コンコーダンス
患者の気持ちに寄り添うためのスキル21

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「薬は大事ってわかってはいるけど…」「つい、薬を飲み忘れてしまう…」といった声があがるのは、患者のもつ価値観やライフスタイルと、提供される医療が「調和」していないからでは? 本書は、服薬の継続が重要な慢性疾患患者の服薬支援や患者の意思決定支援などに役立つ6つの[介入]と21の【スキル】からなる「コンコーダンス(調和)」の考え方と技術をわかりやすく解説した初めての1冊!
安保 寛明 / 武藤 教志
発行 2010年07月判型:B5頁:224
ISBN 978-4-260-01078-8
定価 2,860円 (本体2,600円+税)

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はじめに

 「コンコーダンス」という言葉をはじめて目にされたかもしれませんが,「調和」「協調」と言えば,医療や福祉の専門職者にとってはなじみのある考え方でしょう。患者と援助者が目標を共有し,価値観を承認しあいながら物事を進める「コンコーダンス(調和)」の考え方は,患者を尊重する医療者の基本的な姿勢を表明する概念と言えます。
 あるいは,「受ける医療は患者自身が決める」という消費者主義に基づく概念だという見方ができるかもしれません。しかし,「コンコーダンス」の考え方では,医療者と患者がお互いを尊重しあう関係性をつくろうという点に,単なる消費者主義との違いがみられます。過剰に患者の自己決定・自己責任を強調するわけでも,医療・福祉職の専門性や善意を押しつけるのでもない,両者の考えを適度なバランスで融合することが重要な概念なのです。
 筆者らが知る限り,「コンコーダンス」の概念が公式の場に登場したのは1997年のことです。薬の飲み忘れや通院の中断などによるノンコンプライアンスの問題に取り組んでいた英国王立薬剤師会(Royal Pharmaceutical Society of Great Britain)が,ノンコンプライアンスの原因を,患者自身の問題から当事者─援助者の関係性の問題へと視野を広げた報告書「コンプライアンスからコンコーダンスへ(From Compliance to Concordance)」を公表したのです。現在,「コンコーダンス」の概念は,英国王立薬剤師会が扱っていた服薬行動にとどまらず,健康行動における当事者と専門家の関係性やその成果を示す概念へと広がっています。運動,食事,衛生などの幅広い健康行動を取り扱う際の中核概念として,「コンコーダンス」が用いられるようになってきています。
 このような背景を踏まえ,「コンコーダンス」の考え方に基づいた患者支援を行いたいという医療・福祉の専門職者に向けて本書を書きました。第1章と第2章では「コンコーダンス」の概念と枠組みに関して,第3章と第4章では具体的な介入やスキルに関して,第5章と第6章では「コンコーダンス」の概念に基づいた実践を行うための工夫に関して,記述しています。本書は,「コンコーダンス」の概念を知るだけでなく,“できるところから実践する”ことを意識して,そのような構成としました。
 本書の中でも,実践に活用したいと考える臨床家にとって関心が高いであろう第3章と第4章の記述は,英国で地域精神看護師向けに開発された技術集である『コンコーダンス・スキル・マニュアル(Concordance Skills Manual)』という小冊子の影響を強く受けています。『コンコーダンス・スキル・マニュアル』は英国University of East AngliaのRichard Gray教授らが開発し,動機づけ面接と認知行動療法で用いられる技法をもとに構成されています。著者の1人である安保はConcordance Skillsの前身であるAdherence Therapyを日本語にして,著者のもう1人である武藤はConcordance Skillsを日本語にして,それぞれ個人的に活用していました。今回,コンコーダンスに関する書籍を出版する運びとなり,第3章と第4章ではGray教授の『コンコーダンス・スキル・マニュアル』を参考にしつつ,日本人の文化的特性に合わせてスキルを追加しています。具体的には,Gray教授があげている17種類のスキルに,日本人は自己主張が控えめであることを考慮して,患者の考えを引き出すための問いのスキル【コーピング・クエスチョン】【スケーリング・クエスチョン】【ミラクル・クエスチョン】を,労いの言葉を重視する文化的背景を考慮して【支持と承認を示す】ためのスキルを追加しています。なお,追加したこれらのスキルは解決志向ブリーフセラピーと来談者中心療法で強調されるため,それらの理論的背景を重視した記述にしています。今回の出版にあたって『コンコーダンス・スキル・マニュアル』を参考に記述することを許可してくださったGray教授に深く感謝いたします。
 本書では,筆者らのバックグラウンドから「私たち看護師は」と記述している部分もありますが,医療や福祉に従事する専門職者およびそれを志す学生が主たる読み手であることを意識して記述しています。読者の皆さんが,患者や同僚などと協調した関係のもとに医療が展開される醍醐味を味わえることを願っています。

 2010年6月
 安保寛明・武藤教志

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はじめに

第1章 コンコーダンスとは 医療と患者のライフスタイルとの調和
 コンコーダンスとは─「患者の人生は患者のもの」を表明する
 患者からみたコンコーダンス(調和)の意味
 医療者からみたコンコーダンス(調和)の意味
 コンコーダンスについて,イメージしてみよう
 患者にはめざすべき価値観,信念,ライフスタイルがある
 コンコーダンスの概念を技術に

