糖尿病の薬がわかる本
糖尿病治療薬のもやもやを解決!
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同じように見える患者さん、なぜ処方されている薬が違うの? なぜ、この薬は使わないの? 飲み忘れた、服薬量を間違えたときの対応は? そんな糖尿病治療薬にまつわるさまざまな疑問を糖尿病専門医がわかりやすく解説。服薬指導・服薬管理だけでなく、食事をはじめとした生活習慣の改善・指導にも役立つ1冊。
著 | 桝田 出 |
---|---|
発行 | 2015年10月判型:A5頁:176 |
ISBN | 978-4-260-02160-9 |
定価 | 1,980円 (本体1,800円+税) |
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- 序文
- 目次
- 書評
序文
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はじめに
糖尿病の療養指導に携わるメディカルスタッフから「新しい糖尿病治療薬が次々に発売されているが,作用が複雑でわかりづらい。糖尿病専門医のなかでも2型糖尿病患者さんの薬の使い方が違うのはなぜ?」との声をよく聞きます。患者さんによって病態が大きく違うことは理解されているのですが,この数年の糖尿病治療の様変わりに戸惑っていることが伺えます。この疑問に答えるべく,私の診療経験をもとに本書をまとめました。
本書は実践的な糖尿病の薬の使い方に重点を置き,糖尿病の病態やそれに関連する病状からみたときの臨床現場での処方を具体的に示しました。本来,基礎知識を学んでから糖尿病の治療や療養指導にあたることが原則ですが,本書の前半にまとめた糖尿病治療薬の特徴を参考にしながら読んでいただいてもよいと思います。
最近,内科以外の診療科にも糖尿病患者さんが多く受診されています。その診療科の治療に糖尿病の薬がどのような影響があるかを知っていただくため,ステロイド糖尿病,妊娠・小児・高齢者糖尿病などの項を設けました。薬の名前もできるだけ商品名を用い,実用性を重視しました。
本書のQ&Aやコラムは,私とともに糖尿病療養指導に携わっているメディカルスタッフの「今さら聞けない素朴な疑問」を集約したものです。日ごろ同じ疑問をもっておられる方にも共感いただけることと思います。
私の母校である東京慈恵会医科大学の建学の精神は,「病気を診ずして病人を診よ」です。この学祖高木兼寛の理念は,一人ひとりの患者さんの生活習慣や病態が異なる糖尿病診療に通じるものと考えます。本書には,そのような思いを込めたつもりです。糖尿病療養指導に従事している方や糖尿病のご専門ではない医師の方々にも,この糖尿病患者さんにはこの薬が合っているなと感じていただけるようになれば幸いです。
最後に,前書「糖尿病に強くなる!」に続いて本書の刊行に多大なご尽力をいただいた医学書院看護出版部 山内 梢氏に深く感謝申し上げます。
2015年8月
桝田 出
糖尿病の療養指導に携わるメディカルスタッフから「新しい糖尿病治療薬が次々に発売されているが,作用が複雑でわかりづらい。糖尿病専門医のなかでも2型糖尿病患者さんの薬の使い方が違うのはなぜ?」との声をよく聞きます。患者さんによって病態が大きく違うことは理解されているのですが,この数年の糖尿病治療の様変わりに戸惑っていることが伺えます。この疑問に答えるべく,私の診療経験をもとに本書をまとめました。
本書は実践的な糖尿病の薬の使い方に重点を置き,糖尿病の病態やそれに関連する病状からみたときの臨床現場での処方を具体的に示しました。本来,基礎知識を学んでから糖尿病の治療や療養指導にあたることが原則ですが,本書の前半にまとめた糖尿病治療薬の特徴を参考にしながら読んでいただいてもよいと思います。
最近,内科以外の診療科にも糖尿病患者さんが多く受診されています。その診療科の治療に糖尿病の薬がどのような影響があるかを知っていただくため,ステロイド糖尿病,妊娠・小児・高齢者糖尿病などの項を設けました。薬の名前もできるだけ商品名を用い,実用性を重視しました。
本書のQ&Aやコラムは,私とともに糖尿病療養指導に携わっているメディカルスタッフの「今さら聞けない素朴な疑問」を集約したものです。日ごろ同じ疑問をもっておられる方にも共感いただけることと思います。
私の母校である東京慈恵会医科大学の建学の精神は,「病気を診ずして病人を診よ」です。この学祖高木兼寛の理念は,一人ひとりの患者さんの生活習慣や病態が異なる糖尿病診療に通じるものと考えます。本書には,そのような思いを込めたつもりです。糖尿病療養指導に従事している方や糖尿病のご専門ではない医師の方々にも,この糖尿病患者さんにはこの薬が合っているなと感じていただけるようになれば幸いです。
最後に,前書「糖尿病に強くなる!」に続いて本書の刊行に多大なご尽力をいただいた医学書院看護出版部 山内 梢氏に深く感謝申し上げます。
2015年8月
桝田 出
目次
開く
はじめに
第I章 糖尿病と治療薬
1.糖尿病治療薬の種類
2.処方の基本的な考え方
3.服薬指導の基本的な考え方
Q 薬を飲まなければ低血糖にならない?
