医学界新聞

寄稿

2015.03.23



【寄稿】

多施設・多職種横断による
がん化学療法プラクティス・マニュアルの作成

戸崎 加奈江(愛知県がんセンター中央病院看護師長/がん化学療法看護認定看護師)


 がんの三大治療の一つである化学療法は,2000年代に入り分子標的薬が次々と開発され,国内でも相次いで承認を受けるなど進化している。その結果,さまざまながんに対する奏効率・生存期間・利便性が向上している。

 一方で,化学療法には避けられない副作用もある。分子標的薬は,従来の抗悪性腫瘍薬と異なり,正常な細胞にダメージを与えることは少ないと考えられていたが,今までの薬剤とは別の副作用が出現することが明らかになっている。外来での治療が中心になりつつある近年,副作用をセルフマネジメントしながら生活を送っている患者もおり,がん看護に携わる看護師においてはインフュージョンリアクション(薬剤投与中または投与開始後,24時間以内に現れる有害事象の総称。以下,IR)や皮膚障害など,今までに経験のない副作用に対するマネジメントが喫緊の課題となっている。

7施設24人のプロジェクトチームを発足

 大腸がん治療の分子標的薬の一つに,2008年承認のセツキシマブがある。セツキシマブは,副作用にIRの他,発疹などの皮膚症状が現れる特徴がある。IRに不慣れな施設では安全に投与することに不安を感じ,皮膚科医が常勤していない施設では皮膚症状の対処に困難を生じることが,使用開始当初から予想された。そこで2009年,セツキシマブを安全に投与し管理するためのプラクティス・マニュアル(以下,マニュアル)を,当院を含む愛知県下のがん診療連携拠点病院7施設の医師・看護師・薬剤師による多施設・多職種横断のプロジェクトチームで作成することになった。

 メンバーの内訳は,7施設の医師10人(外科医・内科医・腫瘍内科医・皮膚科医),看護師6人(がん化学療法看護認定看護師),薬剤師7人(がん専門薬剤師を含む),事務1人で構成された。初めに,マニュアル作成のスケジュールを策定し,作成期間を約4か月と定めた()。同年2月に発足した第1回プロジェクト委員会では,プロジェクトの目的は,(1)多施設からなる医師・看護師・薬剤師等の多職種横断型チーム医療をめざす,(2)標準的治療が早期に導入され,かつ安全で適正な治療が施されるために共通のマニュアルを作成することの二つに据えると共有。さらに職種ごとの役割分担を行った。

 プロジェクトチームの活動

第1回プロジェクト委員会(2009年2月18日)
・医師・看護師・薬剤師の三職種が集まり,プログラムの目的や意義の共有と役割分担を明確にする。
・この後,看護師グループは2回のミーティングを開催。分担箇所を薬剤師とも検討する。

第2回プロジェクト委員会(同年5月20日)
・三職種が集まり,マニュアルの内容を精査。それぞれが分担した箇所の整合性を図り,完成に向けた最終調整を行う。

『Practice Manual for Cetuximab v1.0』完成(同年7月1日)

第3回プロジェクト委員会(同年11月11日)
・『Practice Manual for Cetuximab v1.0』の配布とProject Colorectal Cancerへ拡大していくことの話し合いがされた。

 医師は,セツキシマブを用いた治療指針,安全に投与するためのレジメン管理,インフォームド・コンセントの手順等,患者の治療にかかわる内容全般を担当することに。薬剤師は,服薬指導を含む薬剤の種類および使用方法,副作用に対する薬物療法についてのマニュアル作成を担当。そして看護師は,薬剤投与時の注意事項...

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