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第2875号 2010年4月12日


MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


脳波判読に関する101章 第2版

一條 貞雄,高橋 系一 著

《評 者》越野 好文(金沢大名誉教授/粟津神経サナトリウム特別名誉顧問)

豊富な脳波図を通して脳波の判読力を養う

 1998年に,一條貞雄先生は臨床の現場で出合う脳波がどのような意味を持つのか,それをどう解釈するのかに重点を置いて書かれた『脳波判読に関する101章』を私たちに届けてくださった。長年にわたる臨床脳波判読のご経験から生まれた,臨床にすぐに役に立つ,実にわかりやすい書籍であったが,このたび11年ぶりに改訂された。手にとってまず気がついたことは,初版も読みやすい本ではあったが,第2版は文字サイズの工夫と色刷りの活用で,さらに一段と見やすくなったことである。これまで脳波になじみのなかった人も興味をそそられることであろう。

 本書では脳波判読の基礎から臨床までが,豊富な,そして貴重な脳波図によって具体的に示されている。読者は脳波に親しみを覚えるに違いない。内容としては,脳波判読に関する解剖・神経生理,脳波の記録方法・賦活法・アーチファクト,正常・異常な脳波波形,小児・思春期および老年期の脳波,てんかんと関連した疾患および意識障害など各種疾患の脳波,薬物による脳波,睡眠脳波,さらに誘発電位・脳電位分布と脳磁図が取り上げられている。第2版では,新しい脳波図も加わり,さらに充実した。

 臨床脳波は実用の面からは完成の域にあると思えるが,それでも10年の間に関連領域において,いくつかの動きがあった。2001年,2006年にてんかん発作型の新しい国際分類が提案された。本書では,てんかん発作型,およびてんかん症候群の分類が紹介され,それに伴い「てんかんと脳波所見」の章の構成が変更された。また2007年,アメリカ睡眠学会から新しい「睡眠ポリグラフィの記録手技と,睡眠段階判定基準」が提唱されたことから,睡眠ダイアグラムに関する記述も増えた。

 1999年に変更・追加された国際臨床神経生理学会の「脳波用語・解説」(日本語版)が新しく巻末に追加された。Brain wave,Build up,Evoked response,Phantom spike-and-waveなど,従来普通に使用されていた用語のうちかなりの数のものが,現在では使わないほうがよい(use discouraged)とされた。国際的に共通の用語を用いることは研究の基本であるが,これらの用語になじんでいた者には時代の変化を感じる。

 脳の形態的検査である画像診断と機能検査である脳波は,互いに補い合ってこそ,臨床的な威力を発揮できる。脳波は苦手だと感じている人が少なくないのではないかと思うが,脳波の判読は,基本を学べば決して難しいものではない。ここに脳波の判読力養成に的を絞った本書の出番がある。研修医,および精神科・神経内科・脳神経外科・小児科・総合診療科の専門医をめざす医師には,まず,本書を通読し,脳波に興味を持ってもらいたい。またすでに脳波判読に従事している先生には知識の整理に役立ち,臨床で必要になった場合にその都度関係した章を精読することで,脳波判読力に磨きがかかることが期待できる。

B5・頁248 定価5,250円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00981-2


臨床中毒学

相馬 一亥 監修 上條 吉人 執筆

《評 者》森脇 龍太郎(千葉労災病院救急・集中治療部)

現時点での急性中毒学のバイブル

 上條吉人先生は,わが国で最も先進的な急性中毒の診療および研究を行っておられ,また学会などでもオピニオンリーダーとして華々しく活躍されている。臨床中毒学を専門とする者で,先生の名前を知らない者はいないと言っても過言ではなく,間違いなく今後の日本の臨床中毒学を背負って立つ人材の一人である。

 数年前,同じ医学書院から出版された先生の著書『急性中毒診療ハンドブック』は,簡潔明瞭にエッセンスがまとめられていて,またおのおのの中毒のメカニズムについても強調されており,さらには今まで業界には存在していなかったメモニクスによる記憶法なども編み出され,大変ユニークで親しみやすい内容であった。今回,その精神を踏襲しながら膨大な加筆をたった一人で行い完成させたものが,この『臨床中毒学』と思われる。本の体裁がハードカバーで,今までの先生の著書と違っていかにもいかめしい印象を受けたが,内容を拝見すると,臨床医にもわかりやすい明瞭な解説・図表が数々あり,結局のところ今までのアプローチとまったく同じであることに安心した次第である。

 先生は現在,中毒学を中心とする救急医学を専門とされているが,医師になって数年間は精神医学を履修され,また医学部入学前には化学を専攻されていたと聞く。しかもしっかりとその大学を卒業されているのである。

 本書の構成は,定番どおり「総論」「各論」の構成であるが,「総論」では,「全身管理」「吸収の阻害」「排泄の促進」「解毒薬・拮抗薬」の従来の急性中毒の4大原則に「精神科的評価と治療」を加えて5大原則とされたことは,いかにも先生らしいアイデアであり,急性中毒患者の大部分は自殺企図であることを考えると,至極もっともなコンセプトと思われる。

 「各論」では,多岐にわたる中毒物質の中から,頻度・重症度を鑑み,これだけはと思われる101の中毒物質をピックアップし,おのおのの物質について,まず「Minimum requirement」にて最重要事項を提示し,「治療のフローチャート」にて治療の概要を簡潔に示されているが,多忙な日常診療においてはこれだけでも大いに役立ち,大変重宝されよう。

