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第2721号 2007年2月26日


知と技の創造的進化へ

第26回日本看護科学学会開催


 第26回日本看護科学学会が2006年12月2-3日の両日,阿曽洋子会長(阪大大学院)のもと,「看護科学――看護の知・技の創造的進化」をテーマに神戸国際展示場(神戸市)他にて開催された。本紙では特別講演「看護科学の理解に向けて」の模様を報告する。


看護の目標はBetter Health

 看護科学についてより一層理解を深める旅に出発しましょう――。特別講演「看護科学の理解に向けて」の冒頭で,William Holzemer氏(カリフォルニア大サンフランシスコ校)はこう切り出した。看護科学とは「健康と疾患,治療と看護,生命現象,急性疾患と慢性疾患,快適さと尊厳を対象とする」ものであり,「誕生から死亡まで,人の生涯を通じて継続的に,個人・家族・コミュニティと共に活動する」と定義。最終的な目標はBetter Health(健康の向上)にあるとした。

科学哲学の再評価から自然科学と人間科学の統合へ

 続けて,認識論の通史を紹介。古代ギリシャ,アリストテレスの時代には科学と科学哲学(アート)は相互に補完しながら認識論を支えていた。両者はいずれも演繹・帰納の論理的思考に依存している点において互いにリンクしているはずだが,次第に科学が勢いを増し,論理学や美学などの科学哲学は軽視されるようになる。さらに経験主義の爆発的な進展によって,“客観としての科学”ばかりが重視されるに至った。

 しかしやがて科学主義に対する反動が起こり,科学が問うことのない質問(「事実は何か」ではなく「何が正しいか」)を研究する科学哲学の再評価の機運が盛り上がった。科学哲学は,論理的推論の概念を拡大するばかりでなく,自然科学(発見したもの)と人間科学(組み立てられたもの)を関連づけることができると見直された(氏は,こうしたバラダイムシフトの議論を打ちたてた書としてトーマス・クーン著『科学革命の構造』を挙げ,「この百年でもっとも重要な書物」と評した)。

 看護を「アート」的に理解すべきか,「科学」的に理解すべきか,長年の論争がある。氏は以上の話を踏まえ,「これは数千年の議論である」と指摘。科学哲学は看護のアート的な部分を含むものであると見解を述べた。また,看護科学は自然科学と人間科学が統合されたものであり,両方の論点に取り組むためには,複数の研究方法が必要であることを強調し,講演をまとめた。

 第26回日本看護科学学会の会期中の12月3日,ランチョンセミナー「質的研究の面白さ――修正版グランデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を中心に」(共催=日本看護科学学会,医学書院)が開かれ,会場は300名を超える参加者で埋め尽くされた。

 講師の木下康仁氏(立教大;写真)は,グラウンデッド・セオリー・アプローチに基づく古典的名著『死のアウェアネス理論と看護』(Glaser&Strauss著,医学書院)の翻訳者であり,その後も老人ケア領域で質的研究を行い,看護界にも名高い社会学者。近年は自身が開発したM-GTAが注目されており,本セミナーでは実際の研究例を交えてその概念や手法を解説した。M-GTAはオリジナル版で示された基本特性を継承しつつ,コーディング方法の明確化や独自のインタラクティブ性によりこれまでの課題を克服しており,質的研究の新たな展開として期待される。