AI技術開発等を目的とした当社著作物の利用について(著作権法第30条の4あるいは47条の5に関する考え方について)
はじめに:AI開発で当社著作物の利用をお考えの方へ
AI技術等の進展により、AIに著作物を含む大量のデータの収集・解析・応用などの機械学習を行わせることでAIモデルを構築し、コンテンツ生成及びその商用化を行う手法が一般化しつつあります(以下、「AI技術等の活用」)。しかしながら、AI技術等の活用を目的として著作物をご利用される場合、意図せず著作権侵害を引き起こしてしまう可能性があるため、注意が必要です。
AI技術等の活用を目的として当社著作物のご利用をお考えの方(以下、「利用者」)におかれましては、トラブルを未然に防ぐためにも、予め当社へご相談くださいますようお願いいたします。当社は正規ライセンスのご提供を含め、協業に向けた検討をさせていただきます。
以下、当社の見解と取り組みについてご説明します。
医療情報とAIを取り巻く環境について
AIが著作物を含む大量のデータを学習し、新たな価値を創出することは、医療の発展に大きく貢献する可能性を秘めています。
わが国の著作権法には、こうした技術革新を念頭に置いた柔軟な権利制限規定(第30条の4、第47条の5)が存在しますが、その解釈は一義的ではありません。『AIと著作権に関する考え方について』(令和6年3月 文化審議会)等の公的見解は一つの指標ではあるものの、個別ケースごとに慎重な判断が求められています。
AI技術等の活用に伴う当社著作物利用に関する見解
上述の通り、わが国の著作権法第30条の4、第47条の5に規定される範囲においては、権利者の許諾を有することなく、AI技術等の活用を目的とした著作物の利用が可能となります。しかし、著作物を利用する場合においては、その権利制限規定の範囲外となるような著作権侵害事例が相当数存在する可能性があると考えます。
1.著作権法第30条の4(非享受目的利用)の適用について
本条は「思想又は感情の享受」を目的としない利用を認めるものですが、有償・無償を問わず将来的に第三者へのサービス提供等を計画したAI開発は、開発段階から事業としての「享受目的」が併存していると評価されるのが相当です。これは、著作物の価値を享受する者からの対価回収機会を保護するという法の趣旨にも反すると考えられます。
したがって、第三者へのサービス提供等を前提としたAI技術等の活用については、無条件に本条が適用されるわけではなく、著作権を侵害するリスクがあると考えるべきです。
2.著作権法第47条の5(情報解析のための軽微利用)の適用について
本条は、情報解析の結果提供に「付随」する「軽微な利用」を認めるものです。しかし、複雑多岐にわたる医療情報を正確かつ簡潔にわかりやすくまとめた当社の著作物は、いずれも推敲に推敲を重ねて創作されたものであり、たとえその量が少ないものであっても本条の適用条件である従属性、軽微性が即座に認められるものではなく、またそれをその都度判断するのは現実的ではありません。
したがって、利用者が常に本条の適用があるものとして一方的に判断することは、紛争リスクを伴うものであると考えられます。
3.但し書き規定(著作権者の利益を不当に害する場合)の適用について
1.2.にかかる2つの条文には、いずれも「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」において、その適用が除外される但し書きがあります。これは、著作物の既存市場と衝突したり、将来の潜在的市場を阻害したりしないかという観点から判断されます。
当社は、医師、看護師、薬剤師など広範な医療専門家向けの書籍・雑誌・データベース等を長年提供しており、これらは明確な利用市場を形成しています。また、後述の通り、当社自身もAI技術を活用した新たなサービスという将来市場の開拓を具体的に進めています。
したがって、AI技術等の活用を目的として当社著作物を無許諾で利用する行為は、当社の現在および将来の事業機会と直接競合し、著作権者の利益を不当に害する可能性が高いと考えます。
医学・医療の発展に向けた当社の取り組みとお願い
当社はAI技術の発展を阻害することを望んでおらず、適切なルールの下でAI技術等の活用が推進されることで、著作物の価値が正当に評価され、さらなる利活用が進むことを期待しております。そのために、当社は新たに以下の具体的取り組みを開始いたします。
1.AI学習のためのライセンスサービスのご提供
AI開発には、法律上のリスクを低減し、学習データの品質・出所を明確化するトレーサビリティの確保が不可欠です。そこで当社は、著作権処理済みで高品質な医療情報をAIの学習データとして安心してご利用いただける、有償のAIライセンスサービスを提供します。玉石混交のインターネット上の情報とは異なりノイズが少なく、かつ常に最新の知見にアップデートされていくコンテンツ競争力をもって、皆様のAIサービスの品質向上と開発の効率化に貢献いたします。
2.自社AIサービス展開による将来市場の開拓
『今日の診療』や『治療薬マニュアル』等の既存サービスにAIを導入し、媒体・領域を横断した総合的な医療情報プラットフォームへと進化させてまいります。当社は既存事業を守るだけでなく、変わりゆくニーズに応え続けることで、将来的な市場開発にも努めてまいります。
つきましては、当社の著作物をAI技術開発にご利用の際は、上記方針をご理解のうえ、必ず事前に下記連絡先までご相談くださいますようお願い申し上げます。個別の状況に応じた有償AIライセンスサービスのご提案を含め、前向きに協業の可能性を検討させていただきます。
著作権者と利用者の相互理解と協力こそが、AI時代の医学・医療の健全な発展に繋がるものと信じております。皆様のご理解とご協力を、心よりお願い申し上げます。
2025年7月
株式会社 医学書院