よくわかる血液内科
血液内科を得意科目にしよう! 研修医、非専門医に必要な知識がこの1冊に
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「難しい」「見逃せば重篤な状況に陥ってしまう」「相談できる専門医がいない」「かといって専門書はとっつきにくい」――できれば血液内科を避けて通りたいあなたと一緒に、代表的な症例を推理しながら、臨床血液学の基礎を学びます。(1)血液を理解して、患者さんにわかりやすく説明できる、(2)鑑別診断ができる、(3)初期対応ができ、必要な場合には適切に専門医につなげられる、これが本書の目標です。
著 | 萩原 將太郎 |
---|---|
発行 | 2018年01月判型:A5頁:284 |
ISBN | 978-4-260-03207-0 |
定価 | 4,180円 (本体3,800円+税) |
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- 序文
- 目次
- 書評
序文
開く
推薦のことば(青木 眞)/はじめに(萩原將太郎)
推薦のことば
症例検討会で,血液疾患,特に悪性リンパ腫などは頻出疾患である.その理由は全身に表現される臨床像の多様性にあり,内科医の総合診療的な力が最も試される疾患であるためである.ちなみに本邦に導入が遅れた専門領域に感染症,膠原病,そして血液・腫瘍学の3つがあり,それらの共通点は「特定の臓器を扱わない」点,すなわち全身を診る点にある.いわゆる総合診療的資質が求められる専門領域である.
筆者が最も信頼する血液内科医である萩原將太郎先生は沖縄県立中部病院の後輩であり,それゆえに血液内科専門医である前に優れた総合診療医である.彼に症例を相談するようになって既に20年を超えるが,その安定感は揺るぎがない.萩原先生は,また研修医教育も旨いが,これもその基礎となる総合診療的アプローチを重視する姿勢ゆえである.
本書のタイトルは「よくわかる血液内科」であるが,通読して感じることは,基礎的な病態生理の説明など,その専門性の高さであり,各章の冒頭にある実際の症例に象徴されるように臨床的に書かれた教科書・成書の印象に近い.このため簡単に「総合診療の初学者が通読」できるようなタイプの本ではない.その意味では貧血や血小板減少,リンパ節腫脹といった個別の問題に遭遇した時に辞書的・教科書的に開くといったことのほうが使い方としてはよいのではないかと個人的には思う.もちろん,第8章(危ない病気・症状を見逃さないために)のような腫瘍学的緊急症(Oncological emergency)といった内容は初学者も目を通しておくべきである.
「血液内科学が得意科目になるシリーズ」と題して,医学書院 総合診療医学誌である『JIM』『総合診療』に連載された内容などをもとに編纂された本書が初学者からベテランまでの多くの読者を得ることを望みます.
2017年11月
感染症コンサルタント 青木 眞
はじめに
血液は,からだ中を隈なく流れ,酸素運搬のみならず,感染防御,腫瘍免疫までを司る重要な生命維持システムです.そして血液の疾患は全身の病気であり,見逃すと重篤な状況に陥ることが少なくありません.
と,ここまで読んだだけで「あっ,やっぱり血液は難しそう.できれば避けて通りたい」と思う読者も多いのではないでしょうか?
でも,気軽に相談できる血液内科医がいない.血液の勉強をしてみたいけれど専門書は取っ付きにくい.う~ん,困りましたね.
本書は,「血液内科学が♡得意科目♡になるシリーズ」として医学書院の医学誌『JIM』『総合診療』で2年間連載した内容に,筑波大学附属病院水戸地域医療教育センター水戸協同病院で総合診療科の若手医師を対象に行った5年分の特別講義録を加えて書き直したものです.
各章はクリニカルプロブレム毎に分かれており,数話ずつの代表的な症例を紹介しています.症例をもとに一緒に推理しながら楽しく血液内科を学べるように工夫しました.
読者の皆さんが,
1.血液を理解して,患者さんにもわかりやすく説明できる
2.病気の鑑別診断ができる
3.初期対応ができ,必要な場合には適切に専門医につなぐことができる
これら,3つのことができるようになることが目標です.
総合診療,一般内科を担当している先生方はもちろん,ジェネラリストとして活躍されているすべての医師,研修医,レジデント,コメディカル,これから医療者をめざす学生さん達のお役に立てれば幸いです.
