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第3062号 2014年2月3日


在宅医療モノ語り

第46話
語り手:注意深く,大事に持ち帰ります 
医療廃棄物入れさん

鶴岡優子
(つるかめ診療所)


前回からつづく

 在宅医療の現場にはいろいろな物語りが交錯している。患者を主人公に,同居家族や親戚,医療・介護スタッフ,近隣住民などが脇役となり,ザイタクは劇場になる。筆者もザイタク劇場の脇役のひとりであるが,往診鞄に特別な関心を持ち全国の医療機関を訪ね歩いている。往診鞄の中を覗き道具を見つめていると,道具(モノ)も何かを語っているようだ。今回の主役は「医療廃棄物入れ」さん。さあ,何と語っているのだろうか?


往診鞄のこちらが定位置
私のふたが開いてしまう事故は今までありませんが,念のため,こちらのポケットには私だけが入るようにしています。医療機関に帰ってくると,黄色のバイオハザードマークのついた四角い頑丈な容器に中身は移され,専門業者の回収を待ちます。
 私たちの街のゴミの分別は,割と厳しいほうだと思います。生ゴミを含む燃やせるごみ,ビニールと軟質プラスチックはビニ・プラ,不燃ごみ,びん・缶,乾電池,ダンボール,有害ごみ,アスベスト含有物,雑誌・牛乳パック,衣類,小枝などに分別するのです。慣れるまでは大変ですが,これも環境のためと思えば,なんのその。住民たちは市が発行する行政カレンダーを見て,間違えないようにゴミ捨て場まで持っていきます。

 私は,在宅医療で出てきたゴミの一種,医療廃棄物の入れ物です。使い捨ての針や注射器など,感染症の汚染源となり得る廃棄物を医療機関に持って帰るための入れ物です。使用後の針は血液などが付着した鋭利なモノで,危険性も高く扱いには注意が必要です。針刺し事故などが起こらないように,ハードな入れ物にいれて注意しながら持ち帰ります。専用の入れ物もありますが,私はいわゆるタッパー族。全国を調査してまわった往診鞄研究家によれば,案外浸透している人気アイテムのようです。

 はい,私の出身は“ヒャッキン”です。全品100円均一のお店で主人に買われ,こちらへやってきました。お手頃な価格で豊富な品揃え。大きさ,色,素材といろいろな種類がありました。私は,使用後の注射器を分解せず,針ごとそのまま持ち帰りできる点が気に入られたようです。ふたがきっちり閉まること,これも医療廃棄物入れとしては重要なポイントですね。

 訪問診療にうかがうすべてのお宅で私の出番があるわけではありません。採血や注射がある場合に私は呼ばれ,廃棄物になったらすぐに隔離できるよう,ふたを開けて準備します。一緒に使用するアルコール綿も,皮膚を消毒し,採血や注射を行った場所を押さえ,止血が確認できればゴミになります。個装してあったビニール袋もゴミです。ただ,これらはその場で分別されるため,私が持ち帰ることはありません。

 また,医療機関に持ち帰る廃棄物は他にもあって,必ずしも私の中に収まるモノばかりとは限りません。例えば,インスリンなど自己注射をしている患者さんの廃棄物。ペン型のカートリッジ,注射針などの毎日出る廃棄物は,患者さん宅で空き瓶やペットボトルにためていただき,訪問診療の際に主人がその容器ごと回収しています。日常的に点滴をする患者さんだと,針だけでなく点滴ルートやボトルもあって,廃棄物は結構な分量。ですから,鋭利なものとそうでないものとに分け,危険度にグレードをつけて医療機関に持ち帰ってくるのです。

 あるお宅では「そのタッパーは,そんな使い方をされるんですねえ」と感心されてしまいました。その奥さんは,往診鞄のポケットからチラリとのぞく私を見て,興味津々だったようです。「在宅医療をされている先生はお忙しくて料理もできないから,いろんなお宅でおかずをもらっているのかと思っていました」。あはは。それはいいですね。でも,間違っても私に食べ物は入れないでください。

つづく


鶴岡優子氏
1993年順大医学部卒。旭中央病院を経て,95年自治医大地域医療学に入局。96年藤沢町民病院,2001年米国ケース・ウエスタン・リザーブ大家庭医療学を経て,08年よりつるかめ診療所(栃木県下野市)で極めて小さな在宅医療を展開。エコとダイエットの両立をめざし訪問診療には自転車を愛用。自治医大非常勤講師。日本内科学会認定総合内科専門医。

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