医学界新聞

2014.03.24

医療者が病院レストランをサポート


西智弘氏
 昨今メディアで「病院レストラン」が話題だ。かつての“味が薄い”とか“薄暗い雰囲気”といったイメージを一掃するような,一流ホテルプロデュースをうたった高級志向のレストランや,減塩・低カロリーなど健康にも配慮しつつ食べやすいメニューを工夫し,レシピが本として出版されるレストランも増えてきた。

 一方で,集客に悩むレストランもある。川崎市立井田病院の院内レストラン「POLE LIGHT」は,2012年5月のオープン当初は賑わったものの徐々に利用者が減少,先行きが危ぶまれていた。そうした状況をみて「院内の医療者がかかわって盛り立てていかなければ」と「レストランサポートプロジェクト」を立ち上げたのが,同院の緩和ケア医・西智弘氏だ。

 氏は同プロジェクトの目的を「利用者にとって望ましいレストランの検討」「食を通じた健康情報の発信」「レストランを軸にした,コミュニティのヘルスリテラシー向上」と定義。医療者,病院を利用する市民,レストラン運営サイドなどが参加するワークショップを1年間で計10回開催し,「井田病院らしいレストランの在り方」を模索してきた。議論を重ねた結果,「地産地消」をテーマに,地元・川崎の農家を支援するNPO法人から野菜を仕入れ,それを生かしたメニューを作ることに。さらに「医食同源」という薬膳の考え方を取り入れ,病院利用者の多くを占める高齢者やがん患者への「食べて元気になってほしい」という思いも込めて,メインメニュー「からだにおいしい定食」の内容が決定した。

 「からだにおいしい定食」は,十六穀米,主菜,川崎産野菜の小鉢,茶碗蒸し,スープまたは味噌汁で構成。主菜は日替わりでの提供となる。茶碗蒸しはたんぱく質を摂る目的のほか,優しい味付け・口当たりの良さで,病気治療中でも食べられる人が多いのでは,との狙いからメニューに加わった。

 試食会を経て,この3月から「POLE LIGHT」での定食の提供がスタート。ある日のメニューは,主菜は油淋鶏(若鶏の唐揚げネギ香味ソースがけ)カボチャ添え,小鉢は川崎産ほうれん草のごま和え(下写真)。栄養士からの助言と,西氏の薬膳アドバイザーとしての知識をもとに,効用や食材のバランスを考慮した品が並ぶ。定食とともに配布するパンフレットやレストラン内に設置した書籍で,食材の薬効やがん治療中の食事の工夫なども学ぶことができる。

油淋鶏:酸味やネギの香味による食欲増進効果。
カボチャ:栄養価が高く風邪予防の効果あり。甘みががん患者さんに好まれることも多い。
ほうれん草:口渇を抑え,血液を補い,便秘の解消に効果あり。涼性(からだを冷やす)食材のため,温性(からだを温める)食材のかぼちゃと一緒に摂ることでバランスを保てる。

 今後のプロジェクトの方向性について,西氏は「"食"について考える大切さ,楽しさを知ってもらえるよう,どの病院でも活用できるノウハウを蓄積させたい」と話し「レストランを通じて医療を身近なものとし,地域住民一人一人が医療の担い手になる"医療の民主化"につなげたい」と,展望を語った。活動の輪が広がり,各地域に特色のあるレストランが生まれることが期待される。

[プロジェクトへの問い合わせは,西智弘氏(tonishi610@hotmail.co.jp;メールを送る際,@は小文字にしてご記入ください)まで]

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