看護を教える人のための
経験型実習教育ワークブック
臨地実習ケーススタディの決定版! 看護教師ができる学習者中心の支援をワークしよう
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看護基礎教育の山場である臨地実習。初めてづくしの体験に緊張し、不安を抱える学生を支援するために、看護教師はどのように関わることが効果的か。本書は、看護を教える人がその教師力を高めるための理論である経験型実習教育に基づいて研修(ワーク)することができる、教育現場でコモンな28の事例を収載した。様々な経験を土台に羽ばたいていく学習者たちとともに、教師自身が成長するための支えとなるワークブックである。
●セミナー開催のご案内
看護教員のための教育力UPセミナー:経験型実習教育ワークショップ! 臨地実習での学びを学生個々の課題と実習目標につなげるために
日時:2020年2月8日(土)13 : 00 ~ 17 : 00
定員:60名
受講料:6,000円(消費税込、事前振込)
会場:東京都文京区・医学書院 本社2階 会議室
※セミナーの詳細は下記の医学書院 セミナー詳細ページにてご確認ください。
※お申し込みは医学書院 セミナー詳細ページよりお願いいたします。
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- 目次
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序文
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まえがき
臨地実習という学習の場は、学生にとってはストレスフルな現場だと思う。学生は初めて訪れる病院、初めて関わる患者や看護師たちとの出会いに緊張し、自らが関わることで患者に迷惑をかけないか、患者は自分を受け入れてくれるか、臨地実習指導者や学校教員から叱られないようにちゃんと記録が書けるか等々、多くのことに不安を感じる。どれほど事前学習を積み重ねてきた学生であっても、臨地実習に行くことの大きな緊張と不安から、自信のない脆弱な精神状態になってしまうことが多い。
このような精神状態のもと、現場で学生はさまざまな体験に困ったり、悩んだり、楽しんだり、喜んだりする。そうしたプロセスのなかで学生は学び、成長していく。この学生の学びや成長を大きくするために、看護教師としてどのような教育的支援を行なえばよいかを突き詰めてきたものが、「経験型実習教育」である。
本書は、看護を教える人がその教師力を高めるため、経験型実習教育の事例とワークを収載した。学生の強みや主体性を大切にし、ケアリングの醸成を目指す看護教育のあり方について、具体的なシナリオの展開を中心に、編者の考えを言語化してお伝えすることに取り組んできた成果としてお届けするものである。先行書『経験型実習教育 看護師をはぐくむ理論と実践』の内容、事例構成から進んだものに変化していることをあらかじめ付記したい。また実際の実習教育の場では、その場の状況と対話しながら教育していくため、文字に表していない学生の状況や患者さんの状況によっては、全く別のアプローチのほうがより適切である可能性もある。可能な限りのリアリティを追求した具体的な事例展開では、看護教師の思考過程についての提示を試みている。学内外の研修でさまざまな活用をしていただければ幸いである。このワークブックを手に取られて、より深く知りたいと思われた読者は、先行書『経験型実習教育』をひもといていただければと思う。
なお本書では、「看護を教える人」として、学校機関に所属する看護教員、そして臨床で学生の実習指導を担当する臨床実習指導者を含めて、(看護)教師と定義し、記載している。教諭とは、「教育職員免許法による普通免許状を有する、小・中・高等学校、幼稚園、養護・聾(ろう)・盲学校の正教員」をいい、教員は、「学校で児童・生徒・学生を教育する職務についている人」を指す。一方、教師は、学校などで、学業・技芸を教える人を指し、より幅が広い概念である。すなわち、看護大学や看護学校で教育する職務についている人は教員であり、教師である。臨床実習指導者は教員ではないが、やはり教師であるというのが、編者の考えの根底にある。
