医学界新聞

連載

2012.02.06

「本物のホスピタリスト」をめざし米国で研鑽を積む筆者が,
その役割や実際の業務を紹介します。

REAL HOSPITALIST

[Vol.14] ホスピタリストユニットとトヨタカイゼン方式

石山貴章
(St. Mary’s Health Center, Hospital Medicine Department/ホスピタリスト)


前回よりつづく

Here is our new floor, named the “Hospitalist Unit”!!
(新しいフロアユニット,その名も「ホスピタリストユニット」だ!!)

We will have a “Multi-Disciplinary Meeting”, twice a week with nurses, case manager, social worker, physical therapist, and of course, each hospitalist. Do you like it?
(これから週2回,ナース,ケースマネジャー,ソーシャルワーカー,療法士,そしてもちろん,ホスピタリスト,皆が集まってこのミーティングを行う。Multi-Disciplinary Meetingだ。気に入ったか?)

 わが師匠Dr. Vaidyanのカイゼン方式による,当院におけるホスピタリストユニットの創設。今回は,これについて述べてみたいと思う。

 初めてその原型を見せられたのは,私がレジデンシーを修了し,彼の所属グループに入ることになった,そのときのことだ。米国内科専門医試験終了後ひと月の休暇の後,病院に戻った私が見せられたのが,様変わりしたその病棟方式であった。

 正直言って以前,その病棟フロアは当時のわれわれレジデントの間でも,決して評判は良くなかった。ナースたちはやる気のない者が多く,また,それを統率する者もいなかった。彼が,ホスピタリストユニットの母体をこのフロアにすると知ったとき,皆一様に,少し驚いたものだ。

 彼がその病棟フロアを選んだ理由は,その後明らかになった。優秀なナーススーパーバイザー(上級ナース)の獲得と,それに伴う病棟ナースの教育。やる気のあるホスピタリストの獲得。そしてシステムのカイゼン。彼は次々と手を打った。病院内で評判の悪かった,いわばお荷物病棟,その改革とホスピタリストの仕事効率改善を,ホスピタリストユニットの創設というかたちで,一挙に解決に持ち込んだわけだ。その手法はわが師匠ながら,見事と言うほかない。

 トヨタ工場内での,動線をカイゼンするという話。それにヒントを得た,それまで病院内にバラバラに入院させていたグループ内ホスピタリストの担当患者を,可能な限り一つのフロアユニットに集めるというアイデア。これによって,それまで病院内を駆けずり回っていたホスピタリストの動線を改善し,時間の短縮とクオリティの改善につなげる。これは私がレジデント時代,彼のもとでのホスピタリストロテーションの最中に聞いていた話だ。それが数年を経て,ホスピタリストユニットの開設,というかたちで実を結んだことになる。

 以前にも述べたが,このころの彼の口癖は,「Toyota’s Kaizen Methods(トヨタカイゼン方式)」であった。その入れ込みようはかなりのもので,それに関する新聞記事や論文を見せられた日本人である私は,慌ててトヨタカイゼン方式の勉強をせねばならなかった。相当,感銘を受けたらしい。

 病棟は完全に新しく改築され,新たにホスピタリスト専用のミーティングルームが設けられた。壁にフラットモニターが設置され,電子カルテや画像を見ながらのディスカッションが可能となった。

 そういったハードのカイゼンに加え,ソフトのカイゼンにも着手した。ナースとドクターとのコンビによる,患者への退院時教育。全米規模での,高齢患者の安全な退院(Safety Discharge)をめざす,BOOSTプログラムへの申し込み。大学病院以外からの申し込みは,当院だけだったらしい。

 何よりもメインは,Multi-disciplinary Meetingの開始であった。ナース,理学療法士,栄養士,そしてケースマネジャーやソーシャルワーカーなどが一堂に会し,ユニット内の患者管理に関し検討を行う。ホスピタリストはそのチームの中心となり,患者管理の方向性をチームの皆に示す。日本の病棟ではよく見られる風景かもしれないが,医師が個人の裁量で動くここ米国の医療システムにおいて,これは当初,かなり特異なものであった。当時,全米レベルで問い合わせがあったことを,今でも思い出す。われわれが所属するホスピタリストカンパニーであるIPCでも,その全米ミーティングで当院が取り上げられた。

 そしてそのフロアは,わずか数か月で,見違えるものに変貌した。患者満足度も格段にアップし,何より,皆の働き方,熱意が見違えるものとなった。システムのカイゼンもさることながら,Dr. Vaidyanのその情熱,やる気が皆に伝染したものと,私の目には映ったものだ。

I would like to apply this method to the other floors.
(この方式を,ほかのフロアにも用いたいんだ。)

Our hospitalists can be the physician champions on each floor.
(グループのホスピタリストが,それぞれのフロアでリーダーになって,患者ケアを行うことになる。)

 彼は最近,さらにこれを一歩進め,それぞれのフロアに専属のホスピタリストを配置する,という新たな試みを始めている。グループ内のホスピタリスト数が増加し,そしてそのおのおのが,適切なレベルまで達したと判断した時点で提唱した,新たなカイゼンのアイデアであった。ワンフロアで対応できなくなってきた患者数の増加を,ホスピタリストユニットをひな形にしたほかのフロアのカイゼンで,対応しようというものだ。

 これら一連のカイゼン劇を,私はその最前列で見続けることができた。これは,本当に幸運だったと言っていい。そしてこの一連の改革が,彼をACP(米国内科学会)全米トップ10ホスピタリストの一人に選出させることとなる。2009年のことであった。

 次回は最終回。これについて,述べてみたい。

Real Hospitalist虎の巻

ホスピタリストユニット
トヨタカイゼン方式の応用による,病院システムの改革。ホスピタリストの担当患者をでき得る限り一つのフロアユニットに集めることで,医師の動線の改善,それに伴う時間の短縮とクオリティの改善,より良い医療チームの構築を可能にした。

厳しい冬のセントルイス。数少ない楽しみのひとつが,ウィンタースポーツ観戦だ。プロアイスホッケーチーム「St. Louis Blues」の活躍は,市民の冬を熱くさせる。今回は,そのゲームと会場の様子を写真で。余談だが,一眼レフで撮影していたら,「高機能カメラでの撮影お断り」とクレームを食ってしまった。そのため,限られた枚数からの2枚です。

つづく

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