監修

《評 者》寳金 清博(北大大学院教授・脳神経外科学/北大病院病院長)

医師の視点から,実例に沿って法律を解説した稀有な一冊

 メディアを見ると,医療と法の絡んだ問題が目に入らない日はないと言っても過言ではない。当然である。私たちの行う医療は,「法」によって規定されている。本来,私たち医師は必須学習事項として「法」を学ぶべきである。しかし,医学部での系統的な教育を全く受けないまま,real worldに放り出されるのが現実である。多くの医師が,実際に医療現場に出て,突然,深刻な問題に遭遇し,ぼうぜんとするのが現状である。その意味で,全ての医師の方に,本書を推薦したい。このような本は,日本にはこの一冊しかないと確信する。

 先日,若い裁判官の勉強会で講演と情報交換をさせてもらった。その際,医療と裁判の世界の違いをあらためて痛感させられた。教育課程における履修科目も全く異なる。生物学,数学は言うまでもなく,統計学や文学も若い法律家には必須科目ではないのである。統計学の知識は,今日の裁判で必須ではないかという確信があった私には少々ショックであった。その席で,いわゆるエビデンスとかビッグデータを用いた,コンピューターによる診断精度が医師の診断を上回る時代になりつつあることが話題になった。同様に,スーパーコンピューターなどの力を借りて,数理学的,統計学的手法を導入し,自然科学的な判断論理を,法の裁きの場に持ち込むことはできないかと若い法律家に聞いたが,ほぼ全員が無理だと答えた。法律は「文言主義」ではあるが,一例一例が複雑系のようなもので,判例を数理的に処理されたデータベースはおそらく何の役にも立たないというのが彼らの一致した意見であった。法律の世界での論理性と医療の世界での論理性は,どちらが正しいという以前に,出自の異なる論理体系を持っているのではないかと思うときがある。医師と法律家の間には,細部の違いではなく,次元の違う乗り越えられない深い溝が存在するのではというある種の絶望感が残った。

 この若い裁判官たちとのコンタクトの後,偶然,幸運なことに本書に接する機会を得た。医師の論理の視点から,法律の論理を学ぶものとして,本書は,極めて価値が高く,稀有なものである。筆者の福永氏は,医師であり,法学を専攻された専門家であり,両方のロジックに精通するまれな専門家である。本書は,医師が,法律家の論理を理解するために,実にわかりやすく,丁寧に,しかも,実例に沿って書かれた力作である。本書に匹敵する成書を私は知らない。

 その一方で,こうした優れた本が「稀有」なものであり,医学教育において「法学」が極端に欠如していることは,私たち,医師に警鐘を鳴らすものである。本書は「法」に興味のある医師に読まれるだけでなく,医学教育における法学の重要性を指摘するものとして,医学教育にかかわる関係者にも読まれるべきものである。そして,できることであれば,先日,語り合った若い裁判官の方々にも読んでもらいたいと願う。

B6・頁344 定価:本体2,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02011-4


精神科の薬がわかる本 第3版

姫井 昭男 著

《評 者》宮崎 仁(宮崎医院院長)

こんなことをズバリと教えてくれる精神科医はいなかった

 世の中には,「精神科の薬は,うさんくさい」と思っている人が多い。その中には,患者だけではなく,精神科を専門としない医師や対人援助職もたくさん含まれている。

 一方,精神科を専門としない医師や対人援助職が,精神科の薬のことを無視して,自分の仕事を進めることはできない。プライマリ・ケアの外来を受診する患者の3-4割は,何らかの精神疾患や精神科的問題を持っている。また,統合失調症のために精神科で薬物治療を受けている患者が,風邪をひいてくることもあるし,介護を要する状態になることだってある。「精神科の薬は,うさんくさい」と敬遠してはいられないのが,リアルな現場の状況なのである。

 そこで,一念発起して,精神科の薬について真面目に勉強しようと,精神薬理学のテキストと格闘してみても,次々と登場するレセプターやら神経回路やらに翻弄され,頭の中は,ますますモヤモヤして,途方に暮れることになる。

