ミニマル発生学
医学系の人体発生学の入門書、あるいは現代生命科学を知るための教養書として必読!
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人体をベースに、胚発生から再生医療への応用まで、発生生物学の『大事な知識』をコンパクトにまとめた。これまで生物学を学んできた学生も学んでこなかった学生も、今後基礎医学を志す学生も臨床医学を志す学生も、すべての読者が楽に読み通せ、かつ役に立つことを目指したミニマルな内容。医学系の人体発生学の入門書として、あるいは現代生命科学を知るための教養書として、必携の1冊!
著 | 岡 敦子 |
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発行 | 2023年10月判型:B5頁:168 |
ISBN | 978-4-260-04938-2 |
定価 | 3,740円 (本体3,400円+税) |
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序文
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はじめに
近年,生命科学は目覚ましい発展を遂げていますが,なかでも発生生物学は最も変貌した学問分野のひとつと言われています.かつてウニ,カエルといった動物ごとに記載されていた発生は,共通の原理原則のもとに分子レベルで理解されるようになり,種の垣根を越えた動物共通の体づくりのメカニズムが次第に明らかになってきました.モデル動物の実験結果が人体発生のメカニズムの解明につながり,ヒトゲノムの解読も進み,解剖学の一分野として歩んできた人体発生学は大きな転換期を迎えています.遺伝学,分子生物学,ゲノム科学などとも密接に関連する基礎学問として,臨床との結びつきがこれまで以上に深まりつつあります.先天異常だけでなく,がんなどの出生後に発症する疾患の原因解明や,再生医療の発展のためにも,いまや発生学的知識は不可欠です.
最新の知見が次々と報告され,発生学の専門書は情報量を増やしながら頻繁に改訂されていますが,それだけに初学者には学びづらい分野になっていることは否めません.そこで,医学部1,2年生を対象に,人体発生を含めた発生生物学のエッセンスをわかりやすく解説することを目標として,本書の執筆を始めました.入学前に生物学を履修しなかった学生でも自力で読み進められるように,解剖学や分子生物学的知識への言及は必要最低限に留め,文体を口語調にしてイラストにも工夫を凝らしました.その一方で,読破後にさらに本格的に,専門書を使って学んでいけるように,発生生物学の学問的魅力や新たな概念,最近の研究動向をできる限り盛り込みたいと考えました.
本書は全7章から構成されていますが,第1章では,広い視点から発生生物学の概要を把握できるように,学問全体の歴史的流れや基本概念について解説します.つづく第2~6章では,発生過程で起こる主な現象を,配偶子形成から受精を経て出生に至るまで,分子メカニズムにも触れながら時間軸に沿って順に解説します.各現象の形態的変化については,ヒトの卵や胚子を使って説明しますので,本書の読了後に人体発生の専門書を読む場合もスムーズに入っていけるようになっています.最後の第7章では,発生の基礎研究の成果が臨床に応用されていることを,例を挙げて解説します.特に,先端研究が現在のiPS細胞を使った再生医療を支える基盤になっていることを紹介します.医学系の人体発生学の入門書として,あるいは現代生命科学の主要分野を俯瞰する教養の書として,本書が役立つことを願っています.
時間とともに質的に変化する発生は,元来複雑な生命現象で,その背後には計り知れない巧妙なしくみがあります.最近になってようやくその一部が明らかになってきましたが,まだ多くの謎が残されています.例えば,現在起こっているさまざまな環境の変化が,発生過程でどのようなエピジェネティックな変化を起こし,次世代にいかなる影響を及ぼすのか,正確にはまだ答えることができません.発生について学ぶことは,私たちがどのようにして現在の姿になったのか,生物学的にいかなる存在であるか,そして将来の世代のために今何をすべきか,考え続けることでもあります.発生を学ぶ面白さやその意義を,一人でも多くの将来を担う人たちに本書を通じて伝えることができれば幸いです.
