細胞診のベーシックサイエンスと臨床の実際
細胞診に携わるうえで必須の基礎知識をわかりやすく解説
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細胞検査士をはじめとする細胞診にかかわる人が知っておくべき基礎医学や疾患概念、診療の基本といった知識をコンパクトにまとめたテキスト。標本作製や顕微鏡所見の取り方などといった細胞診業務に携わるうえで不可欠な知識のベースの素養として持つべき知識の要点を解説。
編集 | 坂本 穆彦 |
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発行 | 2024年06月判型:B5頁:264 |
ISBN | 978-4-260-05587-1 |
定価 | 11,000円 (本体10,000円+税) |
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序文
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序
細胞診は組織診とともに,病理検査/病理診断の一翼を担っています。今日では,細胞診の有用性は日常診療においても,検診業務においても広く認められています。
細胞診のスクリーニングや同定(判定/診断)では,顕微鏡下に広がる種々の所見の解釈が問われます。そのノウハウの体得には,学習と経験の積み重ねが欠かせません。これらの知見と同時に,細胞診所見に直接的,間接的にかかわりのある基礎医学的知識は,それが豊富であればあるほど最終的な判断を裏付ける支えとなります。さらに,細胞診の報告内容が,臨床各科の診療現場や検診業務でどのように活かされているのを知ることは,この細胞診検体に受持医が何を求めているかを理解することに通じます。そして,それに的確に応じることによって有意義な報告書が作成できます。
本書は,細胞診業務に携わるための診断マニュアルとしての書籍とは一線を画し,細胞診に必要と考えられる,いわばバックグラウンドの知識に焦点を当てて編纂しました。私たちは,かつて同様の趣旨で『細胞診のベーシックサイエンスと臨床病理』(医学書院,1995年発行)を上梓しました。そのリニューアル版ともいうべき本書は,時代の変遷に合わせて章立てを組み直し,各項目にふさわしい専門家に新たに執筆を依頼しました。現状では,細胞診業務に直接関係はしないものの,今日のがん診療のトピックスであるがん遺伝子検査関連の事項も随所に記載されています。
業務としての細胞診の基本については,すでに『細胞診を学ぶ人のために』(医学書院,初版1990年発行)を世に出しており,版を重ねて現在は第6版に至っています。本書は,この『細胞診を学ぶ人のために』の姉妹書と位置付けており,両書を合わせてご利用いただくことにより,細胞診のスキルアップの一助としていただければ幸いです。
なお,本文中では“癌”は用いず,“がん”で統一しました。種々の「規約」や「ガイドライン」では,“癌”が一般的ですが,他方,かつての癌センターはがんセンターと名称変更し,各地にある基幹施設はおしなべてがんセンターと呼称しています。医療関係の教科書では,“がん”を用いているものは少なくありません。このような事情を背景に本書では“がん”を採用しました。この方針につき何かの折に,読者諸賢からのお考えをお聞かせいただければ,次回以降の改訂の参考にさせていただきます。
文末ながら,本書の編集・制作にあたっては医学書院書籍編集部の松本 哲氏,制作部の池田大志氏には大変お世話になりました。ここに厚く御礼申し上げます。
2024年5月
坂本穆彦
目次
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第1章 腫瘍の細胞生物学・分子生物学・分子遺伝学の基礎
1 遺伝子・ゲノム・染色体
1 遺伝子とDNA
2 DNAの転写
3 DNAの複製
4 ゲノムと染色体
5 ゲノムDNAの格納と3次元構造の調節機構
