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病を引き受けられない人々のケア
「聴く力」「続ける力」「待つ力」

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『糖尿病診療マスター』 誌の人気対談コーナーから10篇を収載。石井均氏と著名人が、患者さんの心の動きを深く掘り下げて語り合った内容だ(対談者:河合隼雄・養老孟司・北山修・中井久夫・中村桂子・門脇孝・鷲田清一・西村周三・皆藤章の各氏)。「楽しみがない」「なんともない」「怖い」「自信がない」など、患者さんの言葉や行動からその意味を味わう。患者さんへの理解や接し方、そして読者の考え方が変わる1冊。
石井 均
発行 2015年02月判型:A5頁:252
ISBN 978-4-260-02091-6
定価 2,420円 (本体2,200円+税)

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  • 目次
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はじめに——この対談集に何が語られているか

 糖尿病とその治療あるいは関連領域についての先達の話をお伺いするという企画が、雑誌『糖尿病診療マスター』創刊2年目(2004年)から開始された。糖尿病を専門とされてきた先生方との対談から始まり、編集委員が順次担当した。糖尿病に対する先生方の熱い思いが次々と掲載された。
 企画が進む中で、私は専門が糖尿病以外の先達のお話をお伺いしたいと考えるようになった。私たちは糖尿病を内から見ており、その医学的枠組みを離れて見るということができない。外から見た、異なる視点から見た糖尿病とはどんな病気なのか(あるいは病気でないのか)を知りたくなった。また、医療や医師-患者関係がどのような状態にあると思われているのかも知りたくなった。そして糖尿病をもって生きるということ——どう考えればそれをうまくこなしていけるのか、医療者はなにができるのか、を問うてみたくなった。
 この本は9人の先生方との対談から構成されている。門脇先生を除いて皆さん糖尿病を専門とされていない。何人かは糖尿病以外の臨床家である。何人かはそれぞれの学問領域で“生きる(生活する)”ことを扱う専門家である。先の先生方からは臨床の奥義について語っていただいた。後の先生方からはひとが生きることへの見方についてお話をお伺いした。門脇先生には糖尿病臨床に“ひと”がどのように生かされるかを教えていただいた。
 糖尿病非専門の先生方には、いまになって、ずいぶん無理なお願いをしたものだと思う。しかし、私の期待をはるかに超えた糖尿病に対する深い視点、異なるものの見方、考え方のヒントをいただいた。すべての先生方に共通するのは、“ひと”に対する尽きない関心である。
 もうひとつ、この対談集をまとめながら気が付いたのは、ここに登場された先生方が、個別的に対談をされているとか、お互いがその考え方や提言に注目されていることだ。つまり、それぞれの先生方が、何かしら共通する思想をもっておられるということである。たとえば、科学の進歩とその方法論への賛美と懐疑、文明の進歩に対する評価と警鐘、人間あるいは人生の価値評価への提言、小さな思いやりの力、幸せがどこにあるか、などである。
 それらが、個別的な対談を対談集として成立せしめる基盤であることを、読み返し、まとめる中で発見した。全体を見通して対談のお願いをしたわけではない。しかし、ほかの先生を意識されないで語られた個々のお話がどこかでつながりをもっている。
 まとめる段階で、それぞれの先生のお話の中に登場する患者さんの声を見出しにした。中心となるところを選抜したわけであるが、それがお話のすべてではない。あるいは各先生の強調点は別のところにあったかもしれない。お話の中で糖尿病臨床の大きなヒントとなるところを傍点で強調した。読者は別の部分に自分にとっての重要な、あるいはこころに染み込む言葉を発見されるかもしれない。それをあなたにとっての大切な言葉にしていただきたい。
 最後に、本書をまとめることを提案し、編集作業を続けていただいた医学書院今田亮平氏、原稿に目を通し貴重な意見をいただいた、奈良県立医科大学糖尿病学講座毛利貴子診療助教、東浦由季様に感謝いたします。

