医学界新聞

寄稿

2010.12.06

寄稿

米国メディカルスクールで学んで

ブルーワー・敬恵(Eastern Virginia Medical School 3年生)


 米国のメディカルスクールは通常,4年制大学院の教育課程となります。メディカルスクールには,大きく分けて,allopathic medicine(MD課程)と,osteopathic medicine(DO課程)の2つの課程があります。MDとDOの違いについては今回割愛しますが,どちらも4年制であり,卒業後は医師として同様の仕事をすることになります。

 本稿では,私が在籍するMD課程について報告します。

勉強は「仕事」,単位を1つ落とすと留年

精神科ローテーションにおけるチーム(右から2番目が筆者)。アテンディング,レジデント,医学生,看護師,ソーシャルワーカーで構成。毎日チームで診療し,治療方針を話し合う。
 米国のメディカルスクールに入学するには,4年制大学のPre-medというカリキュラムで必要単位数を満たす必要があります。大学での専攻自体は何でもよく,理系はもちろん,文系,例えば芸術系の専攻でも可能です。4年制大学卒業後すぐにメディカルスクールへと進学する学生もいれば,社会経験を経て入学してくる学生も多数います。私のクラスメートには,教師,軍隊のパイロット,大学の原子物理学教授などの経験者もいます。

 メディカルスクール入学には,大学時代の成績や,MCAT(医科大学入学試験)の点数が重視されるのは当然ですが,医師になるための「精神的力量」があるか,「プロフェッショナル」な態度が備わっているか,なども重要な評価基準となっています。

 入学後は,勉強するのが「責任」であり,「仕事」と同様です。よって,「メディカルスクールに合格したから安心」と,勉強を軽視する学生は皆無です。単位を1つでも落とせば,1-2年生は基本的に留年です。1-2回留年しても単位を修得できない場合,退学になるのが一般的です。

 1-2年生の講義は座学が中心となります。実習以外は基本的に出席が義務付けられていないので,希望者だけが講義に出ます。内容はほぼすべて,学校のウェブサイトからパワーポイントをダウンロードできるようになっています(講義の録音が配信されるクラスもあります)。そのため,自宅でパワーポイントを確認しながら学習する学生も多くみられます。

 1年次の必修科目は,解剖学,発生学,組織学,分子生物学,発達学,生理学,神経科学,臨床医学。2年次の必修科目は疫学,統計学,免疫学,微生物学,病理学,病態生理学,薬学,精神病理学,臨床医学です()。

 米国メディカルスクールの必修科目(筆者在籍校の一例)

 1-2年生の間は毎週のようにテストを受けることになるので,学生は毎日,週末も返上で勉強します。また,日本の大学のような「クラブ(サークル)活動」は基本的にありません。時間がないからです。メディカルスクールでいう「クラブ」は,内科,外科,救急医療などの「interest group」と呼ばれるものを指します。ここでは,月に1回ほどランチ時に現役医師の話を聴講しています。

卒前教育で重視されるのはプライマリ・ケア

 私の在籍するメディカルスクールでは,座学中心の基礎医学の授業と並行して,臨床医学のコースが必修となっています。

 1年次にはcomplete history & physical (ひと通りの問診と触診)ができるように指導されます。模擬患者を利用したトレーニング体制が確立しており,週に一度は,模擬患者を用いた少人数制の実習が現役医師によって行われます。問診や触診に加え,「SOAPノート」と呼ばれるカルテの書き方や鑑別診断の仕方,診断・治療方針の考え方などを学んでいきます。1年次の終わりには,婦人科・泌尿器科専用の模擬患者を用いたトレーニングが行われ,breast exam,内診,睾丸・直腸検査といった一連のテクニックを修得します。

 2年次の実習では,実際の患者さんをメディカルスクールに招いて,特定の病態に即した訓練が行われます。糖尿病,関節炎,慢性気管支炎といった頻繁にみられる症例を,指導医のもと,focused history & physicalの形で診察し,グループで診断法や治療方針を話し合います。また症例報告の練習も,このころから徐々に行っていきます。