2017年12月
萩原將太郎
推薦のことば
症例検討会で,血液疾患,特に悪性リンパ腫などは頻出疾患である.その理由は全身に表現される臨床像の多様性にあり,内科医の総合診療的な力が最も試される疾患であるためである.ちなみに本邦に導入が遅れた専門領域に感染症,膠原病,そして血液・腫瘍学の3つがあり,それらの共通点は「特定の臓器を扱わない」点,すなわち全身を診る点にある.いわゆる総合診療的資質が求められる専門領域である.
筆者が最も信頼する血液内科医である萩原將太郎先生は沖縄県立中部病院の後輩であり,それゆえに血液内科専門医である前に優れた総合診療医である.彼に症例を相談するようになって既に20年を超えるが,その安定感は揺るぎがない.萩原先生は,また研修医教育も旨いが,これもその基礎となる総合診療的アプローチを重視する姿勢ゆえである.
本書のタイトルは「よくわかる血液内科」であるが,通読して感じることは,基礎的な病態生理の説明など,その専門性の高さであり,各章の冒頭にある実際の症例に象徴されるように臨床的に書かれた教科書・成書の印象に近い.このため簡単に「総合診療の初学者が通読」できるようなタイプの本ではない.その意味では貧血や血小板減少,リンパ節腫脹といった個別の問題に遭遇した時に辞書的・教科書的に開くといったことのほうが使い方としてはよいのではないかと個人的には思う.もちろん,第8章(危ない病気・症状を見逃さないために)のような腫瘍学的緊急症(Oncological emergency)といった内容は初学者も目を通しておくべきである.
「血液内科学が得意科目になるシリーズ」と題して,医学書院 総合診療医学誌である『JIM』『総合診療』に連載された内容などをもとに編纂された本書が初学者からベテランまでの多くの読者を得ることを望みます.
2017年11月
感染症コンサルタント 青木 眞
はじめに
血液は,からだ中を隈なく流れ,酸素運搬のみならず,感染防御,腫瘍免疫までを司る重要な生命維持システムです.そして血液の疾患は全身の病気であり,見逃すと重篤な状況に陥ることが少なくありません.
と,ここまで読んだだけで「あっ,やっぱり血液は難しそう.できれば避けて通りたい」と思う読者も多いのではないでしょうか?
でも,気軽に相談できる血液内科医がいない.血液の勉強をしてみたいけれど専門書は取っ付きにくい.う~ん,困りましたね.
本書は,「血液内科学が♡得意科目♡になるシリーズ」として医学書院の医学誌『JIM』『総合診療』で2年間連載した内容に,筑波大学附属病院水戸地域医療教育センター水戸協同病院で総合診療科の若手医師を対象に行った5年分の特別講義録を加えて書き直したものです.
各章はクリニカルプロブレム毎に分かれており,数話ずつの代表的な症例を紹介しています.症例をもとに一緒に推理しながら楽しく血液内科を学べるように工夫しました.
読者の皆さんが,
1.血液を理解して,患者さんにもわかりやすく説明できる
2.病気の鑑別診断ができる
3.初期対応ができ,必要な場合には適切に専門医につなぐことができる
これら,3つのことができるようになることが目標です.
総合診療,一般内科を担当している先生方はもちろん,ジェネラリストとして活躍されているすべての医師,研修医,レジデント,コメディカル,これから医療者をめざす学生さん達のお役に立てれば幸いです.
2017年12月
萩原將太郎
目次
開く
第1章 赤血球系の異常
第1話 あらためて貧血とは?
第2話 小球性,正球性,大球性貧血
第3話 溶血性貧血をマスターしよう!
第4話 多血症
第2章 白血球系の異常
第5話 白血球減少の原因を考える
第6話 再生不良性貧血
第7話 骨髄異形成症候群
第8話 白血球増加の原因を考える
第9話 好中球増加,好酸球増加,リンパ球増加
第10話 急性白血病
第3章 血小板系の異常
第11話 血小板が少ない!
第12話 血小板が多い!
第4章 リンパ球系の異常
第13話 リンパ節腫脹
第14話 非Hodgkinリンパ腫
第15話 Hodgkinリンパ腫
第16話 成人T細胞性白血病/リンパ腫
第17話 HIV関連悪性リンパ腫
第18話 形質細胞性疾患
第5章 血栓と出血傾向
第19話 凝固と線溶おさらい
第20話 出血が止まらない! 後天性血友病,血友病,von Willebrand病
第21話 DIC!
