問題解決型救急初期検査

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好評を博した『問題解決型救急初期診療』の続編。実際の診療では、臨床医は患者の訴える主観的な問題だけでなく、検査値の異常など、患者の示す客観的なデータにも対応しなければならない。そして、診察所見やデータの異常は、診断の重要な手がかりにもなる。ともすると検査データばかり見て生身の人間を診ることを忘れてしまいがちな日常診療で、検査データの異常から何が問題なのか、次に何をどのようにすればよいのかをわかりやすく解説。
田中 和豊
発行 2008年02月判型:B6変頁:544
ISBN 978-4-260-00463-3
定価 5,280円 (本体4,800円+税)
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田中 和豊

 2003年10月に著者は『問題解決型救急初期診療』を上梓した.この本は患者の訴える主訴,すなわち,主観的データに対してどのようにアプローチしマネジすればよいのかを解説した本である.
 しかし,実際の診療では,臨床家はこのような主観的問題だけでなく,診察や検査データの異常などの客観的データにも対処しなければならない.例えば,発熱,心雑音,腎機能異常,血液ガスデータ,心電図異常などの異常な診察所見あるいは検査データである.これらの診察所見や検査データの異常が診断の重要な手がかりとなることも少なくない.
 ところが,検査学の本には単に検査の基準値や異常値およびその異常値を起こしうる疾患の記載だけしかなく,異常値をどのように解釈し,それに対してどのように対処すればよいのか,などの実際の診療で生かせる「生きた知識」の記載がないことが多い.これでは,検査データのみを治療して生身の人間を治療することを忘れてしまいかねない.検査データは,問診・診察・診断・治療およびマネジメントという一連の文脈contextから把握されなければならない.そして,検査の究極的な目的は,検査データの正常化だけではなく,検査データの正常化を通して患者自身を治療することなのである.
 ともすると検査データばかり見て生身の人間を診ることを忘れてしまいがちな日常診療で,検査データの異常から何が問題で何をどうすればよいのかを明確にしようとしたのが本書の目的である.本書は救急室で使用されることを想定したが,単に救急室だけでなく病棟および集中治療室でも使えるように配慮したつもりである.
 検査値については国際基準であるSI単位はまだ日本で普及していないので,通常の単位を用いたのでご了承いただきたい.
 前書の『問題解決型救急初期診療』と同様に,本書は一個人によって書かれた本である.したがって,本書の内容には当然思い違い,間違いや行き届かない点が多々あるかもしれない.これらの点に気づかれた読者の方々はご面倒でも下記までご連絡くださるようにお願いしたい.
 本書が日々の日常診療に役立ち,そのため患者に対して無駄な検査や治療が行われなくなって,それが患者一人一人の幸福につながり,ひいては日本の医療の発展に寄与することを著者は願ってやまない.
 最後に,原稿を丹念にご校正いただいた亀田総合病院総合診療部感染症内科 岩田健太郎先生,洛和会音羽病院ICU/CCU・感染症科・総合診療科・腎臓内科 大野博司先生,藤田保健衛生大学一般内科 山中克郎先生(50音順),および,再三の校正でご無理をお願いした医学書院の方々に深く感謝してペンをおく.

 2007年12月

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第1部 イントロダクション-検査の原則
 1. 検査の目的 purposes of tests
 2. 検査の指標 parameters of tests
 3. 検査の選択 selection of tests
 4. 検査計画 planning of tests
 5. 検査解釈 interpretation of tests
 6. 診断 diagnosis
 7. マネジメント management
第2部 バイタル・サインとモニタ-病態把握の指標
 1. バイタル・サインとモニタ vital signs and monitor
 2. 意識 consciousness
 3. 呼吸 respiration
 4. 脈拍 pulse
 5. 血圧 blood pressure
 6. 体温 temperature
 7. 酸素飽和度 oxygen saturation
 8. 血糖 plasma glucose
 9. 尿量 urine volume
第3部 身体診察-鑑別診断の特定
 1. 問題解決型身体診察 problem-oriented physical examination
 2. Stridorと肺音 stridor and lung sounds
 3. 心音 heart sounds
 4. 腹部診察 abdominal examination
 5. 黄疸 jaundice
 6. リンパ節腫脹 lymphadenopathy
 7. 皮膚 skin
 8. 神経学的診察 neurological examination
第4部 血液検査-病態生理の解明
 1. 血液検査の原則 principles of blood tests
 2. 白血球 white blood cell
 3. ヘモグロビン・ヘマトクリット hemoglobin/hematocrit
 4. 血小板 platelet
 5. ナトリウム sodium
 6. カリウム potassium
 7. カルシウム calciumとリン phosphorus
 8. マグネシウム magnesium
 9. 腎機能 kidney function
 10. 肝機能 liver function
 11. アミラーゼ amylase
 12. CK creatine kinase
 13. 凝固能検査 coagulation test
 14. 簡易検査キット test kit
第5部 動脈血ガス-診断・治療の羅針盤
 1. 動脈血ガス分析 blood gas analysis
 2. 呼吸不全 respiratory failure
 3. 高酸素血症 hyperoxemia
 4. 低酸素血症 hypoxemia
 5. 高二酸化炭素血症 hypercarbia(hypercapnia)
 6. 低二酸化炭素血症 hypocarbia(hypocapnia)
 7. 酸塩基平衡障害の評価 evaluation of acid-base disorders
 8. 練習問題 questions
 9. 代謝性アシドーシス metabolic acidosis
 10. 代謝性アルカローシス metabolic alkalosis
第6部 心電図 electrocardiogram-心筋の電気活動を通して見る人体
 1. 基本事項 fundamentals
 2. 心電図の判読方法 how to read EKG
 3. 特殊な波形パターン specific wave patterns
 4. 不整脈 dysrhythmia
第7部 尿・便・体液検査-局所から得られる全身の情報
 1. 尿検査 urine test
 2. 便検査 stool examination
 3. 髄液 cerebrospinal fluid: CSF
 4. 胸水 pleural effusion
 5. 腹水 ascites
 6. 関節液 synovial fluid
第8部 感染症検査-微生物との戦い
 1. 基本戦略 basic strategies
 2. 染色法 stains
 3. 培養 cultures
 4. 簡易検査 test kit
 5. ツベルクリン反応 tuberculin test
 6. 敗血症 sepsis
付録
 1 基準値一覧
 2 計算式一覧
索引

