失語症学 第3版

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失語症を取り巻く進歩と、言語治療の基本となる普遍的な理論・技術の解説を両立した教科書。今回は、学んだ知識と臨床の橋渡しとなる事例紹介を増やし、また「言語聴覚士養成教育ガイドライン」を参照に「学修の到達目標」を設定した。学生はもちろん、基本的知識から最先端の理論・技術に及ぶ解説は、臨床家の関心にも応えうる。第一線の執筆陣による充実の改訂第3版。

*「標準言語聴覚障害学」は株式会社医学書院の登録商標です。

シリーズ 標準言語聴覚障害学
シリーズ監修 藤田 郁代
編集 藤田 郁代 / 立石 雅子 / 菅野 倫子
発行 2021年02月判型:B5頁:380
ISBN 978-4-260-04307-6
定価 5,500円 (本体5,000円+税)

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一つめの柱は,学生教科書として,失語症言語治療の基本となる理論・技術を,体系的にわかりやすく解説したことです。事例を増やすなど臨床との関連づけを意識した作りをめざしました。もう一つの柱は,学問の進歩や失語症治療をめぐるさまざまな環境の変化をいち早く紹介していることです。学生はもちろん,臨床家にも読み応えのある内容です。

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第3版の序

 言語聴覚障害学シリーズの「失語症学」第2版が出版されてから7年が経過した.この第3版は,その後の学問および臨床技術の進歩や,失語症臨床を取り巻く環境変化を踏まえて内容を更新すると同時に追加し,大幅な改訂を経て出版された.したがって,3版の内容の大部分は新しいものとなっている.装丁も一新したことからこの改訂が特別なものであることをわかっていただけると思う.
 今回の改訂では,事例を増やすなどして,実際の臨床との関連付けがしやすくなるよう工夫している.また第3版から,各章の始めに学修の「到達目標」を設定することとした.これは(一社)日本言語聴覚士協会が2018年に発表した「言語聴覚士養成教育ガイドライン」を参照しており,言語聴覚士を目指す学生の知識・技術の整理に役立つものと思われる.
 本書の初版は2009年に出版されたが,当時と比較して失語症学や失語症言語治療の進歩およびそれを取り巻く環境変化には著しいものがある.たとえば,機能的MRIや拡散テンソルトラクトグラフィーなどにみられる画像技術の進歩は,言語の神経ネットワークや失語症の回復メカニズムについて新しい知見をもたらしている.失語症言語治療においては,クライエント中心とエビデンスに基づく臨床(Evidence-Based Practice)が定着し,機能,活動,参加,背景要因のすべてに介入する包括的治療が浸透してきている.機能訓練においては認知神経心理学的アプローチが標準的治療として取り入れられると同時に,活動や参加を支援する社会的アプローチが重視されるようになった.また医療福祉においては,2014年に医療介護総合確保推進法が制定され,住み慣れた地域で医療・介護サービスを総合的に利用する地域包括ケアシステムの構築が進められており,失語症言語治療においても新しいサービス提供のあり方が模索されている.
 本書は,このような学問の進歩や環境変化を踏まえたものとなっているが,同時に失語症言語治療の基本となる普遍的な理論・技術について体系的にわかりやすく解説している.各章は,基礎的知識・技術を理解したうえで,その実際的な臨床応用について学べるよう,段階的に構成されている.具体的には,1〜3章では,失語症言語治療の基礎となる知識や臨床の基本概念を説明し,4章と5章において失語症の症状と症候群について詳しく解説している.6〜10章では,評価・診断から訓練・指導・支援までの臨床の展開方法について,理論的根拠を示して実践的に解説している.テーマごとに紹介されている事例は,理論や技法を実際の臨床に適用する橋渡しになるものと思う.巻末の11章では,古代からの失語症の研究史が記述されている.
 本書は,言語聴覚士を志す学生のテキストとなることを念頭において作成しているが,基本的知識から最先端の理論・技術までを含んでおり,失語症言語治療に携わっている方や,各分野の専門家の関心にも応えることができると思われる.
 失語症言語治療に関する知見やエビデンスは,失語症がある人が直面している問題を科学的かつ人間的に追求する臨床・研究場面から生まれる.本書の作成においては,このような臨床・研究に実績がある方々を幅広く執筆者として迎え,標準テキストとして内容に偏りがないよう,基本的な理論・技法はすべて網羅することに努めた.失語症臨床への科学的な眼差しと,熱い思いをもってご執筆いただいた方々に心から感謝申し上げる.同時に,本書の完成にご尽力いただいた医学書院編集部の皆様に深謝申し上げたい.

