画像診断から考える病的近視診療
画像診断の発展がもたらした病的近視診療・研究の「進化」をこの1冊で!
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眼科診療のエキスパートを目指すための好評シリーズの1冊。失明原因として大きな割合を占める病的近視については、近年めまぐるしい画像診断の進歩を背景に、新しい病態やメカニズムが明らかになった。本書では、病的近視の基礎知識や最新画像研究の成果から、黄斑部病変や緑内障・視神経症などの合併症診療の実際、斜視診療や屈折矯正手術、QOLまでを幅広く取り上げた。すべての眼科医必読の最新版コンプリートテキスト。
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- 序文
- 目次
- 書評
序文
開く
序
病的近視は近視の中で唯一矯正視力の低下(失明)の原因となる疾患である.岐阜県多治見市で行われたTajimi studyでは,WHOの定義による失明の原因として,病的近視による黄斑変性は20%を占め最多原因であった.
病的近視による失明は眼底後極部の合併症により生じる.代表的なものが,近視性脈絡膜新生血管(近視性CNV)などの近視性黄斑症,網膜分離・剥離などの近視性牽引黄斑症,緑内障・近視性視神経症である.最近,近視性CNVに対する抗VEGF療法や,近視性牽引黄斑症に対する網膜硝子体手術など,治療法が適用されるようになってきたが,視機能が正常に回復することは難しく,また多くの萎縮性変化に至っては治療の手段すらない.したがって,病的近視患者を失明から救い,視機能を生涯良好に保つためにはこれらの合併病変を生じる前に予防治療を講じていく必要があろう.
病的近視の診療を大きく進化させてきた原動力が画像診断の進歩である.本書では,まず第1章の総説において,画像研究を中心に病的近視研究の現状と診療の最前線につき,俯瞰的な概説を設けた.続いて第2章では,病的近視の病態について,豊富なヒト検体の所見に基づき沖坂名誉教授に解説していただいている.貴重な病理所見に基づく知見は画像診断が進歩してきた今,大きな示唆を与えてくれるはずである.さらに,病的近視の疫学と遺伝子について最新の知見が述べられている.学童近視は増加しているとされるが,それに伴い病的近視による失明は増えるのか? それは現時点では不明であり,将来その答えが出るであろう.
つぎに,第3章では近年進歩がめまぐるしい眼科画像診断について,病的近視眼における最新の画像所見が提示されている.技術が進歩することによって,これまで見えなかったものが見えるようになり,様々な新しい病態やメカニズムが明らかとなった.
第4章では,合併病変の画像診断と治療について詳述されている.まず黄斑病変については,抗VEGF療法の応用により予後が改善された近視性CNVを中心に,その鑑別診断として重要な単純型黄斑部出血について,また病的近視の線状病変として鑑別が難しいlacquer crackとmyopic stretch lineについて詳細に解説されている.近視性牽引黄斑症,黄斑円孔網膜剥離に対する手術も最新の知見や手術手技について解説が加えられている.また,緑内障・近視性視神経症については,病的近視の緑内障をいかに診断,治療するべきか,メカニカルな病因にも言及しながら書かれている.さらには,病的近視の特徴である後部ぶどう腫や,新しい病変であるdome-shaped maculaについて紹介されており,最後に,第5章として,病的近視の斜視や屈折矯正手術,QOLにも十分なページを割いて言及されている.
まさに,最新のアップデートな知見を第一人者の先生方が惜しみなく執筆された貴重な書である.病的近視とは何か,どのように診断し,治療すべきか,本書をご一読いただけると幸甚である.
2017年3月
編集 大野京子,前田直之,吉村長久
病的近視は近視の中で唯一矯正視力の低下(失明)の原因となる疾患である.岐阜県多治見市で行われたTajimi studyでは,WHOの定義による失明の原因として,病的近視による黄斑変性は20%を占め最多原因であった.
