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第2922号 2011年3月28日


MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


大腸癌の構造 第2版

中村 恭一 著

《評 者》高木 篤(みなと医療生活協同組合協立総合病院消化器内科)

大腸癌診療における不滅の道しるべ

 本書は,いまだに世界的に信じられている「大腸癌の多くは腺腫から発生する」というMorsonの"腺腫-癌連続学説(adenoma-carcinoma sequence)"を徹底的に論破し,「大腸癌の大部分は正常粘膜から発生する」というde novo学説を体系的に対置した本である。

 本書は複数の執筆者による見解をオムニバス的に集めただけの安易な本ではない。一人の著者の極限の思索によって書き下ろされた渾身の書であり,骨太で一貫性のある論理構造を持つ科学書である。癌・腺腫・非腫瘍を画像的に客観的に診断する判別式を完備し,腫瘍発生の基本概念,診断基準,組織発生,臨床病理を整合性をもって見事に解説している。

 著者の中村恭一先生は問いかける。大腸以外の臓器では正常粘膜からのde novo発生が主体であるのにバウヒン弁を越えたらなぜ突然腺腫が発癌の主体になるのかと。言われてみればもっともである。そして著者は「トンネルを抜けると雪国だった」などとユーモラスな比喩を駆使しながら,腺腫-癌連続学説の矛盾点を逐一指摘しde novo学説を対置して圧倒していく。まさに「論理は権威より強し」である。そこにはオセロゲームの黒一色の盤を四隅を白にしてすべて白にひっくり返していくような痛快さがあり,一気に読ませてしまう。それが本書の初版が1989年に出版されてからロングセラーを続けている理由だろう。

 著者は腺腫-癌連続学説が世界の常識だった1984年にde novo学説を敢然と主張し異を唱えた。1984年といえば1986年に工藤進英先生によって大腸IIc型de novo癌が報告される「有史以前」である。著者の主張は当時から全くぶれていない。1989年に本書の初版が出版されて以来,本書は預言の書として北極星のように不滅の道しるべであり続けた。小林・益川理論に導かれて残りのクォークが発見されたように,本書に導かれるように工藤先生の薫陶を受けた秋田学派らによってIIcを含む微小なde novo癌が多数発見されてきた。歴史的な本でありながらその正しさと重要性は今日においてその輝きを増している。

 第2版に当たり,鮮やかなカラー版として蘇っただけでなく,多くのde novo癌の知見と白壁フォーラムの約5000例の2 cm以下の大腸癌による詳細なデータ解析が加わり,さらに説得力が増した。今後データを集積していけば,日本発の病理診断基準が世界のスタンダードになる日も夢ではないだろう。

 本書を読むと,大腸内視鏡ではほとんど進行癌にならないポリープに目を奪われることなく,胃カメラのように正常粘膜に潜んでいるIIcなどの宿主の生命を奪うde novo癌を見落とさないことが大事だと痛感する。de novo学説でなければ大腸癌死を減らすことはできないとさえ思う。

 その意味で本書は大腸癌発育進展の学徒のみならず大腸癌診療にかかわるすべての人にとって必読の書であるといえよう。

B5・頁232 定価12,600円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01143-3


てんかん治療ガイドライン2010

日本神経学会 監修
「てんかん治療ガイドライン」作成委員会 編

《評 者》中里 信和(東北大大学院教授・運動機能再建学 東北大病院てんかん科)

てんかんの教科書として最初に読むべき本

 抗てんかん薬を処方する医師ならば,誰もが本書を手に取って,せめて目次だけでも目を通していただきたい。

 本書は日本神経学会が監修し,辻貞俊先生を中心とする委員会がまとめたガイドラインの力作である。てんかんの教科書として,医療関係者が最初に読むべき本と言ってよい。また患者さんやその家族にとっても決して難しすぎる本ではない。自分の診療に対して疑問や不安があるのなら,本書を読んで主治医に相談してみるのも一法である。

 本書の構成は網羅的・系統的で,てんかんの診断・分類に始まり,検査,成人の薬物治療,小児の薬物治療,てんかん重積状態,てんかんの外科治療,妊娠に関係する話題,精神症状,日常生活に関するアドバイス,と続く。

 各章はコンパクトで読みやすい。冒頭に1-2行にまとめられた「クリニカル・クエスチョン(CQ)」が置かれ,このCQに答える形で簡潔な「推奨」が続き,さらに詳しい「解説・エビデンス」と,文献や参考資料,が記されている。読者には,まず「CQ」と「推奨」だけでも,ざっと流し読みしてもらいたい。1時間もかからないであろうこの過程で,読者はてんかん医療の骨格を理解することができる。

 一例を挙げよう。CQ「てんかん重積状態で脳波モニターの必要性はあるか」に対して,推奨は「てんかん重積状態で脳波モニターは必要である(グレードB)」と続く。簡潔にして要を得ている,とはまさにこのことである。日本国内の診療体制をみるに,てんかん重積状態を疑う症例に対し,脳波モニターを実施できない施設がいかに多いことか!

