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第2919号 2011年3月7日


学ぼう!! 検査の使い分け
シリーズ監修 高木康(昭和大学教授医学教育推進室)
○○病だから△△検査か……,とオーダーしたあなた。その検査が最適だという自信はありますか? 同じ疾患でも,個々の症例や病態に応じ行うべき検査は異なります。適切な診断・治療のための適切な検査選択。本連載では,今日から役立つ実践的な検査使い分けの知識をお届けします。

第1回
腎機能検査

クレアチニン

eGFR

クレアチニン
クリアランス(Ccr)

高木康(昭和大学教授 医学教育推進室)


 腎機能検査には,日常的に利用される血清クレアチニンと血中尿素窒素(BUN)のほか,糸球体濾過率(GFR)を求めるために測定されるクレアチニンクリアランス(Ccr)やさらに正確なGFRを表すと考えられているイヌリンクリアランス(Cin)などがあります。では,臨床現場ではどのような使い分けが求められているのでしょうか。連載第1回となる今回は,血清クレアチニン,推算GFR値(eGFR),Ccrの違いから腎機能検査におけるこれらの指標の使い分けについて考えていきたいと思います。


それぞれの検査で特異性が異なる

 特異性の点では,尿素窒素(UN)よりクレアチニンのほうが優れています。筋肉中に存在するクレアチニンの前駆物質クレアチンは,その一定量(約2%)が非酵素的に脱水されてクレアチニンとなり,血流中に入ったクレアチニンは腎臓を介して尿中に排泄されます。すなわち,血清クレアチニン濃度は筋肉中に存在するクレアチン濃度と腎からの排泄能だけに左右されるため,腎機能検査としての特異性が高くなります。

 一方,UNは生体中に発生するアンモニアを無毒化するために肝臓で合成され,腎臓を介して尿中へ排泄されますが,アンモニアの生成量は健常人での代謝ばかりでなく蛋白異化の亢進,例えば消化管出血などでも増加します。このように,腎機能以外の影響も受けやすく,特異性はクレアチニンに劣ります。

 近年,血清クレアチニン濃度からGFRを推測するeGFRが算出され,日常診療で利用されています。このeGFRは,日本人413例より日本腎臓学会「日本人のGFR推算式プロジェクト」が日本人向けに作成したもので,次のように求められます。

男性 eGFR(mL/分/1.73 m2)=194×(血清クレアチニン)-1.094×年齢-0.287
女性 eGFR(mL/分/1.73 m2)=男性×0.739

 一方,より正確なGFRの推測にはクリアランスを算出する必要があり,Cinが最も正確なGFRの推測検査(実測GFR)です。しかし,イヌリンは生体内にない物質(糖)であり,外部から投与しなければならず,日常的にはこれに代わるものとして生体内に存在するクレアチニンを用いるCcrが広く使用されています。

検査を行うとき

 腎機能検査は,浮腫や高血圧などの腎疾患特有の症状や血尿や蛋白尿などの尿所見から,腎疾患が疑われたときに行うばかりでなく,全身状態の把握のためのスクリーニング検査としても日常的に行われます。特に全身倦怠感,食思不振などの不定愁訴も腎機能低下時の症状で,腎機能低下が発見されることがしばしばあります。

腎機能検査の使い分け

症例1
65歳男性。血尿とむくみを主訴に来院した。2週間前に感冒様症状が出現し,続いて血尿や乏尿があり,身体がむくんだ気がする。意識は清明。身長168 cm,体重56 kg。血圧168/98 mmHg。眼瞼と下腿とに浮腫を認める。尿所見:蛋白2+,糖(-),潜血2+,沈渣に赤血球円柱,顆粒円柱。血液所見:赤血球数342万/μL,Hb10.0 g/dL,白血球数7600/μL,血小板数18万/μL。血液生化学所見:総蛋白6.1 g/dL,アルブミン4.2 g/dL,BUN70 mg/dL,血清クレアチニン5.1 mg/dL,Na135 mEq/L,K5.0 mEq/L。

症例2
59歳女性。健康診断で血清クレアチニンの軽度上昇を指摘され来院した。健康であるが,最近尿の回数が少し減り,体重が3か月で2 kg増加した。身長160 cm,体重58 kg。血圧126/84 mmHg。尿所見:蛋白+,糖(-),潜血(-)。血液所見:赤血球数386万/μL。Hb12.8 g/dL,白血球数6800/μL,血小板数26万/μL。血液生化学所見:総蛋白6.2 g/dL,アルブミン4.4 g/dL,BUN 22 mg/dL,血清クレアチニン1.1 mg/dL,Na140 mEq/L,K4.4 mEq/L。