病的近視による失明は眼底後極部の合併症により生じる.代表的なものが,近視性脈絡膜新生血管(近視性CNV)などの近視性黄斑症,網膜分離・剥離などの近視性牽引黄斑症,緑内障・近視性視神経症である.最近,近視性CNVに対する抗VEGF療法や,近視性牽引黄斑症に対する網膜硝子体手術など,治療法が適用されるようになってきたが,視機能が正常に回復することは難しく,また多くの萎縮性変化に至っては治療の手段すらない.したがって,病的近視患者を失明から救い,視機能を生涯良好に保つためにはこれらの合併病変を生じる前に予防治療を講じていく必要があろう.
病的近視の診療を大きく進化させてきた原動力が画像診断の進歩である.本書では,まず第1章の総説において,画像研究を中心に病的近視研究の現状と診療の最前線につき,俯瞰的な概説を設けた.続いて第2章では,病的近視の病態について,豊富なヒト検体の所見に基づき沖坂名誉教授に解説していただいている.貴重な病理所見に基づく知見は画像診断が進歩してきた今,大きな示唆を与えてくれるはずである.さらに,病的近視の疫学と遺伝子について最新の知見が述べられている.学童近視は増加しているとされるが,それに伴い病的近視による失明は増えるのか? それは現時点では不明であり,将来その答えが出るであろう.
つぎに,第3章では近年進歩がめまぐるしい眼科画像診断について,病的近視眼における最新の画像所見が提示されている.技術が進歩することによって,これまで見えなかったものが見えるようになり,様々な新しい病態やメカニズムが明らかとなった.
第4章では,合併病変の画像診断と治療について詳述されている.まず黄斑病変については,抗VEGF療法の応用により予後が改善された近視性CNVを中心に,その鑑別診断として重要な単純型黄斑部出血について,また病的近視の線状病変として鑑別が難しいlacquer crackとmyopic stretch lineについて詳細に解説されている.近視性牽引黄斑症,黄斑円孔網膜剥離に対する手術も最新の知見や手術手技について解説が加えられている.また,緑内障・近視性視神経症については,病的近視の緑内障をいかに診断,治療するべきか,メカニカルな病因にも言及しながら書かれている.さらには,病的近視の特徴である後部ぶどう腫や,新しい病変であるdome-shaped maculaについて紹介されており,最後に,第5章として,病的近視の斜視や屈折矯正手術,QOLにも十分なページを割いて言及されている.
まさに,最新のアップデートな知見を第一人者の先生方が惜しみなく執筆された貴重な書である.病的近視とは何か,どのように診断し,治療すべきか,本書をご一読いただけると幸甚である.
2017年3月
編集 大野京子,前田直之,吉村長久
目次
開く
第1章 総説
病的近視の診療概論
I.近視人口の世界的な増加
II.一般的な近視と「病的近視」は異なる疾患か?
III.ほかの近視と病的近視の相違点
IV.病的近視における合併病変のメカニズム
V.病的近視の新しい定義
VI.病的近視に対する現行の治療
VII.病的近視に対する画像診断の有用性;OCT
VIII.画像診断の進歩により得られた新知見
IX.病的近視で得られた知見の有用性
X.病的近視に対する理想的な治療とは
第2章 病的近視を理解するための基礎知識
I 病的近視の病理学
I.マクロ病理学
II.ミクロ病理学
II 病的近視の疫学
I.近視が今なお重要な課題である理由
II.近視・病的近視の定義
III.単純近視と病的近視の連続性と予防可能性
IV.近視の有病率
V.強度近視の有病率
VI.近視性黄斑症の有病率
VII.近視性脈絡膜新生血管の予後
VIII.病的近視に伴う近視性黄斑症は予防できるか?
