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がん患者心理療法ハンドブック

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国際サイコオンコロジー学会の承認を受けた、がん患者への心理療法テキストブックの邦訳。過去20年間のサイコオンコロジー領域における心理研究の集大成であり、21の精神療法が収載されている。症例の解説のみならず理論的背景、エビデンスなどもコンパクトにまとめられ、臨床腫瘍医、がん看護師のみならず、臨床心理士が現場でどう介入を拡げていくかの示唆が満載。
監訳 内富 庸介 / 大西 秀樹 / 藤澤 大介
発行 2013年07月判型:A5頁:456
ISBN 978-4-260-01780-0
定価 4,400円 (本体4,000円+税)

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監訳者序(内富庸介)/まえがき(Lynn Faulds Wood)/(Maggie Watson and David W. Kissane)

監訳者序
 恩師であるMaggie Watson博士 / 心理士から本書の翻訳打診のメールが来たのは2011年11月のことだった。彼女はロンドン郊外のがんセンターで長年,がんとの向き合い方であるFighting spirit coping,認知行動療法をはじめサイコオンコロジーの先駆的研究を数多く行ってきた。さらに,共同編集者はサイコオンコロジーの発祥地,メモリアルスロンケタリングがんセンターのサイコオンコロジー部門の二代目部長であるDavid Kissane博士である。彼は内科医,精神科医,緩和ケア医の経歴を持つ。悲嘆ケア,コミュニケーション・スキル,認知行動療法など大規模研究を行ってきた。日本からの留学,研修を多く受け入れてくださっている,恩師でもある。
 早速,本書を取り寄せてみると,国際サイコオンコロジー学会公認とある。サイコオンコロジー領域でサイコセラピーにこれほど特化した教科書は国内外問わず見当たらない。初学者にも重要な支持的精神療法や認知行動療法から,ディグニティ・セラピーなど先進的なものまで幅広くカバーされている。断る理由が見当たらず,日本サイコオンコロジー学会大西秀樹理事長に相談して翻訳を決めた。
 がん対策基本法(2007年)が施行され,がん対策推進計画の二期目,2012年から「早期からの緩和ケア」が謳われたことにより,すべてのがん患者・家族を対象に精神心理的ケアを推進することとなり,精神腫瘍医,緩和ケア医,腫瘍医,看護師,心理職,MSWのみならずすべての医療職に心のケアを担う責務が生じた。これまで,日本サイコオンコロジー学会は,がん医療に携わる医師,看護師,心理職ほかすべての医療職に対して研修会を継続的に開催してきているが,患者・家族からのニーズに十分こたえられているとは言えない状況にある。今回の翻訳出版はタイムリーな企画と考えた。
 最後に,翻訳を通して精神腫瘍学の発展のために臨床現場で汗を流している,若手からベテランのサイコオンコロジストの方々,そして共同監訳を引き受けてくださった,サイコセラピーの若手のホープ,藤澤大介氏に深く感謝申し上げたい。また,丹念に編集に協力してくださった,医学書院医学書籍編集部の大橋尚彦氏,安藤恵氏に深謝いたします。本書が,広く精神腫瘍学を学ぶ医療関係者の参考になり,患者,家族のQOL向上に貢献できたらと願う。また,本書がサイコオンコロジーの目覚ましい発展の証左となるだけでなく,若手の研修のロードマップになればと願う。

