精神医学 Vol.67 No.6
2025年 06月号
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特集にあたって
企画:鈴木道雄(富山大学名誉教授/本誌編集委員)
疾患は時代とともに変化する。身体疾患においては,過去に疾患の中心を占めていた感染症は,抗菌薬やワクチンの開発などによってその多くが克服された一方で,グローバル化の進展や地球温暖化が新興感染症のパンデミックをもたらしている。また,高齢化や生活習慣の変化は,悪性腫瘍やメタボリックシンドローム/生活習慣病の増加を招いた。時代とともに変化することは精神疾患も同様であるが,その変化の本質や背景要因は,身体疾患に比較すると明確でないことが多いように思われる。
教育や医療などの現場における神経発達症の増加は,現代の精神疾患における動向の特に大きな特徴の一つである。時代,国,文化を問わず一定の割合で生じると信じられていた統合失調症が減っており,軽症化していると多くの臨床家が実感している。うつ病患者の顕著な増加とともに顕在化した,メランコリー親和型うつ病とは異なる非定型病像を示すうつ病は,うつ病の診断や治療の見直しを迫るものであった。双極症についても,II型の概念が導入されたことにより,裾野が大きく広がり,診断と治療に変化がもたらされている。ボーダーラインパーソナリティ症などのパーソナリティ症の減少や軽症化を指摘する声も少なくない。摂食症は,かねてより時代や国によって有病率が異なる疾患として知られている。
上記に例を挙げたものに限らず,時代とともに生じる精神疾患の変化について,それが疫学的な事実であるのか,また現在はどのような状況にあるのかを確認し,それらの変化の本質を理解することは,疾患の理解だけでなく,診断や治療を実践するうえでも重要であろう。時代による変化の背景には,病態理解の進展に伴う疾患概念などの変化や,社会的状況や文化などが人格形成や心理状態に影響を及ぼすことによって生じる発症率や有病率,臨床的表現型の変化など,さまざまな要因があると考えられる。また,精神疾患の境界は曖昧であるため,診断方法や診断基準の変化によって診断の態様は大きく変わりうるし,治療標的や治療技法の変化が同じ疾患の別の側面や異なるステージをより浮かび上がらせることもある。別々の疾患に生じている変化が相互に関連していることも予想される。過剰診断・過小診断の問題や,疾患喧伝(disease mongering)の影響を考慮すべき場合もあるかもしれない。
本特集は,精神疾患について,時代とともに変わってきた,あるいは変わりつつある疫学的・臨床的特徴を取り上げ,その背景にある要因を明らかにすることにより,それらの変化の本質を見極め,理解を深めることを意図している。
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特集 時代とともに変わる精神疾患──その変化の本質を理解する
企画:鈴木 道雄
特集にあたって
鈴木 道雄
精神疾患の疫学とその意義
西 大輔
精神科診断の変化の影響
上野 修一
神経発達症概念の変遷
辻井 農亜
最近の統合失調症は変わったのか?
須賀 英道
双極症──疾患概念の変遷から併存症,認知症への移行などわかってきたこと
寺尾 岳
うつは世につれ世はうつにつれ──世にうつろううつ病,うつ病がうつす世
小林 聡幸
時代とともに変わる不安症
塩入 俊樹
強迫症の時代的変遷──主に1990年代から2000年代へ
舘野 歩
心的外傷後ストレス症(PTSD)と遷延性悲嘆症
飛鳥井 望
社会変動と解離症
柴山 雅俊
時代とともに変わるパーソナリティ症の診断と治療
林 直樹
摂食症概念の変遷
宮脇 大
時代とともに変わる依存/嗜癖の実態
西村 光太郎・他
●研究と報告
臺式簡易客観的精神指標テストでみる成人広汎性発達障害の精神機能──統合失調症・健常者との対比を通して
後藤 大介・他
●短報
高齢者の精神病性うつ病に対して炭酸リチウムを比較的高濃度で併用することが奏効した一例
井上 駿・他
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