III 病的近視の遺伝子
I.連鎖解析
II.強度近視に対するゲノムワイド関連解析
III.近視に関するGWAS
IV.脈絡膜新生血管の発症に関わる遺伝子
V.脈絡膜新生血管のサイズや治療結果に関わる遺伝子
第3章 画像診断を用いた病的近視へのアプローチ
I 眼底画像診断
A 眼底自発蛍光検査
I.概説
II.各論
B フルオレセイン蛍光眼底造影
I.網膜脈絡膜萎縮病変
II.黄斑部出血
III.周辺部網膜
C インドシアニングリーン蛍光眼底造影
I.病的近視眼の脈絡膜血管の変化
II.病的近視合併症のICGA所見
D 超広角眼底撮影
I.原理
II.後極部の変化
III.周辺部の病変
IV.病的近視眼の網膜血管の変化
E 光干渉断層計
I.OCTの種類
II.OCTを用いた特殊な撮影方法
III.正常所見と近視眼の特徴
IV.代表的疾患のOCT所見
F 微小視野検査
I.測定方法
II.強度近視のmicroperimetry所見
II 眼球形状診断
A 3D MRI
I.3D MRIによる眼球の画像化
II.3D MRIの撮影方法
III.病的近視眼の眼球形状解析
B OCTを用いた形状解析
1 強膜形状解析
I.強膜および強膜内血管の観察
II.その他の黄斑部病変(黄斑部ICC,黄斑ピット,強膜全層離解など)
2 強膜曲率を用いた眼底形状解析
I.解析の方法
II.曲率マップの実例
III.本手法の長所および課題
IV.関連する報告
V.今後の方向性
III 前眼部画像診断
I.角膜厚
II.角膜形状測定装置
III.波面センサー
IV.前眼部光干渉断層計(OCT)
V.強度近視眼の前眼部画像診断と屈折矯正手術
VI.強度近視眼の前眼部画像診断と白内障手術
第4章 病的近視の合併病変の画像診断と治療
I 病的近視の黄斑部病変
A 総論と進行過程
I.総論
II.長期自然経過に基づいた進行過程
B lacquer crackと単純型黄斑部出血
I.lacquer crack
II.単純型黄斑出血
C myopic stretch line
I.lacquer crack
II.myopic stretch line
III.ほかの臨床的特徴
IV.視力と視力予後
D 近視性脈絡膜新生血管
I.特徴
II.画像診断
III.鑑別診断
IV.治療
E 近視性網膜脈絡膜萎縮
I.近視性網膜脈絡膜萎縮の種類
II.網膜脈絡膜萎縮病変の進行パターン
III.近視性網膜脈絡膜萎縮の視力と視力予後
F 近視性牽引黄斑症
I.診断まで
II.診断後~治療まで
III.治療
G 黄斑円孔網膜剥離
I.診断
II.治療
[Topics]ICCを伴った網膜剥離
II 緑内障,近視性視神経症
A 病的近視の緑内障
I.視神経乳頭への圧ストレスと病態
II.近視眼の視神経乳頭へのストレスと病態
III.近視と緑内障の複雑な関係
IV.病的近視の緑内障診断の問題点
V.病的近視の緑内障の治療方針
B 病的近視の視神経周囲構造異常
1 くも膜下腔拡大,後天ピット形成,ICC
I.視神経周囲くも膜下腔とは
II.視神経周囲くも膜下腔の観察
III.強度近視の後天性視神経ピット
IV.intrachoroidal cavitation(ICC)
2 強度近視眼の強膜変形と網膜神経線維障害
I.なぜ視神経乳頭耳側のridgeが重要なのか
II.視神経乳頭耳側にridgeを伴う強度近視眼症例
III.ridgeのある症例における網膜神経線維障害の機序
IV.強度近視眼と高眼圧
V.強度近視に伴う血管周囲の網膜内層欠損
III 後部ぶどう腫と関連病態
A Curtin分類と,Optos®+MRIの新分類
I.後部ぶどう腫とは
II.Curtin分類
III.3D MRIによる眼球形状解析
