BRAIN and NERVE Vol.78 No.3
2026年 03月号

ISSN 1881-6096
定価 3,080円 (本体2,800円+税)

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脳ドックは従来,未破裂脳動脈瘤や無症候性脳血管病変の発見を通じて,脳卒中予防に寄与してきた。一方で近年では,MRIを基盤とした画像診断に加え,デジタル認知機能検査,血液バイオマーカーなどの技術発展により,その役割は神経変性疾患の早期発見,さらには前臨床段階からのリスク評価へと広がりつつある。本特集では,脳ドックの歴史的背景と現状を整理したうえで,無症候性脳血管障害,脳腫瘍,特発性正常圧水頭症,認知症を含む多様な病態への対応やガイドラインに基づく実践を俯瞰する。脳ドックを日常診療や予防医療とどう結びつけ,今後どのように活用すべきか,その可能性を模索したい。

これまでの脳ドックの歴史 小林祥泰
脳ドックは1988年に日本で誕生した。最初は未破裂脳動脈瘤を発見するためにDSAによる血管撮影が,同年に無症候性脳血管病変を発見するMRIを用いた脳ドックが始まった。その後MRA性能の向上ですべてMRIによる脳ドックとなった。脳ドックで脳動脈瘤が発見され予防手術が可能となった。MRIで発見された無症候性脳梗塞や微小脳出血は脳卒中発症のリスクであり,危険因子の管理で予防治療が進んだ。近年は脳卒中に加え認知症予防が脳ドックの重点となりつつある。

未破裂脳動脈瘤の発見と治療 石川達也
脳ドックでの未破裂脳動脈瘤発見は,くも膜下出血予防に直結する。診断はMRAや3D-CTAが有効で,3T-MRIにより小型動脈瘤の検出が可能となった。UCAS Japanでは年間破裂率0.95%が報告され,サイズ・部位・形状から破裂リスクが提示されている。治療は開頭術から血管内治療へ移行しており,コイル塞栓術に加えフローダイバーターやWEBが使用可能となった。今後はAIを活用した破裂予測や治療選択が期待される。

無症候性もやもや病の病態と予後 黒田 敏
非侵襲的画像診断法の普及により無症候性もやもや病の発見が増加している。2012年から前方視的AMORE研究が開始され,これまでの中間解析ではたとえ無症候であっても一部の例では脳梗塞・出血を認め,脳出血を中心とする脳血管イベントや病期進行のリスクが高いことが示されている。無症候例では生活習慣病の管理と定期的な画像フォローが重要であり,抗血小板薬の使用には脳出血リスクの観点から慎重であるべきである。脳血行再建術の有効性は現時点では確立していない。

特発性正常圧水頭症(ハキム病)の病態と診断 中島 円 , 川村 海渡 , 秋葉 ちひろ , 宮嶋 雅一
特発性正常圧水頭症(iNPH)は,脳室拡大に加え,シルビウス裂や脳底槽の拡大と高位円蓋部の脳溝狭小化といった脳の上方偏位が認められる特徴的な画像診断から,脳ドック検査で早期発見から早期治療につなげることが期待される疾患である。また,iNPH病態下ではアルツハイマー病やレビー小体病の併存頻度が高く,異常蛋白質が蓄積されやすい脳内環境にある。血液検査によるアミロイドβ病態の診断も報告されており,近い将来には,脳ドックによる画像検査と血液検査から,併存疾患も含めたiNPH診断が可能となる。

脳ドックにおける脳腫瘍発見の後方視的分析と臨床的対応 蒲原 明宏 , 福村 匡央 , 辻 優一郎 , 二村 元 , 矢木 亮吉 , 平松 亮 , 亀田 雅博 , 野々口 直助 , 古瀬 元雅 , 川端 信司 , 髙見 俊宏 , 福田 彰 , 鰐渕 昌彦
本研究では,2018年4月1日から2025年3月31日に脳ドックを受診した2,281人を対象に,偶発的に発見された脳腫瘍の頻度・種別・臨床経過および対応・治療戦略を後ろ向きに検討した。脳腫瘍の検出率は0.7%であった。発見された髄膜腫および下垂体部腫瘍の症例を提示し,各腫瘍に対する対応方針や治療介入について報告する。脳ドックによる脳腫瘍の早期発見と適切な管理は,患者の生命予後や生活の質の向上に寄与する可能性が示唆された。