Q 薬はやめられる?
第II章 糖尿病治療薬の特徴
1.インクレチン関連薬
インクレチン関連薬の作用機序/DPP-4阻害薬/GLP-1受容体作動薬
2.インスリン分泌を促進する薬
インスリン分泌促進薬の作用機序/スルホニル尿素薬(SU薬)/
速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)
3.インスリン抵抗性改善薬
インスリン抵抗性改善薬の作用機序/ビグアナイド薬/チアゾリジン薬
4.糖の排泄・吸収を調節する薬
SGLT2阻害薬/α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)
5.インスリン製剤
Q インスリン製剤の末尾の「R」と「N」とは?
Q インスリン注射はなぜ「単位」で表現するの?
Q 糖尿病注射薬の保管方法が,開封前後で異なるのはなぜ?
第III章 2型糖尿病患者への処方
1.肥満
2.脂質異常症
3.高血圧
4.心血管疾患
5.腎障害
6.その他の合併症
網膜症/神経障害/足病変
7.痩せ型
8.肝障害
9.高齢者
10.妊産褥婦
11.ステロイド糖尿病
12.インスリン療法が必要な場合
Q 薬は減らせる?
Q 服薬・注射する薬や量を間違えた場合の対処法は?
Q 2型糖尿病患者がステロイドを処方されたらどうする?
第IV章 1型糖尿病患者への処方
1.1型糖尿病処方の基本的な考え方
2.緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)
3.劇症1型糖尿病
4.肥満1型糖尿病
5.不安定型1型糖尿病
6.小児1型糖尿病
Q 「注射し忘れた」といわれたら?
Q インスリン注入器に血液が逆流したり,空気が混入したら?
付録 カートリッジ交換型注射器 仕様等比較表/
カートリッジ一体型注射器 仕様等比較表
索引 重要語索引/薬剤索引
第I章 糖尿病と治療薬
1.糖尿病治療薬の種類
2.処方の基本的な考え方
3.服薬指導の基本的な考え方
Q 薬を飲まなければ低血糖にならない?
Q 薬はやめられる?
第II章 糖尿病治療薬の特徴
1.インクレチン関連薬
インクレチン関連薬の作用機序/DPP-4阻害薬/GLP-1受容体作動薬
2.インスリン分泌を促進する薬
インスリン分泌促進薬の作用機序/スルホニル尿素薬(SU薬)/
速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)
3.インスリン抵抗性改善薬
インスリン抵抗性改善薬の作用機序/ビグアナイド薬/チアゾリジン薬
4.糖の排泄・吸収を調節する薬
SGLT2阻害薬/α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)
5.インスリン製剤
Q インスリン製剤の末尾の「R」と「N」とは?
Q インスリン注射はなぜ「単位」で表現するの?
Q 糖尿病注射薬の保管方法が,開封前後で異なるのはなぜ?
第III章 2型糖尿病患者への処方
1.肥満
2.脂質異常症
3.高血圧
4.心血管疾患
5.腎障害
6.その他の合併症
網膜症/神経障害/足病変
7.痩せ型
8.肝障害
9.高齢者
10.妊産褥婦
11.ステロイド糖尿病
12.インスリン療法が必要な場合
Q 薬は減らせる?
Q 服薬・注射する薬や量を間違えた場合の対処法は?
Q 2型糖尿病患者がステロイドを処方されたらどうする?
第IV章 1型糖尿病患者への処方
1.1型糖尿病処方の基本的な考え方
2.緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)
3.劇症1型糖尿病
4.肥満1型糖尿病
5.不安定型1型糖尿病
6.小児1型糖尿病
Q 「注射し忘れた」といわれたら?
Q インスリン注入器に血液が逆流したり,空気が混入したら?