IV.3D MRIとOptos®を用いた新分類
B 傾斜乳頭症候群
I.画像所見
II.検査
III.黄斑部合併症
[Topics]dome-shaped macula
第5章 病的近視診療に必要なその他の知識
I 病的近視の眼位異常
I.眼窩窮屈病とは
II.眼窩窮屈病のバリエーション
III.治療
II 固定内斜視に対する手術
I.診断
II.手術
III.術後の長期経過
IV.近視性斜視と両眼視機能
III 病的近視に対する白内障手術
I.術前評価の注意点
II.白内障手術時の問題点および注意事項
III.術後管理の注意点
IV.病的近視患者における眼内レンズの選択方法
V.術後屈折誤差について
IV 病的近視に対する有水晶体眼内レンズ
I.Artisan®とICL®の規格およびレンズの度数決定
II.適応選択と術前検査
III.手術の実際
IV.Artisan®とICL®の臨床成績
V 病的近視のQOL
I.健康関連QOLとは
II.近視とQOLに関するこれまでの報告
III.QOLを政策決定に生かす指標
IV.世界における近視の疾病負担
V.総括
和文索引
欧文・数字索引
病的近視の診療概論
I.近視人口の世界的な増加
II.一般的な近視と「病的近視」は異なる疾患か?
III.ほかの近視と病的近視の相違点
IV.病的近視における合併病変のメカニズム
V.病的近視の新しい定義
VI.病的近視に対する現行の治療
VII.病的近視に対する画像診断の有用性;OCT
VIII.画像診断の進歩により得られた新知見
IX.病的近視で得られた知見の有用性
X.病的近視に対する理想的な治療とは
第2章 病的近視を理解するための基礎知識
I 病的近視の病理学
I.マクロ病理学
II.ミクロ病理学
II 病的近視の疫学
I.近視が今なお重要な課題である理由
II.近視・病的近視の定義
III.単純近視と病的近視の連続性と予防可能性
IV.近視の有病率
V.強度近視の有病率
VI.近視性黄斑症の有病率
VII.近視性脈絡膜新生血管の予後
VIII.病的近視に伴う近視性黄斑症は予防できるか?
III 病的近視の遺伝子
I.連鎖解析
II.強度近視に対するゲノムワイド関連解析
III.近視に関するGWAS
IV.脈絡膜新生血管の発症に関わる遺伝子
V.脈絡膜新生血管のサイズや治療結果に関わる遺伝子
第3章 画像診断を用いた病的近視へのアプローチ
I 眼底画像診断
A 眼底自発蛍光検査
I.概説
II.各論
B フルオレセイン蛍光眼底造影
I.網膜脈絡膜萎縮病変
II.黄斑部出血
III.周辺部網膜
C インドシアニングリーン蛍光眼底造影
I.病的近視眼の脈絡膜血管の変化
II.病的近視合併症のICGA所見
D 超広角眼底撮影
I.原理
II.後極部の変化
III.周辺部の病変
IV.病的近視眼の網膜血管の変化
E 光干渉断層計
I.OCTの種類
II.OCTを用いた特殊な撮影方法
III.正常所見と近視眼の特徴
IV.代表的疾患のOCT所見
F 微小視野検査
I.測定方法
II.強度近視のmicroperimetry所見
II 眼球形状診断
A 3D MRI
I.3D MRIによる眼球の画像化
II.3D MRIの撮影方法
III.病的近視眼の眼球形状解析
B OCTを用いた形状解析
1 強膜形状解析
I.強膜および強膜内血管の観察
II.その他の黄斑部病変(黄斑部ICC,黄斑ピット,強膜全層離解など)
2 強膜曲率を用いた眼底形状解析
I.解析の方法
II.曲率マップの実例
III.本手法の長所および課題
IV.関連する報告
V.今後の方向性
III 前眼部画像診断
I.角膜厚
II.角膜形状測定装置
III.波面センサー
IV.前眼部光干渉断層計(OCT)
V.強度近視眼の前眼部画像診断と屈折矯正手術
