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第2783号 2008年6月2日


MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


問題解決型救急初期検査

田中 和豊 著

《評 者》上條 吉人(北里大講師・救命救急医学)

現場の視線で,同志のために書かれた一冊

 ただただ,これだけの本を1人で書き上げた著者に脱帽の思いである。私もこれまで単著を上梓してきた自負はあるが,あくまでも救急領域の1分野に限定された内容である。ところが,本書のタイトルには「救急」と冠されてはいるが,内容は救急領域を遥かに超えた幅広い分野に及んでいる。しかも,本書からは,著者の豊富な臨床経験ばかりでなく,広く深く正確な知識をもたらした著者の猛烈な知的欲求がにじみ出ている。

 「いったい何者だ?」という思いで著者の略歴を見て,合点した。物理学を学んだ後に医学を志し,さらに,臨床医として,インターナショナルに切磋琢磨され,著者が「戦場」と譬えた「救急医療現場」に飛び込んだ経歴の持ち主である。著者にお会いしたことはないが,とにかく並外れた「熱い心」と「エネルギー」の持ち主であることは容易に想像がつく。

 「臨床検査」に関する著書は数多い。しかしながら,肩書はあるが,現場からは一線を置いた著者による,必要な情報を網羅しているだけの,似たり寄ったりの凡書ばかりである。視線が現場にないのである。ところが本書は,「この本を日夜戦場で戦う戦士たちに捧げる」と冒頭にあったように,自らが救急医療現場という過酷な「戦場」に身を置きながら,現場の視線で,同志のために書かれている点になによりも惹かれる。おそらく,凡書など一切参考にしていないのではないか。

 いたるところに同志が限られた時間のなかで,理解・活用できるように工夫されたオリジナリティーが感じられる。特に,豊富なフローチャート,「STEP」「POINT」などを用いて,読者がいますぐ現場で必要な情報に理論的,段階的にフォーカスできる工夫は圧巻である。救急医療現場で必要な「初期検査」は,素早く適切な診断,治療に繋がる一助でなくてはならない。しかしながら,あくまでも「一助」であり,大切なことは検査データと患者を相互に「見て(診て)」総合的に判断することである。「鉄則」や感度・特異度や検査の限界についての記載などによって,検査データのみを「見る」だけで判断する短絡思考に釘を刺してくれるところは非常にありがたい。

 単著である本書のよさは,著者の「熱さ」を含めた人間性ばかりでなく,いたるところに著者の「熱い」メッセージが伝わってくるところである。やはり共著とは異なる味わいがあることをつくづく感じた。単に臨床の手助けとなるだけでなく,特に救急医療現場という「戦場」を志す若い医師に,勇気や理想を与えてくれるはずである。ぜひ,薦めたい本である。

 昨今,過酷な「救急医療現場」は若い医師に敬遠されがちである。しかし,ある程度の「自己犠牲」を「美学」として,戦う「戦士(救急医)」がまだまだいてもいいではないかという思いを新たにした。

B6変・頁544 定価5,040円(税5%込) 医学書院
ISBN978-4-260-00463-3


標準整形外科学 第10版

国分 正一,鳥巣 岳彦 監修
中村 利孝,松野 丈夫,内田 淳正 編

《評 者》高橋 和久(千葉大大学院教授・整形外科学)

わが国における「standard textbook標準整形外科学」

 新しい『標準整形外科学 第10版』を手にとった。この本には安心感がある。これは,本書が長年にわたり版を重ね,整形外科を学ぶ多くの人々に広く受け入れられ,高い評価を受けてきたためであろう。本書は1979年,当時の井上駿一千葉大学教授,広畑和志神戸大学教授,寺山和雄信州大学助教授の編集により,本格的な整形外科学の教科書として初めて執筆された。私事ではあるが,この年は私が井上教授の千葉大学整形外科に入局した3年目であり,本書から多くの知識を学ぶことができた。

 初版の刊行以来,本書は医学部の学生から整形外科研修医,さらに理学療法士や作業療法士など,整形外科疾患の研修や診療に携わる多くの人々に名実ともに「標準的な教科書」として使われてきた。近年,医学,特に整形外科学の知識・技術は,量的にも質的にも増え続けている。本書にも数多くの改訂が行われ,第10版が刊行されることとなった。今回はその完成度をさらに高めるため,重複記載を省き,参照頁を適宜示し,用語表記を統一し,略語一覧や索引の充実化を図り,別冊付録をイラスト中心にまとめ直すなどの改訂が行われた。