 症例1は,血尿と浮腫という腎疾患に特有の症状で来院しました。尿検査と血清クレアチニン,BUNを測定して異常高値を確認することで腎疾患(急性糸球体腎炎)と診断することは容易な症例です。腎疾患ではこのほかに全身倦怠感,食思不振,嘔気,下痢などの症状を来すことが知られており,このような症状でも腎疾患を疑って生化学検査を行う必要があります。本症例は血清クレアチニンが5.1 mg/dLと異常高値であり,腎機能低下は明らかで,eGFRも9.9 mL/分で透析を含めた治療法の選択を行う必要があります。透析導入には「GFRが10 mL/分以下」がひとつの基準となりますが,この場合Ccrにより推定されたGFRでなく,eGFRで十分と考えられています。なお,急性腎不全か慢性腎不全かの鑑別も必要ですが,腹部超音波検査において腎の萎縮が認められる場合には慢性腎不全と診断できます。

 症例2は血清クレアチニンが1.1 mg/dLであり,eGFRは40.1 mL/分で,中等度低下と判断されます。しかし,前述のように血清クレアチニンは体躯の大小・筋肉量の多寡により大きく変動しますので,正確なGFRを推定するにはCcrを求める必要があります。本症例は24時間蓄尿での尿中クレアチニンが76 mg/dL,Ccrは51.9 mL/分(体表面積1.6 m2,BMI22.7)でした。また血清クレアチニンは血液濃縮(脱水)や希釈でも変動します。この症例でも濃縮があり,0.9 mg/dLであればCcrは49.9 mL/分となります。このように,血清クレアチニン濃度が基準値付近であったり,臨床症状と乖離していたり,あるいは年齢や性別から推測される平均値と大きく懸け離れる場合などではCcrを測定する必要があります。

 なお,Ccrの測定には24時間法と2時間法がありますが,24時間法は体格が平均より大きく外れる方でも誤差が少なく,蓄尿から尿蛋白量,食塩摂取量,蛋白摂取量などの腎機能評価を行うのに必要な指標の測定も可能である優れた方法です。

まとめ

 腎機能・GFRは,血清クレアチニン濃度さらにはeGFRによりその障害の程度を推測することが可能です。しかし,基準値付近では血清クレアチニンが軽微な上昇であってもGFRは大きく低下し(),さらに血清クレアチニンは体躯(筋肉量),血液濃縮・希釈により影響されるため,正確なGFRの推定にはCcrを測定する必要があります。

 血清クレアチニン濃度とGFR(Cin)との関係(文献1より改変)
 血清クレアチニンの基準値は,男性:0.65-1.09 mg/dL,女性:0.46-0.82 mg/dL。GFRの基準値は90 mL/分/1.73 m2。軽度低下:60-89 mL/分/1.73 m2,中等度低下:30-59 mL/分/1.73 m2,高度低下:15-29 mL/分/1.73 m2,腎不全:<15 mL/分/1.73 m2,と分類される。

 北澤孝三博士(横浜市立市民病院腎臓内科)のご助言に感謝します。

ショートコラム

血中尿素濃度は蛋白代謝の影響を受けるため,腎機能・GFRの評価の特異性は血清クレアチニンのほうが優れる。また,塩分摂取量や蛋白摂取量が多ければ糸球体で過剰濾過が生じ,同じ患者でも測定前日に蛋白を過剰摂取した場合は,摂取量が少ないときに比較しCcrは高値となる。これは塩分も同様であり,腎臓内科医は24時間尿で蛋白量(尿素窒素)と塩分量(ナトリウム)を測定して,臨床症状・状態とCcrが異なる場合の解釈の一助としている。

つづく

さらなる学習には
文献1)日本腎臓病学会編.腎機能(GFR)・尿蛋白測定の手引.東京医学社;2009.


高木康
1976年昭和大医学部卒。同臨床病理学教室,84-86年米国Scripps Clinic Research Instituteを経て,86年昭和大助教授。2003年より現職。日本臨床化学会理事,日本臨床検査専門医会監事。

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