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第2752号 2007年10月15日


MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


《シリーズ ケアをひらく》
こんなとき私はどうしてきたか

中井 久夫 著

《評 者》津田 篤太郎(都立大塚病院リウマチ膠原病科)

本書で「希望」を処方されるのは患者ばかりではない

 神戸大学で行われた有名な「最終講義」から,はや10年が経った。私はまだ学生で,精神科の授業も始まっていない時分だったが,大学生協の片隅で『最終講義』(みすず書房)を立ち読みするなり,著者の大ファンになった。格調高い文体,絶妙な比喩表現もさることながら,臨床家としての姿勢に学ぶところが大きかった。

“内なる自然”への農学書
 著者は別の著作のなかで,自分は江戸時代の農学書をモデルとして書いている,というようなことを述べている。作物を植える時期・肥料の種類といった技術上のアドバイスから,農村経営に必要な財務管理,人材配置の仕方まで幅広い知識を盛り込んだ実用書が江戸時代の農学書とすれば,本書『こんなとき私はどうしてきたか』も疾患の治療論から病棟運営までを射程におく,視野の広いマネージメントの書である。

 さらにもう一点,農学書との符合を見出すとすれば,“大自然”を相手にしている,ということであろうか。

 患者の予期せぬ急変に茫然と立ち尽くす医療者の姿は,河川の氾濫や日照りといった自然の猛威になす術もない農民に,どこか似ているように思える。現代医学が長足の進歩を遂げたとはいえ,精神病の“内なる自然”に関してはまだまだブラックボックスの部分が多い。

ブラックボックスにどう鍬を入れるか
 しかし医療スタッフは,ブラックボックスの部分があるから何もできない,というのは許されない。何かをなすよう常に迫られる。著者はその該博な治療経験から,どのように起こったことを捉え,どのように対処していくのかを明らかにしていく。

 私は免疫疾患を専門に選んだが,精神病と同じくブラックボックスが大きい領域である。いずれもネットワークに支えられたシステムであり,さまざまな外乱要因を吸収しながらホメオスタシスを保っている。「免疫力を高める」「脳力開発」などと,システムのパフォーマンスにのみ注目するむきが多いが,著者は終章の「精神保健いろは歌留多」で「無理を通せばチェルノブイリ」と警告する。

 つまり,適切に制御されているからこそシステムの安定が保たれる,というのである。「安全率」という工学上の概念を援用した卓抜な発想は,長年ブラックボックスの現象を丹念に追ってきた著者ならではのものだ。

希望としての「ダメもと医学」
 「ダメでもともと医学」という表現が出てくる。挨拶や握手をする,相槌のレパートリーを増やすといった,「お金もかからず無害なこと」なら何でもやってみよう,という態度である。その根底には,“精神病には治癒があるかないか……あるほうに賭けよう。賭けが外れたとして,失うものは何もない”とする,“精神医学版パスカルの賭け”とも言えるべき信念がある。これは,治療の士気を維持していくためにたいへん重要なのではないかと思う。

 長期にわたる治療では,希望を繋ぎとめることがしばしば難しい課題となる。この本にはそうした局面を打開するためのアドバイスが詰まっていて,慢性疾患を診る側のはしくれである私も,勇気づけられることが多かった。

 ただし,「ダメもと医学」は「無害」が大前提である。著者の繊細な観察眼は,思わぬことが患者にダメージを与えている事実をも描き出している。たとえば,医者は患者の病的な面ばかりに目がいきがちになるが,それでは患者の人生は病気中心になってしまう,といった指摘には,何度もハッとさせられる。

 一見些細だがデリケートな治療上の工夫の積み重ねの末,「年をとってくると,病気も病人も分からないけど,なぜか患者さんはよくなる」と言う筆者は,“パスカルの賭け”に勝ったと言えよう。

A5・頁240 定価2,100円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00457-2


ダーモスコピーの診かた・考えかた

斎田 俊明 著

《評 者》大原 國章(虎の門病院副院長)