最後に、本書で登場する事例については個人が特定されないように種々の処理を施していること、またその集約・整理にあたっては多くの関係者のお力添えをいただいたことを付記し、感謝申し上げる。なかでも、沖縄県専任教員再教育研修でのワークの機会から多くのヒントをいただいた。多様な事例をアレンジして使用することに快諾いただいた前沖縄県看護教育協議会会長の垣花美智江先生と研修生たちに深謝する。
このワークブックが臨床実習指導で悩む看護教師にとって少しでも役に立てば、このうえない幸せである。
2018年3月
安酸史子・北川 明
臨地実習という学習の場は、学生にとってはストレスフルな現場だと思う。学生は初めて訪れる病院、初めて関わる患者や看護師たちとの出会いに緊張し、自らが関わることで患者に迷惑をかけないか、患者は自分を受け入れてくれるか、臨地実習指導者や学校教員から叱られないようにちゃんと記録が書けるか等々、多くのことに不安を感じる。どれほど事前学習を積み重ねてきた学生であっても、臨地実習に行くことの大きな緊張と不安から、自信のない脆弱な精神状態になってしまうことが多い。
このような精神状態のもと、現場で学生はさまざまな体験に困ったり、悩んだり、楽しんだり、喜んだりする。そうしたプロセスのなかで学生は学び、成長していく。この学生の学びや成長を大きくするために、看護教師としてどのような教育的支援を行なえばよいかを突き詰めてきたものが、「経験型実習教育」である。
本書は、看護を教える人がその教師力を高めるため、経験型実習教育の事例とワークを収載した。学生の強みや主体性を大切にし、ケアリングの醸成を目指す看護教育のあり方について、具体的なシナリオの展開を中心に、編者の考えを言語化してお伝えすることに取り組んできた成果としてお届けするものである。先行書『経験型実習教育 看護師をはぐくむ理論と実践』の内容、事例構成から進んだものに変化していることをあらかじめ付記したい。また実際の実習教育の場では、その場の状況と対話しながら教育していくため、文字に表していない学生の状況や患者さんの状況によっては、全く別のアプローチのほうがより適切である可能性もある。可能な限りのリアリティを追求した具体的な事例展開では、看護教師の思考過程についての提示を試みている。学内外の研修でさまざまな活用をしていただければ幸いである。このワークブックを手に取られて、より深く知りたいと思われた読者は、先行書『経験型実習教育』をひもといていただければと思う。
なお本書では、「看護を教える人」として、学校機関に所属する看護教員、そして臨床で学生の実習指導を担当する臨床実習指導者を含めて、(看護)教師と定義し、記載している。教諭とは、「教育職員免許法による普通免許状を有する、小・中・高等学校、幼稚園、養護・聾(ろう)・盲学校の正教員」をいい、教員は、「学校で児童・生徒・学生を教育する職務についている人」を指す。一方、教師は、学校などで、学業・技芸を教える人を指し、より幅が広い概念である。すなわち、看護大学や看護学校で教育する職務についている人は教員であり、教師である。臨床実習指導者は教員ではないが、やはり教師であるというのが、編者の考えの根底にある。
最後に、本書で登場する事例については個人が特定されないように種々の処理を施していること、またその集約・整理にあたっては多くの関係者のお力添えをいただいたことを付記し、感謝申し上げる。なかでも、沖縄県専任教員再教育研修でのワークの機会から多くのヒントをいただいた。多様な事例をアレンジして使用することに快諾いただいた前沖縄県看護教育協議会会長の垣花美智江先生と研修生たちに深謝する。
このワークブックが臨床実習指導で悩む看護教師にとって少しでも役に立てば、このうえない幸せである。
2018年3月
安酸史子・北川 明
目次
開く
第1章 経験型実習教育の学びを深める
1 あたらしい時代の教師に求められる能力の向上
A 時代・地域の要請に見合う看護学教育へ
B 本ワークブックの意義と構成
2 「よく見て、よく聴く」経験型実習教育
A 経験型実習教育で「おとなの学び」をはぐくむ
B 教材化のために教師ができること