付録 カートリッジ交換型注射器 仕様等比較表/
カートリッジ一体型注射器 仕様等比較表
索引 重要語索引/薬剤索引
書評
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管理栄養士にも役立つ一冊
書評者: 市川 和子 (川崎医大病院栄養部部長)
ここ数年,DPP-4阻害薬やSGLT2阻害薬といったこれまでとは異なる作用機序の糖尿病治療薬の登場により,さまざまな角度から血糖コントロールへの挑戦が始まっています。しかし,治療薬の種類の多さには,頭を悩ませます。特に評者ら管理栄養士が困っているのは,多剤併用をされている患者です。どうしてこんなに何種類もの服薬が必要になるのかと疑問に思いますが,あまり強くない薬を少量ずつ服用することで副作用を最小限に抑えようとしていることも理解できます。
経口薬は効能の他に副作用がいくつかあります。例えば,腎機能の状態により服薬に条件が付きます。特に腎排泄型の糖尿病治療薬は,腎機能低下とともに体内に蓄積され,思いがけず低血糖状態を招いてしまうことがあります。糖尿病患者では,肝機能障害や脂質異常症,高血圧・心血管疾患などを合併していることも多く,妊娠糖尿病やステロイド糖尿病など,病態もさまざまです。また高齢者では,加齢に伴う臓器の機能低下も考慮する必要があり,服薬時の注意点は多岐にわたります。評者の場合,特にステロイド服薬時の血糖コントロールは重要と考えています。ステロイドはさまざまな疾患に用いられ治療効果も高く,効能が期待されています。しかし,一方では食後高血糖をはじめ脂質異常症,血圧上昇,易感染状態,食欲増進といった副作用にも注意しないといけません。さらに,糖尿病患者は神経障害も起こしやすく,便秘と下痢を繰り返す患者も少なくありません。特に高齢者では,注意が必要となります。脱水は急性腎不全や脳・心血管疾患のリスクとなりますので,コメディカルスタッフも十分認識すべきことと考えます。本書は,このようなさまざまな状況下にある糖尿病患者の血糖調整法や服薬時の注意点などが大変読みやすく整理され,評者が常日頃意識している内容が十分網羅されています。
最近では,この本を栄養指導室に置いています。栄養指導を行う際にも薬の知識は必須となりますので,食事と薬の関係について本書で確認しながら栄養指導に役立てています。わかりやすく記されているので他の管理栄養士からも好評のようです。本のサイズがもう少しコンパクトであれば,糖尿病カンファレンスや回診時にもポケットに入れて携帯することも可能と考えます。
糖尿病に取り組む多職種チームの知識ベースを提示する本
書評者: 藤沼 康樹 (医療福祉生協連家庭医療学開発センター長)
内科系外来診療の場面において,糖尿病は最も頻度の高い慢性疾患の一つであり,治療によって予後を大幅に変えることが可能な疾患としても特別重要な位置にあると言える。家庭医療の世界では“糖尿病は慢性疾患ケア支援に関する全てがあり,慢性疾患を学ぶには糖尿病を学べ”と言われるほどである。そして,現代日本は超高齢社会となり,糖尿病に加えて多数の併存疾患を持つ高齢患者も多く,治療はより複雑になる傾向がある。したがって,糖尿病専門医だけで日本の糖尿病患者をカバーするのは不可能であり,慢性疾患に取り組むあらゆる医師,特に家庭医の糖尿病診療の質の向上が必須である。
そして,多面的アプローチを必要とする糖尿病診療では,患者-医師関係の中だけで診療が完結するのはもはや困難であり,看護師や管理栄養士,各種セラピストなどによるチーム医療,専門職連携実践(interprofessional work:IPW)が必要である。
本書は,糖尿病診療における薬物治療とその周辺に関して,IPWに必要な共通の知識基盤を形成するために非常に有用である。記述はわかりやすいが,患者や一般市民向けの解説書のように単純化していないため,知識のブラッシュアップだけでなく,最近の進歩をきちんとアップデートできるようになっている。特に処方原則や,併存疾患による投薬の考え方などは,糖尿病専門医ではない家庭医が読んでも多くの発見がある。また,「薬をやめられるか?」「ステロイドを投与されたときに処方をどう考えるか?」「注射し忘れたと言われたら?」など,糖尿病診療においてよく出合う問題についてもわかりやすく回答がなされている。
この本をテキストにして医師も参加した多職種学習会を行うと,お互いのコミュニケーションも豊かになり,より良いケアが提供できるようになるだろう。糖尿病診療に携わる,全ての医療者,専門職の皆さんに本書を推薦したい。
薬の知識が療養指導に生きる
