言語聴覚士のための基礎知識
音声学・言語学 第2版

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言語聴覚士をめざす学生が学ぶ「音声・言語学」領域のすべて(「音声学」「音響学」「聴覚心理学」「言語学」)を網羅したはじめての教科書。
シリーズ 言語聴覚士のための基礎知識
編集 今泉 敏 / 小澤 由嗣
発行 2020年03月判型:B5頁:320
ISBN 978-4-260-04127-0
定価 4,400円 (本体4,000円+税)

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    2021.09.14

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第2版 はじめに

 言語聴覚療法学を修得しようとする人々にとって,音声や言語,その発達に関する深い理解が何よりも強い基盤となることは言うまでもない.この教科書は,音声と言語,その発達に関する研究と教育,臨床の第一線で活躍する執筆者に初歩からわかりやすく解説していただいたものである.
 改訂版では最新の知見を取り入れて全般的に修正を加え,初版にはなかった章も新たに設けた.音響学や聴覚学,そして文字言語や学習言語の発達と障害については独立の章を設けた.急速に進展しつつある言語の脳科学と臨床に関しても大幅に書き加えた.音声・言語に関する基盤的知識を学ぶ教科書として活用していただけると著者一同,大きな喜びである.
 各章とも,まず日本語に限らずヒトの世界では一般に成り立つ概念の解説から始めている.例えば音声学の章では日本語をはじめヒトの音声が共通に備えている基本的な特性を示し,それに続いて日本語で特に際立っている特性を解説するように構成した.章の最後には,基礎知識がコミュニケーション障害の臨床にどのように役立っているのか,臨床を目指す場合に何をなぜ知っておかなければならないか,初歩からわかりやすく解説するようにした.
 近年の教科書は1つの学説にそって必要最小限の基礎知識をマニュアル的に示すものが多い.そのほうが学びやすいという利点があるものの,唯一無二の真理として確立され完成した学問という錯覚を生み出し,独自の探求力を損ないかねない面もある.実社会に出てしばしば教科書の記述に合致しない現実に遭遇するとはたと困ってしまうことになる.この教科書では,音声学や言語学,発達学という長い歴史をもつ学問でも実は未解決の課題,しばしば対立する異なる見解をいくつも抱えていることを隠さずに示すことにした.言語学や発達学では,生得的基盤を重視する視点や,社会的コミュニケーションと学習・発達を重視する視点などさまざまな考え方があって,それに応じて使用する基本概念や研究方法は違ってくるし,臨床への取り組み方も違ってくる.
 視点の多様性に加えて,基本的な用語や概念にも立場による違いがある.例えば発語運動を文系では「調音」,医療系では「構音」と表現する.医学で「音声の障害」といえば声帯ポリープができて嗄声になったというような発声機能の障害,つまり声の障害を意味し,構音障害や共鳴障害など発話器官の障害を含めない.構音障害を担当する言語聴覚士なら音声(phone)と音素(phoneme)を区別して,構音の歪みが同一音素内にとどまる程度なら歪み,音素を変えてしまう程度なら置換と表現する.文系の「音声学」がカバーする範囲の障害は,医療系では音声障害,構音障害,共鳴障害,言語障害などに細分化される.医療系では音声をvoice,話し言葉をspeech,言語をlanguageと分類しそれぞれ異なる種類の障害を扱うと考える傾向が強い.
 本書では各執筆者が用語に込めた基本理念を大切にし,無理に統一することはしなかった.このような多様性に対応できる柔軟な学修力と探究心を身につける一助になれば幸甚である.

 2020年1月
 今泉 敏
 小澤由嗣

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第1章 音声と言語,その発達ー学びの手引き
 1 音声学で学ぶこと
 2 言語学で学ぶこと
 3 音響学で学ぶこと
 4 聴覚心理学で学ぶこと
 5 言語発達学で学ぶこと
 6 言語と脳で学ぶこと

第2章 音声学
 1 発声発語器官と構音
  A 発声発語器官
  B 構音
  C 発声発語動態の記録
 2 音声記号と分節音
  A 表音文字表記と音声表記
  B 二重分節と分節音
  C 音素
  D 相補分布,条件異音,自由変音
  E 音素体系
  F 音素表記と音声表記
  G 音声の分類
  H 調音結合
  I 同化
  J 音節
 3 超分節的要素
  A アクセント
  B イントネーション
  C リズム
 4 日本語音声学
  A 分節的特徴
  B 特殊モーラ
  C 韻律的特徴
 5 音声学と言語聴覚障害学
  A 事例:発達途上にみられる構音の誤り
  B 話しことばの障害
  C 言語聴覚療法への音声学の応用