 2013年6月
 内富庸介


まえがき
 われわれのほとんどは,がんがこの身に起こるまで,がんについてまったく知らない。ショックな診断をどのように扱うかということは,それぞれのパーソナリティのタイプも含めて多くのことに左右されているが,そのほとんどは,(この10年間を超える患者支援の経験からみると)困難な時期を経験する際のサポートの質に依存していると考えている。
 私自身,突然20年前に進行がんの診断を受けるまで,結腸がんについて聞いたこともなかった。私の夫と私はゴールデンアワーのBBCテレビの司会者で,息子はまだ3歳だった。新聞で,私の生存率が34%だということを知ったときには,私の首の後ろの毛が恐怖で逆立ち,その後長い間不眠症を患った。
 ほぼ1年診断が遅れたことにより,予後はさらに厳しい道のりになった——私の生命と家族の幸せはそのとき予断を許さない状態だった。おそらくそれは診断が長く遅れたことに原因があるのだ。
 がんは気持ちのジェットコースターであり(私たちのうちのほぼ半分は影響されるだろう),そしてほとんどの者がそれを乗り越えるために助けを必要とする。面倒をみなければならない子どもたちや両親を抱えての診断は,さらに大きく悩む。どうやって対処すればいいの? どうして私たちががんになったの? 再発の可能性は? 誰に助けを求めればいいの?
 私の34年来の親友がステージDの胃がんであると診断されたとき,私はある大きな都市病院で最悪のケア(身体的,心理的,そして感情的)をみた——そして,彼女のがんに対して臨床治験を施行していた,私の知っている医師を通して,別のがん専門病院へと彼女を転院させることができたときに最高のケアを目撃した。彼女はそこでの治療のおかげで幸せに亡くなった——尊厳,尊敬,支援,手厚いケア,そして,彼女自身が愛を感じていた。さらに彼女は亡くなる1週間前に病院で結婚し,“人生で一番幸せな日”と呼んでいた。
 結果として,私たち,彼女の友人は,彼女の人生最後の幸せな思い出と,またそのようなすばらしいサポートに関与することができたという大きな感謝の気持ちを遺してもらった。悲しいことに,すべての人がそうできるわけではなく,サイコオンコロジーはいまだ大きく広がってはいないが,患者にとってのがんの旅路の不可欠な一部となっている。
 私は欧州がん患者連合(European Cancer Patient Coalition)を共同設立し,また7年間会長としてそれを運営し,41カ国で300の患者団体とのネットワークを確立している。私たちは,どのように治療されたいか,ということについての要約として,3つのスローガンを掲げている:

・本人不在では何も始まらない!
・私たち自身をみて!——病気ではなく
・患者はケアのパートナー!

 医学の専門家たちはしばしば身体を癒すことに集中しすぎて,私たちの頭のことについてケアを十分に行えていない。多くの国で立てられたがん治療計画は,患者にとってサイコオンコロジーが大切であるということを不適切にしか扱っておらず,場合によってはふれられてもいない。
 この,『がん治療におけるサイコセラピーのハンドブック』は,がん患者やその家族,友達や同僚が,がんの診断を受けたあとの生活で実践したくなる事柄について学べる入門篇である。私たちの,今後の人生の幾年月に,より多くの恩恵が得られるよう願っている。

 Lynn Faulds Wood
 Lynn’s Bowel Cancer Campaign
 European Cancer Patient Coalition