 日本では,てんかんを診療する医師の多くが,てんかん診療の非専門家と言われている。抗てんかん薬の処方量に着目すると,某社の推計結果は私の直感とよく似ていて,約2割が日本てんかん学会の会員,残り8割は非会員によるものらしい。いかにして本書を多くの医師に読んでもらうかが,今後の啓発活動における最重要課題ともいえる。

 私はひそかに夢見ているのだが,例えば抗てんかん薬を販売する製薬会社が分担して,本書を必要部数買い上げておき,抗てんかん薬を処方する日本中の医師のすべてに配布してもらえないだろうか。あるいは,抗てんかん薬を処方する薬局にも配備してもらい,患者さんが自由に手にとって読めるようにしてもらってはどうだろう。

 多くの医師や医療関係者が基本知識を持たずに安易に治療を開始・継続しているのは問題であり,その結果,普通の生活を送れるはずの患者さんが悩みを抱えたまま人生を諦めている可能性がある。こうした問題を解決する上でも,本書が日本全国,津々浦々に配布されることを願うのみである。

B5・頁168 定価5,250円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01122-8


認知行動療法トレーニングブック
統合失調症・双極性障害・難治性うつ病編
[DVD付]

古川 壽亮 監訳
木下 善弘,木下 久慈 訳
Jesse H. Wright,Douglas Turkington,David G. Kingdon,Monica R. Basco 著

《評 者》原田 誠一(原田メンタルクリニック・東京認知行動療法研究所)

臨床センスを磨ける素晴らしい内容を日本語で楽しめる

 認知行動療法の詳細が教科書に記されているからといって,活字だけで実態を伝達して実践につなげられるわけではない。近年,面接の模様を伝える映像教材へのニーズが高まっているゆえんである。これまでに少なからぬDVDが世に送り出されてきたが,まだ手つかずの分野が残っていました。その一つが統合失調症・双極性障害・難治性うつ病などの重症精神障害であり,処女地へのガイド役として名乗りを挙げたのが本書である。この領域でかねてより盛名を馳せている皆さん(キングドン,ターキントン,バスコ,ライトの諸先生)が,執筆とDVD出演を全力投球で行う大盤振舞。一見しただけでは消化不良になりそうなほど豊穣な情報が満載で,特に顔見世興行を拝見できるDVDは格好の勉強の資料になっている。ここでは,今回の頭領役と言えそうなキングドン先生のセッション映像を通して評者が感じた内容を記すことで,本書の複雑で精妙な魅力の一端をお伝えしたい。

 キングドンは,妄想型統合失調症と診断されたマジールとの5回のセッションで登場する。注意深く配慮に満ちた,しかも温かく真摯なキングドンの対応は終始見事であり,この種の対応の模範となる内容。しかるに,DVDを楽しんでいるうちに若干の違和感を覚えたり,本文の解説と異なる感想が頭をよぎることもあり,そこがまた面白い。

 例えば,症例マジールの病態と診断。操作的診断基準に基づくと妄想型統合失調症となるのだろうが,この病名にしてはかなり珍しい特徴がみられる。一例を挙げると,本人が個人情報漏洩を気にしている事柄が17歳のときの外傷体験に限られるというのは,妄想型統合失調症ではかなり例外的です。ここで,キングドンは病態をトラウマ精神病(=キングドンが提唱している統合失調症の亜型の一つ)と考えているのではないか,という推測が浮かんでくる。トラウマ関連の精神障害に罹患したマジールが悩みを一人で抱え込み,他者と接するのを避けて視線を交わさずに過ごす中で,妄想が強固になり固定したという経緯。

 キングドンの妄想への認知行動療法的な介入はことごとくマジールの否認を生んでおり,表面的にみると空振りの連続。それでは,キングドンのかかわりによって何ゆえに変化が生じたのか。評者の印象では,妄想の背景にあった「外傷体験」と「不本意な現状」(30代に入ったのに,仕事もお金もない)を繰り返し率直に語ること(暴露)でなれが生じ,さらにその内容をキングドンがおとしめず懇切丁寧に聞くプロセスで「脱・外傷化」が進んだ面がある。加えて,ずっと他人を見ないようにしてきたマジールが,徐々にキングドンを正視して語るようになったことの意義。ここには「他人を見ると自分のプライバシーが伝わってしまうので,見ないようにしている」事情を,「相手を見ながら詳しく説明しないと,きちんと伝わらない」というパラドックスがあり,本人にとって意外かつ新鮮であったであろうこの経験が改善の一助になったと感じられる。もちろん,他人を正視しても大丈夫という安心感を持てたことの意味も大きい。