6 おわりに
2 遺伝子発現とタンパク質合成
1 転写
2 翻訳
3 エピジェネティックな転写制御
4 病理診断に関係するタンパク質
3 細胞周期・細胞分裂と細胞死
1 細胞周期・細胞分裂
2 細胞死
4 細胞情報伝達・細胞増殖シグナル
1 細胞間コミュニケーション
2 受容体と細胞内情報伝達系
3 細胞情報伝達を可視化する技術
5 腫瘍化・がん化のメカニズム
1 がん遺伝子
2 がん抑制遺伝子
6 遺伝性腫瘍
1 遺伝学の始まりと遺伝形式
2 Knudsonの2ヒット仮説
3 遺伝性腫瘍症候群
7 腫瘍免疫
1 がんとT細胞
2 樹状細胞
3 免疫応答の調整
第2章 押さえておきたいがんゲノム医療
1 がんゲノムプロファイリング検査の意義と次世代シークエンサー
1 がんにおける遺伝子異常の解明と分子標的薬の登場
2 がんゲノムプロファイリング検査の臨床現場への応用
3 遺伝子パネル検査に用いられるシークエンス手法と原理
4 今後の課題
2 分子標的薬とコンパニオン診断──抗HER2薬とHER2診断を中心に
1 分子標的薬
2 コンパニオン診断
3 抗HER2薬──がん種による承認薬の相違
4 広義のコンパニオン診断としてのHER2検査
3 免疫チェックポイント阻害薬とコンパニオン診断
1 免疫チェックポイント阻害薬とコンパニオン診断薬
2 診断薬としてのPD-L1免疫染色
3 組織検体と細胞検体
4 がんゲノムプロファイリング検査
1 がん遺伝子プロファイリング検査の意義
2 本邦のがんゲノム医療の体制
3 がん遺伝子プロファイリング検査の品質保証
4 がん遺伝子パネル検査の実際
5 エキスパートパネルとがんゲノム医療の実際
1 エキスパートパネルの構成員
2 エキスパートパネルの実際
3 がんゲノム医療の実施に必要なリソースと人材育成
4 おわりに
6 がんゲノム診療における細胞検体の取り扱いと留意点
1 ゲノム診療に用いられる検査/解析技術
2 細胞検体を用いたゲノム検査のプレアナリシス工程
3 細胞検体を用いたゲノム検査のアナリシス工程
4 おわりに
第3章 各領域の疾患に関連する基礎知識と細胞診の意義
1 子宮頸部
1 子宮頸がんおよび前駆病変の概要
2 子宮頸がんおよび前駆病変に対する検査手法
3 子宮頸がん検診
4 子宮頸がんおよびその前駆病変の治療
5 トピックス──子宮頸がんを予防するHPVワクチン
2 子宮内膜
1 子宮内膜について
2 薬物の子宮内膜への影響
3 子宮体がん・前がん病変分類
4 各種検査法と内膜細胞診の意義
5 治療
3 卵巣・妊娠・分娩・胎盤
I.卵巣
1 細胞診の対象となる主な疾患
2 卵巣がんの各種検査法と細胞診の意義
3 卵巣がんに対する治療の実際
4 トピックス
II.妊娠・分娩・胎盤
1 細胞診の対象となる主な疾患
2 絨毛性疾患に対する各種検査法と細胞診の意義
3 絨毛性疾患に対する治療の実際
4 トピックス
4 呼吸器および縦隔
1 細胞診の対象となる主な疾患
2 各種検査法と細胞診の意義
3 がん検診における細胞診
4 腫瘍に対する治療の実際
5 呼吸器細胞診検体を用いたゲノム診断
5 口腔
1 口腔領域で細胞診の対象となる疾患
2 口腔領域における細胞診の意義
3 口腔領域におけるがん検診
4 腫瘍に対する治療の概略
5 トピックス──液状化細胞診と新報告様式
6 唾液腺
1 細胞診の対象となる主な疾患
2 各種検査法と細胞診の意義
3 唾液腺腫瘍に対する治療の実際
7 消化管および肝・胆・膵
1 細胞診の対象となる主な疾患
2 各種検査法と細胞診の意義
3 腫瘍に対する治療の実際
4 トピックス──顕微内視鏡観察
8 泌尿器・男性生殖器
1 細胞診の対象となる主な疾患
2 各種検査法と細胞診の意義
3 腫瘍に対する治療の実際
4 トピックス──尿路上皮がん
9 甲状腺
1 細胞診の対象となる主な疾患
2 各種検査法と細胞診の意義
3 がん検診における細胞診
4 腫瘍に対する治療の実際
5 甲状腺ゲノム医療と細胞診
