Medicine
医学を変えた70の発見

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医学の歴史とその発展がオールカラーで! 病気と健康、生と死、疾患と治療――私たちの身体と心では、どのような仕組みが働いているのか。紀元前の古代エジプトで書かれた外科パピルスからルネッサンス時代の解剖図譜、現代の最新機器による画像まで、豊富な図版(382点)とともにつづられるヴィジュアル医学史の決定版。
William Bynum / Helen Bynum
鈴木 晃仁 / 鈴木 実佳
発行 2012年09月判型:A4変頁:304
ISBN 978-4-260-01518-9
定価 4,400円 (本体4,000円+税)

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医の知識と技
第1章 身体の発見
 01.エジプト医学 美術,考古学,パピルス,ミイラ
 02.中国医学 全体を理解すること
 03.インド医学 アーユルヴェーダを作った世界
 04.ヒポクラテスの伝統 体液と精気
 05.イスラム医学 継承と革新
 06.解剖学 肉体を曝露する
 07.病理解剖学 死体に切りいる
 08.細胞理論 生命の単位
 09.ニューロン理論 細胞の最終フロンティア
 10.分子 生命の化学
第2章 健康と病い
 11.血液循環 往って,巡って,帰って
 12.精神病院の変遷 狂人の閉じ込め
 13.内部環境 平衡の重要性
 14.細菌 医学史最大の発見?
 15.寄生動物と媒介動物 昆虫と病気
 16.精神分析と心理療法 トーキング・キュア
 17.ホルモン 化学のメッセンジャー
 18.免疫学 身体の防衛メカニズム
 19.遺伝学の革命 遺伝子からゲノムへ
 20.癌の進行 身体を乗っ取る
 21.補完代替医療 自然を通じた癒し
第3章 商売道具
 22.聴診器 耳をすませば
 23.顕微鏡 新しい世界の発見
 24.皮下注射 肌の奥へ
 25.体温計 「医学とは測ることである」
 26.X線と放射線医学 見えない光が体を照らす
 27.血圧計 健康と病気の指標
 28.除細動器 緊急救命
 29.レーザー 放射線を模倣した光の増幅
 30.内視鏡 見えない部分に視線を届かせる
 31.身体の画像化 X線を超えて
 32.保育器 人工的子宮
 33.医療ロボット 支援の手
第4章 疫病との戦い
 34.ペスト 大量死の世界
 35.発疹チフス 弱者を襲う病気
 36.コレラ 最強の刺客
 37.産褥熱 母親たちを殺したのは?
 38.結核 血を吐く
 39.A型インフルエンザ 変異するウイルス
 40.天然痘 ある病気の根絶
 41.ポリオ 夏の疫病
 42.HIV 世界的流行の教訓
第5章 苦あれば薬あり
 43.アヘン 快楽と苦痛
 44.キニーネ 木の皮の特効薬
 45.ジギタリス 心臓強壮薬
 46.ペニシリン カビが病気を治した
 47.経口避妊薬 女性の選択
 48.向精神薬 精神疾患の治療
 49.サルブタモール 楽に呼吸を
 50.β遮断薬 デザイナー・ドラッグ
 51.スタチン コレステロール低下薬
第6章 外科の飛躍的進展
 52.パレと外傷 戦場における革新
 53.麻酔 外科の革命
 54.消毒と無菌法 清潔な手術
 55.輸血 贈与の関係
 56.神経外科 脳へのアプローチ
 57.白内障手術 失われた視力を回復する
 58.帝王切開 「母親の子宮から月足らずで引き出された」
 59.心臓外科 限界への挑戦
 60.移植手術 病気と臓器,自己と非自己
 61.人工股関節置換術 古い身体と新しい部品
 62.キーホール手術 内視鏡を通して
第7章 医学の勝利
 63.ワクチン 病気の予防
 64.ビタミン 補助栄養素
 65.インスリン 「魔法の力をもつ薬」
 66.人工透析 人工の腎臓
 67.喫煙と健康 ライフスタイルと医学
 68.生殖補助医療 体外受精と胚移植
 69.パップテスト 子宮頸癌の予防へ
 70.ヘリコバクター・ピロリ 想定外のバクテリア

訳者あとがき
執筆者一覧
図の出典
引用文献
和文索引
欧文索引

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豊富な図版とテーマ別の章立てで読み進めやすい歴史書
書評者: 市野川 容孝 (東大大学院教授・社会学)
 テレビ・シリーズの『大草原の小さな家』に,たしかこんなシーンがあった。ローラが学校から家に帰ってくると,姉のメアリーが本を読んでいる。ローラが「何,読んでるの?」と尋ね,メアリーが「歴史の本よ」と答えると,ローラは次のように言って,そそくさと外に遊びに行ってしまう。「そんな死んだ人たちの話なんか読んで,何が面白いの。ぞっとしちゃう」。