 本書はキングドン以外の諸先生の映像からも学べるところが多々あり,訳文も大変丁寧でこなれており読みやすい。高めの値段設定が少々気になりますが,臨床センスを磨ける素晴らしい内容を日本語で楽しめるお買い得の一冊,と太鼓判を押しましょう。

A5・頁452 定価12,600円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01081-8


診療情報学

日本診療情報管理学会 編

《評 者》高久 史麿(自治医大学長)

診療情報の意義と役割を明らかにした大著

 2005年4月に施行された個人情報保護法によって,患者の個人情報は原則として患者自身に帰属するものであることが明示された。一方,病院医療の現場では,チーム医療の推進のために診療に関する情報の一元化と共有化が最近特に求められるようになっている。

 今回,医学書院から日本診療情報管理学会の編集による『診療情報学』が刊行された。本書の目的は,医師,コメディカルといった医療従事者が記載・作成する記録や取り扱う情報を「診療情報」として体系化することに関する基本的な事項について解説し,同時にその体系化の問題点や今後の課題を示すことによって,診療情報の意義と役割を明らかにすることにある,と編集委員の大井利夫氏が本書の序の中で述べられている。

 現在のように,医療のすべての分野で高度化が進み,各種の医療専門職が患者を中心に医療を展開するチーム医療の場にあって,安全で質の高い医療を遂行するためには,正確な診療情報を速やかに医療従事者間で共有することが絶対的な条件となっている。しかし現実には,診療情報の収集,管理保管,その活用については多くの解決すべき問題点があり,統一した方式や知識が未成熟の状態にあるため,診療に関するデータは数多くあるが,本当に伝えるべき情報が少ない,いわゆるData-Rich-Information-Poor Syndrome(DRIP Syndrome)の状態にあると言わざるを得ないのが現状である。

 しかし,個々の生のデータを正確に収集し,そのデータを評価し,取捨選択して記録することが臨床の現場では極めて重要である。こうして集めた情報は医療機関の経営管理や医学研究に利用され,そのことが医療の質の向上に寄与するのは疑いの余地がない事実である。

 本書はI.診療情報学総論,II.診療情報の価値を高めるためのシステムと評価(診療情報学と応用),III.診療記録の種類と記載法,の3部によって構成されており,その内容も極めて密度が高く,総ページ数も456に達している。その意味で本書は正しく診療情報に関する大著と言えよう。

 執筆者の方々は日本診療情報管理学会の役員を含めいずれも診療情報分野の専門家,あるいは実務の担当者であり,本書は日本診療情報管理学会が診療情報に関するわが国の諸問題に関する現時点での統一した見解をまとめた本であると言えよう。したがって,本書の刊行はわが国の医療の質の向上にとって極めて重要なことであると言って間違いないであろう。医療に関係するすべての方々に本書を参照されることをお勧めし,本書の書評の締めくくりとさせていただきたい。

B5・頁456 定価8,400円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01083-2


整形外科SSI対策
周術期感染管理の実際

菊地 臣一,楠 正人 編

《評 者》馬場 久敏(福井大教授・整形外科学)

EBMにも貢献しつつ,臨床の場で役立つ書

 整形外科学は,身体に外科的侵襲を加える手段により躯幹や肢体の傷害や疾病を除去し,損傷を被った組織の機能を再び獲得することを主眼とする学問系である。外科的侵襲とは言うまでもなく組織侵害性の動作であり,ために感染や創の遷延治癒といった合併症にも関連してくる。

 術後に,術野に感染が生じることは患者側・医療施行側の双方にとって極めて不幸な出来事である。術野を含む組織の感染は意図したものではないにせよ,病原菌がヒトに寄生(あるいは共生)して生存しようとする生態は,ヒトの組織・器官の機能不全やヒトの生存そのものをも危機におとしめるゆえに重大な出来事なのである。古来,多くの努力がなされてきたにもかかわらず感染症は制圧できず,また手術創部の感染(SSI)もまた依然として問題となり続けている。感染症の制御・制圧をめざし,かつ院内感染を撲滅することを目的に,個別の医療機関ではSSIもすべて登録し,Infection Control Team(ICT)とも称される組織が活動するといった状況にも,昨今の医療情勢が変化してきた。