VI.強度近視眼の前眼部画像診断と白内障手術
第4章 病的近視の合併病変の画像診断と治療
I 病的近視の黄斑部病変
A 総論と進行過程
I.総論
II.長期自然経過に基づいた進行過程
B lacquer crackと単純型黄斑部出血
I.lacquer crack
II.単純型黄斑出血
C myopic stretch line
I.lacquer crack
II.myopic stretch line
III.ほかの臨床的特徴
IV.視力と視力予後
D 近視性脈絡膜新生血管
I.特徴
II.画像診断
III.鑑別診断
IV.治療
E 近視性網膜脈絡膜萎縮
I.近視性網膜脈絡膜萎縮の種類
II.網膜脈絡膜萎縮病変の進行パターン
III.近視性網膜脈絡膜萎縮の視力と視力予後
F 近視性牽引黄斑症
I.診断まで
II.診断後~治療まで
III.治療
G 黄斑円孔網膜剥離
I.診断
II.治療
[Topics]ICCを伴った網膜剥離
II 緑内障,近視性視神経症
A 病的近視の緑内障
I.視神経乳頭への圧ストレスと病態
II.近視眼の視神経乳頭へのストレスと病態
III.近視と緑内障の複雑な関係
IV.病的近視の緑内障診断の問題点
V.病的近視の緑内障の治療方針
B 病的近視の視神経周囲構造異常
1 くも膜下腔拡大,後天ピット形成,ICC
I.視神経周囲くも膜下腔とは
II.視神経周囲くも膜下腔の観察
III.強度近視の後天性視神経ピット
IV.intrachoroidal cavitation(ICC)
2 強度近視眼の強膜変形と網膜神経線維障害
I.なぜ視神経乳頭耳側のridgeが重要なのか
II.視神経乳頭耳側にridgeを伴う強度近視眼症例
III.ridgeのある症例における網膜神経線維障害の機序
IV.強度近視眼と高眼圧
V.強度近視に伴う血管周囲の網膜内層欠損
III 後部ぶどう腫と関連病態
A Curtin分類と,Optos®+MRIの新分類
I.後部ぶどう腫とは
II.Curtin分類
III.3D MRIによる眼球形状解析
IV.3D MRIとOptos®を用いた新分類
B 傾斜乳頭症候群
I.画像所見
II.検査
III.黄斑部合併症
[Topics]dome-shaped macula
第5章 病的近視診療に必要なその他の知識
I 病的近視の眼位異常
I.眼窩窮屈病とは
II.眼窩窮屈病のバリエーション
III.治療
II 固定内斜視に対する手術
I.診断
II.手術
III.術後の長期経過
IV.近視性斜視と両眼視機能
III 病的近視に対する白内障手術
I.術前評価の注意点
II.白内障手術時の問題点および注意事項
III.術後管理の注意点
IV.病的近視患者における眼内レンズの選択方法
V.術後屈折誤差について
IV 病的近視に対する有水晶体眼内レンズ
I.Artisan®とICL®の規格およびレンズの度数決定
II.適応選択と術前検査
III.手術の実際
IV.Artisan®とICL®の臨床成績
V 病的近視のQOL
I.健康関連QOLとは
II.近視とQOLに関するこれまでの報告
III.QOLを政策決定に生かす指標
IV.世界における近視の疾病負担
V.総括
和文索引
欧文・数字索引
書評
開く
ここまで進歩した病的近視,全ての眼科専門医が熟読すべき良書
書評者: 近藤 峰生 (三重大大学院教授・眼科)
医学書院から出版された『画像診断から考える病的近視診療』を読み終え,深い感銘とともに,この本は全ての眼科専門医が熟読すべき良書であると確信した。病的近視の学問はここまで進歩したのかと,ただ驚くばかりである。本書には,病的近視の診療に必要な最新情報が全て詰まっていると言ってよい。病理,疫学,遺伝,そしてさまざまな画像診断所見と内科・外科治療である。最終章には,病的近視の眼位異常や白内障手術の留意点,さらにQOL評価まで網羅されている。
