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見逃してはならない血液疾患 病理からみた44症例

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編者らの豊富な経験をもとに、臨床上、診断が紛らわしく、見逃してはならない血液疾患を中心に44症例を厳選。本文は臨床上の頻度、診断の難易度を考慮した症例をもとにした問題解決形式(Q&A)で構成され、検査所見、病態生理、病理所見(染色、組織)はもちろん、鑑別診断、類縁疾患についても詳しく解説。これから学ぼうとする研修医から、血液疾患を極めた専門医まで幅広く読み応えのある1冊。
編集 北川 昌伸 / 定平 吉都 / 伊藤 雅文
発行 2014年04月判型:B5頁:288
ISBN 978-4-260-01674-2
定価 7,150円 (本体6,500円+税)

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 近年,多くの大学では医学教育に新しい理念や手法が取り入れられています。それに伴って,医学を志す者自身が教材の中から問題点を発見し,それらを解決していくことによって学習を進め,生涯を通じて自己学習が可能となるように習慣づけを行う教育システムが構築されてきました。本書では,このような自己問題解決能力を培うための手段がすんなりと身に付くよう,新しいタイプの血液学の学習書を目指して各執筆者の先生方にご尽力いただきました。
 教材として,臨床症状と病理所見に基づき,文字通り“見逃してはならない”疾患症例を,骨髄系/リンパ系からバランスよく集めました。ともすると疾患名の羅列になりがちな血液疾患の解説書を,病理学の立場から重要なものに絞って,これまでの教科書とは違う観点からまとめてみました。診断の難易度も考慮しつつ,できるだけ重要な疾患の漏れがないように留意したつもりです。診断過程を追って考えを進めていくことにより,興味をもって読んでいただけることを期待しています。基本となる考え方から診断の思考過程,トピックスまで興味深く勉強できるように工夫し,平易な症例から難解な症例へと並べたつもりですので,楽しみながら理解していただけると幸いです。
 血液学の魅力は,血液像や形態像の美しさとともに,診断過程や病態の解釈がかなり論理的であることがあると思います,類似したように見える造血細胞の形態像も,各々の疾患で原因と結びついた有意な特徴をもっており,これらの情報をしっかりと理解して応用することで,“ぶれない診断能力”を養うことが可能になると考えています。
 本書の主たる読者対象は,若手病理医,内科系の後期研修医の方々が中心になると考えていますが,高学年の医学生の方々にも是非読んでいただきたいと思っています。ご執筆いただいた先生方にも,その点をご配慮いただき,丁寧かつ適切な解説をお願いいたしました。本文はQ&A形式で,まず主訴,臨床検査のデータ,病理所見などを提示します。その上で,病理医が診断に行き着くまでの思考過程について順を追って解説していきます。さらに,その疾患に関連する知識や発展的な内容にも触れ,総合的に血液病理に関する造詣を深めるものにしたつもりです。鑑別診断の際に問題となりうる点もよりはっきりするのではないでしょうか。
 執筆者の先生方のおかげで,非常に実践的な教科書ができあがったものと思っています。文末ではありますが,本書の編集にひとかたならぬご尽力をいただいた医学書院の関係者の方々に厚く御礼申し上げます。

 2014年2月
 編集者を代表して
 北川 昌伸

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本書では,骨髄系/リンパ系疾患の病理診断難易度を考慮して症例を配列しております。難易度の低い症例(★)から順に並べ,最も難易度が高い症例が★★★★★となります。臨床で遭遇する頻度については,高いもの(★★★)から低いもの(★)の3段階で表示しています。本文を読まれる際には,難易度/頻度を参照されると,疾患に関する理解をより深めることができます。
なお,骨髄系/リンパ系疾患の病理学的な体系目次は別途一覧表にしておりますので,そちらをご参照ください。