第2章 コンコーダンスへ向かうための[介入]と【スキル】とは
 介入とスキルはなぜ必要か
 本書で紹介する[介入]と【スキル】
 介入を成功に導くためのコツ
 スキルを学ぶ前に…コミュニケーション上達のコツ

第3章 コンコーダンス・スキルを活用した[介入] 6種の「鍵となる介入」
 気持ちが患者に向いているか,確認しよう
 KEY 1 コンコーダンス・アセスメント
 KEY 2 実践的問題の整理
 KEY 3 振り返り
 KEY 4 両価性の探求
 KEY 5 信念と懸念についての会話
 KEY 6 先を見据える

第4章 コンコーダンス(調和)のための21スキル
 基礎的スキル
  1 相手の用いている言葉を使う
  2 オープン・クエスチョン(開いた質問)
  3 クローズド・クエスチョン(閉じた質問)
  4 要約
  5 リフレーミング
  6 リフレクション(反応の引き出しと応答)
  7 支持と承認を示す
 かかわりを進めるためのスキル
  8 コラボレーション(協働性を示す)
  9 反映的傾聴
  10 面接を相互に関係づける
  11 アジェンダの設定(面接の枠組みを取り決める)
  12 柔軟に対応する
  13 積極的な治療的スタンス
  14 個人の選択とその責任を強調する
  15 コーピング・クエスチョン(工夫の問いかけ)
 鍵となるスキル
  16 患者の関心を維持する
  17 抵抗を最小限にとどめる
  18 矛盾を拡大する
  19 情報を交換する
  20 スケーリング・クエスチョン(得点化の問いかけ)
  21 ミラクル・クエスチョン(創造の問いかけ)

第5章 コンコーダンス・スキルを実践で活用するために
 臨床場面で実践を始める前の工夫
 臨床場面で実践を始める直前から始めたばかりのころの工夫
 臨床場面で実践を継続するための工夫
 “壁”に当たった場合のヒント!

第6章 コンコーダンス・スキルを組織で活用するために
 研修を企画する前に……まず先に考えたほうがよいこと
 研修を企画する
 コンコーダンスの理念や研修の成果を見直す

付録 面接用紙(テンプレート)
 1 コンコーダンス・アセスメント
 2 実践的問題の整理
 3 振り返り
 4 両価性の探求
 5 信念と懸念についての会話
 6 先を見据える

索引

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書評 (雑誌『訪問看護と介護』より)
書評者: 谷藤 伸恵 (訪問看護ステーション やまのて)
 コンコーダンス(調和・一致)という概念は、1997年、英国王立薬剤師会が、ノンコンプライアンス(薬の飲み忘れや通院中断)の原因を患者自身の問題から当事者-援助者の関係性の問題へと視野を広げた報告書「コンプライアンスからコンコーダンスへ」から始まったといわれ、現在は、運動、食事、衛生など幅広い健康行動を取り扱う際の中核概念として用いられています。つまりコンコーダンスとは、「患者の価値観やライフスタイル、信念を尊重し、それに支援者が調和していく」ということを中心に置いて、対象者と支援者が対話しながら調和関係を形成し、対等な関係で健康行動の意思決定をしていこうという考え方です。

 そのプロセスでは、対象者との調和関係をめざすための、コンコーダンス・スキル(専門的なスキルや介入)を習得することが必要になります。

 本書の第1~2章は、[コンコーダンス]の概念と枠組み、第3~4章は、[介入](治療的な意図をもって行なわれる関わりの1単位)として、振り返りなど6つの介入と、[スキル](技術)として、要約など21のスキルが定義や解説、実践例などとともに具体的に紹介されています。

 さらに実践しやすいよう、第5~6章では、[コンコーダンス]の概念に基づいた実践を行なうための工夫が書かれており、付録には[介入]を実践しやすいよう面接シートもついています。

 これまでの私は、訪問看護師として行なう利用者さん・ご家族とのコミュニケーションのなかで、振り返りや要約という技術を用いてきたつもりでいました。しかし本書を読み進むうちに、これまでの私の関わりは、勘や経験によるところが多く、意図や評価・効果のとらえ方がとてもあいまいだったことに気づきました。

 たとえば、基礎的スキルの(4)要約(Summarizing)(p.102~107)では、対象者の話のポイント整理のためのフレームワークが2つ紹介されています。「1.論理構造をポイントにする場合のフレームワーク」と「2.認知モデルをポイントにする場合のフレームワーク」です。論理構造をポイントとした場合は、事実→根拠→意見という順序で整理していきます。認知モデルをポイントとした場合は、事実→認知的解釈→反応(感情的反応・行動的反応・生理的反応)と進みます。どちらも事実を起点に、相手の話を聞きながら内容を整理するプロセスを構造化しています。

 この方法を活用すると、利用者さん・ご家族の話を「適切に要約」することができ、同時に自分の話した内容についても振り返ることができることに気づきました。これからは、日常場面でスムーズに活用できるよう、コンコーダンスの概念や姿勢、内容をより深く理解し、対話技術習得のための研修会にも参加したいと考えています。

 対象者の視点に立ち、より効果のある適切な関わりをめざしたい方=訪問看護師にお勧めの1冊です。

(『訪問看護と介護』2011年2月号掲載)

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