近年の病的近視の診療を大きく発展させた第1の要因は,やはりOCTをはじめとする画像診断の進歩である。解像度が高く深達度の優れたOCTの登場により,病的近視における網膜,脈絡膜,強膜の構造変化が実に鮮明に観察できるようになり,病的近視の病態理解は飛躍的に進んだ。このイメージング技術は,治療適応の決定にも極めて重要な役割を果たしている。本書においても,近視性脈絡膜新生血管(myopic CNV:mCNV)の検出,近視性黄斑分離や黄斑剥離の鑑別,さらにdome-shaped maculaといった特殊病変など,さまざまな病的近視の黄斑所見のイメージング解析には最も多くのページを割いている。きれいなカラー写真と鮮明なOCT像を用いた解説のクオリティは,他のどの成書とも比較にならない。さらに本書では,大野らによる3D-MRIを用いた近視眼の眼球形状解析が示されている。後部ぶどう腫の新しい分類に根拠を与えた圧巻といえる発見であり,多忙な先生にはこの項目だけでもぜひ一読していただきたい。
病的近視の診療を発展させた第2の要因は,やはり内科的・外科的治療の進歩である。内科的治療としては,mCNVに対する抗VEGF薬が保険認可され,その効果がエビデンスとして確立されたことが大きい。比較的少ない注射回数で劇的な改善を示すことも多く,眼科医が必ずマスターすべき治療と言える。本書では,抗VEGF薬の適応であるこのmCNVと,抗VEGF薬投与が必要ない単純型黄斑部出血の鑑別も詳しく解説している。外科的治療では,黄斑牽引に対する硝子体手術(fovea-sparing内境界膜剥離を含む)や,黄斑円孔網膜剥離に対するinverted ILM flap法のさまざまな変法などが考案され,低侵襲でありながら良好な治療成績が報告されている。本書では,これら全ての術式をわかりやすく写真やイラストを使って解説しており,網膜硝子体術者にも必携の書となっている。
以前より日本を含む東アジア地域で近視が多いことはよく知られていたが,その有病率はさらに上昇し続けており,最近の『Nature』誌にも「Myopia Boom(近視ブーム)」として特集されている。近視は,われわれ日本の眼科医にとってますます重要な疾患となることは間違いない。その今,日本からこのような病的近視の総合的な専門書が出版されたのは実に喜ばしいことである。本書を編集した大野京子先生,前田直之先生,吉村長久先生に心より敬意を表したい。
病的近視眼のケアに必要な全ての情報が網羅された一冊
書評者: 坂本 泰二 (鹿大大学院教授・眼科学)
近視人口は世界中で増加している。とりわけ日本は,世界的に近視の割合が最も高い民族集団であり,その数は5000万人以上と考えられている。
一般に近視というと,裸眼ではものがはっきりと見えなくても,眼鏡をかければはっきりと見える眼の状態であり,病気ではないと理解されているのではなかろうか。正確に言えば,近視にはいわゆる成長期に発症するものの成人後にはその進行が止まる学童近視と,近視の進行が成人後も継続し眼鏡では矯正できない状況(失明)に至る病的近視に分けられる。数の上では学童近視が多数を占めるが,病的近視の患者数も決して少なくなく,わが国の失明原因の上位を占める重篤かつ頻度の高い疾患である。以前は糖尿病網膜症などが失明原因の上位を占めたが,治療法の確立とともにその地位を他の疾患に譲りつつある。そして,それに代わって失明原因の中心になろうとしているのが病的近視だといえる。
従来から,病的近視の研究は,わが国が世界をリードしてきた。編者の大野京子先生(医科歯科大教授),前田直之先生(湖崎眼科副院長),★村長久先生(北野病院病院長)がまさにその世界的な研究者である。しかし,病的近視に焦点を絞った成書は少なく,本書は待ち望まれた一冊である。