第22話 意外に多い?血栓症
第6章 感染症と血液
第23話 好中球減少性発熱
第24話 免疫不全と感染症
第7章 輸血の基本
第25話 輸血とは?
第26話 ヘモグロビン,いくつまで下がったら輸血する?
第27話 輸血の合併症:TRALIとTACO
第8章 危ない病気・症状を見逃さないために
第28話 Oncological Emergency!(腫瘍学的緊急症)
第29話 危ない病気を見逃さないための血液検査データの見方
第9章 みんな血液内科が好きになる!
第30話 血液って何だ?
第31話 免疫システム
第32話 造血の異常と血液疾患
第10章 気軽に顕微鏡で見てみよう!
血液塗抹標本と染色の原理
末梢血カラーアトラス
索引
執筆者紹介
クリニカルパール
・RPI(網赤血球産生指数)を使いこなそう!
・RDWとは?
・タバコと多血症
・銅欠乏を見逃さない!
・血小板減少の鑑別
・血小板増多症をみたとき
・リンパ節腫脹の部位による鑑別
・形質細胞性疾患のスペクトラム
・悪性腫瘍を見逃さないために
コラム
・非典型的HUSについて
・血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)について
・化学療法の基礎
サイドメモ
・後天性von Willebrand病
・ABC/GCB
・良性単クローン性蛋白血症
・可溶性IL2受容体(sIL2R)
第1話 あらためて貧血とは?
第2話 小球性,正球性,大球性貧血
第3話 溶血性貧血をマスターしよう!
第4話 多血症
第2章 白血球系の異常
第5話 白血球減少の原因を考える
第6話 再生不良性貧血
第7話 骨髄異形成症候群
第8話 白血球増加の原因を考える
第9話 好中球増加,好酸球増加,リンパ球増加
第10話 急性白血病
第3章 血小板系の異常
第11話 血小板が少ない!
第12話 血小板が多い!
第4章 リンパ球系の異常
第13話 リンパ節腫脹
第14話 非Hodgkinリンパ腫
第15話 Hodgkinリンパ腫
第16話 成人T細胞性白血病/リンパ腫
第17話 HIV関連悪性リンパ腫
第18話 形質細胞性疾患
第5章 血栓と出血傾向
第19話 凝固と線溶おさらい
第20話 出血が止まらない! 後天性血友病,血友病,von Willebrand病
第21話 DIC!
第22話 意外に多い?血栓症
第6章 感染症と血液
第23話 好中球減少性発熱
第24話 免疫不全と感染症
第7章 輸血の基本
第25話 輸血とは?
第26話 ヘモグロビン,いくつまで下がったら輸血する?
第27話 輸血の合併症:TRALIとTACO
第8章 危ない病気・症状を見逃さないために
第28話 Oncological Emergency!(腫瘍学的緊急症)
第29話 危ない病気を見逃さないための血液検査データの見方
第9章 みんな血液内科が好きになる!
第30話 血液って何だ?
第31話 免疫システム
第32話 造血の異常と血液疾患
第10章 気軽に顕微鏡で見てみよう!
血液塗抹標本と染色の原理
末梢血カラーアトラス
索引
執筆者紹介
クリニカルパール
・RPI(網赤血球産生指数)を使いこなそう!
・RDWとは?
・タバコと多血症
・銅欠乏を見逃さない!