 そのような折,本書を読ませていただく機会を得た。整形外科SSI対策や周術期感染管理の実際が菊地臣一教授,楠正人教授により編集され,95名の著者により,SSI対策の概要,総論,脊椎から膝・足関節までの感染の各論,が述べられている。テキストの内容はわかりやすくかつ実際に則して論述されているもので,臨床の場では便利かつ有用な著書となっている。

 昨今はEBMが医療の理念の第一義的なものとなっている。本書に収録された論述はEBMにも貢献しつつ,実際の臨床の場で役に立つであろうと信じられるので,多くの整形外科医にはぜひご一読いただき,医局蔵書としていただきたく思う。

B5・頁320 定価8,400円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01020-7


てんかん鑑別診断学

Peter W. Kaplan,Robert S. Fisher 編
吉野 相英,立澤 賢孝 訳

《評 者》辻 貞俊(産業医大教授・神経内科学)

てんかんの臨床に即した実用的な鑑別診断の書

 医師が診療中にてんかん発作を観察することはできないので,てんかん診断の決め手としては,発作の詳細な病歴が主体となる。したがって,詳しい発作目撃情報を得ることができないときなどは,てんかんの診断が困難な場合もある。そのような状況でてんかんを正確に診断するためには,てんかん発作についてのみの知識では不十分であり,てんかん発作と似通った症状を呈する他の疾患の知識がなければ,正しい鑑別診断はできない。

 てんかん診断における鑑別診断の指南書が本書である。吉野相英先生,立澤賢孝先生の非常に正確でわかりやすい翻訳により,本書が日本語で読めるようになったのは朗報である。

 本書は,序章およびI-IV部構成となっている。序章では発作性疾患の診断の基本的事項が述べてある。I部は「概論:てんかん診断のジレンマ」と題し,てんかん診断の実際的なコツとピットフォールがわかりやすく解説されている。最初に脳波と臨床症状の対応をどのように行うか,つまりclinico-electrical diagnosisについての解説がなされている。発作症状に基づく解剖学的局在診断,てんかん発作とは思えない奇抜なてんかん発作,非てんかん性心因性発作,血清プロラクチンを用いたてんかん発作の補助診断が解説されている。

 II部は「年齢別にみた非てんかん性発作」である。新生児・乳児,小児・思春期,老年期と3章に分けて,どのような非てんかん性発作があるか詳述されている。

 III部は「てんかん発作をまねる様々な疾患」であり,本書の中核となっている。ここでは,てんかん発作をまねる(mimic)疾患を挙げて,症例提示等を含めて鑑別点を詳述している。

 IV部は「てんかん発作をまねる精神障害」であり,心因性発作,パニック発作,過換気症候群など,日常臨床でしばしばてんかんとの鑑別が問題となる発作症状が取り上げられている。

 てんかんの診断において間違いが生じるのは,非てんかん発作を間違っててんかん発作と診断してしまう場合と,非典型的てんかん発作を他の疾患と誤診してしまう場合があり,この両者について,診断のコツとピットフォールを示してくれているのが本書である。てんかんの臨床に即した実用的な鑑別診断の書である。原書の初版が1994年に出版され好評を博し,本書は2005年に出版された第2版の翻訳である。

 原書は,米国てんかん学界で高名なJohns Hopkins大学のPeter W. Kaplan教授とStanford大学のRobert S. Fisher教授の共同編集によるものであり,各章はいずれも北米・カナダで著名なてんかん専門医を中心とした執筆陣から成る。北米ではてんかんセンターにおける発作のビデオ脳波モニター検査が発達している。多くの著者はこのモニター検査経験を基に執筆しており,客観的な発作ビデオ記録に基づく発作症候論であり,非常に信頼度の高い内容となっている。

 本書のわずかな欠点は,分担執筆によるがための内容の重複と分散である。例えば,発作性運動誘発性舞踏アテトーシスは2,3か所で述べられ,それぞれ記載されていることも似通っている。失神はてんかん発作との鑑別が最も問題となるが,本書では各所に記載があり,系統的に勉強しようとするときには,あちこち参照しなければならず,煩わしく感じる。

 てんかん診断を誤診すると,発作が改善しないのみならず,長期にわたる誤った治療の原因にもなる。てんかんセンターやてんかん専門外来にてんかんとして紹介される患者の20-30%は,非てんかん性発作であるという現状がある。てんかん専門医はもとより,てんかん診療を行う医師および医療関係者には,本書を必読の書として推薦する。さらに,意識消失,けいれんといった発作症状を診療する機会の多い救急,小児科,内科,脳神経外科,精神科の先生方にもご一読を勧める良書である。

B5・頁352 定価9,975円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01028-3

関連書
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