有水晶体眼内レンズ手術 動画付
ICL認定術者となるうえで必要となる知識・技術を1冊に!
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近年手術数が増加している「有水晶体眼内レンズ(ICL)手術」。これを行う“ICL認定術者”となるうえで必要となる知識・技術を一冊にまとめた教科書。編集・執筆はいずれも本領域のエキスパートで構成。全体像(屈折矯正手術の現状・世界との比較、歴史と種類)の解説に加え、実践的な内容(適応選択、術前検査、手術の実際、術中合併症・トラブルへの対処、術後合併症と対処)を掲載。ポイントとなる手技は動画で紹介する。
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序文
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序(神谷和孝) / 巻頭言──ICLの開発に至るまでの経緯(清水公也)
序
屈折矯正手術の安全性や有効性は世界的に広く認知されているが,本邦での屈折矯正手術の位置付けは,国際的なコンセンサスとは異なる部分が多い。海外の屈折矯正術者から「どうしてこんなに変わった市場となっているのか」とよく指摘を受ける。国民性による手術自体に対する考え方の違いも背景にはあるが,従来の眼科医に対する教育環境の違いも影響しているようだ。「近視や乱視は目の病気ではない,眼鏡やコンタクトレンズをすればよいだけだ」と考える眼科医もいるであろう。それでも煩わしい眼鏡やコンタクトレンズから解放され,快適に日常生活を過ごしたいと考える患者は我々の想像以上に多く,屈折矯正手術の潜在的な需要は少なくない。もちろん,屈折矯正手術のメリットだけでなく,デメリットにも目を向ける必要があるが,頭ごなしに手術そのものを否定することは,患者にとっても不利益となり得る。少なくとも治療の選択肢の1つとして,エビデンスに基づく正しい医療情報を患者へ提供することは必要であろう。医師個人の誤った医療情報の押し付けやバイアスのかかった先入観の介入は避けなければならない。
本書は,とかく色眼鏡で見られやすい屈折矯正手術,特に有水晶体眼内レンズに焦点を当て,最前線の現場で活躍するICL研究会のエキスパートの先生方に,エビデンスに基づく内容に従い,実践的に解説いただいた。これまで要望の大きかった有水晶体眼内レンズに対する初めての教科書を目指しており,ベーシックからアップデートまで幅広く網羅しており,手術について総合的な理解を深めることができると思う。単なる誹謗中傷や美辞麗句に惑わされることなく,極めて公平・中立的な観点から,有水晶体眼内レンズ手術をもう一度見直すきっかけになり,ひいては患者にとって少しでも役立つものとなれば幸いである。
なお,後房型有水晶体眼内レンズは3種類ほど上市されているが,現時点で厚生労働省の承認を受けているのは,ICL(Visian ICL;STAAR Surgical社)のみとなっている。実際の医療現場において最も頻用されており,本書はこの有水晶体眼内レンズを主体とした構成となっている。本来ICLは商品名であり,教科書での使用は控えるべきと考えられるが,患者だけでなく眼科医においても頻繁に使用されており,一般語化しつつある現状に鑑みて,本書では「有水晶体眼内レンズ」ではなく「ICL」という表現で統一させていただいた。
2022年8月
編集 神谷和孝
巻頭言──ICLの開発に至るまでの経緯
有水晶体眼内レンズ(implantable collamer lens:ICL)手術は最新の手術というイメージがあるかもしれないが,1980年代後半から行われており,レンズ素材やデザインの改良が重ねられてきた。しかし,筆者がICL挿入術を初めて行った1997年からICLが国内薬事承認を受けた2010年当時も含めて,ICL挿入術には解決すべき問題があった。1つは,術後の瞳孔ブロックを予防するために術前レーザー虹彩切開を行う2段階の手術であること,もう1つは,術後の房水循環不全による白内障の発症である。これらは我々だけではなく患者にとっても大きな負担であり,ICL挿入術の欠点でもあった。
2003年から国内治験に携わる一方,独自に基礎実験や動物実験を開始した。まずは単純にレンズ自体に孔を開けることができれば,虹彩を傷つけることなく房水の循環を維持することができて手術も1回で済むのではないかと考えて,レンズの光学特性を損なうことなく貫通孔を設けられる位置を模索した。そこでヒントとなったのがハワイ島のマウナ・ケア山山頂にある日本の大型光学赤外線望遠鏡(すばる望遠鏡)の逸話である。
すばる望遠鏡の主鏡は口径8.2mの世界最大級の滑らかな1枚鏡であり,人の目と比べると100万倍以上で,最高分解能は富士山山頂に置いたコインを東京都内から見分けられるほどの視力に相当するというのである。これだけ聞いてもワクワクしたが,このような天体望遠鏡はレンズ中心部を通る光線を遮断してアポダイゼーション効果を利用しており,光学分野ではレンズの一部の光線を遮る設計もあり得るということになる。
天体望遠鏡は眼球光学系と比べてレンズ径の収差量がはるかに小さく,遮断されたレンズ中心部は光線が通過しないが,Hole ICLではレンズ中央の貫通孔も光線が通過することなど,異なる点の多い両者を同じように議論するには飛躍はある。だが,遥か彼方からの光を集光させるレンズとして,近しいロマンを感じた。
2007年にはSTAAR社協力のもとレンズ光学部中央に貫通孔を有したHole ICLを作製し1, 2),初めて人眼に埋植した。臨床治験を経て,2011年ICL V4c(ICL KSAquaPORT,STAAR社)として欧州で承認され,2014年には厚生労働省の認可も得られた。2016年には夜間の視機能改善効果を期待して光学部径を大きくしたHole ICL(EVO+)が登場した。EVOはevolution(進化)を,+は光学部が拡大したことを表しているが,基本的にはICL V4cと同じである。