3 経験型実習教育を行なううえで必要な能力
A 教材化に必要な教師の能力と授業過程
B 教師自身が反省的実践家であること
4 経験型実習教育の流れと実習指導で追求すること
A 学生の直接的経験の把握
B 直接的経験の明確化
C 学習可能内容を考える
D 関わりの方向性を考える
E 経験の意味づけの援助
5 経験型実習教育の展開に不可欠な質問と発問
A 正解を強くもちすぎないこと
B オープンリードで学生を誘う
C 行為のなかのリフレクションを導く教師の関わり
D ‘I’メッセージは最後に語る
E 教師が学生を理解するということ
第2章 経験型実習教育の導入ワーク
1 ワークの進め方と用語解説
A 各章でのワーク構成と流れ
B 項目の説明
2 学生の強みと課題を見つけよう
A 成人看護学慢性期実習での事例(1)からワークする
B 成人看護学慢性期実習での事例(2)からワークする
3 学生の直接的経験を推測してみよう
A 成人看護学急性期実習での事例からワークする
B 統合実習での事例からワークする
4 学生の学習可能内容を考えよう
A 基礎看護学実習IIでの事例からワークする
B 統合実習での事例からワークする
第3章 読んで学ぶ解説事例10
解説事例1:「態度の悪い」学生―やる気がないように見える
解説事例2:看護計画が実施できない学生―積極的な姿勢が見えない
解説事例3:患者に拒否された学生―ショックで落ち込んでいる
解説事例4:患者に自らの価値観を押し付ける学生―積極性が空回り
解説事例5:患者の状態をアセスメントできない学生―情報収集がわからない
解説事例6:自己評価が高すぎる学生―客観視ができない
解説事例7:患者のアクシデントや急変を自分のせいにする学生―消極的で受け身
解説事例8:ケア後にクレームの対象となった学生―誰のための看護かがズレている
解説事例9:ヒヤリハットに動転した学生―自身の長所・短所が整理できていない
解説事例10:ADHD(注意欠如・多動症)の学生―答えのない現実に直面している
第4章 シナリオをつくろう研修事例18
研修事例1:やる気がない学生―記録・課題に時間がかかる
研修事例2:失敗の報告をしない学生―想像力が乏しい
研修事例3:教師の指示を守らない学生―根拠のない自信がある
研修事例4:相談せずにケアを実施しようとする学生―考えが浅い
研修事例5:実習指導者に不満がある学生―現場判断がわからない
研修事例6:褥婦のケアができずに後悔した学生―自責傾向が強い
研修事例7:患者に予定変更を言い出せなかった学生―気が弱い
研修事例8:多重課題で優先順位がわからなくなった学生―まじめでおっとり
研修事例9:集中するとほかが見えなくなる学生―緊張しやすい
研修事例10:患者との距離感がわからない学生―言われるがままになる
研修事例11:患者にケアを強要する学生―思い込み・正義感が強い
研修事例12:患者の状態をアセスメントできない学生(1)―視野が狭い
研修事例13:患者の状態をアセスメントできない学生(2)―察することが苦手
研修事例14:患者に合わせた看護計画が立てられない学生(1)―せっかちで先走る
研修事例15:患者に合わせた看護計画が立てられない学生(2)―時間がかかる
研修事例16:末期がん患者へのケアに戸惑う学生―コミュニケーションが不安
研修事例17:グループメンバーに強く干渉する学生―連携ができない
研修事例18:インシデントレポートを提出した学生―実習がこわい
索引
1 あたらしい時代の教師に求められる能力の向上
A 時代・地域の要請に見合う看護学教育へ
B 本ワークブックの意義と構成
2 「よく見て、よく聴く」経験型実習教育
A 経験型実習教育で「おとなの学び」をはぐくむ
B 教材化のために教師ができること
3 経験型実習教育を行なううえで必要な能力
A 教材化に必要な教師の能力と授業過程
B 教師自身が反省的実践家であること
4 経験型実習教育の流れと実習指導で追求すること
A 学生の直接的経験の把握
B 直接的経験の明確化
C 学習可能内容を考える
D 関わりの方向性を考える
E 経験の意味づけの援助
5 経験型実習教育の展開に不可欠な質問と発問
A 正解を強くもちすぎないこと
B オープンリードで学生を誘う