ダーモスコピー診断技術のレベルアップを図る

 本書はダーモスコピーについて日本語で書かれた3冊目の本である。著者はこの方面での世界的な第一人者の斎田俊明教授で,雑誌『臨床皮膚科』に「Dermoscopy Specialistへの道:Q&A」として2004年4月から2006年12月まで連載されたものに補筆し,さらに総論と用語解説・文献,所見の記載法,血管所見の一覧模式図を加えてある。索引も含めて190頁の,比較的ハンディーな体裁となっている。

 既刊2冊も加えてこれら3冊の性格づけを大学受験になぞらえてみると,1冊目(金原出版)は教科書,2冊目(秀潤社)は参考書・副読本,3冊目の本書はレベルアップ・自習用の問題集に相当する。

 本書は初級・中級・上級に色分けされた32問の診断演習が骨格をなしているが,特徴はよく工夫されたその構成にある。右側の1頁に臨床写真,ダーモスコピー写真,臨床情報がまとめて提示され,さらにチェックポイントも指示されている。その頁をめくると解説編となり,ダーモスコピー所見のとり方,個々の所見の定義・見え方,ダーモスコピーと病理との対応,類似症例や鑑別疾患が順々に系統的に述べられている。ダーモスコピー写真が再掲されているので頁を戻す必要がないし,矢印などを多用して所見と解説の対応がわかりやすくなっている。3冊目の本という利点を生かし,既出の2冊の構成から学んでいるように思える。

 ダーモスコピーは臨床現場に導入されてからまだ歴史が浅いので,所見のとり方や解釈の仕方に通暁した指導的医師の数が少ない。系統的な教育システムも未完成で,教育講習会の開催も散発的にとどまっている。そのために,現場の皮膚科医の多くは,機器を手にして覗いてみてもその所見が解釈できずじまいかもしれない。

 その問題を解決する意味では,演習形式で自学自習できる本書の果たす役割は大きいものがある。今後も,このような“問題集”が多数出版されて,ダーモスコピーの理解度が向上することを期待したい。

 本書を通読すると,大学のゼミナール室で斎田教授の個人レッスンを受けているような感覚に陥る。所見のとり方の細心さ,その意味付けの緻密な論理,診断に至る明快さ,どれをとっても私にはとても真似ができない。ただし,“授業内容”がかなり高度な部分もあり,初学者がいきなり“教室”に入ってきても雰囲気に圧倒される懸念もなきにしもあらずで,多少の経験がある人が知識の整理・基礎の再確認をするのに向いているかもしれない。

 惜しむらくは一部の画像があまり鮮明でなく,色も自然でない点である。そのために,筆者には見えている所見が,読者には見つけにくい可能性がある。これは今後の改訂に待ちたい。

B5・頁200 定価7,560円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00440-4


日本臨床薬理学会認定CRCのための研修ガイドライン準拠
CRCテキストブック 第2版

日本臨床薬理学会 編
中野 重行,安原 一,中野 眞汎,小林 真一 責任編集

《評 者》伊賀 立二(日本病院薬剤師会会長)

広範かつ複雑な治験の内容を最新知見に基づき解説

 1998年,日米欧のハーモナイゼーションに基づいたわが国の臨床試験(治験)における新GCP(Good Clinical Practice)が完全実施された。CRC(Clinical Research Coordinator)はこの新GCPによって誕生した職種で,わが国では治験コーディネーターと呼ばれており,その守備範囲は治験の枠を超えて臨床試験を含む臨床研究全般に及んでいる。医薬品の臨床試験におけるCRCの役割は,臨床試験コーディネーターとして,(1)創薬ボランティアのケア,(2)治験担当医師の支援,(3)治験依頼者との対応(モニタリングと監査),(4)治験が円滑に進むように全体のコーディネーションを行うことと要約され,今では臨床試験になくてはならない重要な職種となっている。