6 トピックス──甲状腺超音波ガイド下穿刺診断専門医制度
10 乳腺
1 細胞診の対象となる疾患
2 各種検査法と細胞診の意義
3 腫瘍に対する治療の実際
4 トピックス
11 中枢神経
1 細胞診の対象になる疾患の概要
2 各種検査手法と細胞診の意義
3 腫瘍に関する治療法の概略
12 体腔液・脳脊髄液
I.体腔液
1 細胞診の対象となる主な疾患
2 体腔液細胞診の意義
3 腫瘍に対する治療の実際
II.脳脊髄液
1 細胞診の対象となる主な疾患
2 脳脊髄液細胞診の意義
3 腫瘍に対する治療の実際
13 骨髄・リンパ節
1 細胞診の対象となる主な疾患
2 各種検査法と細胞診の意義
3 腫瘍に対する治療の実際
4 新しい吸引針生検の報告様式:Sydney System
14 骨・軟部
1 細胞診の対象となる主な疾患
2 各種検査法と細胞診の意義
3 腫瘍に対する治療の実際
第4章 細胞診の新時代
1 LBC材料利用の新展開
1 Liquid-based FNAとは
2 Liquid-based FNAによる組織診・細胞診検体分割法
3 LBC標本のピザカット式細胞転写法
4 Liquid-based FNAの新たな展開
2 AIと細胞診
1 細胞診へのAI応用
2 診断AI活用のメリット
3 診断AI開発への課題
4 AI診断とヒトの関係
3 細胞診自動スクリーニング支援装置の現状と将来的展望──脱顕微鏡化,完全自動化は可能か?
1 はじめに
2 自動化に向けての現状
3 細胞診自動スクリーニング支援装置使用の実際
4 まとめと将来的展望
4 遠隔診断(テレサイトロジー)
1 テレサイトロジーとは
2 WSIを用いないテレサイトロジー
3 WSIを用いたデジタルサイトロジー
5 米国における細胞診
1 米国の細胞診の歴史と現状
2 米国における細胞診断教育
6 ドイツの細胞診事情
1 ドイツの細胞診事情
2 Pap/HPV Cotesting System
3 デジタル細胞診
4 ドイツ近隣国の現状について
7 細胞診断と組織診断の関係
1 組織診
2 細胞診
3 組織診と細胞診の理想的な関係
8 細胞診の報告様式の動向
1 臓器別細胞診報告様式
2 2つのベセスダシステム
3 今後の課題
索引
Column
子宮内膜細胞診と組織診
非扁平上皮癌
消化管内視鏡AIについて
従来法とWSIスキャナーのスキャン時間の比較
書評
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細胞診断の力量のさらなるSTEP UPをめざして
書評者:小松 京子(つくば臨床検査教育・研究センター理事長)
『細胞診のベーシックサイエンスと臨床病理』が発行されたのは1995年である。細胞像から診断を推定するアトラスとは異なり,科学的な視点に基づく他にはないタイプの本であり,長きにわたり愛用した。待望のリニューアル版である本書はさらに進化し,時代に即した内容となっている。
第1章では基礎知識である分子生物学や遺伝子関連の知識はもとより,がん化のメカニズム・遺伝性腫瘍・腫瘍免疫など,多くの細胞診の教本にはあまり詳細に書かれていないところが丁寧に解説されている。ゲノム医療に関する第2章は最新情報満載で,NGS・がんゲノムプロファイリング・分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬・がんゲノム医療に関する事項・ゲノム診療における細胞診検体の取り扱いなどがエキスパートによってわかりやすく解説されている。がん遺伝子検査の精度管理や遺伝子パネル検査の現状などは,臨床現場にとって非常に重要な事項である。さらなる進化を遂げる領域であり,病理細胞診領域にも深く関わる分野である。
領域ごとに解説されている第3章では,病理組織分類だけでなく,疫学や治療,超音波や内視鏡画像の解説が掲載されており,細胞診断を行うにあたり非常に有用な知識を得ることができる。アトラス的な教本は多く存在するが,それとは全く異なるテイストの著書であり,細胞診に関連した幅広い学習のために活用していただけると確信する。