C 行為のなかのリフレクションを導く教師の関わり
D ‘I’メッセージは最後に語る
E 教師が学生を理解するということ
第2章 経験型実習教育の導入ワーク
1 ワークの進め方と用語解説
A 各章でのワーク構成と流れ
B 項目の説明
2 学生の強みと課題を見つけよう
A 成人看護学慢性期実習での事例(1)からワークする
B 成人看護学慢性期実習での事例(2)からワークする
3 学生の直接的経験を推測してみよう
A 成人看護学急性期実習での事例からワークする
B 統合実習での事例からワークする
4 学生の学習可能内容を考えよう
A 基礎看護学実習IIでの事例からワークする
B 統合実習での事例からワークする
第3章 読んで学ぶ解説事例10
解説事例1:「態度の悪い」学生―やる気がないように見える
解説事例2:看護計画が実施できない学生―積極的な姿勢が見えない
解説事例3:患者に拒否された学生―ショックで落ち込んでいる
解説事例4:患者に自らの価値観を押し付ける学生―積極性が空回り
解説事例5:患者の状態をアセスメントできない学生―情報収集がわからない
解説事例6:自己評価が高すぎる学生―客観視ができない
解説事例7:患者のアクシデントや急変を自分のせいにする学生―消極的で受け身
解説事例8:ケア後にクレームの対象となった学生―誰のための看護かがズレている
解説事例9:ヒヤリハットに動転した学生―自身の長所・短所が整理できていない
解説事例10:ADHD(注意欠如・多動症)の学生―答えのない現実に直面している
第4章 シナリオをつくろう研修事例18
研修事例1:やる気がない学生―記録・課題に時間がかかる
研修事例2:失敗の報告をしない学生―想像力が乏しい
研修事例3:教師の指示を守らない学生―根拠のない自信がある
研修事例4:相談せずにケアを実施しようとする学生―考えが浅い
研修事例5:実習指導者に不満がある学生―現場判断がわからない
研修事例6:褥婦のケアができずに後悔した学生―自責傾向が強い
研修事例7:患者に予定変更を言い出せなかった学生―気が弱い
研修事例8:多重課題で優先順位がわからなくなった学生―まじめでおっとり
研修事例9:集中するとほかが見えなくなる学生―緊張しやすい
研修事例10:患者との距離感がわからない学生―言われるがままになる
研修事例11:患者にケアを強要する学生―思い込み・正義感が強い
研修事例12:患者の状態をアセスメントできない学生(1)―視野が狭い
研修事例13:患者の状態をアセスメントできない学生(2)―察することが苦手
研修事例14:患者に合わせた看護計画が立てられない学生(1)―せっかちで先走る
研修事例15:患者に合わせた看護計画が立てられない学生(2)―時間がかかる
研修事例16:末期がん患者へのケアに戸惑う学生―コミュニケーションが不安
研修事例17:グループメンバーに強く干渉する学生―連携ができない
研修事例18:インシデントレポートを提出した学生―実習がこわい
索引
書評
開く
不確実な実習現場での経験と教える人の支援が,学生を看護師に育てる
書評者: 池西 静江 (Office Kyo-Shien代表)
臨地実習の「経験」が,学生を看護師に育てます。しかし,医療事故や患者の権利擁護に注目の集まる社会情勢の変遷により,看護師免許取得前の学生が現場で体験できることは,以前より少なくなってきました。そのため,「経験」をどう効果的に教えるかを考えなくてはいけません。
また,実習教育の難しさは複数の意味での不確実性にあると思います。患者には,日々の病態や心理の変化,治療の効果や副反応の出現などの不確実性があります。学生には,知識・技術の未熟さに加えて,揺れ動く心理の不確実性があります。そして,両者の相互作用で成り立つ看護実践は,さらに不確実性を増します。しかし,不確実で正解が見えない経験を積んでこそ,教員・指導者の助言を得て経験を振り返り,学生は看護師になっていくことができるのです。
ここで求められるのが,教える者の力量です。一人ひとり違う学生の経験を把握し,経験を「教材」として切り取り,何をどう教えるかをその場で考え,学生にかかわります。教える者にとって,正解が1つではない不確実さが実習教育を難しくします。