 CRCの養成は,2000年以前は種々の団体が個別に実施してきたが,2001年に各団体が一堂に会して,「CRC連絡協議会」を結成し活動をともにすることとなり,その後2001年秋に第1回の「CRCと臨床試験のあり方を考える会議」が開かれ,その後,毎年開催され,現在では参加者も2千数百名を超えている。

 日本臨床薬理学会ではCRCの認定を支援するために2000年末に「CRCの養成・認定に関する委員会」(委員長:中野重行先生)を発足させ,「CRCのための研修ガイドライン(項目)」を公表した。この研修ガイドラインに準拠した形で本書の初版が2002年10月に刊行され,CRC養成のテキストブックとして活用され,わが国の臨床試験の推進に貢献してきた。本書はその後5年間のわが国の臨床試験の進展を踏まえ改訂された第2版である。

 本書の構成は,「A.総論」「B.CRCの役割と業務」「C.臨床試験・治験の基盤整備と実施」「D.医薬品の開発と臨床試験」「E.薬物治療・臨床試験に必要な薬理作用と薬物動態のポイント」「F.臨床試験の留意点」の6つの章からなっている。内容の一部を紹介すれば,「A.総論」ではCRCの概念と定義,臨床試験の歴史と倫理性,臨床試験の実施基準(GCP)などが,「C.臨床試験・治験の基盤整備と実施」では,治験事務局,治験審査委員会(IRB)などの実施体制に加え,インフォームドコンセント,モニタリング,情報提供,有害事象への対応,賠償と補償などが,また,「F.臨床試験の留意点」では,腎障害,肝障害などの疾患別の解説もなされている。さらに,巻末には付録として日本臨床薬理学会の認定CRC試験の受験に役立つ試験の例題と評価のポイントや研修ガイドラインなど付けられている。

 本書は,現時点での最新の知見に基づき,広範かつ複雑な臨床試験に関する内容がわかりやすく解説されており,これからCRCをめざす方々はもとより,現役のCRCとして活躍されている方々や臨床試験に関わるすべての医療従事者にとって必携のテキストとして推薦したい。

B5・頁384 定価4,620円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00434-3


プロメテウス解剖学アトラス
解剖学総論/運動器系

坂井 建雄,松村 讓兒 監訳

《評 者》河上 敬介(名大准教授・理学療法学)

理学療法士にとってもバイブルとなる書

 まず,本書を開いて感じることは,明晰で洗練された沢山の図譜が惜し気もなく掲載されていることである。本書は,器官系ごとに分類された系統解剖学のなかで,運動器系を中心とした解剖学アトラスという位置づけだと聞いている。しかし,単なる部位ごとのアトラスを寄せ集めた書ではない。特に骨格筋に関しては,すべての部位において個々の筋の位置や形が理解できるように,浅層から深層まで,部位によっては1筋ごとに剥離した図譜が並べて掲載されている。また,他に類を見ない多方向から描かれた運動器系器官の図譜や断面が描かれた図譜が目をひく。これらの運動器系器官の位置と,神経や血管との位置との関係も一目でわかるように工夫されている。さらに,近年のコンピュータグラフィックス技術を活かし,浅層から深層に渡る筋,靱帯,滑液包,骨などの器官の重なりを立体的に描いた図譜も多く見受けられる。

 われわれ理学療法士は,運動器系,特に筋を治療対象とする機会が多く,どの筋のどの部位に障害が起こっているかを評価しなくてはならない。個々の筋の端から端までの詳細な形や位置を,三次元的に理解しなくてはならない。十分な人体解剖実習が行われているとは言い難い現状では,本書が大きな手助けとなるに違いない。