 本書は,がん患者とその家族や,介護者のために発展してきた心理療法の知識と経験を分かち合うことを目的とした,国際サイコオンコロジー学会(International Psycho-Oncology Society;IPOS)の教育計画の一部として刊行された。それぞれの章では,多くの治療的アプローチにおける有効性に関して現在認められている実証性や,サービス実施に関するいくつかの知識だけでなく,その背景や技術についても読者に紹介している。それらは独立した一つのセラピーのマニュアルとしてではなく,それぞれのセラピーへの導入という意図で構成されている。
 サイコオンコロジーは,がんがもたらす多くの心理社会的な試練に応じて,20世紀後半にかけて発展した,新しい分野である。その臨床的焦点は,それぞれの患者ががん治療とそれを乗り越える旅路において,積極的なコーピング力を育成し,健康的な適応を促進することにある。またその統合された多くの専門分野にわたるアプローチは,腫瘍医によって導かれた生物医学的なモデルを補完するものである。心理士,精神科医,ソーシャルワーカー,看護師,チャプレン(聖職者),一般総合医,そしてその他の医学者ら,専門家の熟練の技により,患者・家族の生物・心理・社会的な,そしてスピリチュアルなニーズに対して包括的な配慮が保証されている。
 心理療法は,患者や家族のコーピングをサポートするためにサイコオンコロジストが利用できる様々な,一連の対人的介入技術を含んでいる。また,心理療法は,その焦点を患者や家族中心に当て,深い理解を通して洞察を促しており,その適用に際してはクライエントを尊重し,そのうえ現場の医療者と同じく多種多様のアプローチを有している。結果として,心理療法に何ができ,どう応用できるかをよく見定めるためにかなりの範囲のモデルを利用している。さらに,異なる文化や教育歴の患者のニーズに順応しているだけでなく,異なるがんや治療のなかでの要求にも対応している。応用された心理療法は,がん医療のなかで熟練者の芸術として出現してきている。
 本書では,世界中のサイコオンコロジストによって利用されている心理療法のモデルを多くレビューしており,また筆者らはその方法を最適化して利用するためにガイドラインを提唱している。われわれは,がんのそれぞれの病期(発症,早期段階,サバイバーシップ,進行,緩和ケア,そして死別の段階)に現れる様々な問題と並行して,心理療法の適応について個人,集団,カップル,そして家族療法への適応を射程範囲と想定している。私たちの患者のケアを大いに改善する方法を示す,刺激的な新しい介入モデルがいくつか発表されている。筆者らはIPOSより選抜され,その多くはIPOS世界大会に付随して開催されているPsychosocial Academiesで定期的に教鞭をとっている者たちである。本当に,彼らは心理療法的介入を腫瘍学の枠組みに適合させる研究の多くを牽引してきており,またそれらは患者や家族,介護者のニーズに対する真の応答性がある研究であると保証している。本書においては,彼らは,有益な結果を生む手助けとなる,臨床的に例証された戦略とともに,それぞれのモデルの応用について解説している。
 編集者として,私たちは本書を生み出すにあたり,この分野の先導者である尊敬すべき筆者らと仕事ができたことを誇りに思っている。われわれは,それぞれが執筆した章に記されているような,知識や技術を分かち合おうと時間や努力を注ぎ込んでくれた筆者たちに深く感謝している。特に,彼らの協同や友好,学識,そしてIPOSやサイコオンコロジーの訓練への献身に感謝の意を表したい。われわれはまた,本書に興味をもってくれた読者たちに感謝するとともに,この入門書が,今後読者たちの思慮深く繊細なセラピーを導いてくれることを願う。特別な感謝をWiley-Blackwell のJoan Marsh とFiona Woods,Maggie Watsonを支えてくれているRoyal Marsden病院のSue Davolls,David Kissaneを支援してくれているMemorial Sloan-Kettering腫瘍センターのLaurie Schulman,そして最後にElliott Graham とIPOS本部の運営チームに贈りたい。本書はすばらしいチームによる努力の賜物であり,優れたがん治療の提供に求められている,凝集性の高い心理社会的ケアチームの最たる本質を例示している。
 がんは,世界中で死因のトップであり,一生のうち約2人に1人,4家族中3家族に影響を与える。一度がんと診断された者は,大きな苦難を与えられることになるだけでなく,その治療もまた骨の折れるものとなる。日々抗がん治療が進歩しているのと同じく,本書で記述されている心理療法も大いに洗練され,結果を出している。
 われわれは,内科医と外科医,心理士と精神科医,看護師とソーシャルワーカー,実に多くの分野からのヘルスケアの専門家たちが,本書を読んで様々な技術や戦略を学んでくれることを願っている。結果として,どんなにがんの診断や治療がストレスフルであると証明されたとしても,患者に生じたどんな苦悩も改善されうるし,QOLが病気に打ち勝つために支援されるように,患者のケアは常に改良され,癒しとなる結果となることをわれわれは信じている。

 2010年10月11日
 Maggie Watson and David W. Kissane

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Section A 治療の個人モデル
 Chapter 1 がん医療における支持的精神療法:
  すべてのセラピーに不可欠な要素
 Chapter 2 がん治療における認知行動療法
 Chapter 3 サイコオンコロジーにおける認知分析療法
 Chapter 4 がん患者に対するマインドフルネス心理療法
 Chapter 5 リラクセーションとイメージに基づいた療法
 Chapter 6 物質依存における動機づけカウンセリング
 Chapter 7 ナラティブ・セラピー
 Chapter 8 ディグニティセラピー
 Chapter 9 筆記による感情開示

Section B 治療のグループモデル
 Chapter 10 支持的・感情表出的グループ療法
 Chapter 11 初発がん患者を対象とした構造的な短期心理教育的介入
 Chapter 12 意味中心グループ心理療法
  (Meaning-centered group psychotherapy)
 Chapter 13 早期乳がん患者とパートナーのためのカップルグループ療法

Section C カップルおよび家族療法
 Chapter 14 進行がん患者の夫婦療法:
  スピリチュアルな苦痛を和らげるために親密さと意味を用いて
 Chapter 15 性機能障害の治療
 Chapter 16 緩和ケアおよび死別ケアにおける家族指向セラピー