このたび出版された本書は,教える者に大切な,しかし成書の少ないこうした現場ベースドの考え方とかかわりの道筋を示してくれています。まず,学生の直接的経験を把握し,明確にすることからスタートし,次に学習可能な内容とかかわりの方向を考え,最後に経験の意味付けを援助する,というものです。
確かに自分自身の指導を振り返ってみますと,その道筋を意識せずにたどっていたように思います。それを明示してくれたことで,新しく教える立場になった者はずいぶん助けられると思います。
本書はワークブックですので,その道筋を紙面上で自ら経験的にたどることができます。しかも,「あるある!」とうなずける具体的な事例がたくさん掲載されていますので,よいトレーニングになります。中でも,学生の強みを明確にするトレーニングは有効だと思います。
個の伸長をめざす教育活動において,課題だけでなく,強みを見いだすことは重要です。ワークに取り組む中で,課題中心に学生を見る自己の傾向性に気付くこともあります。「記録が書けなくても,叱られることを覚悟で毎日実習に来る」という本書で紹介されている例も,まさしくその学生の大きな強みです。それを認めて,次のプロセスに進むと,学生の表情は変わってきます。その上で,学生の直接的経験を「教材」にして,何をどう教えるかを考えるトレーニングを積めば,効果的なかかわりができるようになると思います。
本書は,そのようなパターンを踏襲して10事例について考えた後,次の18の研修事例は,その場面で何をどう教えるかについて,解答例のない課題に自分で取り組むという構成です。現場実践における解答は1つではないので,悩みながらその1つひとつに誠実に取り組む姿勢こそ,自らの教育力を磨くことになります。
実習教育は難しいと思っている看護教員・臨地実習指導者の方はぜひ,ワークに取り組んでいただけるとよいと思います。
臨地実習の充実を支えてくれる,楽しみながら学べる1冊(雑誌『看護管理』より)
書評者: 東 めぐみ (日本赤十字北海道看護大学 教授/前・東京都済生会中央病院看護部)
◆臨地実習の充実は,現場の指導者の能力向上から
2020年の教育大改革を控え,看護学教育においても,画一的でなく自分自身で考える力を持つ学生の養成が課題に挙げられ,臨地実習の充実が求められている。また,地域包括ケアシステムの中で,医療や介護の多職種連携が求められる時代において,「看護を必要としているところに学生が実習に行く」という観点への変換が必要である。
本書は,新しい時代の看護を教えるひと(臨地実習指導者と看護教育機関の教員)を読者対象として,その教師力を高めるための経験型実習教育の事例とワークを収載している。
従来の病院完結型を超えた新時代の臨地実習を成功させるための,現場の指導者・教師の能力向上に向けたメッセージでもある。
◆経験型実習教育という学生中心の教育支援
経験型実習教育とは,学生が臨地実習の現場で困ったり,悩んだり,楽しんだり,喜んだりする体験のプロセスにおいて,学生の成長や喜びをより大きくするための教育的支援のことである。提唱者は本書の編者の1人である安酸史子氏。氏は,学生が臨地実習の経験から学ぶ力の育成を目指しており,その成功は教師の能力によるところが大きいと述べている。
氏は前著『経験型実習教育―看護師をはぐくむ理論と実践』(医学書院)において,教師の能力と学生の資質について,共に飛躍できる課題を持つことを提唱しており,本書はその課題を達成するための構成となっている。
◆各章の構成
第1章では,教師が実習における学生の直接体験を知り理解し,そこから学習可能内容を絞りこむプロセスや問いかけ,教師としての雰囲気や態度が明確に描かれている。教師にとって経験型実習教育の展開に不可欠な内容が示されている。
また,第2章では,学生の強みと課題を見つけるための導入ワークが準備され,楽しみながら経験型実習教育を体験することができる。
第3章は,実際の事例から学ぶことができ,臨場感ある構成となっているのも魅力である。
◆学生と共に育つ指導者の育成に本書を活用する
筆者の前職場では臨地実習指導者会を月に1回開催していた。各部署の臨地実習指導者が集まり,実習指導の事例を通し,学生に変化をもたらしたのはなぜか,そのかかわりはどのような理論に裏付けられているか,指導に生かすために何が学べるか,などを検討するためである。