本書では,まず総説で病的近視の現状とそれを取り巻く背景について俯瞰的に解説されている。これを読むだけで,読者は病的近視の現在の問題が理解できる。また,近年急速に発展して,病的近視の診断を一変させた画像診断については,多くのページが割かれ,その内容も一般診療に必要なものから,研究に必要なレベルの内容まで,豊富な写真やイラストを用いて解説されている。最近の画像診断で忘れられがちな病理像についての解説は特筆すべきものであり,画像の理解をいっそう容易にしている。また,最近のホットなトピックである緑内障の病態形成と近視の関係についても,詳しく解説されている。編者がどのような思考で疾患を理解しているかを示すもので,その深い洞察が感じられる。
治療については,病的近視に特有の近視性脈絡膜新生血管治療や黄斑円孔網膜剥離の外科的治療について詳しく解説されている。さらには,病的近視眼に対する白内障手術,眼位異常の問題など,病的近視眼のケアに必要な全ての情報が網羅されている。特に最後の社会経済に及ぼす影響の解説に至っては,政策立案者にもご一読いただきたい重要な内容を含んでいる。
病的近視の頻度は加齢とともに高まるが,社会の高齢化や世界的な近視の増加傾向からみて,今後病的近視は眼科臨床の中心になるであろう。病的近視分野の世界一流の研究者によって編まれた本書は,世界的にも最高のものであると自信を持っていえる。これを日本語で読めることは,われわれにとって幸いなことであり,研修医から第一線の研究者までの全ての読者の要求を満たすものである。
書評者: 近藤 峰生 (三重大大学院教授・眼科)
医学書院から出版された『画像診断から考える病的近視診療』を読み終え,深い感銘とともに,この本は全ての眼科専門医が熟読すべき良書であると確信した。病的近視の学問はここまで進歩したのかと,ただ驚くばかりである。本書には,病的近視の診療に必要な最新情報が全て詰まっていると言ってよい。病理,疫学,遺伝,そしてさまざまな画像診断所見と内科・外科治療である。最終章には,病的近視の眼位異常や白内障手術の留意点,さらにQOL評価まで網羅されている。
近年の病的近視の診療を大きく発展させた第1の要因は,やはりOCTをはじめとする画像診断の進歩である。解像度が高く深達度の優れたOCTの登場により,病的近視における網膜,脈絡膜,強膜の構造変化が実に鮮明に観察できるようになり,病的近視の病態理解は飛躍的に進んだ。このイメージング技術は,治療適応の決定にも極めて重要な役割を果たしている。本書においても,近視性脈絡膜新生血管(myopic CNV:mCNV)の検出,近視性黄斑分離や黄斑剥離の鑑別,さらにdome-shaped maculaといった特殊病変など,さまざまな病的近視の黄斑所見のイメージング解析には最も多くのページを割いている。きれいなカラー写真と鮮明なOCT像を用いた解説のクオリティは,他のどの成書とも比較にならない。さらに本書では,大野らによる3D-MRIを用いた近視眼の眼球形状解析が示されている。後部ぶどう腫の新しい分類に根拠を与えた圧巻といえる発見であり,多忙な先生にはこの項目だけでもぜひ一読していただきたい。
病的近視の診療を発展させた第2の要因は,やはり内科的・外科的治療の進歩である。内科的治療としては,mCNVに対する抗VEGF薬が保険認可され,その効果がエビデンスとして確立されたことが大きい。比較的少ない注射回数で劇的な改善を示すことも多く,眼科医が必ずマスターすべき治療と言える。本書では,抗VEGF薬の適応であるこのmCNVと,抗VEGF薬投与が必要ない単純型黄斑部出血の鑑別も詳しく解説している。外科的治療では,黄斑牽引に対する硝子体手術(fovea-sparing内境界膜剥離を含む)や,黄斑円孔網膜剥離に対するinverted ILM flap法のさまざまな変法などが考案され,低侵襲でありながら良好な治療成績が報告されている。本書では,これら全ての術式をわかりやすく写真やイラストを使って解説しており,網膜硝子体術者にも必携の書となっている。
