医学界新聞

2008.06.02



小児在宅医療普及への課題
――第111回日本小児科学会の話題から


 第111回日本小児科学会が4月25-27日,福永慶隆会頭(日医大)のもと東京国際フォーラム(東京都千代田区)にて開催された。「小児医学・医療の進歩と社会への調和をめざして」をメインテーマとした今回は,小児科領域における医療技術の向上,患児・家族のQOL改善へ向けた課題などをめぐり,白熱した議論が行われた。

 シンポジウム「長期入院と在宅医療」(座長=兵庫医大・谷澤隆邦氏,阪医大・田中英高氏)では,4名の医師が小児医療の現場の実態を語った。細谷亮太氏(聖路加国際病院)は,長期入院している子供たちのアメニティをいかにして維持・向上させるかについて,自身の取り組みを報告。患児の疾患や年齢構成に応じたプレイルームを提供することや,チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)やホスピタルプレイ・スペシャリスト(HPS)などの心のケアを専門とする職種が果たす役割が重要であるとした。

 滝敦子氏(川口市立医療センター)は,NICUにおける長期人工呼吸管理が必要な児の現状に関するアンケートの調査結果を発表。「家族の“自宅で過ごさせてあげたい”という心情の一方,精神的・肉体的・経済的負担が大きいことや,在宅で看ていくことへの不安などによって在宅に移行できないケースも多い」と分析した。また,現場の医師にとっても,現在の不十分な在宅医療支援体制のなかで在宅医療を勧めることにとまどいがあることも指摘した。

 前田浩利氏(あおぞら診療所新松戸)は,自身による小児在宅医療の現場における実態を報告。成人と比べて症例が少ないため,担当地区が広範囲にわたり,診療を行う医師の負担が大きいことや,介護保険が適用されないことなどを挙げ,社会資源の充実の必要性を訴えた。

 杉本健郎氏(びわこ学園医療福祉センター)は,在宅介護支援の向上に向けた対策を提案。(1)小児在宅医療支援へ向けた,ヘルパー等の非医療職者の研修の充実と法整備,(2)訪問看護師のレベル向上,(3)基幹病院の緊急時受け入れ態勢の充実,(4)ショートステイやケアホームの充実の4点を重要課題とした。

 最後に,設備の補充や人材の育成といったハード面だけでなく,患児やその家族の心のケアといったソフト面の課題にも取り組んでいくことの重要性も確認された。

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