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脱「当たるも八卦,当たらぬも八卦診断法」
書評者: 岩田 充永 (名古屋掖済会病院・救命救急センター)
 指導体制が十分ではない救急室(ER)で診療を始めたばかりの研修医の皆さんは,「とりあえず検査をして,異常値あるいは異常所見が見つかったらそこから病気を探していこう」という診療をしているのではないでしょうか? 田中和豊先生はこの診療方法のことを「当たるも八卦,当たらぬも八卦診断法」と紹介され,「検査値に異常がない=正常」あるいは「検査値が異常=診断が確定」と短絡的に考えてしまうことに警鐘を鳴らしておられます。

 実際に,「食後に胃の辺りが気持ち悪かった」という訴えでERを受診し,血液検査でγ-GTPが高値であったので腹部エコーをすると胆石が見つかった。それで「ああ,今回の痛みは胆石発作ですね」と安易に診断して帰宅させようとしたところ実は不安定狭心症であった・・・など恐ろしい事件が全国のERで発生しています。最近の国内外の報告では,歩いてERを受診したのに重篤な疾患(killer disease)である割合が0.3%程度とされており,研修医の皆さんが1回の救急当直で歩いて受診する救急患者を5人診察すると仮定すると,月に5回当直を行った場合,年間に300人の救急患者を診察することになり,年間に1人はそのような症例に遭遇することになります。

 田中先生の前著『問題解決型救急初期診療』および本書は,このような「当たるも八卦,当たらぬも八卦診断法」あるいは,胃の痛みと嘔吐があるから急性胃腸炎!! というような「直感的診断法」に頼らざるを得ない救急診療初心者で,十分な指導を受けることもできずに途方に暮れている研修医の助けとなる良書であると確信しています。具体的には,救急室を受診した患者の主訴に対して,『問題解決型救急初期診療』を参照して,そこに記載されている優れたジェネラリストの思考過程を学び,もし判断に迷うことがあれば具体的にどこで困っているのかを明確にして指導医に相談する(研修医の相談が漠然としており,何に困っているかがわからないためによいアドバイスができないという指導医も多いものです),そして検査計画を立案し,得られた検査結果に対して本書を参照し,プロの解釈方法を学びながら検討していくという診療を繰り返すことでERでの診療能力は確実に向上し,救急研修は格段に充実するでしょう。

 救急診療の指導を十分に受けることができないと嘆いている研修医の皆さん!! 本来であれば救急患者さんを前にして,診断の思考過程や検査の解釈を教育することが真の指導医の役割なのですが,自らの反省を含め救急室にはそのような指導医はまだまだ不足しています(決して開き直りではありませんよ)。急病で苦しんでいる目前の患者さんは,田中先生のようなスーパー指導医の登場を待ってはくれません。患者さんの病歴を適切に把握できる能力を身につけ,田中先生の著書を参照しながら,具体的にどの段階で判断に迷っているのかを明確にして指導医に相談するというスタンスで救急診療の能力を磨いて下さい。そして決して救急を嫌いにならないで下さいね。我々の世代も君たちと同じく田中先生の著書で一生懸命勉強しますから――。
現場の視線で,同志のために書かれた一冊
書評者: 上條 吉人 (北里大講師・救命救急医学)
 ただただ,これだけの本を一人で書き上げた著者に脱帽の思いである。私もこれまで単著を上梓してきた自負はあるが,あくまでも救急領域の一分野に限定された内容である。ところが,本著のタイトルには「救急」と冠されてはいるが,内容は救急領域を遥かに超えた幅広い分野に及んでいる。しかも,本著からは,著者の豊富な臨床経験ばかりでなく,広く深く正確な知識をもたらした著者の猛烈な知的欲求がにじみ出ている。「いったい何者だ?」という思いで著者の略歴を見て,合点した。物理学を学んだ後に,医学を志し,さらに,臨床医として,インターナショナルに切磋琢磨され,著者が「戦場」と譬えた「救急医療現場」に飛び込んだ経歴の持ち主である。著者にお会いしたことはないが,とにかく並外れた「熱い心」と「エネルギー」の持ち主であることは容易に想像がつく。