・血小板減少の鑑別
・血小板増多症をみたとき
・リンパ節腫脹の部位による鑑別
・形質細胞性疾患のスペクトラム
・悪性腫瘍を見逃さないために
コラム
・非典型的HUSについて
・血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)について
・化学療法の基礎
サイドメモ
・後天性von Willebrand病
・ABC/GCB
・良性単クローン性蛋白血症
・可溶性IL2受容体(sIL2R)
書評
開く
内科医に必要な最新知識と初期対応をわかりやすく解説
書評者: 山中 克郎 (諏訪中央病院総合内科)
本書を手に取りすぐに目に入るのは,血球細胞の大きくてきれいな写真とわかりやすく病態を説明するカラーイラストである。例えば,寒冷凝集素症と温式自己免疫性溶血性貧血の発症機序の違いは,イラストを見ると容易に理解ができ,それぞれが血管内溶血と血管外溶血を起こす理由も明らかとなる。そして,続発性免疫性溶血性貧血を起こすSLEや非Hodgkinリンパ腫,感染症(EBウイルス,パルボウイルスB19,マイコプラズマ)などの基礎疾患を検索することの重要性が説明される。
血液内科は特殊な領域である。急性白血病に対する化学療法は誰でもすぐに行えるような分野ではなく,抗がん剤の副作用とその対処に対する十分な知識,長年の経験が必要だ。私も血液内科医として働いた時期がある。極度の免疫不全状態にある造血器腫瘍の患者はすぐに全身状態が悪化する。専門性が高い疾患を扱うためか,血液内科病棟はやや閉鎖的で他科の医師との交流も少なかった。
一般内科医にとって踏み込みにくいこの分野を,沖縄県立中部病院で総合診療医としてのトレーニングを積まれた萩原將太郎先生が,一般内科医にもわかりやすく解説してくれる。各章で複数紹介されるケースは,「突然の発熱で発症した顆粒球減少」など日常診療でよく遭遇する疾患である。
私の勤務する病院は標高800 mの高地にあるためか,人間ドック外来では多血症の方に出会うことが多い。JAK2遺伝子変異による骨髄増殖性腫瘍(真性多血症,本態性血小板血症,原発性骨髄線維症)の発生メカニズムなど,血液内科領域の知見は日進月歩である。プロテインS欠乏症とともに血栓症の大きな原因となる。
発熱性好中球減少症(FN:febrile neutropenia)や急激な血小板減少症も救急室でよく経験する緊急処置が必要な病態である。血小板減少症の鑑別の1つとして重要な血栓性血小板減少性紫斑病(TTP:thrombotic thrombocytopenic purpura)が,ADAMTS13活性の著明な低下によりvon Willebrand因子の重合体が切断できなくなり血管内で血栓が多発するメカニズムも本書のイラストを見れば理解は容易である。
この本は内科診療を行う医師が,ジェネラルな診療のために必要な血液内科領域の最新知識と血液疾患に対する初期対応を学ぶ本である。米国内科学会(ACP)が出版する医師生涯教育の教科書であるMKSAP(medical knowledge self-assessment program)17と比べながら読んでみた。内容はMKSAPに匹敵するくらい素晴らしく,解説ははるかにわかりやすい。
スマートフォンアプリ「epocrates®」を用いれば,骨髄機能を見る網赤血球産生指数(RPI)の計算は容易であると紹介されていたので,さっそくダウンロードして使ってみた。なるほど,これは便利である。
症例検討会でよく問題となる悪性リンパ腫や多発性骨髄腫,播種性血液内凝固症候群(DIC:disseminated intravascular coagulation)についても,診断と治療のポイントが述べられている。血液内科非専門医にとって大変重宝するマニュアルである。座右の書とすることをお勧めしたい。
血液疾患の初期対応力が向上し,専門医に適切につなげられるようになる一冊
書評者: 本郷 偉元 (関東労災病院感染症内科部長)
本書の著者は,私の初期研修病院の先輩である萩原將太郎先生である。同院では在籍期間が重ならず,直接のご指導は受けなかったが,武勇伝はいくつも伺ったことがあった。萩原先生が内地に戻られて少し経った頃からであろうか,今に至るまでご指導ご厚誼をいただいている。
