医学界新聞

2010.01.11

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


血液病レジデントマニュアル

神田 善伸 著

《評 者》直江 知樹(名大大学院教授/血液・腫瘍内科学)

研修医の血液への興味を喚起する

 神田善伸先生は,頭脳明晰にして弁舌爽やか,日本の血液学会にあって最も期待されている若手の一人である。既に教授に就任していることや,多くの原著論文のみならず著書を出していることからもそれを知ることができよう。そんな彼が今回『血液病レジデントマニュアル』を上梓された。血液病には出血・凝固疾患なども含まれ血液専門医であっても躊躇する場合もまれではない。一人でこれだけの領域を簡潔に,しかもポイントを押さえてまとめ上げた力量はさすがである。

 症候から診断,検査・病期/分類・治療・評価が要領よく書かれているのみならず,総論に特徴がある。抗がん剤,支持療法,輸血,EBMと臨床決断など,血液学に興味を持たせようとの工夫もみられる。一人でも多くの研修医に血液への興味を持ってもらいたい,そんな思いが伝わってくる。

 ただ,これは入門書とするのか手引書とするのか,そのバランスが難しい。将来的には現役レジデントに分担させ,神田先生がレビューする執筆システムも考えてみてはどうかと思う。

 最後に,(1)姉妹書『がん診療レジデントマニュアル』並みに,記載をもっと簡潔に,かつ統一できないか。(2)学会の疾患登録やJALSG研究などのHPアドレスなどの情報も入れ,インターネット時代のマニュアルにしてはどうか。この2つだけコメントしたい。本書が広く内科レジデントに受け入れられ,版を重ねられることを祈っている。

B6変型・頁336 定価4,200円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00837-2


機能解剖ポケットブック

Nigel Palastanga,Roger Soames,Dot Palastanga 著
野村 嶬 訳

《評 者》稲葉 康子(昭和大講師・理学療法学)

臨床で疑問が生じたら,解剖学という原点に戻る

 「わからなくなると,いつも解剖の本を開いてよく考えてみる」。これは,臨床一筋三十数年の理学療法士の言である。

 私たち医療技術者は,学生時代に運動学,生理学,そして解剖学といった基礎学問を学習し,それらの知識を積み重ねた上で臨床に臨む。その際に生じる疑問に対しては,常に原点である基礎学問に立ち戻ることで,疑問を解決できることが少なくない。

 上記の発言を聞いたとき,このようなベテランの臨床家でも,目の前の患者さんに生じている症状に対して解決できないことがあると,常に解剖学という一つの原点に戻るという作業を欠かさないことを知り,非常に感じ入った。基礎を築き,その上で知識や技術を積み重ねて患者さんと向き合い,それと並行していつも基礎を補い固めていく作業を続けていくことが大切なのだと。

 一般的に,解剖学の書籍というのは,非常に分厚い,大きい,重い,そして高価である。それはもちろん,それだけの情報量と内容があるからである。しかしそれ故に,医療技術職として戻るべき原点の一つでありながらも,重厚な解剖学の本をバッグに入れて毎日持ち歩くのは,相当強靭な体力および精神力の持ち主でない限り,困難なのが現実であろう。生じた疑問をすぐに確認したいというときに,残念ながら手元にないということが多いのではないだろうか。

 本書は,欧米で発刊されている700ページを超える大著『Anatomy and Human Movement(AHM)』の内容を再編集した『Anatomy and Human Movement Pocketbook』の翻訳書である。著者のまえがきにもあるように,AHMが大著で重いという点に対して,内容を変更せずに,携帯できるようにまとめたポケットブックであり,それを翻訳したのが本書である。

 内容は,第1章「総論」,第2章「上肢」,第3章「下肢」,第4章「体幹と頸部」,第5章「頭部と脳」という章立てである。総論には解剖学的基礎事項や運動学の基礎である「てこ」についての解説が記されており,第2章以降には各身体部位の解説と,まとめとして「筋と動き」,「神経支配」「血管」と続く(第4章は「腹部と骨盤」も)。巻末は,和文索引と欧文索引の2種類の索引となる。