 「臨床検査」に関する著書は数多い。しかしながら,肩書きはあるが,現場からは一線を置いた著者による,必要な情報を網羅しているだけの,似たり寄ったりの凡書ばかりである。視線が現場にないのである。ところが本著は,「この本を日夜戦場で戦う戦士たちに捧げる」と冒頭にあったように,自らが救急医療現場という過酷な「戦場」に身を置きながら,現場の視線で,同志のために書かれている点になによりも惹かれる。おそらく,凡書など一切参考にしていないのではないか。いたるところに同志が限られた時間のなかで,理解・活用できるように工夫されたオリジナリティーが感じられる。特に,豊富なフローチャート,「STEP」,「POINT」などを用いて,読者がいますぐ現場で必要な情報に理論的,段階的にフォーカスできる工夫は圧巻である。救急医療現場で必要な「初期検査」は,素早く適切な診断,治療に繋がる一助でなくてはならない。しかしながら,あくまでも「一助」であり,大切なことは検査データと患者を相互に「見て(診て)」総合的に判断することである。「鉄則」や感度・特異度や検査の限界についての記載などによって,検査データのみを「見る」だけで判断する短絡思考に釘を刺してくれるところは非常にありがたい。

 単著である本著の良さは,著者の「熱さ」を含めた人間性ばかりでなく,いたるところに著者の「熱い」メッセージが伝わってくるところである。やはり共著とは異なる味わいがあることをつくづく感じた。単に臨床の手助けとなるだけでなく,特に救急医療現場という「戦場」を志す若い医師に,勇気や理想を与えてくれるはずである。ぜひ,薦めたい本である。昨今,過酷な「救急医療現場」は若い医師に敬遠されがちである。しかし,ある程度の「自己犠牲」を「美学」として,戦う「戦士(救急医)」がまだまだいてもいいではないかという思いを新たにした。
熟練指導医に直接指導を受けているような「納得感」
書評者: 堀之内 秀仁 (聖路加国際病院・呼吸器内科)
 数ある検査に関する類書をイメージして本書を手に取った読者は,ちょっとした肩すかしを食らうことになる。

 それは,ページを開き,目次を見たときに既に明らかである。そこには,従来の書籍にありがちな「血算、生化学検査、凝固検査、内分泌代謝検査…」といったありきたりな項目ではなく,患者の訴える主観的データ“以外の”すべての情報に挑むために必要な項目が並んでいる。本書のようなハンディな書籍で,なおかつ「検査」と銘打っていながら,バイタルサインや身体所見に関する記載にこんなにもページを割いたものがかつてあっただろうか?

 著者も巻頭で触れているとおり,本書は『問題解決型救急初期診療』と密接に関係し連環している。『問題解決型救急初期診療』が縦糸であれば,本書はその横糸といえる位置付けとなり,逆に本書から入れば,『問題解決型救急初期診療』が横糸のようにも思える。それほど,本書は「単なる検査書籍」ではない,臨床の書なのである。

 個々の項目に目を向ければ,検査値に基づく鑑別や診断分類が数多く網羅されているのは当然として,それらの間を結ぶ著者のコメントが,そこにある膨大な文字列を生きた情報として読者の思考過程に流し込んでくれる。まさに『問題解決型救急初期診療』に最初に出会ったときに得た感覚,すなわち熟練した指導医に直接指導を受けているような「納得感」だ。

 本書の特徴として評価できる点はほかにもある,それは参考文献の多さである。検査書籍では,ごく基礎的な参考文献が上がることが多いなか,本書ではむしろそのような参考文献は少なく,最近のKey Paperをふんだんに紹介している。敗血症やARDSの項目などはその最たるもので,本文中にこれまでの研究の流れを盛り込み,「なぜ今この検査所見,治療が注目されているか」を紐解いてくれる。

 また,ちょっと粋に感じる部分としては,各章のなかにある,他の項目とはやや独立した「豆知識」的な項目である(例:「一発熱」,「ショック・リバー」,「あきみちゃんくろし」)。筆者自身の言葉で説明される,臨床のちょっとした工夫であったり,知っていることで診療に厚みが増すポイントだったりする。

 検査の意味と位置付けを生き生きと著した,ただそれだけでなく,検査の背後にある日常診療の躍動を垣間見せてくれる一冊である。後輩に薦められる良書がまた一冊増えたことを歓迎したい。

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