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NHKスペシャル

人体Ⅱ 遺伝子


編集:NHKスペシャル「人体」取材班 

  • 判型 B5
  • 頁 224
  • 発行 2020年09月
  • 定価 3,080円 (本体2,800円+税10%)
  • ISBN978-4-260-04244-4
生命の奥底で躍動する遺伝子の姿を、高精細CGで描く! NHK人気番組の完全書籍化
▼第1集 あなたの中の宝物“トレジャーDNA”
DNAには長らく役割が不明で“ジャンクDNA”とさえ言われた領域があった。しかし、最新科学がそこに光を当てた。ゴミの山と思われた場所から、いま次々と「トレジャー」が発見されている。
▼第2集 “DNAスイッチ”が運命を変える
人は、生まれ(遺伝子)と育ち(環境)どちらが重要か? 答えの鍵は“DNAスイッチ”とも呼べるしくみ、「エピジェネティクス」にあった。
序 文
はじめに

 NHKスペシャルが新型コロナウイルスについて最初に報じたのは、2020年2月初旬のことでした。そこからわずか1か月足らずの間に、人類の歴史に爪痕を残すような感染の猛威が世界中を襲いはじめました。私たちは仲間の制作スタッフと力を合わせ、毎週のように新型コロナウイルスに関...
はじめに

 NHKスペシャルが新型コロナウイルスについて最初に報じたのは、2020年2月初旬のことでした。そこからわずか1か月足らずの間に、人類の歴史に爪痕を残すような感染の猛威が世界中を襲いはじめました。私たちは仲間の制作スタッフと力を合わせ、毎週のように新型コロナウイルスに関する最新情報を伝え続けました。そしてこの「はじめに」を執筆している7月現在、国内の感染者数が再び増加傾向に転じ、社会全体が不安な日々を過ごしています。
 本書のベースとなるNHKスペシャル『シリーズ「人体」II 遺伝子』が放送されたのは、2019年5月のこと。まさか1年後にこのような世界が訪れようとは、知るよしもありませんでした。果たして最先端の科学や医学は、この感染症をどう克服するのか……。その難問に挑むための手がかりとして期待を寄せられているのが、まさに本書で取り上げている遺伝子研究の最前線の成果なのです。本書内に登場する研究のすべてが、新型ウイルスへの対抗策と密接に関連しているといっても過言ではありません。研究現場では、新型コロナウイルスの正体を知り、克服していくための治療を確立するために、日夜、必死の分析が続けられています。

 その例をご紹介しましょう。シリーズ「人体」のスタッフを総動員して制作したNHKスペシャル『タモリ×山中伸弥 人体 VS ウイルス』(2020年7月4日放送)では、遺伝子研究の取材経験をもとに、ある特別な治療法に注目しました。それは、新型ウイルスに感染し、回復した人の血液に含まれる「中和抗体」を取り出し、患者に注入する治療法です。新型コロナウイルス感染症から回復した患者149人の血液に含まれる抗体を詳しく分析した結果、体内でつくられた抗体の量は人によってさまざまで、中には平均の10倍以上の量をつくり出せる人も存在していることがわかりました。一部の人が大量につくり出す強力な抗体は、新型コロナウイルスに対抗できる、実に優れた武器になると考えられています。そしてその背景には、本書で詳しく説明する“ヒーローDNA”が関係している可能性が指摘されています。
 もう一つ。『タモリ×山中伸弥 人体 VS ウイルス』の番組では、新型コロナウイルスが、私たちの身体に備わった「自然免疫」の防御を突破する力をもっていることをお伝えしました。ウイルスに感染した細胞は、「敵が来たぞ!」というメッセージ物質(インターフェロン)を発して、仲間の免疫細胞に危険を伝え防戦します。ところが新型コロナウイルスには、そのメッセージ物質のはたらきを抑え込む力があるのです。この狡猾な手口には、ウイルス自身の遺伝子が関わっている可能性が浮かび上がります。さらには、その遺伝子の変異を追跡した結果、免疫のしくみを抑え込む能力が強化された新型コロナウイルスが出現している可能性も指摘されています。遺伝子研究という強力なツールを手にした人類は、複雑で神秘的ともいえる“命のしくみの神髄”に迫り、医学や医療をさらに大きく前進させようとしています。こうした研究が、終わりの見えないパンデミックをどう打開していくのか。研究者たちは正念場を迎えています。