 なお,私の通うメディカルスクールにおいては,「専門医希望の学生であっても,プライマリ・ケアの知識と技術がまずは必要である」と強調されています。1-2年次には週に一度,地元のクリニックのプライマリ・ケア医に半日同行し,実際の医療現場を見せてもらう機会があります。1年次の1学期は指導医について見学するだけですが,2学期以降になると実際に患者さんの問診をしたり,症例を指導医に報告する機会が与えられます。2年次の2学期になると,希望者は専門医に同行する機会が与えられます。

チームの一員として診療に参画

 米国では,3年次より本格的な臨床実習が始まります。3年次の実習前には,医師国家試験に当たるUSMLEのStep1を受験していることと,2年次の必要単位数をすべて満たしていることが条件となります。単位を1つでも落とすと留年となりますし,Step1が不合格とわかった時点で,臨床実習を一時中断し,合格するまで実習に戻れません。

 3年次の臨床実習では,さまざまな病院やクリニックで実習を行います。私の通うメディカルスクールで必修になっているのは,内科(12週間),外科(8週間),産婦人科(8週間),小児科(8週間),家庭医療(6週間),精神科(6週間)です。

 米国のteaching hospitalは,医学生(3-4年生)を指導するのがインターンまたはレジデント,トップに現場の責任者であるアテンディング,というチーム構成が出来上がっています。普通は医学生がインターンやレジデントに張り付いて,さまざまな指示を受けることになります(彼らは忙しいながらも,医学生の指導を仕事の一部としてとらえています)。3年生に与えられる仕事は,指導医や科によっても大きく異なりますが,基本的には問診や触診です。例えば内科病棟のローテーションの場合,医学生は患者さんを1-2人担当し,アテンディングが毎朝の回診を始める前に,患者さんの問診と触診を行い,前夜の様子と検査結果をまとめて電子カルテにアップします。回診の際には患者さんの近況と,「次に何をすべきか」をアテンディングに口頭で報告します。その後はインターンやレジデントについて検査や薬のオーダーを出したり,さまざまな雑用をこなしていきます。

モチベーション向上の源

 どの科のローテーションにおいても,週に一度は講義の日があります。これはメディカルスクールが実施しているもので,出席必須です。さらに,ローテート科によってはレポート,EBM課題,プレゼンテーション,読書課題などがあります。レポートはアテンディングが採点する場合もあれば,メディカルスクールのローテーション責任者である指導医が採点する場合もあります。

 各ローテーションの最終日には,USMLEを主催する機関が作成した全国統一の期末試験を受けます。これに向けて学生は自主的に勉強しなければいけません。テキストや問題集を学生各自が自由に選び,2-3冊ほど目を通す場合が多いと思います。ほぼ一日中実習があっても,帰宅後に勉強せざるを得ません。当直が頻繁にある外科のローテーションの間は,勉強する時間を見つけるのも困難だと聞きます。

 4年次の選択科目では,自分の希望する専門科をローテートすることができます。また,レジデンシー・プログラムに願書を提出したり,面接で米国各地を飛び回るのも4年次です。3月のマッチ・デーは,全米のメディカルスクールでレジデンシー・プログラムの結果発表が行われる日であり,各校では4年生と家族が一堂に会し結果の書かれた封筒をいっせいに開けます。この結果によって今後3-4年の人生が左右されるので,5月の卒業式に劣らない大きなイベントとなっています。

 米国のメディカルスクールでは,学生のうちから鑑別診断や治療方針を考える練習を絶えず繰り返していますし,他の医療従事者とのかかわり方を学ぶことができます。学生が将来一人前の医師となり,チーム医療の中で主体的な役割を果たせるように指導されていると実感します。そして何よりも,「医療チームの一員である」「直接患者さんのケアにかかわっている」という心構えが,学生の真剣な態度や,知識・技術修得のモーチベーションにつながっているのだと思います。


ブルーワー・敬恵(たかえ)氏
国際基督教大理学部生物専修卒。翻訳業および塾講師を経て2000年に渡米。Old Dominion Universityで臨床検査技師の学位を取得。3年間の病院勤務後,バージニア州にあるEastern Virginia Medical Schoolに入学。現在3年生。将来は腫瘍内科医をめざしている。

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