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第2831号 2009年5月25日


【寄稿】

今なぜトリアージナースが必要なのか
トリアージナース養成に向けた二学会合同の取り組み

山勢 博彰(山口大学大学院教授・臨床看護学)


求められる更なる知識と技術

 現在,社会的には救急患者の“たらい回し”や,救急車のタクシー代わりの利用など,さまざまな問題が報道されている。このような状況下で,救急医療には国民のニーズに沿った円滑で効率的な運用が求められている。救急医療の一端を担う救急看護師にも,救急患者に対し「どのようにアセスメントするか」「いかに適切な対応・治療を行っていくか」が問われており,救急時の優先順位を査定するトリアージの必要性が高まっている。

 救急外来におけるトリアージナースの役割は,来院した患者に問診と観察を行って病態を予測し,診察の優先順位を決定することであり,また,待合室で待機している患者に,ケアの提供と再トリアージを行うことである。すでに看護師がトリアージを行っている施設では,急を要する患者へ早期介入が行われるようになり,成果を挙げているという報告もある。

 2007年12月28日付けの厚生労働省医政局長による都道府県知事宛の通達には,次のような項目が盛り込まれている。「夜間・休日救急において,医師の過重労働が指摘されているなか,より効率的運用が行われ,患者への迅速な対応を確保するため,休日や夜間に診療を求めて救急に来院した場合,事前に,院内において具体的な対応方針を整備していれば,専門的な知識および技術をもつ看護職員が,診療の優先順位の判断を行うことで,より適切な医療の提供や,医師の負担を軽減した効率的な診療を行うことが可能となる」。これは,救急医療等における診療の優先順位の決定について,看護師に役割分担させることを謳ったものであり,看護師のトリアージ業務(災害時トリアージを除く)を想定した効率的診療を求めたものである。

 看護師のトリアージ業務に関する国の明確な方針は,救急医療に携わる看護師に対し,より専門的な知識と技術を求めたものと解釈できる。つまり,昨今のわが国の医療情勢や社会の要求に対し,救急医療に携わる看護師は,それに応えられる能力を身につけなければならないということである。

 こうした状況を鑑み,日本救急看護学会,日本臨床救急医学会はトリアージナース養成に関する合同委員会を設置し,トリアージナースの教育コース開催に向け準備を進めている。

e-learningによる教育を想定

 本コースの企画段階では,以下のようにコースの目的とトリアージナースの役割を規定している。

目的
 的確なトリアージが実施できる看護師を育成し,学会が認定するトリアージナースの名称を付与することで,わが国の救急医療の質向上に貢献する。

トリアージナースの役割
 救急対応が必要な救急外来や多数の傷病者搬入時に,適切なトリアージができる看護師で,学会主催の講習を受け,その修了試験に合格した者をいい,次の各項の役割を果たす。

1)フィジカルアセスメントに基づき,重症度・緊急度の判別をする
2)迅速な対応が必要な患者に対し,適切な救急処置を実施する
3)必要な治療,検査の準備など,重症度と緊急度に応じた診療の場の調整をする
4)医療チームにおける効率的な連携を調整する
5)患者,家族への説明と倫理的な配慮をする

 こうしたトリアージナースを各病院が導入するメリットとしては,医療政策上の利点がまず挙げられる。救急医療における医師不足への寄与,トリアージナースがいることによる診療報酬の加算,救急医療情報システムへの関与と救急患者の適正な受け入れ調整,プレホスピタルとインホスピタルのシームレスな連携,救急看護師のメディカルコントロール協議会への参加,などがある。一方,救急医療を利用する者へのメリットとしては,トリアージナースに救急相談ができる,救急車の適正利用についてアドバイスが受けられる,たらい回しが減少する,などがある。もちろん,救急看護師自身のキャリアアップ,救急看護の専門性の向上といったメリットもある。

 現在合同委員会では,本年度のコース開催を目標に,コース内容の検討,トリアージナース標準テキストの作成準備を進めている。想定している教育方法は,この標準テキストを用いたe-learningで,修了試験も専用ホームページで行うことを考えている。

 受講資格は,救急部門で2年以上の経験がある看護師という案があがっており,次のような能力が求められる。

 第1は,異常を判断できる能力であり,救急状態の「正常」「異常」を迅速に判断できることが必要である。異常な徴候について,基準値を逸脱していることを見分ける判断能力が,基礎的な力として求められる。

 第2は,緊急度・重症度を判定できる能力である。医師への緊急コールが必要なのか,経過観察でよいのか,重症で何らかの救急処置が必要なのかなど,緊急度・重症度の判定ができる能力が求められる。

 第3は,調整能力である。医師・検査技師・放射線技師などの他の医療者とうまく連絡をとりあい,検査や診察が迅速に進むように調整することが必要である。また,確かな救急処置の技術,コミュニケーション能力,患者の擁護者としての姿勢などが要求される。

医療政策上でも求められるトリアージナースの養成

 以上のような学会が認定するトリアージナースの養成は,医療政策上でも早急に求められている。今年から始まった,東京都の「救急医療の東京ルールに関する検討委員会」では,東京都が指定する地域救急センター(仮称)には,「トリアージを実施するトリアージナースがいることが望ましい」と謳っており,すでにトリアージナース養成の方法を検討している病院も出てきている。もし,全国共通の教育内容で,しかも救急医療関連学会が認定するトリアージナースを早急に社会に送り出すことができれば,この東京ルールへの貢献は大きく,東京以外の地方にも学会認定のトリアージナースは広がっていくだろう。さらに,中央社会保険医療協議会にトリアージナースへの診療報酬の提案をする予定であり,これが認められれば,トリアージナースの需要はさらに大きくなるだろう。

 トリアージナースの教育コースは,現在の救急医療の問題点や,救急医療への社会的な要請に応えるコースだと思っている。合同委員会では,コース開始に向け,鋭意準備を進めているので,最新の情報について,学会ホームページ等(http://jaen.umin.ac.jp/)をチェックしてほしい。


山勢博彰氏
新潟大医療技術短期大学部卒業後,日医大病院救命救急センターに勤務。青山学院大卒,文教大大学院人間科学研究科および山口大大学院医学研究科修了。学術修士,医学博士。日本救急看護学会理事,日本クリティカルケア看護学会理事,日本看護研究学会理事,日本看護診断学会理事など。研究領域は,救急看護,クリティカルケア看護,急性期看護,患者・家族心理,看護診断など。