難易度★
症例1 60代,男性:胃全摘の既往,貧血(頻度★★★)
症例2 70代,男性:高齢者,貧血(頻度★★)
症例3 30代,女性:皮下出血,歯肉出血(頻度★★★)
症例4 20代,男性:若年者の汎血球減少(頻度★)
症例5 80代,男性:高齢者,徐々に進行する汎血球減少症(頻度★★★)
症例6 60代,女性:胃潰瘍の既往,血液検査にて異常(頻度★★)
症例7 50代,男性:健診にて白血球増多の指摘(頻度★★★)
症例8 70代,男性:はっきりとした感染症の病歴を示さないリンパ節腫脹(頻度★)
症例9 70代,女性:リンパ節腫大,発熱(頻度★★★)
症例10 30代,女性:頸部腫瘤(リンパ節腫脹),発熱(頻度★)

難易度★★
症例11 80代,男性:易出血,易疲労感(頻度★★★)
症例12 60代,男性:血液検査で著明な顆粒球増多(頻度★)
症例13 10代後半,男性:若年者の白血球増多(頻度★★)
症例14 50代,男性:健診で白血球増加の指摘(頻度★)
症例15 30代,男性:頸部腫瘤にて,近医を受診(頻度★★★)
症例16 50代,男性:腹部膨満感,CTにて膵尾部の腫瘍を確認(頻度★★★)

難易度★★★
症例17 30代,男性:咽頭痛,悪寒,発熱(頻度★★)
症例18 60代,女性:出血傾向,血小板減少症(頻度★★)
症例19 60代,男性:発熱,全身倦怠感(頻度★)
症例20 60代,女性:健診にて血小板増多を指摘/経過観察中に脳梗塞を発症(頻度★)
症例21 70代,男性:全身倦怠感,体重減少,腰痛(頻度★★★)
症例22 30代,女性:リンパ節腫脹を伴う不明熱(頻度★)
症例23 60代,男性:健診にて多発する潰瘍を発見(頻度★)
症例24 40代,男性:リンパ節腫大,発熱(頻度★)
症例25 70代,男性:鼠径部に腫瘤を自覚して来院(頻度★)
症例26 70代,男性:手足の浮腫,多関節痛,足関節の腫脹にて来院(頻度★)

難易度★★★★
症例27 20代,男性:食欲不振,発熱(頻度★★)
症例28 60代,男性:近医にて赤血球増加の指摘(頻度★★)
症例29 50代,男性:発熱,労作時息切れ(頻度★)
症例30 40代,男性:健診にて白血球増多を指摘(頻度★)
症例31 50代,男性:鼠経リンパ節の腫大,肝臓癌の既往あり(頻度★)
症例32 60代,女性:鼻根部発赤腫脹,鼻腔内腫瘤(頻度★)
症例33 70代,女性:右殿部の圧痛を伴うしこり(頻度★)
症例34 60代,女性:不明熱,リンパ節腫脹は陰性(頻度★)

難易度★★★★★
症例35 60代,女性:全身倦怠感,動悸,労作時呼吸困難(頻度★)
症例36 30代,女性:造血幹細胞移植後の皮疹および下痢症(頻度★★)
症例37 50代,男性:健診にて白血球数の増多を指摘(頻度★)
症例38 10代,女性:咽頭痛,感冒様症状(頻度★★)
症例39 20代,男性:発熱,リンパ節腫瘍(頻度★)
症例40 50代,女性:全身リンパ節腫大(頻度★)
症例41 70代,女性:リウマチ,貧血の進行(頻度★)
症例42 40代,女性:全身倦怠感,発熱(頻度★)
症例43 50代,女性:腹部膨満感,浮腫の自覚(頻度★)
症例44 80代,男性:右前腕の暗紫色ドーム状皮膚腫瘤を主訴に来院(頻度★)