 21世紀を迎え,コンピュータの進歩は著しく,インターネットなどにより,即座に大量の情報に接することが可能となった。しかし,このようにして提供される大量の情報には十分な吟味を受けずに流布されるものもある。もし,誤った情報が含まれていれば,医療においては重大な結果につながりかねない。教科書の内容はフィクションではない。執筆に当たっては,急速に進歩し,増え続ける情報を精密に吟味し,整理し,記載する必要がある。この作業には多くの時間と労力を必要とする。極端にいえば,一行を記載するにも,何編もの参考文献を調べねばならないこともある。もちろん,各項目に関する,深く広い知識がなければ,このような作業を始めることすらできない。

 本書には安心感があると述べた。この安心感は,すみずみまで内容が吟味され,必要な知識が秩序正しく整理され,網羅されているためである。監修に当たられた,国分正一先生の理路整然とした思考過程にはいつも感銘を受けている。また,鳥巣岳彦先生には日本整形外科学会学術用語委員会にてご一緒させていただき,概念や用語に対する精緻なお考えをご教示いただいた。今回の第10版は,中村利孝産業医科大学教授,松野丈夫旭川医科大学教授,内田淳正三重大学大学院教授が編集に当たられ,29名のわが国屈指の専門家が執筆に携わった。まさにわが国における「standard textbook標準整形外科学」である。医学部の学生諸子には,多少内容が詳細にわたる感があるかもしれない。しかし,本書を読み進めるうちに整形外科学の面白さに引き込まれるに違いない。本書には整形外科研修医あるいは専門医にも必要な内容が記載されている。本書を是非座右に置き,皆様の日常診療に役立てていただきたい。

B5・頁956 定価9,660円(税5%込) 医学書院
ISBN978-4-260-00453-4


まんが 医学の歴史

茨木 保 著

《評 者》山田 貴敏(『Dr.コトー診療所』作者・漫画家)

医学の「入り口」に読者の心をつかむ珠玉の1冊

 天は二物を与えずとはよく言いますが,この『まんが 医学の歴史』の著者茨木保という人,その範疇にはないようです。

 そもそも医者になる人間は,私が考えるにそれだけで選ばれた人間だと思うのですが,この人,漫画まで描いちゃう。

 私の著書『Dr.コトー診療所』でも監修をしていただき,それも家庭の事情などまったく考えない理不尽な漫画家による,午前1時の「この場面,医学的に間違ってませんか?」などという電話にも,快く答えてくださる。

 ついでに「この先の展開の医学用語,朝までにメールしてもらえますか?」とずーずーしくお願いしても,「わかりました」と二つ返事で承諾してくださる。つまり,まれにみる“いいひと”なのです。それにつけこんではや8年。たぶんこれからも,頼り続けることになると思います。

 さて『まんが 医学の歴史』,ご本人曰く,医学書(参考文献)を読む「入り口」になれば幸い,とあとがきに書いておられる。

 私も医学漫画(?)を描いている手前,医学書を読んだことが(ページをめくったことが)あります。中にはすこぶる面白いサスペンス(推理)小説のような医学書もあるのかもしれません。しかし,この「入り口」以上に面白い読み物がはたしてあるのでしょうか? 「入り口」を読んでひき返す人も多いのではないか,そう思えてなりません。なぜならば,この「入り口」,“良いとこ”取りなのです。

 つまり,私たち描き手の仕事に「削り」という作業があります。思うに医学書という書籍には,延々と事実を平坦に並べ立てる,リズムのない音楽のような書物(もちろん私の思い込みも多分に含まれていますが)という先入観があります。事実,たまたま手に取った医学書がその類いのものでしたので。そこから,いかに面白い要素を抽出するか,つまらない(読みにくい)部分を削り取って,読む人の心をつかむ部分を残すか。これ,かなり才能のいる作業だと私は思っています。

 『まんが 医学の歴史』は,まさにその作業を成功させている例だと思います(偉そうですが)。『Dr.コトー診療所』でも,夜中に茨木先生をたたき起こして資料を送ってもらったにもかかわらず,その資料の1割しか使わないなんてこともよくあります。ホントすいません。ただ,十(じゅう)送ってもらったからこそ,一(イチ)が描けることも事実なのです。