書評者: 野村 卓生 (関西福祉科学大学教授・理学療法学/日本糖尿病理学療法学会代表運営幹事/日本糖尿病療養指導士認定機構理事)
糖尿病の治療薬は,おおまかにインスリン分泌促進薬,インスリン抵抗性改善薬,糖の排泄・吸収調節薬,インスリン製剤,インクレチン関連薬の5つに分類されます。本書は,著者の長年の診療経験に裏付けられた考え方のもとに,糖尿病治療のための薬物に関する処方・服薬指導の基本,治療薬の特徴,2型糖尿病および1型糖尿病患者への処方の具体例がまとめられています。薬物の名称もできるだけ商品名を用いており,また,療養指導を行う上でも重要なポイントである 1)少量開始, 2)低血糖管理, 3)体重増加予防, 4)膵β細胞保護の4点を念頭に置いて実際の臨床へつなげることを意識して執筆されています。
第I章では,糖尿病治療薬の処方・服薬指導の基本など,療養指導をも念頭に置いた治療方針の考え方が実践的にまとめられ,コラムとして臨床上の注意点が補足されています。今さら聞けない素朴な質問をまとめたQ&Aは,日頃同じ疑問を持つ方の共感が得られると思います。
第II章「糖尿病治療薬の特徴」においては,糖尿病治療薬の異なる7種類の経口薬と2種類の注射薬の薬理作用の概要が図表を用いてわかりやすく解説され,それらの適応・禁忌,副作用と注意点がまとめられています。糖尿病患者の多くは,複数の糖尿病治療薬が処方されますが,薬の特徴を知ることによって,治療薬を組み合わせる理由が理解され,服薬指導に生かされると思われます。
第III章となる「2型糖尿病患者への処方」では,同じように見える2型糖尿病において,発症機序や合併症の有無などによって,どのように糖尿病治療薬が処方されるのかがわかりやすく解説されています。
第IV章「1型糖尿病患者への処方」では,発症時期や進行,状態によって,薬物療法の方針が微妙に異なる1型糖尿病患者に対してインスリンの量や投与回数をどのように決定していくのかを,ライフステージや病態別に解説しています。握力や視力の低下によって,「単位設定メモリがよく見えない」「注射器が滑りやすく,うまくボタンを押せない」といった注射手技に困難が生じた場合の対処方法や,巻末の付録にはカートリッジ交換型(ペン型)注射器の特徴なども示されています。
本書は,糖尿病療養指導に従事している方々はもちろんのこと,糖尿病が専門でない医師の方々にも参考になる実用性が重視された一冊です。
書評者: 市川 和子 (川崎医大病院栄養部部長)
ここ数年,DPP-4阻害薬やSGLT2阻害薬といったこれまでとは異なる作用機序の糖尿病治療薬の登場により,さまざまな角度から血糖コントロールへの挑戦が始まっています。しかし,治療薬の種類の多さには,頭を悩ませます。特に評者ら管理栄養士が困っているのは,多剤併用をされている患者です。どうしてこんなに何種類もの服薬が必要になるのかと疑問に思いますが,あまり強くない薬を少量ずつ服用することで副作用を最小限に抑えようとしていることも理解できます。
経口薬は効能の他に副作用がいくつかあります。例えば,腎機能の状態により服薬に条件が付きます。特に腎排泄型の糖尿病治療薬は,腎機能低下とともに体内に蓄積され,思いがけず低血糖状態を招いてしまうことがあります。糖尿病患者では,肝機能障害や脂質異常症,高血圧・心血管疾患などを合併していることも多く,妊娠糖尿病やステロイド糖尿病など,病態もさまざまです。また高齢者では,加齢に伴う臓器の機能低下も考慮する必要があり,服薬時の注意点は多岐にわたります。評者の場合,特にステロイド服薬時の血糖コントロールは重要と考えています。ステロイドはさまざまな疾患に用いられ治療効果も高く,効能が期待されています。しかし,一方では食後高血糖をはじめ脂質異常症,血圧上昇,易感染状態,食欲増進といった副作用にも注意しないといけません。さらに,糖尿病患者は神経障害も起こしやすく,便秘と下痢を繰り返す患者も少なくありません。特に高齢者では,注意が必要となります。脱水は急性腎不全や脳・心血管疾患のリスクとなりますので,コメディカルスタッフも十分認識すべきことと考えます。本書は,このようなさまざまな状況下にある糖尿病患者の血糖調整法や服薬時の注意点などが大変読みやすく整理され,評者が常日頃意識している内容が十分網羅されています。
最近では,この本を栄養指導室に置いています。栄養指導を行う際にも薬の知識は必須となりますので,食事と薬の関係について本書で確認しながら栄養指導に役立てています。わかりやすく記されているので他の管理栄養士からも好評のようです。本のサイズがもう少しコンパクトであれば,糖尿病カンファレンスや回診時にもポケットに入れて携帯することも可能と考えます。
