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第2976号 2012年5月7日


MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


ティアニー先生のベスト・パール

ローレンス・ティアニー 著
松村 正巳 訳

《評 者》松村 真司(松村医院院長)

幅広い分野のパールが収められた臨床の宝石箱

 指導医が学生・研修医のプレゼンテーションを聞きつつ,ホワイトボードに鑑別診断を記入していく。現在,わが国の外来カンファレンスではおなじみの光景であるが,そのルーツはティアニーかもしれない。

 筆者が研修を行った病院にティアニーが臨時講師として滞在したときのカンファレンスで,ホワイトボードいっぱいに病歴や身体所見のキーワードをマーカーで書きとどめつつ,思考回路をひもとくその姿を初めて見たときの衝撃は忘れられない。病歴や身体所見の情報をプレゼンターとの絶妙のやりとりで次々と引き出していく。プレゼンターから出てこない鑑別診断を加えながら,情報のピースを組み合わせ,症例をひもといていくプロセスはエキサイティングですらあった。

 ティアニーはカンファレンスの度に,過去の経験とエビデンスに基づいた箴言=クリニカル・パールを残し,これらは初学者であった筆者の心に強く刻まれた。例えば,本書にも載っている「財布生検の施行は最も費用のかからない先端巨大症の診断法である」も,かつて参加したカンファレンスでティアニーが自分の上着のポケットから実際に財布を取り出しつつ披露したパールの一つである。その姿を一度目にすれば,それは何冊の文献よりもくっきりと心に残り,時を経ても輝きを失わない「宝石」になる。どうやら,これらの箴言が強く心に響いたのは,私だけではなかったようである。

 この度,ティアニーのベスト・パールを集めた書が世に出ることとなった。本書には血管性疾患,感染症,腫瘍性疾患,自己免疫性疾患,代謝性疾患,中毒,先天性疾患など幅広い分野から117ものパールが収められ,まさに臨床の宝石箱となっている。その多くは,症例カンファレンスでよく遭遇する,発熱,全身倦怠感,呼吸困難,体重減少など,全身性疾患における鑑別診断の過程で生まれたものであり,ティアニーの鑑別診断の奥義が満載である。

 ぜひ,本書は本棚には並べず,カンファレンス室の机の上にでも置いておいてほしい。そして,似たような症例に遭遇したら,「ティアニー先生の本の○○ページに載っていたね」と,参加者で共有しよう。そうすることによって,いつものカンファレンスはたちまち,まるでティアニーがそこにいるかのようなエキサイティングなカンファレンスに変貌するに違いない。

A5・頁146 定価2,625円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01465-6


《Ladies Medicine Today》
更年期・老年期外来ベストプラクティス
誰もが知りたい104例の治療指針

神崎 秀陽 編

《評 者》木村 正(阪大大学院教授・産科学婦人科学)

女性の一生のゲートキーパー宣言

 医学や医療の高度化に伴い専門化が進み,体のパーツにはやたら詳しくならねばならないが,全人的な見地で物事を見ることが難しい時代になってきた。もともと産婦人科医は,妊婦健診という場で妊娠女性の健康問題のすべてに対して,たとえ専門的治療はできなくとも診断を行い,それぞれの専門家につなぎ,適切な治療・管理を行うという妊婦の健康のゲートキーパー(門番)の役割を担ってきた。妊娠中であっても感冒や膀胱炎といった一般疾患,高血圧,糖尿病などの生活習慣病,うつ状態などの精神的問題,頭蓋内出血や心不全,甲状腺クリーゼなどの生命にかかわる重篤な疾患までが一定の頻度で発生し,健診を行っている産婦人科医が初期対応を行わなければならない。妊婦健診では「○○の臓器しか診ません」という態度・知識では務まらないのである。

 このような知識・経験がある産婦人科医がこれからの超高齢化社会に向かって更年期・老年期女性に対しても当然ゲートキーパーとして貢献するべきである。その際に妊婦とは異なる疾患の頻度や,年齢からくるさまざまな問題に向き合わなければならない。また,患者さんたちの意識が高まり,さまざまな診断や治療,あるいは生活指導に至るまで,私たちの行為すべてに根拠を求められることが多くなった。