本書は,専門家として,内科医として,そして教育者として,そのどれもで超一流であり,何より努力家である萩原先生の真骨頂とも言える魅力に溢れている。専門家としての側面は,さまざまな疾患や病態の機序を基礎医学の面からもわかりやすく解説されている点,最新の診断基準が豊富に記載されている点などに垣間見ることができる。内科医としての側面は,症例の身体所見で腱反射などの神経学的診察,Ⅳ音,Ⅱp亢進,眼底所見などを記載している点,p105の「もちろん結核は常に除外すべき疾患です!」というコメントやp184にランセット状のグラム陽性双球菌である肺炎球菌の喀痰グラム染色写真を載せている点などからもにじみ出てくる。教育者としての側面は,解説がクリアカットで教わる側の立場を大事にしている点,末梢血塗抹を医師が実際に見ることの重要性を強調していること,症例の解説で思考経路を的確に示していることなどから伝わってくる。
「クリニカルパール」にはまさにパールがコンパクトにまとめられている。コラム,サイドメモには,教えてもらわないと気付かないこと,今さら聞けないことなどがさらりと述べられている。
本書は,医学誌『JIM』『総合診療』に2年間連載された内容と,有名研修病院で総合診療科の若手医師を対象に5年間にわたり行われた特別講義録をまとめ,書き直されたものとのことである。萩原先生のこのような集積を1冊の本で読むことができるとは,読者は何と僥倖なことであろうか。
血液疾患の症例集として,血液病態生理や各種診断基準を参照する本として,若手医師に血液内科を教育する際の参考として,総合診療医や一般内科医のテキストとして,この本は大変優れているであろう。血液内科が得意な医師であれば,一言ひと言かみしめて読まれるとよいだろう。
この本を読めば,血液内科に対する理解が深まり,鑑別診断が広くかつ深くなり,血液疾患に対する初期対応能力が増し,適切に専門医につなぐことができるようになるであろう。そして,これらのことができるようになるからこそ,患者さんや患者さんの家族にわかりやすい説明をすることができるようになるだろう。
ジェネラルマインドを大切にしている全ての医師,研修医,血液検査技師などに特にお薦めの本である。
「優しく」学べる血液内科
書評者: 志水 太郎 (獨協医大病院総合診療科診療部長/総合診療教育センター長)
本書は私自身,拝読してファンになっただけでなく,後期研修医,また若手スタッフの先生にもとてもお薦めの血液内科の本です。
なぜファンになったかですが,まず第一に,“症例が豊富”であることです。各章のトップが症例で始まっていることから,症例ベースが好きな若手医師の関心を引き出してくださいます。
第二に良いなと思うのは,本書の持つ優しさ,というか“読者フレンドリー”であること。萩原將太郎先生がまるで横に付いてくださっているかのように,優しい語り口の導きで,ケースごとの血液内科の専門家の考え方をなぞることができることも特徴です。そしてその優しさの故,これまでみたことがないくらい明快,かつクリアカットに,時にシグナルレベルまでの各現象を説明してくださっていること。各症例には診断のポイント,治療のポイント,と明文化がされていて,血液内科を学ぶモチベーションを後押ししてくれると思います。
優しさと言えばその他に,各章が長すぎないことも特徴です。本書は各血球の異常,血栓症,感染症,輸血,危険な病気……と網羅的な章の展開でありながら,270ページほどのページで章立てが30以上もあり,血液内科を専攻しない若手医師にも,時間のある時に気になるところでさっと読むという読み方もできます(通読がお薦めです)。血液内科というと難しそう,と身構えてしまう気持ちは多くの方に(自分も含め)あると思いますが,そのような不安をこの本は優しく拭い,広く血液内科への門戸を広げてくれる,そんな雰囲気もこの本から感じることができます。
第三に,“萩原先生のロールモデルとしての情熱が伝わってくる”ということ。先述の優しく語りかけてくれる上級医の口調ということとともに,勉強になる臨床的考え方に満ちた“コラム”や“クリニカルパール”も素晴らしいと感じます。
第四に本書で気に入っているのは末梢血スメアの豊富さです。現在まで多くの研修医の先生方と接する中,彼らに末梢血のスメアを見る習慣があまりないという印象を持ちますが,もったいないと感じます。これは自分の恩師のティアニー先生(カリフォルニア大学サンフランシスコ校教授)もおっしゃっていたことで,日米に共通した話題かもしれません。グラム染色と同様に,末梢血も情報に満ち,また医学の奥深さ,生命の神秘さを教えてくれます。現場でビタミンB12欠乏症を疑って好中球核過分葉を見つけたとき,溶血性貧血を疑って破砕赤血球を見つけたとき,マラリアを疑って輪状体を見つけたときの興奮と言ったら!本書の第10章ではそのような要望に応えてくれるように,豊富な代表的末梢血スメアの異常所見の写真があり,コメントも非常に勉強になります。