糖尿病に取り組む多職種チームの知識ベースを提示する本
書評者: 藤沼 康樹 (医療福祉生協連家庭医療学開発センター長)
内科系外来診療の場面において,糖尿病は最も頻度の高い慢性疾患の一つであり,治療によって予後を大幅に変えることが可能な疾患としても特別重要な位置にあると言える。家庭医療の世界では“糖尿病は慢性疾患ケア支援に関する全てがあり,慢性疾患を学ぶには糖尿病を学べ”と言われるほどである。そして,現代日本は超高齢社会となり,糖尿病に加えて多数の併存疾患を持つ高齢患者も多く,治療はより複雑になる傾向がある。したがって,糖尿病専門医だけで日本の糖尿病患者をカバーするのは不可能であり,慢性疾患に取り組むあらゆる医師,特に家庭医の糖尿病診療の質の向上が必須である。
そして,多面的アプローチを必要とする糖尿病診療では,患者-医師関係の中だけで診療が完結するのはもはや困難であり,看護師や管理栄養士,各種セラピストなどによるチーム医療,専門職連携実践(interprofessional work:IPW)が必要である。
本書は,糖尿病診療における薬物治療とその周辺に関して,IPWに必要な共通の知識基盤を形成するために非常に有用である。記述はわかりやすいが,患者や一般市民向けの解説書のように単純化していないため,知識のブラッシュアップだけでなく,最近の進歩をきちんとアップデートできるようになっている。特に処方原則や,併存疾患による投薬の考え方などは,糖尿病専門医ではない家庭医が読んでも多くの発見がある。また,「薬をやめられるか?」「ステロイドを投与されたときに処方をどう考えるか?」「注射し忘れたと言われたら?」など,糖尿病診療においてよく出合う問題についてもわかりやすく回答がなされている。
この本をテキストにして医師も参加した多職種学習会を行うと,お互いのコミュニケーションも豊かになり,より良いケアが提供できるようになるだろう。糖尿病診療に携わる,全ての医療者,専門職の皆さんに本書を推薦したい。
薬の知識が療養指導に生きる
書評者: 野村 卓生 (関西福祉科学大学教授・理学療法学/日本糖尿病理学療法学会代表運営幹事/日本糖尿病療養指導士認定機構理事)
糖尿病の治療薬は,おおまかにインスリン分泌促進薬,インスリン抵抗性改善薬,糖の排泄・吸収調節薬,インスリン製剤,インクレチン関連薬の5つに分類されます。本書は,著者の長年の診療経験に裏付けられた考え方のもとに,糖尿病治療のための薬物に関する処方・服薬指導の基本,治療薬の特徴,2型糖尿病および1型糖尿病患者への処方の具体例がまとめられています。薬物の名称もできるだけ商品名を用いており,また,療養指導を行う上でも重要なポイントである 1)少量開始, 2)低血糖管理, 3)体重増加予防, 4)膵β細胞保護の4点を念頭に置いて実際の臨床へつなげることを意識して執筆されています。
第I章では,糖尿病治療薬の処方・服薬指導の基本など,療養指導をも念頭に置いた治療方針の考え方が実践的にまとめられ,コラムとして臨床上の注意点が補足されています。今さら聞けない素朴な質問をまとめたQ&Aは,日頃同じ疑問を持つ方の共感が得られると思います。
第II章「糖尿病治療薬の特徴」においては,糖尿病治療薬の異なる7種類の経口薬と2種類の注射薬の薬理作用の概要が図表を用いてわかりやすく解説され,それらの適応・禁忌,副作用と注意点がまとめられています。糖尿病患者の多くは,複数の糖尿病治療薬が処方されますが,薬の特徴を知ることによって,治療薬を組み合わせる理由が理解され,服薬指導に生かされると思われます。
第III章となる「2型糖尿病患者への処方」では,同じように見える2型糖尿病において,発症機序や合併症の有無などによって,どのように糖尿病治療薬が処方されるのかがわかりやすく解説されています。
第IV章「1型糖尿病患者への処方」では,発症時期や進行,状態によって,薬物療法の方針が微妙に異なる1型糖尿病患者に対してインスリンの量や投与回数をどのように決定していくのかを,ライフステージや病態別に解説しています。握力や視力の低下によって,「単位設定メモリがよく見えない」「注射器が滑りやすく,うまくボタンを押せない」といった注射手技に困難が生じた場合の対処方法や,巻末の付録にはカートリッジ交換型(ペン型)注射器の特徴なども示されています。
本書は,糖尿病療養指導に従事している方々はもちろんのこと,糖尿病が専門でない医師の方々にも参考になる実用性が重視された一冊です。
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