事例は「臨地実習振り返りシート」を毎回各自が提出し,その中から選出される。学生が臨地実習の経験から学ぶためには,臨地実習指導者自らが,指導経験から学ぶことの重要性を理解し,実感し,実践することが求められる。
この指導経験から学ぶ機会は,学生と共に成長する指導者としての自分を実感する場でもある。こうした場で本書をさらに活用できると思っている。
自分で考えて看護を実践できる学生の育成は,自律した実践ができる看護師の育成につながっている。経験型実習教育を推進する編者の熱いメッセージを感じる1冊である。
(『看護管理』2019年5月号掲載)
「教師力」向上のための振り返りを魅力的に促す,実習指導必携の実践書(雑誌『看護教育』より)
書評者: 前川 幸子 (甲南女子大学看護リハビリテーション学部)
看護学生は,臨地実習をとおして,目を見張るほどの成長を遂げる。それは学生が患者と出会うことで,病むことの苦難や生きることの喜びといった人生の意味を反芻したり,その人にかかわる看護師の看護観にふれたりすることで,自らの在り方を問い,看護実践をとらえ直す機会を得るからである。このような学生像は,本書の編者である安酸が重視する看護実践の経験を省察しながらケアリングを学ぶ姿勢として現れる。それは「経験型実習教育」理論が体現化される一端ともいえるだろう。しかし学生が臨地に赴けば,いずれもがこのように学べるのかといえばそうではない。看護を教える人の「教師力」が,その鍵を握る。
本書は,4章から構成されている。第1章は「経験型教育の学びを深める」ための編者の教育理論にもとづいた看護学のための実習教育が述べられており,第2章では理論にもとづく「経験型実習教育の導入ワーク」を進めるための実習教育の方法,さらに第3章で「読んで学ぶ 解説事例10」にもとづく具体的な指導方法が提示され,第4章は事例を発展させていく「シナリオをつくろう 研修事例8」である。本書で提言されているのは,「いかに教えるのか」ではない。教師は,学生を「よく見て,よく聴く」ことで学生の経験に接近し,学生が自らの経験を探求し意味を見出すという「反省的経験」へと導く,実習場面の教材化という実践である。そのために教師は,学生が患者とのかかわりにおける経験を自由に表出できるような,「教師の学習的雰囲気」を保証することが重要になる。
実習教育において教師が醸し出す雰囲気や態度が大切なのは,学生が抑圧されず自己主張が明示できる看護職へと育む必要があるからである。
学生にとって,教師が評価者である前に学習の支援者であることは,他者から承認される経験につながり,自己効力感を高めることにもなるだろう。そのため教師は,自分の振る舞いや行為について学生の立場で省みる必要がある。本書を読み進めながら,私たち教師は反省的実践家であると自然に自覚するのは,振り返りの促しが随所に散りばめられているからである。たとえば第3章で登場する学生の事例は,これまで筆者自身がかかわってきた学生を想い出し,懐かしい感覚に包まれた。ワークに沿ってあのときの「私」の経験をたどり直してみると,過去の出来事は過ぎ去ってはおらず,鮮やかに蘇り,ときに痛みを伴いながら,新たに教えることの意味が更新されていく。リアリティ溢れる教育の場面に関心をおもちの方は,第3章から読み進められ,ワークされても良いかもしれない。
なお本書は,『経験型実習教育 看護師をはぐくむ理論と実践』(2015年)に続く実践書である。併せて手に取っていただくことをお勧めしたい。
(『看護教育』2018年7月号掲載)
書評者: 池西 静江 (Office Kyo-Shien代表)
臨地実習の「経験」が,学生を看護師に育てます。しかし,医療事故や患者の権利擁護に注目の集まる社会情勢の変遷により,看護師免許取得前の学生が現場で体験できることは,以前より少なくなってきました。そのため,「経験」をどう効果的に教えるかを考えなくてはいけません。