まだまだこの本の魅力はたくさんありますが,まさにタイトル通りの『“よくわかる” ,そして “優しい” 血液内科』をぜひ書店などでお手になさり,血液内科の魅力にはまってみませんか。新春に素晴らしい勉強の機会を与えてくださった萩原先生に心より感謝申し上げます。
書評者: 山中 克郎 (諏訪中央病院総合内科)
本書を手に取りすぐに目に入るのは,血球細胞の大きくてきれいな写真とわかりやすく病態を説明するカラーイラストである。例えば,寒冷凝集素症と温式自己免疫性溶血性貧血の発症機序の違いは,イラストを見ると容易に理解ができ,それぞれが血管内溶血と血管外溶血を起こす理由も明らかとなる。そして,続発性免疫性溶血性貧血を起こすSLEや非Hodgkinリンパ腫,感染症(EBウイルス,パルボウイルスB19,マイコプラズマ)などの基礎疾患を検索することの重要性が説明される。
血液内科は特殊な領域である。急性白血病に対する化学療法は誰でもすぐに行えるような分野ではなく,抗がん剤の副作用とその対処に対する十分な知識,長年の経験が必要だ。私も血液内科医として働いた時期がある。極度の免疫不全状態にある造血器腫瘍の患者はすぐに全身状態が悪化する。専門性が高い疾患を扱うためか,血液内科病棟はやや閉鎖的で他科の医師との交流も少なかった。
一般内科医にとって踏み込みにくいこの分野を,沖縄県立中部病院で総合診療医としてのトレーニングを積まれた萩原將太郎先生が,一般内科医にもわかりやすく解説してくれる。各章で複数紹介されるケースは,「突然の発熱で発症した顆粒球減少」など日常診療でよく遭遇する疾患である。
私の勤務する病院は標高800 mの高地にあるためか,人間ドック外来では多血症の方に出会うことが多い。JAK2遺伝子変異による骨髄増殖性腫瘍(真性多血症,本態性血小板血症,原発性骨髄線維症)の発生メカニズムなど,血液内科領域の知見は日進月歩である。プロテインS欠乏症とともに血栓症の大きな原因となる。
発熱性好中球減少症(FN:febrile neutropenia)や急激な血小板減少症も救急室でよく経験する緊急処置が必要な病態である。血小板減少症の鑑別の1つとして重要な血栓性血小板減少性紫斑病(TTP:thrombotic thrombocytopenic purpura)が,ADAMTS13活性の著明な低下によりvon Willebrand因子の重合体が切断できなくなり血管内で血栓が多発するメカニズムも本書のイラストを見れば理解は容易である。
この本は内科診療を行う医師が,ジェネラルな診療のために必要な血液内科領域の最新知識と血液疾患に対する初期対応を学ぶ本である。米国内科学会(ACP)が出版する医師生涯教育の教科書であるMKSAP(medical knowledge self-assessment program)17と比べながら読んでみた。内容はMKSAPに匹敵するくらい素晴らしく,解説ははるかにわかりやすい。
スマートフォンアプリ「epocrates®」を用いれば,骨髄機能を見る網赤血球産生指数(RPI)の計算は容易であると紹介されていたので,さっそくダウンロードして使ってみた。なるほど,これは便利である。
症例検討会でよく問題となる悪性リンパ腫や多発性骨髄腫,播種性血液内凝固症候群(DIC:disseminated intravascular coagulation)についても,診断と治療のポイントが述べられている。血液内科非専門医にとって大変重宝するマニュアルである。座右の書とすることをお勧めしたい。
血液疾患の初期対応力が向上し,専門医に適切につなげられるようになる一冊
書評者: 本郷 偉元 (関東労災病院感染症内科部長)
本書の著者は,私の初期研修病院の先輩である萩原將太郎先生である。同院では在籍期間が重ならず,直接のご指導は受けなかったが,武勇伝はいくつも伺ったことがあった。萩原先生が内地に戻られて少し経った頃からであろうか,今に至るまでご指導ご厚誼をいただいている。
本書は,専門家として,内科医として,そして教育者として,そのどれもで超一流であり,何より努力家である萩原先生の真骨頂とも言える魅力に溢れている。専門家としての側面は,さまざまな疾患や病態の機序を基礎医学の面からもわかりやすく解説されている点,最新の診断基準が豊富に記載されている点などに垣間見ることができる。内科医としての側面は,症例の身体所見で腱反射などの神経学的診察,Ⅳ音,Ⅱp亢進,眼底所見などを記載している点,p105の「もちろん結核は常に除外すべき疾患です!」というコメントやp184にランセット状のグラム陽性双球菌である肺炎球菌の喀痰グラム染色写真を載せている点などからもにじみ出てくる。教育者としての側面は,解説がクリアカットで教わる側の立場を大事にしている点,末梢血塗抹を医師が実際に見ることの重要性を強調していること,症例の解説で思考経路を的確に示していることなどから伝わってくる。
