看護者が行う意思決定支援の技法30
患者の真のニーズ・価値観を引き出すかかわり
はじめに、感情を共有する-そこから患者の抱える課題や価値観がみえてくる
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著 | 川崎 優子 |
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発行 | 2017年02月判型:A5頁:136 |
ISBN | 978-4-260-03022-9 |
定価 | 2,200円 (本体2,000円+税) |
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序文
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看護者が行う意思決定支援と聞くと,皆さんは何をイメージされるでしょうか。治療や療養場所,有害事象対策の選択…など,ひとりの人が病とともに生きていくプロセスの中で,意思決定の機会は幾度となく訪れます。命にかかわる選択という岐路に立たされている患者さんを目の前にしたとき,看護者には,「意思決定支援が必要なのでは?」と気づく感性が必要となります。そして,意思決定を支援する際には,その人の人生の中でどのような選択をすることが最もよいのか,患者さんの価値観に基づいて意思決定を共有していくことが重要です。また,意思決定支援において相手の価値観を取り扱う際には,看護師という職業人としての姿勢だけでなく,ひとりの人として向き合う姿勢も大切になります。そのため,本書では看護師ではなく“看護者”という言葉を用いています。
本書では,筆者の約8年間にわたるがん相談支援員としてのフィールドワーク経験をもとに作成した「意思決定プロセスを支援する共有型看護相談モデル(Nursing Model for Supporting Shared Decision Making:NSSDM)」を紹介しています。このモデルには,がん患者の意思決定場面における看護療養相談技術として,9つのスキルと30の技法が含まれています。これは,207名のがん患者・家族の方とのかかわりの中から,意思決定支援につながる看護療養相談技術を抽出し体系化したものです。その後,本モデルを用いた介入研究を行い,その結果に基づいて技術の洗練作業を行い現在の形になっております。なお,本書の構成は,以下のとおりです。
第1章 意思決定支援とNSSDMの基礎知識:看護者が患者の意思決定プロセスを共有するために必要となる基礎知識,NSSDMの枠組み,意思決定支援を始める前の心構えなどについて説明しています。
第2章 意思決定支援における9つのスキルと30の技法:看護療養相談技術(9つのスキルと30の技法)の使い方について,患者さんの反応や問いかけへの受け答えをイメージできるよう会話文形式で具体的に説明しています。
第3章 NSSDMを用いた意思決定支援の実際:2事例を取り上げ,面談場面の一部を紹介する形で看護療養相談技術の複合的な用い方を説明しています。
付録 価値観ワークショップ:患者さんに内在する価値観を明らかにするためには,看護者として自分の価値観についても認識しておく必要があります。そのためには,意思決定支援を始める前にリフレクションの機会をつくり,価値観を取り扱うことの大切さを知ることが重要です。ここでは,日ごろの臨床場面で価値の対立が起こっていないかを確認する方法の1つとして,ワークシートを掲載しています。
NSSDM活用の際には,次の3点にご留意いただければと思います。1点目にNSSDMはがん患者・家族の事例を基盤として作成したものですが,看護援助機能を生かした意思決定支援として構成していますので,がん看護以外の分野においても汎用性があるかと思います。2点目に意思決定支援にかかわる技術として“9つのスキルと30の技法”がありますが,意思決定支援のプロセスの中ですべての技術を使うのではなく,患者の状況や相談内容に応じて必要となる技術だけを,段階的に用いることになります。3点目に,セルフケア能力が高い患者さんの場合には,信頼性の高い情報を効率的に収集できるツールがあれば,医療者の介入は必要にならない場合があります。筆者らの研究班が作成した,患者用ウェブサイト「がんになっても…あなたらしく納得のいく生活を送るために~意思決定の進め方~」(http://sdminoncology.sub.jp/index.html)では,がん患者がセルフケア能力を生かしながら意思決定を段階的に進めていくことができるように,ガイドとなる指標や情報などを掲載していますので,よろしければご活用ください。