 本書の原稿は、NHKスペシャルの大型科学番組シリーズのリサーチに長年携わり、CGのディレクションも手がけてきた坂元志歩さんが、番組ディレクターの協力を得て執筆しました。番組では紹介しきれなかった最先端の情報も数多く含まれています。中でもワクワクするのは、「エピジェネティクス」というしくみを解説するくだり。DNAのもつしくみが地球生命の進化にどう関わってきたかについて、胡桃坂仁博士の刺激的な考えを紹介しています。生命の祖先は、まずRNAを遺伝情報として利用した生命が誕生して「RNAワールド」をつくり、その後に、DNAを遺伝情報とする生命が誕生して「DNAワールド」をつくり出しました。さらに、真核生物の段階において「クロマチンワールド」という新しいステージを獲得。人体は、そのしくみの制御を可能にする初めての生物になるかもしれないというのです。
 くしくも、前述した『タモリ×山中伸弥 人体 VS ウイルス』の番組の中でも、“DNAと進化”についての話題が盛り上がりを見せました。ウイルスには、私たちの細胞に感染したときに自らの遺伝子を私たちのDNAへ組み込んでしまう種類のものがいます。実に、私たちのDNAの約8%がそうした種類のウイルス由来だというのです。たとえば、哺乳類が母親のお腹で一定期間子どもを成長させるために獲得した「胎盤」を形づくるのに大切なDNAはウイルス由来のものです。そして、脳が長い期間にわたって物事を覚える「長期記憶」に欠かせないDNAもウイルス由来。精子と卵子が一つになり、新しい命を生み出す「受精」に、ウイルスの遺伝子が利用されている可能性も指摘されています。生命の40億年にも及ぶ進化の歴史を、遺伝子研究がどこまで紐解いてくれるのか。興味は尽きません。

 今を、冷静に、深く知るために、
 そして、命をめぐる摂理を豊かに学ぶために、
 この遺伝子の世界を分かりやすく伝え続ける必要があると、
 改めて感じています。

 NHKスペシャル シリーズ「人体」制作統括  浅井健博
書 評
  • ヒトはゲノムから,自分自身をどこまで理解できるか?
    書評者:石野 史敏(東医歯大難治疾患研究所教授・エピジェネティクス分野)

     2003年にヒトゲノム計画は完了し,全ゲノム配列が明らかになった。しかし,計画が最終目標に掲げていた「ヒトゲノムの機能を完全に読み解く」ことはまだできていない。予想よりもはるかに少ない2万の遺伝子しかなく,それが占める部分はゲノム全体のたった2%ほどしかない。ヒトゲノムの残り98%は一見,訳のわか...
    ヒトはゲノムから,自分自身をどこまで理解できるか?
    書評者:石野 史敏(東医歯大難治疾患研究所教授・エピジェネティクス分野)

     2003年にヒトゲノム計画は完了し,全ゲノム配列が明らかになった。しかし,計画が最終目標に掲げていた「ヒトゲノムの機能を完全に読み解く」ことはまだできていない。予想よりもはるかに少ない2万の遺伝子しかなく,それが占める部分はゲノム全体のたった2%ほどしかない。ヒトゲノムの残り98%は一見,訳のわからない無意味なDNAで占められているが,世界中が競って集めた疾患SNPデータのその多くがここにマップされた。

     NHKスペシャル『シリーズ「人体」II 遺伝子』には,このヒトゲノムの98%部分に潜んでいる機能に関する研究の最前線が取り上げられている。第1集では,この未知の部分にあるたった1つのDNA塩基の変異(SNP)がヒトの表現型に影響を与える例がいくつか紹介されている。これは,さまざまな環境に適応してきたヒトの進化における自然選択の歴史を物語っている。最先端の分子生物学は,これにどのような説明を与えるのか? SNPが遺伝子発現メカニズムに与える影響を,CGの力も借りてわかりやすく紹介している。ここからわかるのは,疾患にかかわる1つひとつの遺伝子変異やSNPがヒトの表現型に与える影響を,丁寧に深く掘り下げていく地道な研究者の努力が心踊る発見につながっていくのであり,その成果の積み重ねが,最終的に「ヒトゲノムの機能を完全に読み解く」ことにつながることである。

     第2集では,同じDNA配列を持つにもかかわらず,多様な表現型を生み出す原動力であるエピジェネティクスに焦点が当てられている。第1集で扱ったDNAの変異(配列の変化)がどのように表現型に影響を与えるかに対し,エピジェネティクスは1つの受精卵から多様な細胞,組織を持つ個体を作り上げる機構を理解するための,DNAメチル化による遺伝子発現のスイッチ機能や,ヒストン複合体によるクロマチンの構造変化の重要な役割などが紹介されている。

     読者の皆さんは,この本で語られる新しい世界観にきっと驚かされるだろう。「ゲノム情報からヒトを理解する」研究がここまで進んでいることにきっと感動を受けるであろう。同時に,生物の多様性を守るために人類は何をなすべきなのか? これらの技術が将来の人類社会,生物界に与える影響も問いかけている。ヒトゲノム研究は慎重に進めなければならないが,この本には多くの日本人研究者の仕事が紹介されており,若い世代には,そこには魅力に満ちた世界が広がっていることを知って欲しいと思う。

     最後に,オリジナリティー溢れる世界の一流研究者への取材を,美しい風景写真,見事な電子顕微鏡写真,細胞世界を分子レベルで表現したハイレベルのCGを盛り込み,素晴らしい本にまとめあげたNHKスペシャル「人体」取材班の努力に敬意を払いたい。
目 次
はじめに

第1集 あなたの中の宝物“トレジャーDNA”
 part 1 ゲノム解析の進歩がひらく新しい生物学の扉
 part 2 未知の領域に秘められた驚異の能力
 part 3 セントラルドグマの現場で見えたもの
 part 4 あなたも“ヒーローDNA”の持ち主かもしれない

第2集 “DNAスイッチ”が運命を変える
 part 1 双子の運命を分けたもの
 part 2 受け継がれる“DNAスイッチ”
 part 3 未来を生き抜くための切り札

第1集あとがき
第2集あとがき