「クリニカルパール」にはまさにパールがコンパクトにまとめられている。コラム,サイドメモには,教えてもらわないと気付かないこと,今さら聞けないことなどがさらりと述べられている。
本書は,医学誌『JIM』『総合診療』に2年間連載された内容と,有名研修病院で総合診療科の若手医師を対象に5年間にわたり行われた特別講義録をまとめ,書き直されたものとのことである。萩原先生のこのような集積を1冊の本で読むことができるとは,読者は何と僥倖なことであろうか。
血液疾患の症例集として,血液病態生理や各種診断基準を参照する本として,若手医師に血液内科を教育する際の参考として,総合診療医や一般内科医のテキストとして,この本は大変優れているであろう。血液内科が得意な医師であれば,一言ひと言かみしめて読まれるとよいだろう。
この本を読めば,血液内科に対する理解が深まり,鑑別診断が広くかつ深くなり,血液疾患に対する初期対応能力が増し,適切に専門医につなぐことができるようになるであろう。そして,これらのことができるようになるからこそ,患者さんや患者さんの家族にわかりやすい説明をすることができるようになるだろう。
ジェネラルマインドを大切にしている全ての医師,研修医,血液検査技師などに特にお薦めの本である。
「優しく」学べる血液内科
書評者: 志水 太郎 (獨協医大病院総合診療科診療部長/総合診療教育センター長)
本書は私自身,拝読してファンになっただけでなく,後期研修医,また若手スタッフの先生にもとてもお薦めの血液内科の本です。
なぜファンになったかですが,まず第一に,“症例が豊富”であることです。各章のトップが症例で始まっていることから,症例ベースが好きな若手医師の関心を引き出してくださいます。
第二に良いなと思うのは,本書の持つ優しさ,というか“読者フレンドリー”であること。萩原將太郎先生がまるで横に付いてくださっているかのように,優しい語り口の導きで,ケースごとの血液内科の専門家の考え方をなぞることができることも特徴です。そしてその優しさの故,これまでみたことがないくらい明快,かつクリアカットに,時にシグナルレベルまでの各現象を説明してくださっていること。各症例には診断のポイント,治療のポイント,と明文化がされていて,血液内科を学ぶモチベーションを後押ししてくれると思います。
優しさと言えばその他に,各章が長すぎないことも特徴です。本書は各血球の異常,血栓症,感染症,輸血,危険な病気……と網羅的な章の展開でありながら,270ページほどのページで章立てが30以上もあり,血液内科を専攻しない若手医師にも,時間のある時に気になるところでさっと読むという読み方もできます(通読がお薦めです)。血液内科というと難しそう,と身構えてしまう気持ちは多くの方に(自分も含め)あると思いますが,そのような不安をこの本は優しく拭い,広く血液内科への門戸を広げてくれる,そんな雰囲気もこの本から感じることができます。
第三に,“萩原先生のロールモデルとしての情熱が伝わってくる”ということ。先述の優しく語りかけてくれる上級医の口調ということとともに,勉強になる臨床的考え方に満ちた“コラム”や“クリニカルパール”も素晴らしいと感じます。
第四に本書で気に入っているのは末梢血スメアの豊富さです。現在まで多くの研修医の先生方と接する中,彼らに末梢血のスメアを見る習慣があまりないという印象を持ちますが,もったいないと感じます。これは自分の恩師のティアニー先生(カリフォルニア大学サンフランシスコ校教授)もおっしゃっていたことで,日米に共通した話題かもしれません。グラム染色と同様に,末梢血も情報に満ち,また医学の奥深さ,生命の神秘さを教えてくれます。現場でビタミンB12欠乏症を疑って好中球核過分葉を見つけたとき,溶血性貧血を疑って破砕赤血球を見つけたとき,マラリアを疑って輪状体を見つけたときの興奮と言ったら!本書の第10章ではそのような要望に応えてくれるように,豊富な代表的末梢血スメアの異常所見の写真があり,コメントも非常に勉強になります。
まだまだこの本の魅力はたくさんありますが,まさにタイトル通りの『“よくわかる” ,そして “優しい” 血液内科』をぜひ書店などでお手になさり,血液内科の魅力にはまってみませんか。新春に素晴らしい勉強の機会を与えてくださった萩原先生に心より感謝申し上げます。
更新情報
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更新情報はありません。
お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。