 実は,われわれ理学療法士としては,筋の位置や形を理解しているだけでは十分ではない。個々の筋が収縮したときの関節の動きを,機能解剖学的視点から理解しておく必要がある。しかし,形や位置を詳細に示した一般的な解剖学書やアトラスなどでは,起始や停止の位置が筋に隠れてしまっている。また,個々の筋がどの領域とどの領域とをつないでおり,その結果どの方向への関節の動きをつかさどるのかをイメージすることは困難である。ところが本書は,前述した局所解剖のセッションに加え,機能解剖のセッションも充実している。すなわち,筋の起始と停止の位置が一目でわかり,かつ起始と停止を結ぶ模式化された個々の筋の走行図が掲載されており,正確な運動方向の推察を助ける。さらに,運動学的・臨床医学的な情報もふんだんに盛り込まれており,初めて筋の構造や働きを学ぶ学生にとっても,臨床で働く理学療法士にとっても,バイブルとなるに違いない。

 近年,われわれ理学療法士の業務は運動器系疾患のみにとどまらず,心筋梗塞や動脈硬化症などの循環器系疾患,肺気腫や肺線維症などの呼吸器系疾患,糖尿病や高脂血症などの代謝系疾患,尿失禁などの泌尿器系疾患と様々な器官にわたる。すでにこれらの器官系を掲載した本シリーズの翻訳も進んでいると聞いている。待ち遠しいものである。

A4変・頁560 定価12,600円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00239-4


30日で学ぶ水電解質と腎臓病

佐藤 武夫・吉田 一成 監訳

《評 者》菱田 明(浜松医大教授・第一内科)

病態生理の理解を重視した腎臓病の自習書

 『30日で学ぶ水電解質と腎臓病』(Robert F. Reilly, Jr. & Mark A. Perazella編集,佐藤武夫・吉田一成監訳,メディカル・サイエンス・インターナショナル)が出版された。2005年に米国で発行された本の日本語訳であり,日本人により編集される腎臓病の本とは異なる以下の特徴を有している。

 その第1は,米国での腎臓学の傾向を反映し,水,Na,K,Ca,P,Mg,などの電解質異常,酸塩基平衡異常,高血圧に関する記述に約半分のページを割いている点である。しかし,この本は腎臓病に関する教科書であり,残りのページを使って尿検査,腎結石,急性腎不全,慢性腎臓病,糸球体疾患,尿細管間質性疾患,尿路閉塞,尿路感染症など,慢性透析以外の腎臓学の領域をすべてカバーしている。

 第2は,症状や検査値異常,治療法について,腎臓の生理,病態生理を踏まえて理解しようとする考え方が貫かれている。

 第3は,臨床の現場で役に立つよう,治療法については具体的な記述がなされている。

 第4は,各章について,「何を学ぶべきか」「何がキーポイントであるか」など簡単にまとめられ,重点が理解しやすい。

 近年,日本では,実践的なことを追及するあまり,ハウツーものが多くなっている中で,臨床的な課題を,背景にある生理学,病態生理学に戻って理解しようとすることをめざす本である点,一味異なる本である。訳者が日本に紹介したいと考えたのもよく理解できる。

 22章を30日で読むようページ数などが配慮されており,約400ページを30日で無理なく読める本であるが,生理・病態生理に関する記述はじっくり時間をかけて読むことでより味わいが出てくる本でもある。

 惜しむらくは,米国内で出版されたものの翻訳本に共通する弱点を有する。執筆者の記載を忠実に翻訳しようと努力された結果,翻訳本であることを感じさせる文章となっていることである。

 医学の進歩は,現実の治療法を次々と変化させていく。しかし,病気の本質や病態の理解のポイントなどは時代を超えて共通な部分が多い。また,患者の自己決定権が重要になるにつれ,患者への説明が説得力を持つうえでも,生理学・病態生理学を学ぶことの重要性は高まっている。腎臓の生理・病態生理を中心として,腎臓の勉強を本格的にしてみたいと考える人に薦めたい一冊である。

B5・頁404 定価5,670円(税5%込)MEDSi
http://www.medsi.co.jp/

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