NSSDMの作成にあたり,貴重な体験を語り研究にご協力頂きましたがん患者・家族の皆さま,介入研究にご協力いただきましたがん看護専門看護師の方々のご支援に,こころより感謝申し上げます。また,本書の内容は兵庫県立大学看護学研究科博士後期課程の学位論文の一部をもとに,臨床で使用しやすいように実践例を加えて執筆したものです。指導教員である兵庫県立大学看護学部長内布敦子先生には,本研究へ着手するためのフィールドワークの機会を与えて下さり,論文指導において多大なるご支援をいただきましたことに深謝申し上げます。本書を出版するきっかけを下さった医学書院看護出版部の北原拓也氏,執筆プロセスを支えてくださった染谷美有紀氏にも感謝申し上げます。
最後になりましたが,読者の皆様のケアにより,ひとりでも多くの患者さんが“納得のいく意思決定”をできることを願っております。また,本書がその一助になれば幸いです。
2017年1月
川崎優子
目次
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第1章 意思決定支援とNSSDM
(意思決定プロセスを支援する共有型看護相談モデル)の基礎知識
[1] 意思決定プロセスを共有するための基礎知識
1 (知識1) 意思決定って何だろう
▪ 情報提供の仕方に留意
▪ 問題・状況を把握し,準備性を整える
▪ 価値観の確認
2 (知識2) 患者の意思決定プロセスを共有する方法
▪ シェアード・デシジョン・メイキング(SDM)
▪ オタワ個人意思決定ガイド
3 (知識3) 看護援助機能を生かした意思決定支援とは
[2] NSSDMの枠組み
▪ 患者の内部感覚
▪ 看護者の内部感覚
▪ 患者の意思決定に向けて用いる看護療養相談技術
[3] 意思決定支援を始める前の心構え
1 意思決定プロセスにおいて支援が必要となる患者を見きわめ,
患者を取り巻く環境を理解する
2 患者の意思決定プロセスを共有する
3 患者の決定を尊重し見守る
[さらにくわしく]
1 状況的意思決定と医学的意思決定
2 意思決定プロセス
3 意思決定の行動論的フレームワーク
4 シェアード・デシジョン・メイキング
5 オタワ個人意思決定支援ガイド
6 Bennerによる「援助役割」
第2章 意思決定支援における9つのスキルと30の技法
[1] 9つのスキルと30の技法の使い方
▪ 意思決定支援の3段階
▪ すべてのスキル・技法を網羅的に用いるのではなく,
状況に合わせて選択して用いる
[意思決定支援における9つのスキルと30の技法]
(スキル1) 感情を共有する
技法1 感情を浮かび上がらせる
技法2 表出された感情と向き合う
技法3 感情を受け止める
技法4 これまでの療養方法をねぎらう
(スキル2) 相談内容の焦点化につきあう
技法5 潜在的に抱えている問題の表面化につきあう
技法6 共有すべき問題の点検
技法7 療養状況にまつわる価値観の確認
技法8 患者の療養生活に対する認識を認め肯定的な評価をかえす
技法9 誤解している認識を解きほぐす
技法10 意思決定に猶予を与える
(スキル3) 身体状況を判断して潜在的な意思決定能力をモニターする
技法11 セルフケア能力の査定
技法12 意思決定の阻害につながる身体状況のアセスメント
(スキル4) 自分らしさを生かした療養方法づくりに向けて準備性を整える
技法13 患者の基準にあった生活のあり方を導き出す
技法14 調整を図りながら可能な対処方法を見出す
技法15 療養生活と向き合うための調整を図る
技法16 患者自らが療養生活に取り組むための構えづくりにつきあう
(スキル5) 患者の反応に応じて判断材料を提供する
技法17 問題解決に必要な情報を確認しながら見定める
技法18 情報提供するタイミングを図る
技法19 患者が活用できる情報を提供する
技法20 客観的指標を一意見として伝える
技法21 対処の緊急性や重要性を伝える
(スキル6) 治療・ケアの継続を保障する
技法22 医療者間の連携を強化する
