総合診療 Vol.35 No.5
2025年 05月号
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Editorial
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〔エピソードII〕 カラダの中の“水”と病気
矢吹 拓(国立病院機構 栃木医療センター)
紀元前5世紀頃、ギリシャの医聖ヒポクラテスは、体を構成する基本的な要素として「四体液説」を唱えた。血液、粘液、黄胆汁、黒胆汁の4つである。これらのバランスが健康を司り、その乱れが病を引き起こすという理論は、その後、近代医学に至るまで長く影響を与えた。ヒポクラテスも「カラダの中の水」に大いに着目していたのである。
ヒトの体重の約60%は水分であり、その多くが細胞内液と細胞外液に分かれて分布している。体液は電解質や蛋白質、ホルモンなどを運びながら全身を循環し、物理的な支持と化学的な均衡を保っている。通常は均衡が保たれている水分のバランスが一度崩れると、さまざまな病態が姿を現す。人体において水は、単なる「液体」ではない──それは、生を支える場であり、病を媒介する存在でもある。本特集『ウォーター・ウォーズ』はエピソードI『ストーン・ウォーズ』に続くシリーズ第2弾として、「カラダの中の水と病気」にスポットをあてたものである。
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多くの臨床医にとって、「カラダの中の水」との付き合いは日常そのものである。心不全による肺水腫、肝硬変による腹水、四肢末梢の浮腫、関節内の液体貯留……。それらは、通常はカラダにとって非常に重要な役割を果たす一方で、時には“あるべき場所”を離れて異物化している瞬間のようでもある。流動的な役割を果たしているのは非常に興味深い。日常臨床において、あれだけ溜まっていた水があっという間になくなっていくのを目の当たりにすることも少なくないだろう。
「たゆたえど沈まず Fluctuat nec mergitur」
この言葉は16世紀頃からフランスパリ市の紋章に書かれているラテン語である。セーヌ川の中州にシテ島という島があり、この島は川の氾濫などで何度も沈みかけてきたが、それでも島として何世紀にもわたって残り続け今日に至っている。川を行き交う船人たちはこの島の様子を見ながら、いつしか合言葉のように「たゆたえど沈まず」と唱えるようになったという。この言葉には、何度でも流れに逆らわず、激流に身を委ねて、しかし、決して沈まず、やがて立ち上がるという意味が込められている。
カラダの中の水分も、私たちの長い人生の中で時には溺れたり、時には干からびたりと、さまざまな場面を経験する。でも生きている限りそのバランスを絶妙にとりながらカラダを維持してくれるのである。まさにたゆたえど沈まず。本特集は、その見えざる“水の営み、そして水との戦い”を可視化しようという試みである。
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本特集では、水の動態を理解するための総論から始まり、各臓器における水分貯留とその病態を横断的に解説する。また、稀少疾患や薬剤性、水媒介性感染症、水環境に関連した特殊な病態にまで焦点を広げ、「水と人体」の関係を可能な限り立体的に描くことを目指した。各領域のエキスパートの皆様に素晴らしい原稿を賜り、心から感謝したい。この特集が多くの皆様の手に届き、水との対決に少しでも役立つことを期待している。
P.S. 次回完結編、エピソードIIIに乞うご期待!
収録内容
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特集 ウォーター・ウォーズ──カラダの中の“水”と病気
企画:矢吹 拓
■総論
①カラダの中の“水”と病気──歴史から紐解く水に関わる疾患や病態
矢吹 拓
②水に関連する検査たち──徹底解説! 穿刺検査とその解釈
五十嵐 岳
■疾患別各論~水が関係するコモンな疾患群
①頭頸部疾患
齊藤 喬・本田優希
②呼吸器・循環器疾患
家 研也
③消化管疾患
原田 拓
④泌尿器・婦人科疾患
城田祥吾
⑤筋骨格系・軟部組織疾患──関節痛をきたす疾患
井原紫逸・上原孝紀
■疾患別各論~レアな疾患群
①肝性胸水
佐藤 塁
②Meigs症候群
礒田 翔
③乳び胸水・乳び腹水
永峰恵介・齋藤昌美・小山明彦
④胸膜中皮腫・腹膜中皮腫
中村晃史
⑤羊水塞栓症
篠根早苗
⑥膀胱自然破裂
大津重樹・矢吹 拓
⑦yellow nail syndrome
山村里恵
⑧capillary leak syndrome (Clarkson's syndrome)
小原佐衣子
⑨腹膜偽粘液腫
林 裕樹・金城達也・高槻光寿
■水に関わる疾患番外編
①水媒介性の感染症
藤田浩二
②海に関わる疾患たち
櫻井俊彰・鈴木智晴
③水系物質の摂取で引き起こされる疾患~水中毒
鈴木森香
④薬剤や治療と水
矢吹 拓
今月の「めざせ! 総合診療専門医!」問題
●Editorial
〔エピソードII〕カラダの中の“水”と病気
矢吹 拓
●日常診療で出会う “おとなの発達障害”|明日から使える身体症状に対する問診と診断アプローチ|5
普段と異なる反復行動や苛立ちをみせる女性
廣田智也
●ジェネラリストに必要な ご遺体の診断学|26
実践基本編⑥:感染症
森田沙斗武
●アスクレピオスの杖|想い出の診療録|61
50年ぶりの帰国
倉井華子
●構造式で語る医学|薬物の交差反応や意外な副作用を学ぼう!|5
似たモノ? 別モノ? キノロン製剤
上田剛士
●臨床教育お悩み相談室|どうする!?サロン|23
オリエンからはじまる武勇伝! カッキーン!
長野広之|木村武司|佐田竜一
●What's your diagnosis?|269
あんぱんの中身に注意
鈴木 裕|穂積未来|風間 亮|浜田 禅
●オール沖縄! カンファレンス Ver.2.0|レジデントの対応と指導医の考え|100
酷暑の隠された病
下地道明|山中裕介|砂川惇司|杉田周一|本永英治|鈴木智晴、他(監修)
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