医学界新聞

連載

2007.04.09

 

臨床研修の歩き方
Think Globally, Act Locally

〔連載 第5回〕
東海北陸編

安田あゆ子
全国7か所の厚労省地方厚生局で働く臨床研修審査専門官が,全国各地の臨床研修の様子を交代でレポートします。


前回2723号

 みなさま,こんにちは。今回は東海北陸地方よりお届けします。ゴレンジャーにモモレンジャーがいるように(古ッ),七福神に弁天様がいるように(さらに古ッ),臨床研修審査専門官にも,図ったわけではありませんが女性医師が約1名おります。そして女性医師といえば,今や国の施策においても「問題」と捉えられるほど注目の存在です。今回は同属同類の審査専門官として,臨床研修制度と女医のキャリアについて考えてみたいと思います。

 女性医師が増えつつあることはすでに医療界は了解済みと思いますが,昨年臨床研修修了一期生に対し行ったアンケート結果(中間報告)でも回答者の34.5%が女医でした。その平均年齢は27.7歳。どこかでみた数字だと思ったら,東海北陸地方の女性(女医だけではありません)の初婚平均年齢は,例えば富山県で27.7歳,石川・静岡・愛知でも27.8歳,岐阜・三重では27.5歳となっています。同じ女性の初婚年齢でも全国的に見て都市部は比較的高いようで,東京都の29.2歳を筆頭に,神奈川28.6歳,大阪28.2歳となっており,都市部の多い愛知県で27.8歳というのは異例のように思います(全国に名高い“名古屋の嫁入り”の名残でしょうか)。一方残りの60数%を占める男性諸君の平均初婚年齢はというと,全国平均で29.8歳,東海北陸地方もほぼこれに準じた数字であります(数値はすべて平成17年人口動態統計年報より)。

 何が言いたいかというと,その微妙な男女の2歳差が臨床研修中の女性医師の苦悩を統計的にも表しているように思うのです。つまり,彼女らは男性医師より人生の分岐点近くに立たされているのです。さらに追加するならば,第1子出生時の母親の平均年齢は29.1歳。妊娠期間も勘案するに,女性医師の人生設計を無視しては臨床研修制度は立ち行かなくなることがよくわかります。

 現在のところ女性医師に対する配慮が制度に表れているのは,研修の中断および休止の項にその理由として妊娠・出産・育児が認められているのみですが,これらの項目を明文化するのにも多くの方々のご苦労があったと聞いております。そしてこれらの理由で実際に未修了となった方々(東海北陸6県の一期生では5名)は,当管内では全員修了済みもしくは修了予定となっています。彼女らの状況を語るにはまだまだ母数が足りませんが,どのケースも当該女性研修医および研修病院双方が温かい配慮と努力をすることにより職場復帰,そして研修続行が成り立っていると理解しています。

 また人生の分岐点手前の年齢という意味では,さまざまな恋愛事件に巻き込まれる「お年頃」でもあります。ただでさえ多忙で精神的にも追い詰められている彼女らが,時として,女性としての自分さえも見失いがちになり,中断等の相談に訪れることがあります。悲しいかなそういう理由(推測にとどまるものも多いですが)で病院を替わりたいと申し出てくる者はほとんど女性です。彼女たちには,医師としても女性としても,自分を信じ強くなってほしいといつも感じています。

 女医を取り巻く環境は病院によってさまざまですが,問題として認識されている昨今,全体的にめざましく改善傾向にあると言えます。臨床研修は女性医師の人生において公私にわたり特に大切な2年間であるという認識を各病院は改めて持って,よりよい環境整備にご尽力いただきたいです。

 そして現在研修中の女医さんたち,これから研修する女子医学生のみなさん,社会状況はみなさんにとって好転しつつあります。この大きな追い風をうまく利用して,医療の海に漕ぎ出してください。

つづく


安田あゆ子
1996年名大医学部卒。スーパーローテート研修後,胸部外科医として研鑽。2006年より東海北陸厚生局に勤務する傍ら,名古屋医療センター呼吸器外科兼務中。2児の母親業も兼務中であり,女性医師問題の当事者と自覚している。

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