また,実習教育の難しさは複数の意味での不確実性にあると思います。患者には,日々の病態や心理の変化,治療の効果や副反応の出現などの不確実性があります。学生には,知識・技術の未熟さに加えて,揺れ動く心理の不確実性があります。そして,両者の相互作用で成り立つ看護実践は,さらに不確実性を増します。しかし,不確実で正解が見えない経験を積んでこそ,教員・指導者の助言を得て経験を振り返り,学生は看護師になっていくことができるのです。
ここで求められるのが,教える者の力量です。一人ひとり違う学生の経験を把握し,経験を「教材」として切り取り,何をどう教えるかをその場で考え,学生にかかわります。教える者にとって,正解が1つではない不確実さが実習教育を難しくします。
このたび出版された本書は,教える者に大切な,しかし成書の少ないこうした現場ベースドの考え方とかかわりの道筋を示してくれています。まず,学生の直接的経験を把握し,明確にすることからスタートし,次に学習可能な内容とかかわりの方向を考え,最後に経験の意味付けを援助する,というものです。
確かに自分自身の指導を振り返ってみますと,その道筋を意識せずにたどっていたように思います。それを明示してくれたことで,新しく教える立場になった者はずいぶん助けられると思います。
本書はワークブックですので,その道筋を紙面上で自ら経験的にたどることができます。しかも,「あるある!」とうなずける具体的な事例がたくさん掲載されていますので,よいトレーニングになります。中でも,学生の強みを明確にするトレーニングは有効だと思います。
個の伸長をめざす教育活動において,課題だけでなく,強みを見いだすことは重要です。ワークに取り組む中で,課題中心に学生を見る自己の傾向性に気付くこともあります。「記録が書けなくても,叱られることを覚悟で毎日実習に来る」という本書で紹介されている例も,まさしくその学生の大きな強みです。それを認めて,次のプロセスに進むと,学生の表情は変わってきます。その上で,学生の直接的経験を「教材」にして,何をどう教えるかを考えるトレーニングを積めば,効果的なかかわりができるようになると思います。
本書は,そのようなパターンを踏襲して10事例について考えた後,次の18の研修事例は,その場面で何をどう教えるかについて,解答例のない課題に自分で取り組むという構成です。現場実践における解答は1つではないので,悩みながらその1つひとつに誠実に取り組む姿勢こそ,自らの教育力を磨くことになります。
実習教育は難しいと思っている看護教員・臨地実習指導者の方はぜひ,ワークに取り組んでいただけるとよいと思います。
臨地実習の充実を支えてくれる,楽しみながら学べる1冊(雑誌『看護管理』より)
書評者: 東 めぐみ (日本赤十字北海道看護大学 教授/前・東京都済生会中央病院看護部)
◆臨地実習の充実は,現場の指導者の能力向上から
2020年の教育大改革を控え,看護学教育においても,画一的でなく自分自身で考える力を持つ学生の養成が課題に挙げられ,臨地実習の充実が求められている。また,地域包括ケアシステムの中で,医療や介護の多職種連携が求められる時代において,「看護を必要としているところに学生が実習に行く」という観点への変換が必要である。
本書は,新しい時代の看護を教えるひと(臨地実習指導者と看護教育機関の教員)を読者対象として,その教師力を高めるための経験型実習教育の事例とワークを収載している。
従来の病院完結型を超えた新時代の臨地実習を成功させるための,現場の指導者・教師の能力向上に向けたメッセージでもある。
◆経験型実習教育という学生中心の教育支援
経験型実習教育とは,学生が臨地実習の現場で困ったり,悩んだり,楽しんだり,喜んだりする体験のプロセスにおいて,学生の成長や喜びをより大きくするための教育的支援のことである。提唱者は本書の編者の1人である安酸史子氏。氏は,学生が臨地実習の経験から学ぶ力の育成を目指しており,その成功は教師の能力によるところが大きいと述べている。
氏は前著『経験型実習教育―看護師をはぐくむ理論と実践』(医学書院)において,教師の能力と学生の資質について,共に飛躍できる課題を持つことを提唱しており,本書はその課題を達成するための構成となっている。
◆各章の構成
第1章では,教師が実習における学生の直接体験を知り理解し,そこから学習可能内容を絞りこむプロセスや問いかけ,教師としての雰囲気や態度が明確に描かれている。教師にとって経験型実習教育の展開に不可欠な内容が示されている。