 勉強しないで遊びに行くことを正当化するために,たぶんローラはそう言ったのだが,ローラのこの言葉はなかなか本質をついている。人間は今を大切に生きるべきであって,その今を昔のために費やすことに一体,何の意味があるのか。ローラに歴史の本を読ませるのは大変だ。今の自分につながる歴史の本でなければ,ローラは決して読んでくれないだろう。

 本書は医学の歴史に関する本である。ローラはこの本を読んでくれるだろうか。絶対に読んでくれると私は思う。それもきっとワクワクしながら。医療の歴史社会学というものを手がけてきたので,私も医学史の本はいくつか読んできたが,それらの多くは年代順に,誰がいつ何を発見したという具合に進む。多分,ローラなら途中で投げ出すだろう。しかし,本書は違う。医学が人の身体をどうとらえてきたか(第1章),病気にどう向き合ってきたか(第2章),どんな道具を用いてきたか(第3章),どんな病気とどういうふうに戦ってきたか(第4章),どんな薬がつくられてきたか(第5章),どんな手術法がどうやって生み出されたか(第6章)といったことが,年代順ではなく,テーマ別に書かれている。まずは医学について自分が知っていることを手がかりに,どこからでも読み始められる形になっている。ローラもこれなら手に取ってくれるはずだ。

 本書のもう一つの魅力は,豊富なカラー図版である。「一体,これは何の絵だろう」とまずは図版に目を通しながら,その後,本文を解説として読むという読み方もできる。この女の子は,なぜ左の写真ではこんなにやせているのに,右の写真ではローラみたいに健康なのか(本書270ページ)。それはインスリンという薬を投与されたから。なぜその薬が必要だったのか。糖尿病という病気にかかっていたから。じゃあ,糖尿病って何? 本書をそのように読み進めていくのも一案だろう。

 そのインスリンについて,本書は「善にも悪にも使える力をもった物質」と記し,1型糖尿病で1920年代にインスリンを投与された若者たちがその後,失明したり,腎臓障害になったことを「不愉快であるが認めなければならない真実」と伝えている。理由は全く違うが,姉のメアリーが後に失明するローラにとって,これは人ごとではないはずだ。本書の第三の特徴は,医学の歴史のそうした影の部分にもちゃんと光を当てていることである。私たちはそういった事実も本書から一つ一つ学びながら,今の医学を理解すべきだろう。
新しい医学の時代の新しい医学の歴史
書評者: 坂井 建雄 (順大大学院教授・解剖学/日本医史学会副理事長)
 医学を教える者にとって,また医学を学ぶ者にとって,医学が築き上げられてきた歴史は大いに関心を呼ぶものである。18世紀初頭のライデン大学の医学教師ブールハーフェは,彼の名声を高めた医学教科書『医学教程』(1708)の序論で,古代から現代までの医学の歴史を概観した。爾来,少なからぬ医学教師が医学の歴史についての講義を行い,医学史の著作を刊行してきた。フランス王立協会の解剖学教授ポルタルは『解剖学外科学史』全7巻(1770-1773)を著し,ライプツィヒ大学内科学教授のヴンダーリヒは医学史の講義をもとに『医学の歴史』(1859)を刊行し,東京大学の解剖学教授の小川鼎三は名著『医学の歴史』(1964)を著した。アメリカのガリソン,イギリスのシンガー,ドイツのズートホフなど医学史の専門家による著作も含めて医学の歴史は,学説と技術の発展や偉大な医学者の足跡を古代から現代にまでたどるというのが,お決まりのスタイルであった。

 しかし最近の医学史はひと味もふた味も違っている。視野を医学の技術や学説だけに限るのではなく,医学とそれにかかわるさまざまな視点を取り上げて多面的に見ていること,特に社会とのかかわりを強調していることであろう。とはいえそのような新しい医学史の著作には,どうしても専門家向けに書かれたものばかりで,一般の読者が気軽に手にとって読めるようなものはなかなかお目にかからなかった。

 ここに登場した『Medicine――医学を変えた70の発見』は,まさに新しいスタイルの医学史を誰もが楽しんで読めるように書かれたものである。しかもその編者が,ロンドン大学ウェルカム医学史研究所の所長を務めた現代の医学史研究の第一人者のバイナム名誉教授であるというのは嬉しいことこの上ない。原著は2011年10月に出版されてたちまち医学史のベストセラーになり,ドイツ語訳と日本語訳が出されている。すでに医学史に関心をもっている人には必読の本であろうし,あるいは医学の歴史を面白そうだと思っている人にも絶好の入門書である。