 そんなときこそ,本書『精神科の薬がわかる本』の出番だ。

 冒頭に置かれた「『抗うつ薬』がわかる。」という章のページを開くと,いきなり「原因は未解明。実は対症療法なのです」という見出しの文字が目に飛びこんでくる。そうか,うつ病の薬物療法は「対症療法」だったのか。こんなことを,ズバリと教えてくれる精神科医はいなかった。これだけで,ずいぶんとスッキリする。

 「ざっと知りたい」という初学者からのわがままな要望に応えるのが,初版以来の本書の優れたコンセプトであるが,精神科診療に必要不可欠な薬剤が,新薬も含めて厳選されており,そのエッセンスを過不足なく伝授してくれる。今回の改訂では,「処方薬依存への具体的対応策」といった,いわば「精神科医療の暗闇」の部分に対する果敢なアプローチが加えられているところも見逃せない。

 本書の解説は,単なるエビデンスの羅列ではなく,現場での苦労や困り事を熟知していなければ書くことのできない「血の通った」文章である。例えば,SSRIとSNRIの使い分けを論ずるところで,「取り乱しやすさや余裕のなさがみられるときにはSSRIを,やる気のなさや億劫感が認められるときにはSNRIを,といった具合に選択していきます」と書かれているが,これが臨床家の「実感」というものだ。そして,このような「実感」の中にこそ,私たち初学者が本当に知りたい処方のこつや心得が光り輝いている。

 「精神科の薬物療法では,正しい知識と効果のイメージを持つことが治療者・患者ともに重要なのです」という著者からのメッセージを念頭に置きながら本書を通読すれば,「精神科の薬は,うさんくさい」というスティグマ(偏見)から解放され,処方する側と処方される側の双方が幸せになることができる。

A5・頁236 定価:本体2,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02108-1


プロメテウス解剖学 コア アトラス 第2版

坂井 建雄 監訳
市村 浩一郎,澤井 直 訳

《評 者》澤口 朗(宮崎大教授・解剖学)

神秘なる人体の理解をめざした航海を指南する一冊

 医学や看護学の分野を問わず,神秘なる人体の理解をめざす者全てに求められる最初の航海は,正しい生命機能を果たす正常な構造を知ることを目的地に定めた解剖学という名の航路を漕ぎ進むことである。多くの者にとって解剖学が最初の航海となるだけに,目的地に向かって正しく指南する書物の有無が航海の成否を左右する。特に「かたち」に基づいて展開される学問体系の解剖学では,教科書と並ぶ「アトラス」が果たす役割の大きさは計り知れない。

 『プロメテウス解剖学 コア アトラス』は,高品質の解剖図と洗練された編集で世界中から高い評価を集めている『プロメテウス解剖学アトラス』全3巻の中から,コアという名にふさわしくえりすぐられた内容の一冊である。第2版は一部の再編成も含めた改訂により,初版にも増して利便性が向上している。

 本書を手に取って無作為にページを選んで開いた瞬間,コンピューターグラフィックスを駆使して描かれた美しい解剖図に圧倒されることだろう。実写かと疑うほどに迫り来る質感は,従前のそれが美しくも模式的であり,実写版アトラスによる補完を要しただけに,隔世の感を抱かずにはいられない。

 本書にはアトラスの概念を刷新する創意工夫が盛り込まれている。150以上を数える表では,筋の起始・停止,支配神経や作用などが一目でわかり,複雑な血管や神経の走行をシンプルにまとめた模式図は解剖学特有の網羅的な記載に流れを与え,明解な知識獲得を助けるものである。また,骨盤部や頭頸部など必要な章の最後に並べられた断面解剖図は,急速な進歩を遂げるCTやMRIなどによって撮影された断層画像の理解や読影の一助となるもので,数多くの臨床画像や解説に知識欲を駆り立てられる医学生の姿が目に浮かんでくる。

