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第2798号 2008年9月22日


【Seminar】

糖尿病の発症・進展を防ぐために――
血糖自己測定を通じたアドヒアランスの向上などについて議論


 長い経過をたどる糖尿病治療において,患者自身による定期的な血糖自己測定(SMBG)は,症状の進展抑制や合併症の発症予防をはじめとするさまざまな視点において,非常に重要な役割を果たしている。本年4月の診療報酬改定において,血糖自己測定器加算の改定や一部非インスリン患者にもSMBGの導入が可能となるなど,診療報酬上の評価も高まっている。最新のIDF(国際糖尿病連合)のガイドラインではHbA1cを6.5%未満に抑え,早期からの厳格な血糖管理が推奨されるなどSMBGへの期待は世界的な潮流だ。わが国においても患者の主体的で継続的なSMBG実施に向け,効果的な教育・動機づけが求められている。

 このような中,本年5月バイエル薬品から新型の血糖自己測定器「ブリーズ2」が発売され,同社主催による学術講演会が6月21-22日の2日間にわたり東京都内で開催された(表)。本紙ではこのもようを報告する。

(提供:バイエル薬品株式会社)

 2日間のプログラム

6月21日
Opening/Closing Remarks 岩本安彦氏(東京女子医科大学)
講演「インスリン治療最前線」
座長:森保道氏(虎の門病院),
演者:清水一紀氏(愛媛県立中央病院)
講演「Prevention of macrovascular disease in diabetic subjects」
座長:宇都宮一典氏(東京慈恵会医科大学),
演者:Peter Diem氏(スイス・ベルン大学)

6月22日
Opening/Closing Remarks 渥美義仁氏(東京都済生会中央病院)
講演「SMBG導入と指導のポイント」
座長:島田朗氏(慶應義塾大学),
演者:山下滋雄氏(JR東京総合病院)
講演「Blood Glucose Monitoring:Opportunities to Increase Adherencea and Improve Glycemic Control」
座長:石井均氏(天理よろづ相談所病院)
演者:Lori Laffel氏(アメリカ・ジョスリン糖尿病センター)
パネルディスカッション「インスリン使用者と非インスリン使用者におけるSMBGの活用」
司会:中神朋子氏(東京女子医科大学),
パネリスト:渥美義仁氏,杉田和枝氏(朝日生命成人病研究所附属丸の内病院),飯田直子氏(三咲内科クリニック),楢原直美氏(済生会横浜市東部病院)


2型糖尿病におけるインスリン治療最前線

 自施設において,3割の糖尿病患者に対しインスリン導入を行っている清水一紀氏は,2型糖尿病患者へのインスリン導入について検討を行った。

 まずADA/EASD(米国糖尿病学会/欧州糖尿病学会)による「2型糖尿病治療のアルゴリズム」を解説した後,自施設におけるSU剤とビグアナイド剤を併用する2型患者約150例を9か月にわたり追跡したデータを紹介。処方変更なし群では治療成績が芳しくなかったと振り返り,早い段階でのインスリン導入を検討するべきだと指摘した。

 また,持効型のインスリン普及に伴い急速に増加するBOT(Basal supported Oral Therapy:経口薬を服用しながら基礎インスリンを追加する療法)と超速効型インスリンの3回注射について,英国で行われた4-T studyのデータを示しながら比較を行い,BOTは決して低血糖を起こしやすいということはなく,患者の生活に及ぼす負担も少ないことから,BOTの早期からの積極導入の検討を述べるなど,2型患者におけるインスリン療法に関して考察した。

糖尿病領域における大血管障害を防ぐために

 NAVIGATOR trialの調査研究をリードするなどヨーロッパにおける糖尿病学の権威であるPeter Diem氏が来日し,糖尿病領域における大血管障害について論じた。

 前半部分では,今年の米国糖尿病学会における発表など最新の情報も含め,欧米におけるさまざまな大規模臨床研究のデータを織り交ぜながら,糖尿病患者の大血管障害のリスクファクターについて検証した。氏は研究デザインによって得られた結果に差異はあるものの,厳格な血糖コントロールが大血管障害のリスクを低減させる因子であり,現時点で確実なエビデンスとして得られていると述べた。続けて,今日処方されている経口薬のメリットについても検証。UKPDSの結果から,メトホルミンが糖尿病関連死のリスクを低減するなどとした。

 後半部分では,厳格な血糖コントロールに加え,血圧やコレステロールなど多因子に厳格な目標値を設定し介入することで糖尿病患者の大血管・細小血管イベントや死亡リスクが総体的に低減できると指摘し,デンマークで行われた2型患者に対する多因子介入研究Steno-2 study,スイスで行われたType3について紹介し,降壇した。