 次いで「概説」「中毒のメカニズム」「臨床症状」「診断」「治療および予後」などの項目を設け,詳細に解説されている。特に「中毒のメカニズム」では,臨床症状と関連付けて,そのメカニズムをわかりやすく述べられていることは本書の特長の一つで,臨床症状を理解する上で大変参考となる。

 また「治療および予後」で,解毒薬・拮抗薬の作用機序から投与法まで詳細に記載されている点は,日常診療において大いに役立つものである。さらに「症例呈示」では,実際に経験された症例が呈示されているが,その緻密な診療内容は臨床医にとってよいお手本となるに違いない。そして「付録」として,「急性中毒診療ハンドブック」からの伝統であるメモニクスによる記憶法が満を持して登場している。

 この『臨床中毒学』は,まさに臨床的かつ実践的であるが,中毒のメカニズムと臨床症状との結び付きを理解しやすいように工夫されており,本書を読破すればいっぱしの急性中毒の専門家であり,大部分の急性中毒診療は自信を持って行うことができること請け合いである。現時点での急性中毒学のバイブルであると言っても過言ではなかろう。

B5・頁576 定価10,500円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00882-2


《シリーズ ケアをひらく》
リハビリの夜

熊谷 晋一郎 著

《評 者》宮地 尚子(一橋大大学院教授・精神医学)

「健常な身体」という不自由から解放されるために

また名著が生まれた!
 当事者性を重視した「障害学」という面白い学問がある。そこに,また名著が生まれた。著者の熊谷さんは,車いすに乗った脳性まひの小児科医である。本人は言われたくないかもしれないが,東大医学部卒という超エリートでもある。

 自分の思い通りに動かない身体。意識的にめざせばめざすほど,こわばる身体。健常者に近づけるべく,まなざされる身体。訓練され,規律を教え込まれる身体。つたなさに見捨てられる身体。ほどけ,ゆるみ,ひらき,ふたたびつながる身体。そんな自分の身体と周囲との付き合いを,熊谷さんは時には論理的に,時には詩的に描く。マックス・エルンストにちょっと似た画風の笹部紀成氏による挿絵が随所にあって,読者の理解を助けるとともに,独特の雰囲気をこの本に与えている。

地上10センチの果てしない旅
 熊谷さんが小さいころ毎年参加させられたリハビリキャンプの経験が痛々しい。けれどもそれが今の彼の一部を形成していることも事実であり,その中には「快楽」をも含んでいて興味深い。だから従来のリハビリの在り方の全否定といった簡単な結論にはならない。

 しかし,彼が大学生になり自立生活を試して初めて自分の「身体の輪郭が見えてきた」というのは,やはり衝撃的である。

 自分からモノに働きかけ,介助者に働きかけ,失敗し,まさに試行錯誤する中で,形作られていく「自立生活」。周囲の物や人との相互性の中でこそ生まれてくる「自分の身体」。誰もいないときに転倒し,地上10センチの二次元の世界に浸る,果てしない時間。それは「失敗」だが,彼の生に,身体に,深みを与える豊かな時間でもある。

 この本は障害論であり,介助論であり,リハビリ論であり,身体論であり,生命論であり,発達論である。同時に,マイノリティ論であり,セクシュアリティ論であり,他者論でもある。実際にリハビリや障害児のケアにあたる人たちに今日から役立つ本であるとともに,身体による/をめぐる哲学的な思考の果てしない旅にも誘ってくれる。

善意が暴力に変わるとき

 私はこの本を,年末,実家に戻り,心身の衰えが進みつつある父のそばで読んだ。本を読みながら,当事者の視点や経験を尊重することの大切さを,しみじみと感じる。病いや老い,障害や弱さを抱えた当事者から見える世界,感じる世界が,どれほど「健常者」のそれと異なっているのか。その違いを認識しない医療者やリハビリ関係者の善意が,いかに簡単に暴力になり,当事者の尊厳を奪ってしまうのか。

 けれども目の前にいる父に対し,つい治療者の介入モードになってアドバイスをしてしまう私がいる。このままでは転倒しやすいから,こうすれば身体への負担が楽になるから,こうすれば薬の飲み忘れがないから,と。長期的には「正しい」それらの介入が,父をいら立たせる。父のゆっくりしたテンポや,気持ちの動き,それなりの論理,そしてプライドに,合わせきれない自分が残る。

 正しさを求めるのではなく,より良さを求めるのではなく,いったん降りて,寄り添う。時間をかけて,ほどける。自然にリズムが合わさっていくのを待つ。健常者に近づくのではなく,その人がその人なりに,生き甲斐を感じながら,楽な形で生きていくことをともにめざす。

 それはリハビリだけでなく,メンタルヘルスなどあらゆる領域で重要なはずなのに。近代医療の根源にある健常者の「ものさし」,そのものさしに合わせた改良の思想。その作用から自分を解放することの難しさを感じながら,本を読み進める。

熊谷さん,書いてくれてありがとう
 熊谷さんは,セクシュアリティという,生きていく上でものすごく大切なのに,医療やリハビリ現場で無視されがちなテーマにも,率直に言及している。

 「敗北の官能」やマゾヒズムについては,まだまだ解釈を深める必要があると思うし,女性に投影するのはどうなんだろう,女性の障害者だとまた別の解釈がありそうだとも思ったが,内容はとても興味深かった。健康で「ノーマル」でヘテロ(異性愛)指向の男性はこういうのを読んでどう感じるんだろう。不快なのか,ピンとこないのか,案外共感するのだろうか。

 熊谷さん,書いてくれてありがとう。この本を読んで,健康な医療従事者たちが,健常な身体の不自由さから少しでも解放されるといいなと思う。

A5・頁264 定価2,100円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01004-7

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