また,第2章では,学生の強みと課題を見つけるための導入ワークが準備され,楽しみながら経験型実習教育を体験することができる。
第3章は,実際の事例から学ぶことができ,臨場感ある構成となっているのも魅力である。
◆学生と共に育つ指導者の育成に本書を活用する
筆者の前職場では臨地実習指導者会を月に1回開催していた。各部署の臨地実習指導者が集まり,実習指導の事例を通し,学生に変化をもたらしたのはなぜか,そのかかわりはどのような理論に裏付けられているか,指導に生かすために何が学べるか,などを検討するためである。
事例は「臨地実習振り返りシート」を毎回各自が提出し,その中から選出される。学生が臨地実習の経験から学ぶためには,臨地実習指導者自らが,指導経験から学ぶことの重要性を理解し,実感し,実践することが求められる。
この指導経験から学ぶ機会は,学生と共に成長する指導者としての自分を実感する場でもある。こうした場で本書をさらに活用できると思っている。
*
自分で考えて看護を実践できる学生の育成は,自律した実践ができる看護師の育成につながっている。経験型実習教育を推進する編者の熱いメッセージを感じる1冊である。
(『看護管理』2019年5月号掲載)
「教師力」向上のための振り返りを魅力的に促す,実習指導必携の実践書(雑誌『看護教育』より)
書評者: 前川 幸子 (甲南女子大学看護リハビリテーション学部)
看護学生は,臨地実習をとおして,目を見張るほどの成長を遂げる。それは学生が患者と出会うことで,病むことの苦難や生きることの喜びといった人生の意味を反芻したり,その人にかかわる看護師の看護観にふれたりすることで,自らの在り方を問い,看護実践をとらえ直す機会を得るからである。このような学生像は,本書の編者である安酸が重視する看護実践の経験を省察しながらケアリングを学ぶ姿勢として現れる。それは「経験型実習教育」理論が体現化される一端ともいえるだろう。しかし学生が臨地に赴けば,いずれもがこのように学べるのかといえばそうではない。看護を教える人の「教師力」が,その鍵を握る。
本書は,4章から構成されている。第1章は「経験型教育の学びを深める」ための編者の教育理論にもとづいた看護学のための実習教育が述べられており,第2章では理論にもとづく「経験型実習教育の導入ワーク」を進めるための実習教育の方法,さらに第3章で「読んで学ぶ 解説事例10」にもとづく具体的な指導方法が提示され,第4章は事例を発展させていく「シナリオをつくろう 研修事例8」である。本書で提言されているのは,「いかに教えるのか」ではない。教師は,学生を「よく見て,よく聴く」ことで学生の経験に接近し,学生が自らの経験を探求し意味を見出すという「反省的経験」へと導く,実習場面の教材化という実践である。そのために教師は,学生が患者とのかかわりにおける経験を自由に表出できるような,「教師の学習的雰囲気」を保証することが重要になる。
実習教育において教師が醸し出す雰囲気や態度が大切なのは,学生が抑圧されず自己主張が明示できる看護職へと育む必要があるからである。
学生にとって,教師が評価者である前に学習の支援者であることは,他者から承認される経験につながり,自己効力感を高めることにもなるだろう。そのため教師は,自分の振る舞いや行為について学生の立場で省みる必要がある。本書を読み進めながら,私たち教師は反省的実践家であると自然に自覚するのは,振り返りの促しが随所に散りばめられているからである。たとえば第3章で登場する学生の事例は,これまで筆者自身がかかわってきた学生を想い出し,懐かしい感覚に包まれた。ワークに沿ってあのときの「私」の経験をたどり直してみると,過去の出来事は過ぎ去ってはおらず,鮮やかに蘇り,ときに痛みを伴いながら,新たに教えることの意味が更新されていく。リアリティ溢れる教育の場面に関心をおもちの方は,第3章から読み進められ,ワークされても良いかもしれない。
なお本書は,『経験型実習教育 看護師をはぐくむ理論と実践』(2015年)に続く実践書である。併せて手に取っていただくことをお勧めしたい。
(『看護教育』2018年7月号掲載)