 2020年11月
 編集
 藤田郁代
 立石雅子
 菅野倫子

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第1章 失語症と言語聴覚士の役割

第2章 言語と脳
 1 言語の構造
  A 言語の性質
  B 音韻
  C 語
  D 句・文
  E 談話
 2 言語の神経学的基盤
  A 左右の半球と脳梁
  B 脳構造の成り立ち
  C 高次脳機能の大脳における局在をめぐって
  D 言語を支える神経基盤
  E 言語機能や言語症状からみた神経基盤
  F 古典的失語分類における2つの軸と失語型に対する考え方
 3 言語領域の血管支配
  A 変性疾患の失語

第3章 失語症の原因疾患
  A 脳血管障害
  B 頭部外傷
  C 中枢神経の炎症性疾患
  D 一過性脳虚血発作
  E てんかん
  F 脳腫瘍
  G 変性疾患

第4章 失語症の症状
 1 言語症状
  A 発話の障害
  B 聴覚的理解の障害
  C 復唱の障害
  D 読字の障害
  E 書字の障害
  F 数・計算の障害
 2 失語症の近縁症状
  A 無動無言症
  B 保続
  C 反復言語,語間代,後天性吃音
  D 外国人様アクセント症候群
 3 失語症に随伴しやすい障害
  A 神経学的症状
  B 運動障害性構音障害
  C 失行
  D 失認
  E アパシー・抑うつ
  F 記憶障害
  G 半側空間無視

第5章 失語症候群
 1 失語症候群の成り立ち
  A 古典論の成立
  B ボストン学派による分類
  C 古典分類の有用性と限界
 2 ブローカ失語
 3 ウェルニッケ失語
 4 伝導失語
 5 健忘失語(失名辞失語)
 6 超皮質性失語
  A 超皮質性運動失語
  B 超皮質性感覚失語
  C 混合型超皮質性失語(言語野孤立症候群)
 7 全失語
 8 交叉性失語
 9 皮質下性失語
 10 純粋型
  A 純粋語聾
  B 純粋型の発語失行(失構音)
  C 純粋失読
  D 純粋失書
  E 失読失書
  F 失読および失書への認知神経心理学的アプローチ
 11 原発性進行性失語(進行性失語)
  A 基本概念・症状
  B 評価・診断
  C 訓練・指導・支援
  D 社会参加
  E 事例:非流暢/失文法型PPA

第6章 失語症の言語聴覚療法の全体像
  A 基本的概念
  B 失語症の言語治療のプロセス
  C 言語聴覚療法の提供体制
  D 失語症者とのコミュニケーションのとり方

第7章 失語症の評価・診断
 1 失語症の評価・診断
  A 評価・診断の原則
  B 評価・診断の目的
  C 評価・診断のプロセス
  D 評価の対象
  E 評価の方法
  F 急性期,回復期,生活期における評価の特徴
 2 情報収集
  A 言語・コミュニケーション面の情報
  B 認知機能の情報
  C 医学面の情報
  D 関連行動面の情報
  E 社会・心理面の情報
 3 情報の統合と評価のまとめ
  A 失語症タイプと重症度の判定
  B 問題点の抽出
  C 予後予測および言語治療の適応判断
  D 言語治療方針の決定
  E 評価サマリーの作成
  F 評価結果の報告
 4 鑑別診断
  A 鑑別診断の方法
  B 関連障害との鑑別

