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第2782号 2008年5月26日


MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


DVD+BOOK
認知行動療法、べてる式。

伊藤 絵美,向谷地 生良 著

《評 者》池淵 惠美(帝京大教授・精神神経科学)

認知行動療法のすばらしい範例

認知行動療法はなぜ支持される?
 本書は認知行動療法のすばらしい範例といってよいであろう。

 認知行動療法が注目を浴び続けている理由の一部は,多量の効果研究を生み出している点にあると思われる。科学的な根拠=エビデンスに基づいた治療法が求められる時代に,認知行動療法は豊富なエビデンスを提供しているのである。そのためにアカデミズムの世界にサポーターがいる。

 それと同時に,理論と技法が明文化されてシンプルであるが故に応用可能性が広く,さまざまな精神障害にそのシンプルな図式を適用して,複雑な症状を読み解いたり,解決策を模索したりすることが可能である。このことも,認知行動療法が流行する理由の1つとなっている。これまでの精神療法からすると,ずっとわかりよいのである。その応用のしやすさから,多彩な技法を次々と編み出す生産的な試みが世界中で行われている。臨床の現場にもサポーターがいるのである。

 さらに言えば,専門家と当事者(クライエント)がその図式を共有して,共同作業で障害を乗り越える道具とすることができる。今の時代,こうした姿勢は多くの共感を得ている。したがって,当事者の中にもサポーターがいるのである。

同じ技法のはずなのに……
 創造性にあふれた楽しめるセッション

 このように,認知行動療法が支持される背景はいろいろであるが,本書『認知行動療法、べてる式。』は,実践的な臨床家サポーターと当事者サポーターとのすばらしいコラボレーション作品である。

 堅苦しいアカデミズムの世界で語られるのと同じ技法を使っているはずなのに,本書でみる認知行動療法は,生命力と想像力と諧謔の精神にあふれていて,きわめて魅力的である。病院でみる認知行動療法が,少し窮屈だったり,図式的すぎると感じている人にとっては,認知行動療法の本質的な理論や技法をそのまま残しながらも,こうも楽しいセッションができるものか,と驚かれるのではないかと思う。精神障害の中でも,社会生活における重い桎梏(しっこく)となりやすい統合失調症をかかえた人たちが,なんだか言葉で聞くと忌避されそうな幻覚や妄想と生き生きつきあっている様が,DVDと解説書の中にあふれている。

 実践家サポーターの伊藤絵美氏の解説は,平易な言葉でありながらも,物事の本質をよくとらえていて,なぜ本書が魅力的であるかを,見事に解き明かしてくれている。これは「べてる式」に伊藤氏が惚れ込んでいる故だと思われる。

認知行動療法だけでは語り切れない
 「深さ」と「おもしろさ」も

 「浦河べてるの家」では,社会福祉法人と有限会社を併せて100人以上の当事者が生活し,活動している。浦河町という過疎の町に密着して,統合失調症,アルコール依存症,人格障害などをもつ人たちが,昆布とともに,「障害とともに生きる」創造的な取り組みを「商売にしている」のである。

 このべてるの家の活動は,認知行動療法という切り口だけでは語れない深さがある。「安心してさぼれる会社づくり」「昇る人生から降りる人生へ」などの数々のスローガンや,“幻聴さん”などなどのユニークな症状のネーミングでもわかるように,障害への逆転の発想が息づいているとでもいえるだろうか。共著者である向谷地生良氏のべてるの家の活動についての多くの語りも収められていて,精神障害にかかわるおもしろさに目覚めさせてくれる本である。

四六変・頁240 価格5,250円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00527-2


母乳育児支援スタンダード

NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会 編

《評 者》山内 豊明(名大教授・基礎看護学)

個別性のある支援のための「母乳育児支援スタンダード」

 わが家は幸いにも2人の子どもを授かった。上の子の時は何もかもが初めてで,すべてが手探りであった。さまざまな育児書を紐解くたびにそれぞれそれなりに正しく記述されていた。その一方,親初体験者としては複数の文献にあたればあたるほど,文献ごとに微妙な違いがあることにも何度か直面した。

 下の子の時は上の子の経験があったぶん楽な面もあったが,経験があることがかえってさらなる混乱を招くこともあった。

 母乳育児に関しては上の子はいつまでもおっぱいが大好きで,「辛子を塗る」「おっぱいに似顔絵を描く」等々の,世の中のありとあらゆる「断乳」手段もものともせずママのおっぱいに執着し続けていた。かと思えば下の子はいともあっさり自分から卒乳してしまい,こちらの方が「もういいの?」と思う始末であった。

 一家族一家族,手探りで経験をしていくのである。さらに同じ家族の子どもといっても1人ひとりの行動様式は違うので,1人ひとり子どもを育てるたびにそれぞれ別々の経験をしていく。ある意味すべてが初めての経験ともいえよう。1人ひとりの親がそれぞれ新たな経験をするが,そのままで終われば消え去ってしまうものとなり,何千年の時が経ってもすべてが初めての体験の繰り返しである。しかし何らかの形で経験が蓄積され伝承されることこそが,人類が文明をもっている所以であろう。

 この伝承は傍で見て習得することも可能ではある。しかしその経験知の蓄積具合と伝播の広がりは限定的であろう。かつてはこれらの経験知の蓄積自体を覚えていること,いわゆる博識であることに大きな価値があった。しかしさまざまな技術の進歩とともに情報のネットワーク化が発展してきた今日,情報自体はどこかにあるので,それらに効率的にアクセスでき正しく取捨選択できることに,むしろ意義と重要性が移ってきた。

 情報が乏しい時代を越え,むしろ情報の洪水をいかにして溺れずに渡っていくかの時代になった。

 正しい情報がどこにあるのか,どうやってそれに辿り着くことができるのかの見極めがかえって難しい時代になったともいえよう。

 さらにせっかくよい情報があったとしてもそれに出会うのが困難であったら,あまり役に立たないであろう。

エビデンスというと個別性が無視されるというのは誤解
 このように溢れんばかりの情報の信憑性を吟味し構造化して,よい有効活用に結びつける一連の過程がevidenced-basedの考え方である。エビデンスというと「個別性が無視される」などの誤解に出会うことも少なくない。確かに子育てに際しては1人ひとりの子どもに即した個別性というものがある。しかし個別性があるということは,まず標準(スタンダード)となるものがあってのことであろう。より個別性のある対応のためにも信頼に足るべき標準を足固めすることがまずは不可欠である。

 迷える親たちのよきアドバイザーとしての母乳育児支援に関わるすべての保健医療専門職にとって,エビデンスを基にした本書『母乳育児支援スタンダード』は心強い助っ人であると考えられよう。

B5・頁380 定価4,200円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00520-3

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