本書の作成にあたっては,第一線で活躍されている研究者の方々から貴重な図や写真をご厚意でお借りしました.これらの資料を快くご提供くださり,さまざまなご助言をお寄せくださった諸先生方に,あらためて感謝の意を表します.また,本書のイラストをお願いしたシマ マスミさんには多くの注文に応えていただき,心より御礼申し上げます.最後に,本書を企画していただいた医学書院 編集部の大橋尚彦さん,完成まで忍耐強く支えていただいた制作部の玉森政次さん,編集部の中 嘉子さんに深く感謝いたします.
2023年7月
岡 敦子
目次
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はじめに
第1章 序論
1 なぜ発生学を学ぶのか?
① 発生学のはじまり:前成説と後成説
② 実験発生学の発展と誘導の発見
③ 分子生物学との融合──分子発生生物学
2 頭の発達した脊椎動物:ヒトの発生学的特徴
① 進化からみた脊椎動物の発生の特徴
② 脊椎動物共通の胚の構造:脊索,神経管,神経堤,体節
③ 脊椎動物の陸上への進出で何が起きたか
④ 哺乳類の発生の特徴
⑤ 霊長類の脳の発達
⑥ 進化発生生物学(Evo-Devo)
第2章 配偶子形成
1 有性生殖が生み出す遺伝的多様性
① 減数分裂の特徴と意義
② 生殖細胞はいつ体細胞と分かれるか?
2 卵子形成
① 減数分裂の停止と再開
② 卵胞の発達
3 精子形成
① 精祖細胞の細胞分裂と減数分裂
② 精子完成
③ 精子形成を支える体細胞
4 性の決定と分化
① SRY遺伝子
② 生殖器系の発生
第3章 受精から着床まで
1 受精
① 受精の過程
② 受精の種特異性
③ 多精子受精の防止
2 卵割
① 卵割という特別な体細胞分裂
② コンパクション
3 胚盤胞の形成
① 発生運命の異なる2つの細胞群
② 調節的発生
4 着床
① 子宮内膜の周期的変化
② 卵巣の周期的変化との関連
③ 着床した場合
第4章 原腸形成と神経管の形成
1 原腸形成前:二層性胚盤の形成
2 原腸形成
① 原腸形成の発生学的意義
② ヒトの原腸形成の過程
3 神経管と神経堤の形成
① 神経管の形成過程
② 神経堤の形成と細胞移動
4 原腸形成と神経誘導のしくみ
① 脊椎動物の誘導のしくみ:中胚葉誘導因子と神経誘導因子
② オーガナイザーはヒトにも存在する
5 原腸形成後:ボディプランの確立
① 中胚葉の発生と体節形成
② 胚子の折り畳みと原始腸管の形成
③ 脊椎動物固有のボディプラン
6 発生にかかわるシグナル伝達経路
① 傍分泌(パラクリン)
② 接触分泌(ジャクスタクリン)
第5章 器官形成
1 各器官共通の形づくりのしくみ
① 3つの体軸
② 組織間の相互作用(誘導)
2 外胚葉由来の組織・器官の発生
① 中枢神経系の発生
② 視覚器(眼)の形成
3 中胚葉由来の組織・器官の発生
① 体節の分化
② 泌尿器系の発生
③ 循環器系の発生
④ 体肢の形成
4 内胚葉由来の組織・器官の発生
① 消化器系の発生
② 肝臓の形成
③ 膵臓の形成
④ 呼吸器系の発生
⑤ 咽頭囊(鰓囊)の分化
第6章 胎児期と胎膜
1 胎児期
① 胎児の成長
② 出産時
③ 胎児の成長を促す因子
2 胎盤の形成と働き
① 絨毛膜以外の胎膜
② 胎盤の形成と構造
③ 多胎の場合の胎盤と羊膜
④ 成熟した胎盤の機能
⑤ 分娩
3 出生前診断
① 超音波検査──ultrasonography
② 母体血清マーカー検査──maternal serum screening test
③ 羊水穿刺──amniocentesis
④ 絨毛生検──chorionic villus sampling(CVS)
第7章 臨床への応用
1 先天異常の要因
① 遺伝的要因
② 環境要因
2 発生を起源とする出生後の疾患
① がん
② その他の疾患
③ エピジェネティクス
3 再生医療
① 幹細胞
② 細胞の分化
参考文献
索引