 茨木先生は,膨大な量の参考文献を読まれてこの1冊に集約された。読めばわかってもらえると思いますが,いわゆる“良いとこ取り”な本である由縁なのです。

 本音を言えば,これ以上わかりやすく面白い漫画(本)を描かれると,深夜に電話してももう出てもらえないのではないか,売れっ子にならないでと思ったりもした,珠玉の1冊です。

A5頁・356 定価2,310円(税5%込) 医学書院
ISBN978-4-260-00573-9


「気になる子ども」へのアプローチ
ADHD・LD・高機能PDDのみかたと対応

宮尾 益知 編

《評 者》山田 孝(首都大大学院教授・作業療法学)

子どもたちのための「不思議な本」

 この本は不思議な書である。例えば,発達障害への小児科的対応と精神科的対応というところで(p.4),いきなり「一次障害に加えて,二次障害(うつ状態,反抗性障害,行為障害など)を併発してくることが多々ある」として,基本症状よりも,二次障害について説明していくといった本である。基本症状については第3章で初めて説明がなされる。また,その第3章でも,3節に,発達障害は早期発見が大切であるが,早期発見をすればそれでよいわけでなく,具体的早期対応が必要となるとしている。

 そのように読んでいくと,著者たちの気持ちが伝わってくるようである。著者の1人であり,編者でもある宮尾先生は,早期発見をした医師はその子どもにとって適切なアドバイスをしなければならないし,場合によっては家庭生活,家族機能など事細かな部分にも及ぶ必要があると言う。また,軽度発達障害(HFPDD,LD,ADHD)を早期発見する意義は,保護者や周囲の心構えでできることと,気になる行動を理解することにより,対応を改善できることであると言う。

 「思春期から成人に至るADHDの問題点」では,問題を内在化障害と外在化障害とに分けて考えると理解しやすい,と言う。幼児期のこころの育ちかたとして,愛着障害が前景に現れる場合には虐待を引き起こし,対人関係での貪欲さと空虚感が境界型人格障害に発展することがある。父親が家庭内暴力やアルコール依存のある場合には,外在化障害として家庭内暴力がみられると述べている。内在化障害としての社会的問題点は,ニート,ひきこもりの進行から社会・生産的問題となり,反抗挑戦性障害,不安障害,パーソナリティ障害の存在と関連するという。

 「成人のLDに対して」は,求めていることを手紙に書いてきてもらう。その手紙を読むことで,そのクライアントの抱える問題が明確になってくる。すなわち,最初のサンプルは手紙ということになるとしていることが,興味深い。また,中学校教師でもある月森先生の率直な意見にも耳を傾ける必要があろう。医師は専門用語を使わずに子どもの状態像や具体的な対応と支援についてわかりやすく説明してほしい。医療と教育の連携については,具体的な内容をメモに書いて,紙上で会話していただけるとありがたいと述べている。

 この不思議な本を理解する鍵は,帯の「良き大人として社会に送り出すために」という文章にあった。著者たちがそのような考えの下に本書を書いたとは何と素晴らしいことであろうか。

A5・頁344 定価3,675円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00442-8


老人のリハビリテーション 第7版

福井 圀彦 監修
前田 真治 著

《評 者》黒川 幸雄(埼玉医大・理学療法学科長)

高齢者に寄り添う医療者のために

世代を受け継ぐ書
 本書の初版は,33年前の1975年に遡る。当時はまだ日本の高齢者人口が7%に達するかどうかという状況であった。この頃,福井圀彦氏が先見の明をもって老人のリハビリテーションの今日の状況を予見し,作り上げたのが本書のスタートである。そしてその先駆的役割を歴史的発展に沿って受け継ぎ,高齢社会の伸展に合わせて内容の拡充を図ってきたのが前田真治氏である。そこには世代を超えて本書が受け継がれていくために必要な共同作業を経て創造的に充実したものへ変化を遂げる人間の絆を感じる。