 大著をポケットブックにしたものとなると,内容を簡略化したという印象であるが,本書はオールカラーの図と解説が豊富である。また,関節可動域や動きと機能,触診部位についても盛り込まれている。そして,図の隣には当該関節のX線像まで配置する入念さである。加えて,当該部位によくみられる疾患が解説されているコラムなど,ポケットブックにするにあたり内容を凝縮したという言葉が適当だと思われる。巻末の和文と欧文の2種類の索引は,単語自体を知りたい場合にも役立つ便利な機能である。

 しかし,著者および訳者がまえがきで明記しているように,本書だけで解剖学を学ぶのには内容量的に不十分であることは否めない。解剖学をこれから学ぶという立場であれば,一般的な解剖学書籍で十分な知識を得て,学びをより深めることが必要である。

 いつでもどこでも学習できるポケットブックの機能として,本書は必要十分条件を満たしている。臨床現場で働くコメディカルの方々や解剖学を学んだ学生が,解剖学的知識を復習,再確認するために手軽に携帯できる本として,最も力を発揮すると思われる。

B6・頁288 定価3,570円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00825-9


白衣のポケットの中
医師のプロフェッショナリズムを考える

宮崎 仁,尾藤 誠司,大生 定義 編

《評 者》黒川 清(政策研究大学院大教授・内科学 日本医療政策機構代表理事)

プロをめざす医療人に読んでほしい一冊

 この数年,「プロ」という言葉がどこの職業分野でも簡単に使われてきた。しかし,「プロ」とは誰か,その資格のありようは何か,誰が決めるのか,そんなことはお構いなしに安易に使われていたところがある。

 では,「プロ」の職業人のありようとは何か。ひと言で言えば,その集団の一人ひとりが,自らを律し,その集団全体が社会からどれだけ信頼されているか,評価されているか,であろう。グローバル時代になっては,この社会が国内だけでは成立しえないということも,この問題の背景にある。

 このような自覚と意識と,日常的な行動に裏打ちされた職業人の集団をめざすことが「プロフェッショナリズム」ということもできよう。

 医師は,歴史的にも一人ひとりが「プロ」であることを求められてきた。しかし,医師以外の人たちからはいろいろな見方をされ,「Dr.コトー」「ブラックジャック」「神の手」「赤ひげ」などの多様な医師像がある。一人ひとりが持つ医師,医療機関などの実感と期待するイメージとの乖離もあろう。社会の変化もあって「クレーマー」「モンスター」患者も増えている。『WMA医の倫理マニュアル』に始まり,『To Err is Human』などの「医療事故」に関する報告書や「医療訴訟」の急増,さらには「医療崩壊」などの背景にはこのような社会が有する作られた医師像と実態との乖離もあろう。

 しかし,医療も医師も「医師全体」として一般社会の評判が形成され,定着してくる。医療や教育制度が重要な社会基盤的なものである以上,医療制度も医師育成制度も,その社会の文化や価値観,歴史的,経済的背景などを受けたものであり,かなりの部分は個人的な経験の積み重ねから出来上がる。「プロ」といっても,このような枠組みでの「自己」の評価であることは否定できない。

 では,どのようにして「プロフェッショナリズム」が育成されるか。これはお題目ではない。医学教育,臨床研修のカリキュラムでもない。医師になる過程,医師になってからの臨床教育,研修,診療の現場で,日常的に周りの同僚,先輩,指導医,ロールモデル,反面教師,メンターなどと,多くの現場で出会い,感じ取り,仕事を振り返り,成長していくものであろう。とすればできるだけ多くの医師と臨床の現場で出会うことが若手育成の基本となろう。従来からの「タテ社会構造」での教育研修だけでは,将来への人材育成には不十分であろう。

 グローバルな方向に世界がどんどん進んでいくからこそ,若いときから,多くの現場を知り,交流し,出会いを増やすことで,お手本となる「プロ」に遭遇する機会が増える。共通の目標となる,医師の世界,医療人の世界に「プロフェッショナリズム」が形成されていく。このような医療人が多いことは,開かれた社会の,国民の誇りになる。これが理想であろうが,「プロ」は一人ひとりが理想をめざし,より高みへと研さんするのである。