無症候性脳血管障害の発見と対応・治療 猪原 匡史
無症候性の頸動脈・頭蓋内動脈狭窄,無症候性脳梗塞,大脳白質病変,微小脳出血は将来の脳卒中リスクであり,脳ドックで検出されれば,血管リスク因子の管理が必要となる。高度の頸部頸動脈狭窄に対しては血行再建術が考慮される。また,わが国を含む東アジア諸国では,頭蓋内動脈狭窄と大脳白質病変の遺伝的背景が強いことも明らかとなってきた。今後,医療と連携することにより脳ドックの意義はさらに高まると期待される。

脳ドックガイドラインと無症候性病変の対応—その基準と考え方 鈴木 倫保
ラクナ梗塞,血管周囲腔,大脳白質病変,脳微小出血などの無症候性病変に対しては,頸部超音波検査,MR画像,心房細動の有無,脂質異常症や糖尿病をチェックする。対応としては降圧薬,抗血小板療法,スタチンなどによる薬物療法および,食事・運動指導を考慮する。抗血小板療法は,脳出血の危険性を高める可能性があることから,当該患者への適応を吟味したうえで,慎重に投与する。受診結果の説明は「対面」によることが重要だ。

事業運転者への脳検診の現状と活用への展望 森田 明夫
労働安全衛生法により労働者の健康保持は義務付けられているが,事業用車両による健康起因事故は近年増加傾向にあり,令和6(2024)年には約400件発生している。その主因は脳血管疾患,心臓疾患,睡眠障害であり,2018年に脳血管疾患対策ガイドラインが制定されたものの,MRIなどのスクリーニング検査はいまだ推奨レベルで義務化されていない。既に事業運転者の減少と高齢化が深刻な課題となっている。今後の事故防止体制強化に向けては,脳MRI検診による事故削減効果を明確にし,特に高齢運転者においては航空機操縦士と同様の検査必須化を検討していく必要がある。本論では,2018〜20年に国土交通省が実施したモデル事業の成果に基づき,脳MRI検診の有用性と今後の方向性を検証する。

認知症早期発見から早期治療につなげる取組み 冨本 秀和
認知症,特にアルツハイマー病の早期発見は,プレクリニカル期での診断に焦点が移ってきている。プレクリニカル期の患者の診断は脳アミロイド血管症が診断される場合を除いて通常の脳ドックでは困難である。しかし,近年のデジタル認知機能検査やAIイメージングの社会実装により高感度の診断が可能となってきた。また,p-tau217,MTBR-tau243などの血液バイオマーカーは近年,長足の進歩を遂げPET検査に匹敵する感度,特異度を得るに至っている。脳ドックでは今後,これらの新規技術を活用したアルツハイマー病の超早期診断が可能となると期待されるが,診断後の治療導出については倫理的,医療経済的な課題があり,幅広い国民的なコンセンサスの醸成が望ましい。

画像解析と認知症スクリーニング 森 進
本論では,認知症スクリーニングの概念を整理し,現状と課題を考察した。スクリーニングは診断とは異なり,早期発見や予防介入の入口である。指標として認知機能検査,画像解析(MRI・PET),血液バイオマーカー,遺伝子があるが,プレクリニカル段階では単一の強力な指標がなく,複数の弱識別因子の統合が必要である。今後は日本の脳ドックデータや血液検査技術を活用した低コストモデルの構築が望まれる。