高齢者のQOL向上に必見
 本書の特徴は,第2章「老人の尊厳とその接し方」というタイトルで,高齢者との接点をもつすべての関係職種の人々が改めて読んで理解してよい内容が盛り込まれている点にある。2035年には我が国の高齢化率は33.7%,後期高齢者の率は20.2%に達するとの予測である。この傾向は少子化に歯止めがかかってくれば少しは改善の方向に動くが,なかなか困難な見通しである。しかし高齢社会の質の改善は,本書のような高齢者への尊厳の気持ちとそれを説明する指導書が普及し,接し方に改善が図れていくならば,おのずと明るい見通しが立つはずである。それを思うと,本書が医療の世界で高齢者と接する機会の多い看護師,理学療法士,作業療法士,さらに言語聴覚士や社会福祉士,介護福祉士などのような専門職にまずもって精読してもらい,業務に生かしていただくのが大事ではないかと思う。本書には,高齢者の心身両面から,総合的な視野で知識を確認し,その基盤に立って高齢者のQOLの向上には何が必要か,尊厳と接し方のポイントを心得て臨むことの肝要さが述べられている。

高齢者に寄り添った座右の銘
 高齢者自身が自覚していることではあるが,高齢者に寄り添って,忍耐強く接し続けることは,重要なことではあるが大変なことでもある。専門職にとっても,家族にとっても,社会にとっても,この点を事実として認識し,尊厳を忘れず,尊厳を定着させ,同じ時代に共に生きていく存在として受容し続けることが大切である,本書は,時間に命を与える業務に携わるものたちが座右の銘として利用するにうってつけの労作である。気付いた時にいつも手に取れるところに置いておくに相応しい書籍である。

教育現場で活用しやすい体裁で学習に役立つ
 本書では,図や要点が色刷りになっており,学生が要点を発見しやすい体裁をとっている。それは取りも直さず教員側から学習者へ伝えたい要点を明確にする点においても,大変要領のよいものに仕上がっている。本書が,急増する養成施設において教科書として活用されることで,教育の質的維持向上につながるものと期待してやまない。

B5・頁404 定価6,090円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00591-3


《標準理学療法学 専門分野》
物理療法学
(第3版)

奈良 勲 シリーズ監修
網本 和 編

《評 者》望月 久(文京学院大教授・理学療法学)

物理療法学のリファレンスとしても役立つ1冊

 『《標準理学療法学 専門分野》物理療法学』(以下,本書)の第3版が出版された。標準理学療法学シリーズは多くの理学療法士養成施設においてテキストとして採用されており,学生にとっては最初に理学療法全般にわたる知識を得る座右の書として,既卒の理学療法士にとっては現時点でのスタンダードな知識を確認するための信頼できる情報源として,それぞれ重要な役割を果たしている。理学療法技術や科学の進歩,保健医療福祉分野の動向,学生や臨床家のニーズの変化に対応するため,本シリーズの適時の改訂は不可欠である。

 本書の第3版では,第6章Ⅵの「経頭蓋磁気刺激法」と,付録として「物理療法学における基本用語解説」が新たに加筆された。経頭蓋磁気刺激法は1980年頃より脳神経機能の解明に使用され始めたもので,現在のところ治療目的の使用については研究的な段階である。直接脳神経を刺激するため,痙攣の誘発,一時的な健忘現象など安全性の問題があり,理学療法士が単独で評価や治療として対象者に適用できるものではないのが現状であろう。しかし,経頭蓋磁気刺激法を用いた研究報告を理解し,今後,理学療法の研究・評価・治療に結び付けるためにも,タイムリーな追加と考えている。

 また付録として加わった用語解説では,物理療法に関連する用語26項目について説明があり,本文の理解について配慮されている。しかし理学療法士養成施設のテキストとしての使用を考えると,高校で物理をほとんど学習していない学生もおり,より基本的な用語も含めて,この用語解説のさらなる充実を期待したい。

 第3版では第2章の「牽引療法」,第4章Ⅳの「極超短波療法」,第8章Ⅰの「結合組織に対する徒手療法」において執筆者の変更があった。同じテーマであっても執筆者により内容の選定,概念の捉え方や説明の仕方に違いがあり,第2版と読み比べてみるのも内容の理解に役立つと思う。

 本書では,「電気診断とバイオフィードバック」「結合組織に対する徒手療法」「スポーツマッサージ」など,通常は物理療法に含まれない内容も記載されている。徒手的な方法により生体に力を加えること,電気的手段による診断,生体の物理量をフィードバック情報として利用し身体機能の改善を図ることも,広く捉えると物理刺激や情報の理学療法への応用と考えることもできる。このように,本書は物理療法に関する広範な内容を扱っており,物理療法のリファレンスとしても学校や職場の本棚に揃えておきたい1冊である。

B5 頁328  定価4,935円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00486-2

関連書
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