Section D ライフサイクルに応じた治療
 Chapter 17 遺伝性腫瘍外来における心理療法
 Chapter 18 小児期,青年期のがん患者に対する心理療法
 Chapter 19 がん患者とその子どもの心理療法
 Chapter 20 高齢がん患者に対する心理社会的介入:
  自分の年齢を知らなかったら,あなたは何歳になるのか
 Chapter 21 死別における意味再構築

索引

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さまざまな軸からがん患者の心のケアをとらえた実践書
書評者: 鈴木 伸一 (早稲田大学人間科学学術院教授・臨床心理学)
 平成24年にがん対策推進基本計画が刷新され,がん患者の精神的苦痛に対する心のケアを含めた全人的な緩和ケアのさらなる充実に向けた取り組みが始まっている。がん対策基本法の制定以降,がん診療を行う各地域の主要な医療機関に緩和ケアチームなどが置かれ,がん患者の疼痛管理やせん妄およびうつ症状などへの対応が積極的に行われるようになり,がん患者の心のケアの基盤は整いつつある。しかし,がん患者が医療者に望んでいる心のケアの範囲と内容は,もっと多岐にわたっていると思われる。がん診療を行う医療者も,患者が「がん」という病を抱えながら生きていくがゆえに抱えるさまざまな生活上の不安や葛藤をいかに理解し,ケアしていくかが今後のがん診療の中核的な課題であることは理解しつつも,「誰が」「どこで」「どのように」ケアしていくかという点においては,スタッフの専門性や方法論,さらには状況的な制約などから,具体的な取り組みを実行できないジレンマを感じているのではないだろうか。

 このたび刊行された『がん患者心理療法ハンドブック』は,がん患者の心のケアの充実に向けた新たな取り組みへの「道しるべ」になるような,大変優れた解説書である。国際サイコオンコロジー学会(IPOS)公認テキストブックにも指定されており,その内容はがん患者への心理療法の全体像を理解しつつ,かつ各論の重要ポイントをしっかり学ぶことができる構成となっている。

 4部構成からなり,第1部では「治療の個人モデル」として,主要な心理療法(支持的精神療法,認知行動療法,認知分析療法,マインドフルネス心理療法,リラクセーション療法,動機づけカウンセリング,ナラティブ・セラピー,ティグニティセラピー,筆記による感情開示)が章立てされており,各章では当該の心理療法の背景理論,適応となる患者像,治療の流れと技法,事例提示,エビデンスなどが網羅的に解説されている。特に,第1章は「すべてのセラピーに不可欠な要素」という副題が付けられ,がん患者が抱える心理社会的問題や苦悩と,それに向き合う医療者の基本的な心構えや資質などについて詳細に解説されている。

 第2部は,「治療のグループモデル」として,感情表出,心理教育,意味の探求,配偶者との関係性などをテーマとして章立てされており,各グループ療法の展開が解説されている。いずれも,病棟や外来で導入可能な患者支援プログラムとしてのアイデアを提供してくれる。

 第3部は,「カップルおよび家族療法」として,進行がん患者の夫婦,性機能障害,ターミナルおよび死別の家族ケアがテーマとして章立てされており,がん患者のみならず,配偶者や患者の子どもなど,患者と患者を取り巻く家族の苦悩をどのように支えていくかについて詳細に解説されている。

 第4部は,「ライフサイクルに応じた治療」として,遺伝腫瘍,小児がん,がん患者とその子どもの支援,高齢がん患者,死別がテーマとして章立てされており,ライフサイクルのさまざまな局面で「がん」という病を抱えることの苦悩とそれによって生じる生活上の困難の緩和に,心理療法をどのように活用していけばよいかが具体的かつ詳細に解説されている。

 以上のように,本書はがん患者への心理療法の展開を,心理療法の方法論にとどまらず,がん診療の現場でどのような対象や文脈(初発,再発,ターミナル,遺伝,小児,高齢者,死別,子育て)に,どのようなセッティングで展開するか(個人,グループ,本人,家族)といった複数の異なる軸からがん患者の心のケアをとらえ,その具体的な実践を紹介している点が,これまでの書籍にはなかった特に優れた点であることを強調しておきたい。本書が,がん診療に携わる多くの医療者に活用され,わが国のがん患者の心のケアがさらに充実していくことを期待したい。

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