第8章 失語症の回復過程
 1 失語症の神経学的回復メカニズム
  A 失語症の神経学的回復機序の基本概念
  B 長期予後予測研究からみる失語症の回復に影響する神経基盤
  C 症例研究:左半球言語野の損傷で失語症を呈し,回復していたものの右半球への2度目の損傷で回復した言語機能が消失した症例
  D 研究手法
 2 失語症の言語・コミュニケーションの回復
  A 言語・コミュニケーションの回復過程
  B 言語・コミュニケーション行動の回復メカニズム
  C 失語症の予後に関連する要因

第9章 失語症の言語治療の理論と技法
 1 言語治療の基本原則
  A 言語治療の枠組み
  B 病期別の言語聴覚療法
  C 言語治療計画の立案
  D リハビリテーションにおける連携
  E 安全管理
 2 言語治療の理論と技法
  A 刺激法
  B 行動変容アプローチ(プログラム学習法)
  C 機能再編成法
  D 語用論的アプローチ
  E メロディック・イントネーション・セラピー
  F 認知神経心理学的アプローチ
  G 社会的アプローチ
  H CI言語療法
  I 非侵襲性脳刺激

第10章 失語症の言語治療の実際
 1 急性期の評価・訓練・支援
  A 急性期の評価
  B 急性期の訓練・指導・支援
  C 急性期の安全管理
 2 機能回復訓練
  A 語彙訓練
  B 構文訓練
  C 文字・音韻訓練
  D 発語失行(失構音)訓練
 3 活動・参加訓練
  A 実用的コミュニケーション訓練
  B 心理・社会的問題の支援
  C 重度失語症の訓練
 4 生活適応期の訓練・支援
  A 生活適応期とは何か
  B 通所系・訪問系サービスにおける評価・訓練・支援
 5 社会復帰
  A 社会復帰とは何か
  B 言語聴覚士の役割
 6 言語治療結果のまとめと報告
  A 言語訓練記録の取り方
  B 言語治療サマリーの作成
  C ケースカンファレンスにおける報告
  D 本人・家族への説明

第11章 失語症研究の歴史
  A はじめに
  B 失語研究前史
  C 古典論の成立
  D 古典論に対する批判,知性論
  E 局在論の復活と展開
  F 失語症評価の歴史的展開
  G 失語症治療介入法の歴史と言語病理学の成立
  H わが国の失語症研究の歴史

参考図書
索引

Note 一覧
 1.介護保険主治医意見書の「短期記憶障害の有無」について
 2.病理診断名と臨床診断名
 3.「失外套症候群」「閉じ込め症候群」
 4.滞続言語
 5.症候群
 6.音声への符号化
 7.発話開始困難
 8.交感性失行 sympathetic dyspraxia
 9.ブローカ野限局病巣では,どのような症状が起こるか?
 10.陰性症状と陽性症状
 11.空語句empty phrase
 12.押韻常同パターン
 13.語聾
 14.ジャルゴン失書
 15.復唱型と再生産型
 16.二方向性の失名辞
 17.様式特異性失名辞
 18.カテゴリ(範疇)特異性失名辞
 19.範疇的態度の障害
 20.tip of the tongue現象
 21.語義失語
 22.非右利き(左利き,両手利き)の失語症
 23.ダイアスキシス diaschisis
 24.非流暢/失文法型PPAの多様な病型
 25.PPAの病理学的背景
 26.医学モデルと社会モデル
 27.「できる活動」と「している活動」
 28.科学的根拠に基づく言語聴覚療法(EBP)
 29.ダイアスキシス(遠隔機能障害)
 30.A-FROM
 31.レジリエンス
 32.リスク管理
 33.単語の属性
 34.音韻出力辞書の2段階モデルと「音韻性失名詞」
 35.ピラミッド・アンド・パームツリー・テスト pyramid and palm tree test
 36.文法的形態素
 37.非可逆文と可逆文
 38.キーワード法の訓練効果機序
 39.ISAAC(アイザック)
 40.VOCA-PEN
 41.リハビリテーション会議とサービス担当者会議
 42.coping

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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