第3章 言語学
 1 言語学の基礎
  A ことばとは何か
  B 記号体系としての言語
  C 言語の生産性を支える性質
 2 音韻論
  A 音韻:記号表現(シニフィアン)を構成する音の機能的情報
  B 音素
  C 日本語の音素
  D 弁別素性と音韻規則
  E アクセントの音韻情報
 3 語彙・文法・意味
  A 「文法」とことばの知識
  B 文法I:統語範疇と統語構造
  C 文法II:チョムスキーと生成文法
  D 文法III:文法現象と文法関係
  E 語彙I:語と形態素
  F 語彙II:語の形成過程
  G 語彙III:語の内部構造
  H 意味I:「意味」とは何か
  I 意味II:語彙の意味
  J 意味III:文の意味
  K 意味IV:文脈と意味
  L 人文科学から自然科学へ
 4 言語学と周辺分野
  A 言語学と哲学・歴史学
  B 言語学と心理学・認知科学
  C 言語学と自然科学
  D 言語学とコミュニケーション論
 5 言語学的にみた日本語
  A 日本語の歴史と語彙層
  B 音韻論からみた日本語
  C 文字論からみた日本語
  D 形態論からみた日本語
  E 統語論・意味論からみた日本語
 6 言語理論と言語聴覚療法
  A 失語症とは
  B 失語症の特徴
  C 失語症の評価
  D 失語症検査
  E 診断について
  F 失語症リハビリテーションについて

第4章 音響学
 1 音の物理的側面
  A 音の物理と心理
  B 周波数と振幅,位相
  C 純音と複合音
  D 周期音,非周期音,過度音
  E 音圧実効値
  F デシベル
  G 時間波形と周波数スペクトル
 2 音響管の周波数特性
  A 音波の伝播,反射と干渉
  B 音響管の共鳴
  C 境界条件と共鳴周波数
  D 音声生成の音響理論
  E 有声音源の特性
  F 音声生成のソース・フィルタ理論
  G アンチフォルマント
  H 無声子音の周波数特性
 3 言語音の音響分析
  A サウンド・スペクトログラム
  B 言語音の音響的特徴:分節的特徴
  C 超分節的特徴

第5章 聴覚心理学
 1 音の心理物理学
  A 聴覚閾値,痛覚閾値,可聴範囲
  B 弁別閾と相対弁別閾
  C 大きさ(ラウドネス)
  D 高さ(ピッチ)
  E 音色
  F 時間と時間的パターンの知覚
 2 聴覚の周波数分析とマスキング現象
  A 同時マスキングと継時マスキング
  B 臨界帯域と聴覚フィルタ
 3 両耳の聴こえ
  A 両耳加算
  B 両耳間差と音源定位
 4 環境と聴覚
  A 音による環境理解(カクテルパーティー効果,聴覚情景分析)
  B 環境騒音と聴覚
 5 音声の知覚

第6章 言語発達学
 1 言語発達を説明する理論
  A 「言語」のとらえ方と言語発達理論
  B 発達支援の観点からの言語発達
  C 生後1年間の音声知覚発達
 2 前言語期の発達
  A コミュニケーション行動の発達
  B 認知機能の発達
  C 発声および音声の発達
 3 1~2歳の言語発達
  A 初語の出現・語彙の増加
  B 構文の発達
  C 象徴機能の発達
  D 言語発達を促す大人のかかわり
 4 幼児期の言語発達
  A 幼児期の認知発達
  B 幼児期の発話例
  C 語彙・構文・談話の発達
  D 音韻意識の発達
 5 学童期の言語発達
  A 学習言語とは
  B ナラティブの発達とその評価や指導
  C 意味的側面の発達
  D メタ言語能力の発達
  E リテラシーの発達
  F CLD児と言語聴覚士
 6 読み書きの発達
  A ひらがな,カタカナ,漢字の読み書きに関する習得度
  B 読み書きの習得度に関連する認知能力
  C 読み書きの障害
 7 基礎理論と臨床
  A 言語とコミュニケーションの発達
  B 言語発達障害とは
  C 言語発達障害の評価・診断
  D 言語発達障害の支援

第7章 言語と脳
 1 脳の構造と機能
  A 側頭葉の構造と言語関連機能
  B 頭頂葉の構造と言語関連機能
  C 後頭葉の構造と言語関連機能
  D 前頭葉の機能と言語関連機能
  E ネットワークとしての脳
 2 言語に関連する脳活動の観測方法
 3 言語の脳神経モデル:モデュール説とネットワーク説
  A 言語の古典モデル
  B 言語の箱矢印モデル
  C 言語の並列分散処理モデル
 4 意味の脳神経ネットワークモデル
 5 脳科学と臨床

索引

Side Memo 一覧
 ・声帯振動理論
 ・舌と口唇
 ・声質の2要素
 ・声道の3次元形状
 ・文字表記
 ・「アクセント」という用語
 ・声調言語・語ピッチ言語・イントネーション言語
 ・失プロソディと外国人なまり症候群
 ・自由アクセントと固定アクセント
 ・発声発語器官の運動障害
 ・speechの障害とlanguageの障害
 ・分析・訓練用機器の活用
 ・Kentらによる音声学を応用した明瞭度検査
 ・チョムスキーと現代言語学の発展
 ・語彙・文法・意味と脳のはたらき
 ・“音韻”性錯語−音声学との立場の違い
 ・刺激の質に関する考え方の1例
 ・訓練に関する考え方−有標・無標という考え方に沿って
 ・育児語の役割
 ・A子と「わんわん」
 ・学習障害,言語学習障害,ディスレクシアの関係
 ・T-unit
 ・ソーシャルスキル・トレーニング
 ・ペアレント・トレーニング
 ・絵カード交換式コミュニケーションシステム(PECS)
 ・マカトン法

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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    2021.09.14