 本書の編者とその仲間の若手中心の医師たちが,重層的に数年の交流,議論,研究,実践,行動を通じて築き上げてきた成果を,まず「この一冊」としてまとめてくれた。とても素敵な構成と内容に出来上がっている。この多くの方たちの問題意識と活動貢献は,私もよく知っており,いつも敬意を表してきた。この一冊の上梓はとてもうれしい。

 「プロフェッショナリズム」について,「今,なぜプロフェッショナリズム?」に始まる3部構成。Part1「プロフェッショナリズムって何だろう」では経過や指針について,Part2「プロフェッショナリズムについて考えてみた」では日常的に遭遇するいくつもの場面を提示し,論ずる。「フムフム」とうなずいて,「なるほど」「でもねえ」と考えさせる例示が多い。Part3「プロフェッショナリズムを究める」ではいくつかの興味深い考察と,納得させられる行動を促すメッセージがこもっている。

 わかりやすく実践的,医師にも医学生にも,広く医療人(皆それぞれが「プロ」をめざしているのだから)の皆さんにもぜひ読んでほしい一冊である。「問題を認識する敏感さ,多様性や変化を受け入れる柔軟性,重要なことをやり抜ける堅い意志が必要」なのであり,そのような人に遭遇する機会を増やすことも大事であろう。

 なぜ「ポケットの中」なのか? これは読んでのお楽しみとしましょう。

A5・頁264 定価2,520円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00807-5


セイントとフランシスの総合外来診療ガイド
Saint-Frances Guide:Clinical Clerkship in Outpatient Medicine, 2nd Edition

Stephen Bent,Lianne S. Gensler,Craig Frances 編
清水郁夫,徳竹康二郎 監訳

《評 者》有岡 宏子(国立国際医療センター戸山病院・総合診療科)

科にとらわれず,診断に重点をおいた外来診療のバイブル

 本書の出版は,研修医時代にLippincott Williams & Wilkins社の“Saint-Frances Guide:Clinical Clerkship in Outpatient Medicine, first edition”を外来診療のバイブルとして愛読し,さまざまな知識をこの本から学び得たという監訳者が,長野赤十字病院の臨床研修医を指導しながら輪読会を発足し,日本語に訳したのが始まりであった。

 総合外来ではさまざまな症状を訴えて来院する患者に対応しなければならず,内科系だけではなく,外科,整形外科,婦人科,眼科,耳鼻咽喉科,さらには精神科で扱うような症状まで,ある程度の初歩的な知識を備えておく必要がある。

 また,外来診療は,そのときにある程度の方針を的確に決定し,入院の適応を誤ることなく判断しなければならない。つまりその日に患者を帰宅させてよいかという判断を迫られるのである。

 そのような日常診療において,簡潔にかつ,的確な情報が網羅されており,手軽に利用できる書物は非常に活用度が高いと考えられる。本書は,総合診療でみられるさまざまな症状について,内科をはじめとして,眼科,耳鼻咽喉科,婦人科,皮膚科,整形外科,精神科まで幅広い分野に及んで解説されている。取り上げられている症状は総合外来で診る頻度の高いものであり,科にとらわれていないところが良い。また診断に重点を置いた内容,特に病歴聴取と身体診察は非常に的を射た解説になっている。“Hot Key”として囲み欄に記載されているのは診断や患者へのアプローチのコツで,これがまたポイントをついている。さらにフォローアップや専門医への紹介のタイミング,また予防医学的な見地からのコメントも含まれており,非常に簡潔かつ濃厚な内容である。

 監訳者らにより,日本の状況に応じて抗菌薬の使用方法などを書き換えた部分もあり(著者の承諾を得て),単なる邦訳の域を超え,わが国でも十分に使用できるものになっている。

 本書は,その必要性を十分に理解した監訳者が研修医の教育のために始めた輪読会からの出発という点が一つの魅力であり,またその内容の簡潔かつ充実した点においても研修医をはじめとする臨床医の,さらには医学生の外来診療の学習に大いに役立つことと信じている。

A5変・頁656 定価6,510円(税5%込)MEDSI
http://www.medsi.co.jp

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