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BRAIN and NERVE Vol.77 No.7
2025年 07月号
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特集の意図
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私たちは日々,膨大な情報に囲まれて生活しており,こうした環境では,状況に柔軟に対応できる認知機能の重要性が高まっている。認知機能の柔軟性とは,多様な状況への適応,思考・行動の切替え,マルチタスクの遂行,適切な意思決定や判断を可能にする能力などを指す。これらの機能は,情動と相互に影響し合いながら,脳内の多様な神経機構や動的なネットワークによって支えられている。本特集では,脳科学の観点から,ヒトの社会性や知性を支える柔軟な認知機能のメカニズムに迫る。
脳の柔軟な符号化と認知機能 虫明 元
前頭葉は,行動発現のさまざまな側面に関わり,柔軟な行動選択を支える神経基盤の1つである。ここでは,6つの点から検討を加える。①行動を支える前頭葉機能の多様性,②細胞レベルでの柔軟な情報表現,③振動状態による行動文脈の表現,④脳活動のゆらぎにみられるスケールフリー性,⑤ゆらぎと同期性にみられる細胞レベルでの臨界状態の可能性,これらを踏まえて⑥神経系の認知的の記号論的な意義を考察する。
柔軟な判断に必要な情報収集の変容の神経メカニズム 宇賀 貴紀
柔軟な判断には,環境に応じた再学習や瞬時の判断切替えなど,複数のしくみが関与する。これらのしくみについて,心理物理・神経生理・計算論的手法を統合することで理解が深まる。瞬時の判断切替えに必要な情報収集の柔軟性は,不必要な情報を収集,蓄積した後に破棄するしくみによって支えられ,外側頭頂間野(LIP野)などで観測される判断関連活動の変容から垣間見ることができる。柔軟な判断の障害の分子メカニズムについても解説する。
サブゴールを組み立てて目的を達成する脳の働き 渡邉 慶
私たちは日常の中で,1つの大きな目的を達成するために,複数の小さな目標(サブゴール)を組み立て,それらを柔軟に切り替えながら処理する行動を自然にこなしている。この能力は遂行機能(executive function)と呼ばれ,前頭連合野の関与が不可欠とされる。遂行機能は下位機能と,より高次のコントロール機能に大別される。本論ではその枠組みを概説し,近年,動物を用いた研究で明らかになりつつある,大きな目的の達成に不可欠な「高次の遂行機能」を支える神経メカニズムを紹介する。
自己と他者の行動予測に基づく柔軟な認知を可能にする神経回路 宮本 健太郎
私たちは,まったく初めて経験するような状況,社会的場面においても,さまざまな未来の可能性をシミュレーションし,適切な行動を選択できる。この柔軟な行動選択には,霊長類に顕著な内省能力(「メタ認知」)が関わっている。筆者らは,柔軟な認知が,後部頭頂葉下頭頂小葉や前外側前頭葉47野によって担われる展望的な内省(未来に対するメタ認知)によって実現されることを解明した。
コリン作動性ニューロンによる行動柔軟性の双方向制御 岡田 佳奈
行動や考え方における柔軟性は変化する環境への適応を可能にする。この柔軟性はさまざまな下位認知プロセスの相互作用の結果としてもたらされるが,大脳基底核は眼窩前頭野や髄板内核からのグルタミン酸作動性入力や中脳ドーパミン作動性入力によってこの相互作用に大きく関与していると予想される。特に,背内側線条体コリン作動性介在神経細胞は柔軟性を双方向的に制御する神経機構の中心的役割を果たしている可能性がある。
柔軟で戦略的な意思決定のための側坐核神経機構 疋田 貴俊
意思決定には柔軟性と戦略を必要とする。戦略性を必要とする図形識別学習課題中のマウスの一細胞レベル神経活動イメージングと神経活動抑制により,側坐核のドーパミンD2受容体発現中型有棘神経細胞が柔軟で戦略的な意思決定に重要なことがわかった。意思決定の柔軟性が障害される精神神経疾患の病態理解に有用と考えられる。
ヒトの社会性を支える柔軟な認知機能の発達 明和 政子
ヒトが持つ種特異的な柔軟な認知機能およびそれを自己管理する実行機能,特に感情制御の健全な発達は,生涯にわたる心身の健康に影響する。乳幼児期は,脳と腸がともに環境の影響を受けて劇的に変容する感受性期である。感情制御に関わる脳発達は腸内環境の影響を受けることから,生後早期からの介入支援法を脳身連関の視座から開発することにより将来の心身の不全を未然に予防,緩和し得る有効な医療アプローチの創出が期待できる。
情動と認知の相互作用—知性の脳科学への展望 近添 淳一
本論では認知と情動の二分法的見解によりなされた多くの発見を総括するとともに,その限界を論じる。これまで,情動は基本情動や次元モデルで,認知は記憶や意思決定で捉えられてきたが,近年の神経科学は両者が動的ネットワークとして相互に連携・統合され,柔軟な行動や知性の基盤を形成することを示している。これらの知見に基づいて,「知性」を再定義し,新たな統合モデルを構築することが求められている。
ネガティブな記憶の歪みは変えられるか—記憶バイアス緩和アプローチの有効性と神経作用 袴田 優子
記憶バイアスは,情動的にネガティブな情報に対する偏った記憶の促進であり,うつ病や不安障害などのストレスに関連した精神障害の発症および維持・増悪に重要な役割を果たすことが知られている。本論では,記憶バイアスを緩和する認知訓練である「記憶バイアス緩和アプローチ」(CBM-M)の有効性と神経作用について,先行知見や最近筆者らが実施したランダム化比較対照試験の知見を交えて紹介する。
自閉症の認知硬直性を惹起する神経遷移ダイナミクスと動的脳刺激法による介入 渡部 喬光
自閉スペクトラム症(ASD)は社会疎通性の障がいと認知の硬直性で特徴づけられる。本論では「ASD当事者では,脳全体の神経動態が定型発達者に比べて硬直化しているために,認知の硬直性や社会疎通性の障がいが生じている可能性がある」「この大域的神経ダイナミクスの硬直性を解除してあげると,認知の硬直性や社会疎通性の障がいといった中核症状が緩和される」ということを述べる。
収録内容
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特集 柔軟な認知機能
脳の柔軟な符号化と認知機能
虫明 元
柔軟な判断に必要な情報収集の変容の神経メカニズム
宇賀貴紀
サブゴールを組み立てて目的を達成する脳の働き
渡邉 慶
自己と他者の行動予測に基づく柔軟な認知を可能にする神経回路
宮本健太郎
コリン作動性ニューロンによる行動柔軟性の双方向制御
岡田佳奈
柔軟で戦略的な意思決定のための側坐核神経機構
疋田貴俊
ヒトの社会性を支える柔軟な認知機能の発達
明和政子
情動と認知の相互作用──知性の脳科学への展望
近添淳一
ネガティブな記憶の歪みは変えられるか──記憶バイアス緩和アプローチの有効性と神経作用
袴田優子
自閉症の認知硬直性を惹起する神経遷移ダイナミクスと動的脳刺激法による介入
渡部喬光
●日本人が貢献した認知症研究の足跡
第4回 アリセプト®の開発秘話
杉本八郎
●原著・過去の論文から学ぶ
第15回 レム睡眠行動異常症をめぐる原著に隠された研究者たちの奮闘の歴史
平田幸一
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