 また,人体解剖学実習では剖出された所見と比較検討するため,実習台横の限られたスペースでアトラスを開くことを強いられるが,『プロメテウス解剖学アトラス』全3巻からコアな内容を一冊にまとめた本書『プロメテウス解剖学 コア アトラス』は,実習室に持ち込んで活用するにふさわしいサイズとボリュームで,人体解剖学実習の充実が大いに期待される。

 このアトラスを持って港を出れば,最初の航海となる解剖学がめざす人体の構造を理解するという目的地に到達し,次に続く生理学や病理学,さらには臨床医学の航海に順風を得ながら,大きく帆を張って進むことができるだろう。

A4変型・頁728 定価:本体9,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01932-3


《眼科臨床エキスパート》
知っておきたい屈折矯正手術

吉村 長久,後藤 浩,谷原 秀信,天野 史郎 シリーズ編集
前田 直之,天野 史郎 編

《評 者》井上 幸次(鳥取大教授・視覚病態学)

“知らない”では済まされない必須知識がまとまった実践書

 屈折矯正手術は眼科の中で極めて特異な位置を占めており,外から見ると眼科を象徴するような手術であるにもかかわらず,一般の眼科医からは非常に遠い手術である。何より自分で屈折矯正手術を行っている医師が圧倒的に少ない。それにもかかわらず,LASIKをはじめとした手術の広がりによって,日常臨床の場で一般の眼科医が屈折矯正手術に関連した患者さんに接する機会がどんどん増えており,術後の患者さんの経過観察や,手術を希望する患者さんの相談に応じなければならない。そういう状況の中で,本書のような屈折矯正手術を網羅的にまとめた本が出版されたことは大変時宜にかなうものである。

 本書は,極めて実践的に,屈折矯正手術の現状をまとめた本であり,書いてある通り行えば,明日にでもできるのではないかと思われるほど具体的に実際のやり方をまとめてある。屈折矯正手術を現在行っている人にも,これから始める人にも大きな指針となるのではないか。手術の場合,つい手術そのものにだけ注意が行きがちだが,本書では,術前の適応や術後の処方・経過観察についても多くのページが割かれている。例えば,サーフェスアブレーションやクロスリンキングのパートは際立ってわかりやすい。また,オルソケラトロジーではレンズごとに解説がなされている。一部に詳し過ぎるがために,あまりに専門的だったり(トーリック眼内レンズでの波面センサー使用など),たくさんの方法が列挙されていてかえって迷わされたり(LAISK眼のIOL計算など)するところがあるものの,実践書として非常に高いレベルにある。

 また,屈折矯正手術には欠点もあり,それも十分に記載されているところが,本書の信頼性を高めている。よく読むと,Epi-LASIKやLASEKにはあまり意味がない(結局はPRKと同じ)ことがよくわかる。最新の方法であるSMILEにも種々の知られざる欠点があることも述べられており,クロスリンキングの屈折矯正効果は期待できないこと,さまざまなタイプの角膜混濁を生じることもわかる。「多焦点レンズは,利点と欠点を有するレンズ」との記載があるが,これは非常にニュートラルな表現で,本書の特徴をよく表したフレーズである。

 また,屈折矯正手術と関連した眼鏡処方,コンタクトレンズ処方,近視予防などについても網羅されており,ところどころに挟まれた「一般眼科医のための 患者説明のポイント」とともに,一般眼科医のことも十分考慮された内容となっている。

 本書によって,「もう“知らない”では済まされない屈折矯正手術」の「必須の知識」が多くの眼科医に伝わればと思う。ただ,非常に実践的で先進的な内容であるだけに,出版された瞬間からどんどん古くなっていくうらみがあるので,これだけの充実した内容だけに何年かごとに改訂されていけばと思う。言い換えれば,改訂版を求めさせるだけのクオリティーのある本ということになるのである。

B5・頁432 定価:本体17,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02037-4

関連書
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