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はじめに-この対談集に何が語られているか

第一話 「何が楽しみで生きていくのかがわからないんだ」
      河合隼雄 × 石井 均

第二話 「痛いのだけ治してくれればいい。糖尿病は放っといてくれ!」
      河合隼雄 × 石井 均

  Column 『一房の葡萄』

第三話 「先生はそう言うけど、私、調子がいいんだ」
      養老孟司 × 石井 均

  Column 「脳」と「身体」で理解するということ

第四話 「優しそうな顔をしていながら、治せないじゃないかおまえは!」
      北山 修 × 石井 均

第五話 「注射が怖くて窓から飛び降りる夢を見た」
      中井久夫 × 石井 均

第六話 「しょうがないやつだけど、一緒にやっていくか」
      中村桂子 × 石井 均

第七話 「退院してしまったら、本当にできるかどうかとても自信がない」
      門脇 孝 × 石井 均

  Column 「科学の知」と「臨床の知」

第八話 「インスリンなんか打ったら、本当の糖尿病になってしまう!」
      鷲田清一 × 石井 均

第九話 「今の楽しみか、将来の健康か」
      西村周三 × 石井 均

第十話 「先生、きょう、その薬は結構です」
      皆藤 章 × 石井 均

すべての対談を見渡して糖尿病を生きる、
 それを支えることへのメッセージをまとめる-おわりにかえて

用語解説

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その道を究めた達人が複雑な患者心理を解きほぐす
書評者: 花房 俊昭 (大阪医科大学教授・糖尿病代謝・内分泌内科学)
 本書は,糖尿病患者の心のケアにおいてわが国の第一人者である石井 均先生が,雑誌『糖尿病診療マスター』で行われた対談の中から,9名の方々との対談を選んで集めたものである。そのうち8名は糖尿病を直接の専門とされる方ではない。対談者の専門分野は異なっているが,いずれもその道を究めた達人である。石井先生を聴き手として繰り広げられるこれらの対談では,石井先生ご自身の,「医療者として糖尿病患者の心理をどのように読み解き,どのように対応すべきか」という問い・悩み・迷いがそれぞれの対談者に投げかけられる。それに対し,人間という存在にそれぞれの専門的側面からアプローチしている各対談者が,自らの経験・学識・人間性に裏打ちされた深い洞察を踏まえ,見事に応えられる珠玉の言葉が随所にちりばめられている。相互啓発とはこのような対話をいうのであろう。各対談の最後には要約があり,各対談者の語られたキーワードが再掲されていることも,内容の理解を深めるのに役立っている。

 本書を読んで私が初めて知ったことも多い。現在,石井先生が提唱し主導されている「糖尿病医療学」が,今は亡き河合隼雄先生との対談の中で河合先生が語られた「『医療学』を創れ!」という言葉にその原点があり,河合先生に背中を押される形で実現したことを知った。また,現 日本糖尿病学会理事長であり糖尿病学研究の中心となっておられる門脇 孝先生が,若き医師時代に多くの糖尿病患者さんと真摯に向き合われた診療姿勢にも感銘を受けた。

 糖尿病患者とはいかに不可思議な存在であるか,糖尿病とはいかに幅広く奥深い疾患であるか,人間とはいかに測り知れない動物であるか,さらには,それに対して糖尿病医療者はどうあるべきか。本書の読後にそのような感慨を覚える。

 本書は,糖尿病に興味を持つ学生,研修医,レジデントにとって,糖尿病患者の複雑な心を理解する手がかりを提供してくれる。一方,すでに一人前の医師として診療している開業医,勤務医,とりわけ,糖尿病患者の診療に従事している糖尿病専門医や医療スタッフには,日々の診療において思い当たる節や腑に落ちることも多く,日常臨床のヒントが満載された読み物となっている。糖尿病診療に従事するすべての医療者が本書に目を通し,患者に寄り添った真の糖尿病診療が行われることを願う。
慢性疾患と生きる人の心と行動を理解し,支援する
書評者: 数間 恵子 (前・東大大学院教授・成人看護学)
 本書は,『糖尿病診療マスター』誌に2004~2013年にわたって掲載された石井均氏による各界泰斗との対談から,特に氏の心に残るものが取り上げられ,まとめられたものである。対談は糖尿病とその治療あるいは関連領域にとどまらず,他領域の先達とも行われ,河合隼雄氏,養老孟司氏,北山修氏,中井久夫氏,中村桂子氏,門脇孝氏,鷲田清一氏,西村周三氏,皆藤章氏の面々が登場する。

 対談では,各氏がどのようにしてそれぞれの領域を拓いてこられたかのライフヒストリーが語られる中で,ヒトや社会をどう見ているかが示され,そこから,共通する糖尿病の人々への支援の核心に迫り,支援に求められる基本的態勢が浮かび上がってくることに気付く。糖尿病の人々,特に症状もなく,いわゆる古典的な苦痛症状を体験していない人々が糖尿病を自分のものとして「引き受けて」生きて行くことを支えるには,外的基準(検査結果の数値)による糖尿病学ではなく,「糖尿病医療学」が必要であり,その領域を拓き,確立することが急務であると説かれている。

 「糖尿病医療学」の基盤になるのは,療養を要する人々がそれぞれ生きて創ってきた心,すなわちそれぞれにとっての意味を支えることにあり,その要諦は本書の副題が示す通り,「聴く力,続ける力,待つ力」であるとされている。話すあるいは語ることが保証され,他者とつながり,その人の糖尿病と必要な療養行動についてのオーダーメードの情報が伝えられることによって,意味の変化とともに必要な行動につながってゆくのだと納得される。糖尿病の人々に限らず,難治性の慢性疾患と生きる人々の心や行動を理解し,支援する上での基本的態勢として身につけるべきものであることが示されている。本書が最初と最後を心理臨床家との対談で構成されていることは,実際の順序以上に,その重要性を強調したものとも読み取れる。

 石井氏がその穏やかで相手がほっとする表情で各氏との対談に臨まれている様子が彷彿としてくるとともに,糖尿病の人々にも同様に接し,支えておられることが想像される一冊である。

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