SMBG導入と指導のポイント

 山下滋雄氏はSMBG導入と指導のポイントについて講演。冒頭では1960年代の誕生からわずか40年で劇的な技術革新を遂げた開発の歴史を振り返った後,糖尿病治療を支える診療報酬の現状について概説した。

 その後,自施設の診療科で抱える2500名の糖尿病患者に対する治療の現状について紹介。JR東京総合病院は職域病院という特徴を背景に,軽症でコントロール良好な患者が長期間通院することが多く,患者全体のHbA1cの平均値は6.8%に留まる。また患者の約2割に対してインスリンを導入し,そのうち8割の患者がSMBGを行っているという。

 氏自身の1型患者としての経験および豊富な指導経験から,不定期な虫食い測定例など興味深い症例を挙げながら上手なSMBGの指導法について考察。患者の性格や導入されている治療法などを勘案しながら,なるべく心理的に楽に計測できる方法・回数を患者と一緒に考えることが自主的な継続につながっていくと述べた。

患者の心理・行動を支える教育的な取り組みを考察

 米国の糖尿病臨床における集学的治療機関であるジョスリン糖尿病センターから,小児内分泌代謝を専門とするLori Laffel氏が来日し,患者の糖尿病コントロールに対するアドヒアランスの向上をテーマに講演を行った。

 小児に対する治療においては「患児,そしてサポートする家族に対し,治療の手だてがあるという希望を与えることが必要」と強調。また心理社会学的な観点も考慮しながら,患児・家族が常にプラス思考で治療に取り組めるような医療チームの介入が必要であるとした。

 続けて氏自身が作成した教育用テキスト“Blood Sugar Monitoring Owner's Manual”の内容とその効用を紹介。このテキストは血糖自己測定を行う目的について触れており,「血糖測定は日々の生活の融通性を高めるために行うもので,測定値の高低は決して善悪ではない」ことを患者に伝える。テキスト受け渡し群と非受け渡し群を比較した研究では,受け渡し群において有意に血糖自己測定回数の増加,血糖値の改善という効果がみられたという。

 座長の石井均氏は「患者の血糖測定という行動と良好な血糖コントロールという結果のあいだに膨大なプロセスが存在する。医療チームの絶え間ないサポートによって,患者の行動変容につなげていく努力が必要である」と締めくくった。

■インスリン使用者と非使用者におけるSMBGの活用

 現在,測定時の痛みが少なく短時間で測定できるSMBG用のデバイスが多数開発されている。このツールを最大限に活用しながら,患者の生活改善につなげるための方策が本パネルディスカッションで議論された。

 医師の立場から渥美義仁氏は,国内数施設における,非インスリン患者のSMBG導入に関する共同調査()の結果を紹介。非インスリン患者においてもSMBGは食事・運動への関心を増し治療意識も高め,血糖コントロールも改善すると報告。IDFのガイドラインでも推奨されている発症後まもない経口薬治療群への積極的なSMBGの導入など,わが国における今後の可能性を示唆した。

 続いて3名の看護師が登壇した。看護師の半数以上が糖尿病療養指導士という,充実した患者教育を提供する施設で総看護師長を務める杉田和枝氏は,自施設の糖尿病患者に対するアンケート調査からSMBGが食事・運動療法やそのほかのQOLに効果をもたらしていることを報告した。

 続いて千葉県船橋市の住宅街にあるクリニックで糖尿病療養指導士として活動する飯田直子氏は,クリニックにおける外来インスリン導入について口演。信頼関係を深めながら上手に動機づけを行うコミュニケーション術を考察した。

 最後に病棟に属さず糖尿病療養指導の専任看護師として活動する楢原直美氏が登壇し,発症まもない1型の小6男児に対するインスリン導入事例を紹介。「サッカーができるようになる」という目標のもと,両親や担任教師も含めてカンファレンスを行うなど生活全体を支援する療養指導について考察した。

 この後のディスカッションでは,看護師を中心とする聴衆から日ごろの患者教育で抱えている疑問などが,多数寄せられた。

 糖尿病治療に対する診療報酬上の評価が進む一方で,施設ごとの事情により個別の患者にかけられる療養指導時間には差が存在するなど,解決すべき課題は残されている。学会をはじめとするさまざまな場において,施設・地域を超えた医療者間の活発な情報共有が行われることを通じて,わが国の糖尿病診療・患者教育の水準が向上していくことに期待したい。

註:SMBG Control Compliance Trial