第4章で解説されているAIの応用・自動スクリーニング・テレサイトロジーなどは実施されていない施設も多くあるとは思うが,医療DXが推奨されている現在,さらなる進化が期待され,施設への応用がなされていくと考える。既にテレサイトロジーは,細胞診の研修会などでも利用されている。また,「デジタル病理画像」関連の保険収載が可能であるため,実施する施設も増加するであろう。
これら全ての情報は,色々な書籍から探してまとめていたが,一冊で学習できることに感激している。コンパニオン診断薬は増加していき,遺伝子情報も進化する。他にはない貴重な本書が適宜改訂され,継続的に発刊されていくことを切望する。著者は病理細胞診ならびに遺伝子領域で活躍中のご高名な先生方ばかりである。本書を活用し,最新の幅広い知識を得て,細胞診断の力量の更なるSTEP UPをめざしていただければ幸いである。
基礎医学的知識と臨床的意義をわかりやすく解説した逸書
書評者:佐藤 之俊(北里大学主任教授・呼吸器外科学/公益社団法人日本臨床細胞学会前理事長/細胞診専門医/FIAC)
本書の上梓に先立つこと約30年前に出版された『細胞診のベーシックサイエンスと臨床病理』は,今日の細胞診における基礎的な部分の発展を予想するかのようなインパクトある内容であった。そして満を持して誕生したのが,そのリニューアル版である本書『細胞診のベーシックサイエンスと臨床の実際』である。実際,この約30年間では,医学において多くの分野で細胞生物学,分子生物学,分子遺伝学が目覚ましく,かつ,急速に進歩し,がんゲノム診療の実装化,新たな疾患概念の確立,分類の改訂,あるいは,各種がん取扱い規約の改訂,WHO分類の制定など,枚挙にいとまのない進歩が続いている。そして,これらの変化と並行して,細胞診に求められる内容も刻一刻と変わっているといえる。
本書は,こうした医療の変化と細胞診に対するニーズを的確にとらえ,基礎医学的知識と臨床的意義をわかりやすく解説した逸書であるといえる。しかも,執筆陣は細胞診や病理関連の各分野のエキスパートというとても贅沢な顔ぶれである。内容は4つの章から構成されており,中でも圧巻なのは,第1章の「腫瘍の細胞生物学・分子生物学・分子遺伝学の基礎」と第2章の「押さえておきたいがんゲノム医療」だ。第1章では,腫瘍の理解に必要な遺伝子やゲノムについて,コンパクトでありながら,とてもわかりやすく解説され,さらに腫瘍化のメカニズムや腫瘍免疫といったがんゲノム医療に不可欠な基礎知識をわずか50ページ程で得ることができる。そして,その知識が第2章の理解に大いに役立ち,コンパニオン診断,免疫チェックポイント阻害薬,がんゲノムプロファイリング,エキスパートパネルなど,がんゲノム医療の理解と実践に必要な内容が網羅され,しかも細胞検体の取り扱いについての解説は,ゲノム診療を念頭に置いた方法の標準化,精度管理に深く関連する内容である。
一方で,第3章では各領域の疾患に関連する基礎知識と細胞診の意義が14の臓器・対象ごとに記載されている。特筆すべきなのは,各領域それぞれに「トピックス」が記載されており,このトピックスを拾い読みするだけでも多岐にわたる領域のポイントを把握できるという構成は心憎いまでの配慮といえる。そして,第4章は,これも本書のユニークな点であるが,「細胞診の新時代」と銘打って,AI,遠隔診断,国際的な事情など,グローバルに進化する細胞診の現在と将来展望を理解できるという豪華な内容である。
さらに,図表,写真,シェーマについて見てみよう。それぞれのクオリティーが高く,かつ分かりやすい配置と,色調やデザインは,本書を手に取った人をたちまち虜にするような出来栄えであるといって過言ではないだろう。
このように,本書は細胞診の「ベーシックサイエンス……」とはいえども,これからの細胞診にとって必要不可欠な知識を習得できる贅沢な一冊といえる。最後に,このような秀逸本を,万を期して編集された坂本穆彦先生と多くの執筆陣に心から感謝したい。