索引

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キーとなる疾患がバランスよく選び抜かれた研修医にお薦めの一冊
書評者: 清水 道生 (埼玉医大国際医療センター教授・病理診断学)
 本書は,“見逃してはならない”血液疾患44症例についての臨床病理学的解説書である。まず臨床症状と病理所見が提示され,症例の解説が述べられるわけであるが,解説の順番が明確に構成されている。すなわち,診断プロセス,検査所見,病理所見,最も考えられる病理診断,治療・予後の順で詳細な説明があり,最後に鑑別診断・類縁疾患がコンパクトにまとめられている。症例によっては病態生理や診断トレーニングが追加されている。この書式が,全体を通して統一されており,非常に読みやすい点がまず目を引く。本書のもう一つのユニークな点は,症例に難易度(★~★★★★★の5段階)と遭遇する頻度(★~★★★の3段階)が表示されている点である。最初の目次を見ると,症例の難易度や頻度が一目瞭然で,読者は頻度の高い疾患から読んでいくこともできるし,難易度が低い順に勉強することも可能である。一方,最後のページでは疾患体系別に症例が並べ替えて配列されている。この疾患体系別の目次を見て,興味を引く症例から読み始めてみるのもおもしろいかもしれない。これまでにないユニークな目次であり,勉強する際にはぜひとも活用すべき点と思われる。

 本書では44症例の血液疾患が厳選されているわけであるが,その症例の選び方も非常に的を射ていると思われる。ご存知のように骨髄系・リンパ系疾患の数は極めて多いわけであるが,その中から本当に“見逃してはならない”キーとなる疾患がバランスよく選び抜かれている。これは,編者らの数多くの経験に基づくものであろう。さらに,鑑別診断の項目では,この限られた症例数を補うべく,多数の鑑別疾患が列挙され,それぞれの疾患について的確な解説がなされている。また,症例によっては,最後に診断トレーニングがクイズ形式で記載されており,思わず興味を引かれてしまう点もユニークである。さらに,所々でMemoが設けられ,簡潔に疾患概念や用語が解説され,知識の整理には最適といえよう。

 病理医の立場からいうと,本書で使用されている写真の画質は非常に鮮明であり,写真によっては矢印も付けられており,初学者にとっても理解しやすいものと思われる。後半の難易度が高い症例では,遭遇する頻度は低い傾向がみられるが,本書でその疾患を記憶の片隅に留めておけば,きっと将来,何らかの形でその知識が実際の臨床の場面で役立つ時が来るであろう。そういう点からもこの“見逃してはならない”血液疾患44症例は,何度もひもといて熟読することが大切である。

 本書の主たる読書対象は,若手病理医や内科系の後期研修医と考えられるが,彼らのバイブルといえる本になるのではないかという期待がある。最後に,本書は医学生にとっても専門的な知識をわかりやすく理解でき,かつ中堅クラスやベテランの病理医や内科医にとっても,up-to-dateな知識を含めてポイントとなる血液疾患を復習できる内容の本であることを付け加えたい。
重要・高頻度の疾患を中心に診断過程を疑似体験できる書
書評者: 吉野 正 (岡山大副学長)
 血液疾患は種々の病態が鑑別にあがり,また分子病理学的にも多様で,全体像を深く知ることは容易ではない。WHO分類も版が増すほどに疾患概念が増加し,専門家といえども全ての領域を通暁することは困難なほどである。しかし,疾患病理発生上の分子基盤における知見は非常な勢いで増加し,その成果ともいうべき分子標的薬の開発は目覚ましい勢いで進んでいる。そのような現況により,血液疾患はかなりの深度で疾患概念を整理することが求められている。このたび上梓された『見逃してはならない血液疾患 病理からみた44症例』はわが国の骨髄病理をリードしている編集者の下で企画された,画期的な著書である。

 具体的な疾患について,その病歴,検査データ,形態像から診断に至る過程を懇切丁寧に示している。同様の観点と意図により編纂された病理関係の著書は皆無ではないが,焦点を血液疾患に絞り,治療と予後,また,鑑別診断と類縁疾患について詳述したものは,評者の知る限りほかにはない。ある疾患については病態生理や染色体あるいは責任遺伝子異常,また分子標的薬についての作用機序などバラエティーに富んだ記述と豊富な図表が駆使されていて,ざっと眺めているだけでも得るところがあるほどである。教科書を編纂するときある種のルールを設けることにより整然とした書物となるが,本書はそれをあまり強制していない。血液疾患の多様性を思うとき,それは仕方のないことでもあり,そのようにしなかった編集者の思いが伝わってくるようである。