以前より日本を含む東アジア地域で近視が多いことはよく知られていたが,その有病率はさらに上昇し続けており,最近の『Nature』誌にも「Myopia Boom(近視ブーム)」として特集されている。近視は,われわれ日本の眼科医にとってますます重要な疾患となることは間違いない。その今,日本からこのような病的近視の総合的な専門書が出版されたのは実に喜ばしいことである。本書を編集した大野京子先生,前田直之先生,吉村長久先生に心より敬意を表したい。
病的近視眼のケアに必要な全ての情報が網羅された一冊
書評者: 坂本 泰二 (鹿大大学院教授・眼科学)
近視人口は世界中で増加している。とりわけ日本は,世界的に近視の割合が最も高い民族集団であり,その数は5000万人以上と考えられている。
一般に近視というと,裸眼ではものがはっきりと見えなくても,眼鏡をかければはっきりと見える眼の状態であり,病気ではないと理解されているのではなかろうか。正確に言えば,近視にはいわゆる成長期に発症するものの成人後にはその進行が止まる学童近視と,近視の進行が成人後も継続し眼鏡では矯正できない状況(失明)に至る病的近視に分けられる。数の上では学童近視が多数を占めるが,病的近視の患者数も決して少なくなく,わが国の失明原因の上位を占める重篤かつ頻度の高い疾患である。以前は糖尿病網膜症などが失明原因の上位を占めたが,治療法の確立とともにその地位を他の疾患に譲りつつある。そして,それに代わって失明原因の中心になろうとしているのが病的近視だといえる。
従来から,病的近視の研究は,わが国が世界をリードしてきた。編者の大野京子先生(医科歯科大教授),前田直之先生(湖崎眼科副院長),★村長久先生(北野病院病院長)がまさにその世界的な研究者である。しかし,病的近視に焦点を絞った成書は少なく,本書は待ち望まれた一冊である。
本書では,まず総説で病的近視の現状とそれを取り巻く背景について俯瞰的に解説されている。これを読むだけで,読者は病的近視の現在の問題が理解できる。また,近年急速に発展して,病的近視の診断を一変させた画像診断については,多くのページが割かれ,その内容も一般診療に必要なものから,研究に必要なレベルの内容まで,豊富な写真やイラストを用いて解説されている。最近の画像診断で忘れられがちな病理像についての解説は特筆すべきものであり,画像の理解をいっそう容易にしている。また,最近のホットなトピックである緑内障の病態形成と近視の関係についても,詳しく解説されている。編者がどのような思考で疾患を理解しているかを示すもので,その深い洞察が感じられる。
治療については,病的近視に特有の近視性脈絡膜新生血管治療や黄斑円孔網膜剥離の外科的治療について詳しく解説されている。さらには,病的近視眼に対する白内障手術,眼位異常の問題など,病的近視眼のケアに必要な全ての情報が網羅されている。特に最後の社会経済に及ぼす影響の解説に至っては,政策立案者にもご一読いただきたい重要な内容を含んでいる。
病的近視の頻度は加齢とともに高まるが,社会の高齢化や世界的な近視の増加傾向からみて,今後病的近視は眼科臨床の中心になるであろう。病的近視分野の世界一流の研究者によって編まれた本書は,世界的にも最高のものであると自信を持っていえる。これを日本語で読めることは,われわれにとって幸いなことであり,研修医から第一線の研究者までの全ての読者の要求を満たすものである。