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第2948号 2011年10月10日


学ぼう!! 検査の使い分け
シリーズ監修 高木康(昭和大学教授医学教育推進室)
○○病だから△△検査か……,とオーダーしたあなた。その検査が最適だという自信はありますか? 同じ疾患でも,個々の症例や病態に応じ行うべき検査は異なります。適切な診断・治療のための適切な検査選択。本連載では,今日から役立つ実践的な検査使い分けの知識をお届けします。

第8回
止血機能検査・1

PT(プロトロンビン時間)

APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)

佐守 友博(日本医学臨床検査研究所・統括所長)


前回からつづく

血液の凝固とは,フィブリノゲンがフィブリンとなり析出する現象です。この過程では,内因系凝固因子と外因系凝固因子が作用しますが,プロトロンビン時間(PT)は外因系凝固因子の機能を反映し,活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)は内因系凝固因子の機能を反映しています。この2つを組み合わせることで,どの凝固因子に異常があるかを推測することができます。

 血液は,血漿中に不活性で存在する凝固因子の活性化反応に伴い,最終的にプロトロンビンがトロンビンに活性化されることで,血漿中に大量に存在するフィブリノゲン(200-400 mg/dL)がフィブリンとなり凝固します。このトロンビン生成の過程には2つの経路があり,PT(基準値:10-12秒)は外部から活性化物質が血漿に混入することにより生じる外因系を,APTT(基準値:28-38秒)は血液が異物面に触れることにより血漿中の因子だけでトロンビンが生じる内因系を反映しています。

 かつての検査室では,試験管内のクエン酸加血漿に,PTは組織トロンボプラスチンを,APTTでは血小板第3因子に代わるリン脂質と異物面に代わる活性化剤(セファリンなど)を入れ,十分量のカルシウムを再び加えた時点からフィブリンが析出するまでの秒数をストップウォッチで測定することで両検査を行っていました。現在では,凝固時間の自動測定装置も多く開発され,フィブリンの析出を光学的,物理学的に測定したり,トロンビンの出現を合成基質を用いて測定したりする手法が用いられています。

止血機能検査を行うとき

 PT,APTTは止血機能スクリーニングの代表的な検査で,血小板数,フィブリノゲン量,フィブリン分解産物(Dダイマー)と合わせて,これから外科的侵襲を加えようとする患者に対し出血傾向の有無を調べる目的や,出血傾向のある患者に対して行う検査です。

 また止血機能検査は,現在では出血傾向だけでなく血栓傾向(血栓症)の検査としても用いられることが多くなってきました(表1)。PTはワルファリン療法の,APTTはヘパリン療法の効果判定と経過観察に用いられています。

表1 出血傾向・血栓傾向の検査
出血傾向の検査
 凝固促進因子(特にVIII,IX,XIII因子),線溶阻止因子(特にα2プラスミンインヒビター),クロスミキシングテスト,vWF,血小板機能検査,トロンボエラストグラフィ,出血時間,消化管内視鏡,血管造影など
血栓傾向の検査
 アンチトロンビンIII,プロテインC抗原活性,プロテインS抗原活性,抗リン脂質抗体,ADAMTS13,血管造影,頸動脈エコー,心エコー,CT,MRIなど

 さらに救命救急医学の発達により,脳出血や脳・心筋梗塞,深部静脈血栓症の救命率も上昇し,スクリーニング検査だけでなく多くの止血機能検査が開発され臨床で用いられています。

症例1
整形外科で膝関節手術を行う予定の71歳の女性患者。術前止血機能スクリーニング検査にて,PTは11秒と正常,APTTは135秒と高度延長を示し,手術が可能かどうかの判断を仰ぐため,止血機能検査相談外来受診となった。

症例2
呼吸器外科で肺癌手術を行う予定の71歳の男性患者。生来出血傾向はなく,3か月前に癌を告知され切除手術を予定していた。前医の術前スクリーニング検査でPT 16.6秒,APTT 33.4秒とPTの延長を認めたために当院に転院し,手術が可能かどうかの判断を含めて止血機能検査相談外来受診となった。

 PTとAPTTの結果から考えられる凝固因子異常を表2に示します。なお両症例とも,生下時より出血傾向は認めていません。

表2 凝固因子の異常とPT,APTTの組み合わせ
APTT,PTの両方が延長している場合,第VII因子の異常と第XII因子(or VIII,XI,IXなど)の異常の複合およびワルファリンを用いた抗凝固療法中の可能性を考えておかなくてはならない。

 症例1はAPTTの延長例です。クロスミキシングテスト(後述)でインヒビター陽性パターン(図(3))を呈し,12 BUと高力価の第VIII因子インヒビターを認め,第VIII因子は測定感度以下でした。

 後天性のインヒビター(抗第VIII因子抗体)血症と診断し,整形外科での観血的処置(手術)は中止し保存的療法に変更しました。インヒビターについては経過観察としました。その後,打撲時の皮下出血や自然血尿,抜歯など出血イベントは起きていますが,初診後4年目の時点で特筆すべき出血症状はなく,インヒビターは徐々に消退して6年間でAPTTは30秒台まで改善してきています。

 症例2はPTの延長例です。詳しい問診を行ったところ,癌告知から精神的落ち込みが強く,食餌もほとんどとれておらず,体重も著明に減少していることがわかりました。食餌性のビタミンK欠乏を疑い,主治医にビタミンKの投与を依頼したところPTは2日後に13.8秒まで改善し,4日後には11.2秒と正常化し,手術可能と判断。その後の手術も成功しました。

因子欠乏か抗体の出現か

 APTT(またはPT)の延長時に,延長の原因(表3)が,“単純な因子欠乏”か“インヒビター(因子抗体)の出現”かを見極めるための定性検査がクロスミキシングテスト(正常血漿混和補正試験)です()。患者血漿と正常なプール血漿を混ぜ合わせる試験で,単純な因子欠乏では正常血漿の少量添加で凝固時間が劇的に補正されます(図(1))。インヒビターの場合は,時間をかけて正常プール血漿中の因子を阻害するタイプ(図(2))と即座に因子を阻害するタイプ(図(3))があります。

表3 PT,APTT延長の原因
凝固因子の活性低下
 凝固因子の産生低下
 凝固因子の消費の亢進
 凝固因子に対する抗体の出現
 抗凝血薬の投与
サンプリングの過誤
 測定試薬に対する抗体(抗リン脂質抗体)の出現

 APTT正常血漿混和補正試験のデータ例
A:患者血漿,B:正常プール血漿。解説は本文参照。

 習慣性流産の原因の一つとなる抗リン脂質抗体症候群でも,クロスミキシングテストではインヒビターと同様の成績を示すことがあります。

まとめ

 PT,APTTともに重要な止血のスクリーニング検査ですが,試験管内で行う検査であり,生体内での凝固能を正確に反映するものではないことを忘れてはなりません。特にAPTTが延長している場合でも,その原因が第VIII因子と第IX因子の大幅な低下(20%未満)でない限り,大きな出血を起こすことはないと考えられます。

ショートコラム

 最近,血栓性血小板減少性紫斑病(Thrombotic Thrombocytopenic Purpura : TTP)はvon Willebrand因子の切断酵素であるADAMTS13に対する自己免疫抗体の出現によって発症することがわかってきました。ADAMTS13に対する高感度測定法の開発により,溶血性尿毒症症候群(Hemolytic Uremic Syndrome : HUS)とTTPとの鑑別は容易なものとなりました。

つづく

参考文献
佐守友博.臨床検査科外来の実際 止血機能検査相談外来(大阪市大病院血液内科).臨床検査.2009;53(3):352-6.

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