大脳白質病変の定量化 アジンキャ・ディーパ・ディーパック・アンジカー , アティラ・パディンジャライル , 内藤 純平 , 石田 学
大脳白質病変は行動記憶障害を引き起こし,重篤な疾患の要因になり得る。この大脳白質病変を定量的に評価することで,関連する疾患の発症率を効率的に抑えることが可能となる。学術,商業,自動化の観点から,人工知能を活用した画像診断が有用なアプローチとなり得ることを発見した。さらに,年齢,生活習慣,ストレスなどが病変形成の主要因であり,モニタリングや治療に活用できることが明らかになった。

簡便な神経心理検査による認知症スクリーニング—デジタル技術を活用した新たな展開 山口 滋紀
高齢化の進展により,認知症および軽度認知障害(MCI)の有病率は増加の一途をたどっている。日本では2025年に1000万人を超えると推計されており,抗アミロイドβ抗体薬の登場を受けて,治療対象を早期に抽出するスクリーニングの重要性が増している。従来の紙筆式神経心理検査(MMSE,HDS-Rなど)は信頼性が高い一方で,教育歴や施行者依存などの限界がある。近年はAI解析やアイトラッキングを応用したデジタル検査が登場し,短時間かつ高い再現性・客観性を有するスクリーニングが可能となりつつある。本論では,従来法と新技術の比較を通じて,臨床導入上の課題と今後の展望を概説する。

血液バイオマーカーによる認知症早期診断の可能性 互 健二 , 徳田 隆彦
アルツハイマー病の早期診断において,血液バイオマーカーが画期的な進展を遂げている。特にp-tau217を中心としたバイオマーカーは従来のPET・髄液検査に匹敵する高精度を示し,2025年に米国食品医薬品局(FDA)が初の血液検査を承認した。レカネマブなどの疾患修飾薬の保険適用により,低侵襲で簡便な診断法の臨床実装が急速に進んでいる。一方,脳ドックなどでの無症候者への適用には,心理的影響や長期予後予測の困難さなど倫理的課題が残る。今後はデジタルバイオマーカーとの組合せによる診断精度向上と,長期的なヘルスケアへの貢献を示すエビデンスの蓄積が重要となる。

健やかな老後のための脳ドックの活用 北川 一夫
65歳以上の高齢者が要介護となる原因疾患の第1,2位は脳卒中,認知症である。脳ドックは脳に特化した健康診断であり,学会認定を受けた施設では脳MRI検査による画像診断はもちろんのこと,認知機能の評価,頸動脈超音波検査による頸動脈病変の評価が含まれ,潜在的な脳血管病変や認知症の前段階の軽度認知障害患者の検出に有用なシステムである。脳卒中,認知症の早期発見,早期治療に結びつくことが期待される。

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特集 これからの脳ドックの可能性

これまでの脳ドックの歴史
小林祥泰

未破裂脳動脈瘤の発見と治療
石川達也

無症候性もやもや病の病態と予後
黒田 敏

特発性正常圧水頭症(ハキム病)の病態と診断
中島 円,他

脳ドックにおける脳腫瘍発見の後方視的分析と臨床的対応
蒲原明宏,他

無症候性脳血管障害の発見と対応・治療
猪原匡史

脳ドックガイドラインと無症候性病変の対応──その基準と考え方
鈴木倫保

事業運転者への脳検診の現状と活用への展望
森田明夫

認知症早期発見から早期治療につなげる取組み
冨本秀和

画像解析と認知症スクリーニング
森 進

大脳白質病変の定量化
アジンキャ・ディーパ・ディーパック・アンジカー,他

簡便な神経心理検査による認知症スクリーニング──デジタル技術を活用した新たな展開
山口滋紀

血液バイオマーカーによる認知症早期診断の可能性
互 健二,徳田隆彦

健やかな老後のための脳ドックの活用
北川一夫


■総説
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の進行に関連する免疫細胞と蛋白質──マルチオミクス解析からの新知見
藤田浩司,他


●日本人が貢献した認知症研究の足跡
第11回(最終回) 神経原線維変化型老年期認知症
髙尾昌樹

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