技法23 サポートの求め方を伝える
技法24 患者のペースに合わせて段階的に取り組むことを伝える
(スキル7) 周囲のサポート体制を強化する
技法25 サポートのバランスを調整する
技法26 患者にとっての重要他者を支える
(スキル8) 情報の理解を支える
技法27 理解しづらい部分をひも解く
技法28 医学的な知識を理解しやすいかたちに置き換える
(スキル9) 患者のニーズに基づいた可能性を見出す
技法29 患者のニーズを汲み取り限界ではなく可能性を見出す
技法30 意思決定の方向性を強める
第3章 NSSDMを用いた意思決定支援の実際
[事例1] 標準治療をかたくなに拒否する場合
[事例2] 化学療法の治療継続を迷っている場合
付録 価値観ワークショップ
▪ 価値観ワークショップ
▪ ワーク1 自分の価値観に出会う
▪ ワーク2 医療者としての価値観に出会う
▪ ワーク3 患者の価値観に気づく
索引
書評
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書評者: 宇野 さつき (医療法人社団新国内科医院 看護師長 がん看護専門看護師)
本書『看護者が行う意思決定支援の技法30』の一番の印象として,私は,単なる「意思決定支援」だけでなく,「看護師がケア提供者として患者・家族に『寄り添う』ということは,つまりどのような看護実践であるのか?」を分かりやすく具体的に示しているのではないかと思った。
◆地域包括ケアの時代-さらに重要性が高まる意思決定支援
私は外来と訪問看護を通し,がん患者だけでなく,認知症や難病,慢性疾患の患者に関わっている。がんをはじめ治療が外来中心となり,入院期間の短縮に伴い,ますます地域側の対応の重要性を感じている。
疾患や障害を抱えながらも,いかに「生活者」として住み慣れた地域での暮らしを支えていくかという課題には,地域包括ケアをはじめとする連携・サポートシステムは欠かせない。しかしそれ以前に,さまざまな価値観やニーズを持つ患者・家族が「どのように過ごしたいか?」「何を大切にしたいのか?」を理解し,それに沿ったケア・マネジメントを行っていくことが必須になる。医療的な側面だけでは解決できない課題について,患者の身体や病気・障害,生活のことも分かり,ケアの実践を行う看護師は,まさに地域ケアの要であり,意思決定支援は大切な役割だと考える。
訪問看護では,看護師は1人で患者宅や施設に出向き,さまざまな視点でアセスメントを行いつつ,患者の意向を尊重し,ケアの提供とともに,周囲との調整も行わなければならない。本書の中で特に基本となる「感情を共有する」「相談内容の焦点化につきあう」「身体状況を判断して潜在的な意思決定能力をモニターする」というスキルは,訪問看護にとって,ケアの提供や患者・家族との信頼関係を築く上でも欠かせない。
本書の特徴は,著者の長年の丁寧な看護実践と研究,教育活動をもとに,理論的な背景から,具体的な声のかけ方まで,実践者でも理解しやすいように工夫されていることである。相談業務を行う看護職だけでなく,実践経験の少ない病棟看護師や訪問看護師でも,実践事例を参考に,本書を片手に患者・家族に意思決定支援を行っていくことができる。
◆ケアの振り返りやスタッフ教育時の指標としても活用可能
管理・教育者の立場からは,例えばケアカンファレンスや事例検討での振り返り,スタッフ教育の際に,どのような点はできていて,どのような点が不十分なのかを系統立てて具体的に確認するための指標としても活用可能だと思った。
スタッフが患者の立場や自分の看護実践の意味を理解し,次に根拠をもって意図的に取り組めることで,管理者はケアの質向上につなげていけると考える。余談ではあるが,本書の「患者・家族」をそのまま「スタッフ」に置き換えると,スタッフの意思決定を支援する管理者への示唆になるのではないかとも思った。
患者・家族の感情を受け止め,意思決定プロセスに寄り添っていくためには,スタッフの「気持ちのゆとり」と,関心を向けるための「モチベーション」は必要であり,本書は管理者としてのスタッフ・マネジメントがより重要であることを,私が痛感する機会にもなった。
管理者の皆さまには,ぜひ一読をお勧めしたい。
(『看護管理』2017年6月号掲載)
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