医学界新聞

連載

2012.03.05

「本物のホスピタリスト」をめざし米国で研鑽を積む筆者が,
その役割や実際の業務を紹介します。

REAL HOSPITALIST

[Vol.15(最終回)] 「情熱」と「ビジョン」

石山貴章
(St. Mary's Health Center, Hospital Medicine Department/ホスピタリスト)


前回よりつづく

 本連載第10回(2948号)では,新たなフレームワークから見えてくる,ホスピタリストシステムの土台となり得る日本のシステム,「勤務医」という概念の強みについて述べた。今回はこれを踏まえ,日本版ホスピタリストシステムを構築する,私なりの「企画書」について述べてみたい。

 せんじ詰めればホスピタリストの存在意義は,「『患者』にとっての価値は何か」を常に考えつつ,「医師の普遍的な仕事を,情熱を持って行う」ことにある。「患者」という言葉を,「顧客」と置き換えてもいい。「日本の医療界には『患者は顧客』という発想がまるでない」とは経営コンサルタント・大前研一氏の言だが,そのパラダイムを,そろそろ転換させなければならない。「臓器ありき」から,「顧客(患者)中心の医療」へのパラダイムシフトである。これを,ホスピタリストシステムの導入によって可能にしたい,というのが私の夢だ。

 ここ米国のホスピタリストシステムも,もとは医療保険システムの変化に基づいて発生してきたものであり,当然それぞれの文化に合わせて変化させる必要がある。この形態をそのまま日本に持ち込んでも,システムとして定着させることは,難しいと思う。

 ただ,本連載第10回で述べた「3つのP」「3タイプの患者を管理するホスピタリストの役割」というのは,いわば普遍的な基本原理である。例えばダイエットにおいて,「摂取カロリーよりも消費カロリーを増やす」というのが基本原理であるように,だ。この基本原理を根底に置けば,あとはそれぞれの文化に合わせ形態を変えても,問題はない。いやむしろ,積極的に変える必要があるとさえ思う。

 だが,譲れない点もある。すべての入院患者をホスピタリストグループが受け持つ,という点だ。なぜならこれにより,「『総合内科の面白さ』を強調することができる」からだ。そして,これが一番重要なポイントだと私は思う。

 総合内科医が足りないのであれば,各科から持ち回りで毎月一人ずつ人を出してもらえばよい。これはここ米国の大学病院での,ホスピタリスト導入前の教育システムである。教育病院であれば,若手研修医の病棟内教育も,ホスピタリストグループがそのメインを受け持てばよい。ひと通りすべての患者が集まってくるのであるから,十分な医学教育が可能だろう。各科持ち回りで来た医師は,その得意分野では,特に深く若手医師への教育が可能だ。

 医局の各専門医には,コンサルトという形で患者管理に携わってもらう。ホスピタリストグループに対する教育が行き届くまでは,コンサルトの数も当然多いままだろう。従来のいわゆる「兼科」という形態と,最初は変わらないかもしれない。ただ,総合内科医がコンダクターとなる意義は大きい。

 その上でこのシステム,教育がうまく回り始めれば,コンサルトワークもうまくなっていくに違いない。各専門医には,完全にその専門分野に特化してもらうことができる。この段階で,各研修医は1年に数回ひと月ずつ,各科を回る。その月には,完全にその科に特化した教育を受けることができる。また,2年なり3年なりかけて,ホスピタリストグループと各科とを交互にでも回り続ければ,すべての分野をカバーすることも可能だ。モレと重なりとを少なくし,「将来のホスピタリスト」を効率よく養成できることになる。

 ホスピタリストは,「病棟診療のコンダクター」としてチームをまとめ,患者中心の医療というシンフォニーを奏でるため,そのタクトを振り続けることになる。入院,退院,そして患者や家族とのコミュニケーション,プライマリ・ケア医との連絡などは,すべてホスピタリストチームが,誇りを持って受け持つ。また一方ではグループとして,総合内科のスタンダードを学んでいく必要がある。それによって,チームメンバー間での分業が可能になる。これは,医師のワークライフバランスの改善につながるはずだ。

Did you know that Dr. Vaidyan was chosen as one of the "Top 10 Hospitalists in America" by the ACP?
(Dr. Vaidyanが米国内科学会の「全米トップ10ホスピタリスト」の一人に選出されたって,知ってる?)

Wow! I didn't know that. Congratulations, Dr. Vaidyan! What a great honor!!
(わあ,知らなかった。おめでとうございます! 凄い!!)

Thank you, guys.
(ありがとう,みんな。)

 重要なことは,「情熱」と「ビジョン」だと思う。わが師匠Dr. Philip VaidyanがSt. Mary's Health Centerに赴任以来,私に見せ続けてくれている,組織改革のための最大のキーワードである。そしてその「情熱」と「ビジョン」をもって彼は,2009年の全米トップ10ホスピタリストの一人に選別された。全米で2万人いると言われるホスピタリストの,トップ10の一人である。彼の一番弟子を自任する私にとってこれは,自分のこと以上にうれしい出来事であった。

 「患者中心の医療」「すべては患者のために」というビジョンを持ち,そのビジョンを理想的な形で患者に供給する,という熱意を持って,彼は改革を行ってきた。それを間近で見てきた私に,無言でそのキーワードの大切さを教えながら。私も将来,ぜひ彼に続きたいと思う。

 以上,私なりの「日本版ホスピタリスト」を作るための「企画書」を述べてみた。実現には,いろいろと障害があると思われる。また,私自身現在日本の医療から離れていることもあり,現実的でないと思われるところもあるかもしれない。それでも,「情熱」と「ビジョン」を持ち続けたい。そして,この夢をなんとか実現したいと,そう思っている。

Real Hospitalist虎の巻

「日本版ホスピタリスト」を作るための「企画書」
基本的に,すべての入院患者をホスピタリストグループが受け持つ。これによって,「総合内科の面白さ」を前面に出した,学生や研修医への教育が可能になる。キーワードは「情熱」と「ビジョン」。

 計15回続いた本連載も,今回が最終回。これまでご愛読,ありがとうございました。またいつかどこかで,お目にかかれたら幸いです。それまでに私自身が,少しでも「本物のホスピタリスト」に近づいておりますように。

本連載も最終回。最後の写真は,わが愛すべき同僚たちで締めたいと思う。時折メンバーの入れ替わりはあるものの,皆が間違いなく患者を一義に考える,病院総合内科のプロフェッショナル集団だ。助け合い励まし合いながら,日々の病棟診療を共に戦う,かけがえのない私の戦友たちです。

(了)

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