 本書全体は7章に分かれていて,第1章「身体の発見」は解剖学と生理学の歴史,第2章「健康と病い」は病気の原因についての歴史,第3章「商売道具」は医療技術の歴史,第4章「疫病との戦い」は人類を襲った病気の歴史,第5章「苦あれば薬あり」は薬の歴史,第6章「外科の飛躍的進展」は外科の技術の歴史,第7章「医学の勝利」は20世紀以降の医学の大きなトピックを扱っている。それぞれの章は10程度の短い項目からなり,どの項目から読み始めても,医学史のそれぞれの側面について興味深い話が読める。さらに貴重な図版や写真が数多く添えられていて,図版を眺めるだけでも大いに楽しむことができる。

 この素晴らしい医学史の著作の日本語訳が,原著の出版後これほど早く読むことができるようになったのは,訳者の鈴木晃仁と実佳夫妻の力によるところが大きい。鈴木氏はウェルカム医学史研究所に留学して編者のバイナム教授に師事し,原著のいくつかの項目も執筆している。完成を急いだためか,訳文の流れが滞りがちなところが気にならないでもないが,訳書の出来映えは原著の雰囲気をよく反映した素晴らしいものである。
医学史を斬新な切り口で7つのテーマに分けて解説
書評者: 山本 和利 (札医大教授・地域医療総合医学)
 10年以上前から医学部1年生と一緒に医学史を学んでいる。24のテーマを私が設定してそれを学生が調べ,1回2テーマずつをパワーポイントにまとめて,1テーマにつき質疑応答を含めて45分間で発表する授業形式をとっている。学生たちは医学に関することに初めて触れる機会なので,皆,目を輝かせて発表を聴いている。開講当初は,数少ない医学史の本を探したり,関連書籍を図書館で借りたりしながら学生たちは課題をこなしていたが,最近ではもっぱらインターネットで探しているようだ。確かにカビ臭く小さな活字の漢字だらけの参考書籍は敬遠しがちになろう。そのため豊富な画像をカラーで掲載している書籍を待ち望んでいたところであるが,最近そのような要望に応えてくれる書籍が出版された。それが,『Medicine――医学を変えた70の発見』である。

 これまでの医学史の本は,時系列にそった記述に終始しがちであったが,本書は,古代の医学(エジプト,中国,インドなど)における身体のとらえ方から,現代の最新医術までを医療機器,疫病,薬,外科技術,予防など7つの章(70項目)に分けてわかりやすく解説している。特徴は切り口が斬新なことである。その理由は,医学の長い歴史を,単に時系列によるのではなく,その多様なテーマを上手に7つに分けて,テーマごとに一連の流れを作って描き出しているからである。それゆえ読者は,本書を読むことで7つの視点で7回医学の歴史を振り返ることができる。そして,何よりも幅広い時代・地域から集められた豊富な図版が382点もオールカラーで掲載されているのがうれしい。原書は美術書のように分厚くて重かったが,翻訳版の本書は薄い紙を使って表紙もソフトカバーになり,携帯しやすくなっている。

 ここで内容をいくつか紹介してみよう。第1章は「身体の発見」である。エジプト医学,中国医学,インド医学,イスラム医学の歴史や概念がそれらを象徴する貴重な図版とともに述べられている。「ヒポクラテスの伝統」では,体液と精気という4体液説の概念を解説し,古代のギリシャからガレノス主義への道程を,そして現代医学へどうつながるかを考察している。そして,解剖学,病理解剖学,細胞理論,ニューロン理論,分子という項目を設けて一気に現在にまで駆け上ってゆく。

 「商売道具」と冠した第3章はユニークである。聴診器,顕微鏡,皮下注射,体温計,X線,血圧計,除細動器,レーザー,内視鏡などの開発の歴史が述べられている。そこでは,最初の体温計,指輪を付けたキューリー夫人の手のX線像などの貴重な図版に触れることができる。

 最終章は「医学の勝利」である。ワクチン,ビタミン,インスリン,ヘリコバクター・ピロリなどの項目がある。インスリン療法を受ける前と後の1型糖尿病の少女の同一人物とは思えないほど変化した写真をみると,「医学の勝利」という言葉も頷ける。

 本書は,どの項目も図版を含めて見開き2ページまたは4ページに収まっているので,1項目であれば短時間で読むことができる。学生たちの医学史の資料としてのみならず,医師や一般の方々が就寝前などのちょっとした時間に読むのにもうってつけである。ぜひ,一読を薦めたい。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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