 主訴が各項目の「題目」となっていて,それから患者さんの病歴,検査等々に進んでいく様式は,慣れていない読者にとって最初はなじみにくい部分があるかもしれない。しかし,実際臨床的あるいは病理的診断に至る過程はこのような様式の繰り返しである。したがって,最初のページから丹念に内容を追いかけるのが最良の方法ではないかもしれない。そのような道標として,本書では各疾患の頻度と難易度が明示されていることも特長の一つである。すなわち,頻度が高い疾患は遭遇する機会の多いものであり,難易度が高くないものから挑んでいくことによって血液疾患の全体像を俯瞰することができるのではないかと思われる。

 最初に記したように血液疾患のスタンダードはWHO分類になっているが,収載されている疾患はとてつもない数に増加している。頻度がいかに低くとも臨床,病理学的特徴が明らかなものは疾患単位となり得るからである。しかし,実臨床を行う上からも,病理診断をなす上からもそれと同等の知識が常には要求されないのは自明の理である。極めて重要かつ頻度の高い疾患を中心に据えて,その診断過程を疑似体験するという段階,最終的な結論を得るまでには鑑別診断が必須のものとなり,それを契機に周辺疾患への目配りをするという本書のねらいは,巧妙でかつ成功している。一つだけ加えるとするならば,本書の対象は若手病理医,研修医とされているが,臨床実習のグローバル化に向けて急速に変貌している現況では,医学生にとっても非常に重要な本となることを強く信ずるところである。
難易度・頻度別で疾患の位置付けがわかりやすい
書評者: 神田 善伸 (自治医大さいたま医療センター教授・血液科)
 『見逃してはならない血液疾患』という医学書院の新刊が手元に届いた。目を引いたのは「病理からみた44症例」というサブタイトルである。血液疾患を扱う書籍で病理を前面に出したものは珍しい。果たして,どのような読者を対象としているのかと思って序文を読んだところ,若手病理医,内科系後期研修医,高学年の医学生をイメージして執筆されたようだ。確かに各疾患について症候をタイトルとし,医師国家試験と同様の形式で症例が提示されており,この形式は医学生や研修医にとってもなじみやすいものである。さらに病理診断の難易度を5段階に,臨床で遭遇する頻度を3段階に分けることによって,それぞれの疾患の位置づけをわかりやすく示している。これなら,「全然わからなかった」といってしょんぼりしている読者も救済されることであろう。

 本書にはカラーで印刷されたきれいな画像がふんだんに散りばめられている。評者自身も,研修医時代に病棟に設置された顕微鏡で末梢血塗抹標本や骨髄塗抹標本を日々眺めながら,その美しさに魅せられた一人である。しかし,リンパ節の標本となると,まるで歯が立たない。リンパ腫の組織分類に至っては,病理専門医にとっても難関である場合も多く,「病理診断のセカンドオピニオン」がしばしば行われている。本書の編集者,著者はこのセカンドオピニオンを受ける立場の先生方であり,このような状況も本書を刊行して若手病理医を教育しようという動機付けとなったのではないかと想像する。「血液疾患の病理はどうにも難しくて……」と敬遠している若手病理医がいるとしたら,まずは本書を読むべきである。その際にも病理学的難易度の表記が学習に役立つはずだ。

 また,本書は血液内科医にとっても病理医の思考過程を学ぶ上で参考になる。本書を読むことによって,病理診断の申込書には十分な臨床情報を記載することが重要であることを再認識することであろう。そして,皮膚科医や腎臓内科医がしばしば病理の世界にのめりこんでいくように,血液内科医の一部も病理医へと転身していってもよいのかもしれない(みんな一斉に転身されては困るが)。かつてない切り口で企画された本書を介して,新たに血液疾患を得意とする病理医が増加することを期待したい。

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