 本書はそのような時代の要請にぴったりと沿った内容である。Q&A形式で実際に患者さんが目の前にいるような臨場感で読むことができる。この年代の女性の訴えは時に複合的,時に相矛盾し一筋縄にはいかないが,その状況をよくとらえて各質問が構成されており,またキーワードが付けられて全体の理解を助けている。

 本書を通読して一貫して感じるのは編者・神崎秀陽教授の,この年代の女性に対する限りない優しさをベースにした構成と,閉経周囲の女性に特有の大きな内分泌学的変化に対する深い洞察である。特にホルモン補充療法に関しては,実際の診療現場で説明に窮するような質問が数多く作られており,それらに対して根拠(エビデンス)に基づいた解決法が記されている。それ以外にも血圧,高脂血症,骨粗鬆症,うつ,不眠,記憶力障害などに関する幅広い訴えが提示されている。婦人科がん検診に加えて,排尿障害,外陰の疼痛,性交渉の問題など,産婦人科医こそが対応できるが,なかなか日本の教科書や論文には出てこない項目も多く記載されている。一部に従来の習慣,感覚に基づいた記述がみられるが,これらは改訂版の際にさらに良いものへと磨かれてゆくであろう。

 産婦人科医は,生殖医療に始まり胎児,新生児,小児から更年期・老年期に至る女性の一生のパートナーであり,ゲートキーパーであることがその存在の基本である。その上でさらに腫瘍や周産期,生殖などの専門性を持つべきである。基本を再構築するために,すべての産婦人科医に一読をお薦めする。

B5・頁408 定価8,925円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01533-2


循環器治療薬ファイル 第2版
薬物治療のセンスを身につける

村川裕二 著

《評 者》山下 武志((財)心臓血管研究所所長/付属病院長)

循環器医療に携わるすべての医師が読みたくなる本

 約10年前,1冊の「お化け本」が出版されました。若手の研修医からベテラン医に至るまで多くのファンを生み,ロングセラーとなったその本こそ,本書の初版『循環器治療薬ファイル』です。そして,10年の月日がたつのを待っていたかのようなタイミングで,ほぼ全面改訂といえる第2版が出版されたと聞き,さっそく読み始めたところ……医学的な内容はもちろんのこと,まさに「村川ワールド」のバージョンアップ……循環器医療に携わるすべての医師が読みたくなる本です。スイスイと文庫本感覚で,そして楽しみながら読み進めていける,そんな特徴がパワーアップ。

 「それは褒め過ぎではないかな」と思われた方は,本屋で序文だけでも立ち読みしてください。きっと気付いたときには,レジカウンターに並んでいることでしょう。

 序文以外にもう1つの例を。急性心不全の章で,「新印象派」「色の三原色」「お尻に火がつく」なんて記載があります。何が急性心不全と関係しているのでしょう。想像できますか?

 「では,アバウトな感じの本かな」と思われた方,それも間違い。もしかしたら,村川先生はアバウトな感じを出そうとしているかもしれません。でも,なぜかこの本,そーっと重要な数字(数式までも)がきちんと書かれています。変な魔力を持った本で,「睡眠中に流していると,いつの間にか英語が話せるようになるDVD」みたいな魅力。

 何を隠そう,私が村川先生を知ったのは研修医のときです。その当時,新婚だった先生のご自宅に呼ばれて何度かお酒をいただきました。循環器内科医となってからも,大学の心電図研究室でほぼ6年間机を横にして教えていただき,そしてたびたび本郷三丁目駅近くの安い焼き鳥屋で互いの愚痴をこぼしあいました。そしてそのころ,この「村川先生のファイルシリーズ」のきっかけとなる「ECGブック」を2人で翻訳し,その勢いで第1弾の「ECGケースファイル」を分担執筆したのですから,人生何がどのようにつながっているのか予想できません。

 思えばあれからずいぶん時がたちましたが,村川先生はますます進化しているようです。初版から第2版の間には,循環器医学や医療の進歩だけでなく,そんな先生の進化を感じることができます。そうそう,メディカル朝日連載の村川先生のコラム,毎回楽しみにしています。その挿絵を見ると,研究室の先生の机にあった多数の落書き(?)を思い出します。先生,あの落書きもずいぶんと進化していますよ……。

A5変型・頁360 定価7,350円(税5%込)MEDSI
http://www.medsi.co.jp/

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