筆者の手術に対する基本的な考え方は「Simple is the Best;手術は怪我の一種であり,手技は少なく小さい傷が望ましい」である。これを体現した1つがHole ICLであり,わが国で独自に開発して実用化に至った革新的なテクノロジーとして,現在86か国で承認されている(2022年3月末時点)。
2022年8月
編集 清水公也
文献
1) Shimizu K, Kamiya K, Igarashi A, et al: Early clinical outcomes of implantation of posterior chamber phakic intraocular lens with a central hole( Hole ICL) for moderate to high myopia. Br J Ophthalmol 96: 409-412,2012
2) Shimizu K, Kamiya K, Igarashi A, et al: Intraindividual comparison of visual performance after posterior chamber phakic intraocular lens with and without a central hole implantations for moderate to high myopia. Am J Ophthalmol 154: 486-494, 2012
目次
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■1章 屈折矯正手術の現状・世界との比較
1 屈折矯正手術の種類
2 適応選択と手術特性
①角膜屈折矯正手術
②有水晶体眼内レンズ
3 海外との比較
4 国内多施設共同研究①
①角膜屈折矯正手術
②有水晶体眼内レンズ
5 国内多施設共同研究②
TOPICS JSCRS Clinical SurveyからみたICLの現状
■2章 有水晶体眼内レンズの歴史と種類
1 有水晶体眼内レンズの歴史
2 種類
①前房型
②後房型
3 今後の展望
①プリロードICL
②老視矯正ICL
■3章 適応選択
1 ICL認定プロセス
①ICLの導入に適した医師とは
②日眼講習会,メーカー講習会
③ライセンス認定手術の概略と実際の評価
TOPICS ICL研究会の役割
2 屈折矯正手術のガイドライン
①ガイドラインの骨子
②ガイドラインの改訂
■4章 術前検査
1 屈折度数決定のための検査
①術前検査を行う前に
②術前検査の実際
③調節麻痺薬の使用下屈折検査
④再検査を要する症例
2 トーリック選択の適否
①自覚乱視と角膜乱視の確認
②日常矯正における乱視矯正の確認
③等価球面矯正視力の確認
COLUMN トーリックレンズにするか? ノントーリックレンズにするか?
3 サイズ決定のための検査
①メーカーノモグラム
②NK式
③KS式
④AIを用いた予測式
4 両眼視・斜視検査
①両眼視検査
②斜視検査
5 その他の検査
①角膜径(WTW)
②前房深度
③角膜内皮細胞密度
④コントラスト感度
⑤細隙灯顕微鏡・精密眼底検査
⑥その他
6 レンズ注文方法の実際
①OCOS入力の流れ
②注意すべき点
7 患者指導の実際
①術前指導のポイント
②術後指導のポイント
■5章 手術の実際
1 術前準備
①術野で使用する手術器具・薬剤
②ICLセッティングで使用する手術器具・薬剤
2 ICL手術の実際
①手術の全体の流れ
②各手術手技の説明
TOPICS イメージガイドシステムを用いた軸合わせ
3 手術のバリエーション
①トーリックモデル
②角膜輪部減張切開術(LRI)併用
③上方切開・垂直固定
TOPICS ICLの惹起乱視 / ICLの上方切開・垂直固定
■6章 術中合併症・トラブルへの対処
1 術前レンズ準備
2 術前患者因子
①散瞳不良
②狭瞼裂
③緊張の強い症例
3 レンズ挿入
①創口嵌頓
②展開不良
③アップサイドダウン(裏返し)
④角膜内皮損傷,デスメ膜剝離
⑤虹彩脱出
⑥空気迷入
4 乱視軸修正(トーリックモデル)
5 創口閉鎖不全
■7章 術後合併症と対処
1 白内障
2 眼圧上昇
3 緑内障(PAC含む)
4 ハロー・グレア
5 レンズ回旋
6 過矯正
7 低矯正・再近視化
8 結膜下出血
9 色素散布
10 TASS
①TASSとは
②感染性眼内炎との鑑別
③対処
11 眼内炎
12 網膜剝離,黄斑疾患
13 角膜内皮細胞密度低下
14 その他
TOPICS 外傷によるICL脱臼
■8章 経過観察のポイント
1 術後検査・診察
①手術当日検査
②手術翌日以降検査
2 術後治療
3 術後の注意点
4 vaultの観察
①low vault
②high vault
■9章 臨床成績
1 LASIKとの比較
①視機能の比較
②長期臨床成績の比較
③術後満足度の比較
2 前房型との比較
①レンズ規格と手術手技の比較
②臨床成績の比較
③術後合併症の比較
TOPICS ICLの光学特性 ①基礎
3 長期臨床成績
①多施設共同研究
TOPICS ICLの光学特性 ②臨床
■10章 個別例への対処
1 軽・中等度近視への対処
①軽・中等度近視への適応拡大
②軽度近視の適応拡大に向けて
2 老視への対処
①中年者に対する臨床成績
②老視世代の対応
③初期老視への対処の実際
3 浅前房への対処
①多施設共同研究
4 円錐角膜への対処
①多施設共同研究
5 白内障手術後への対処
①多施設共同研究
6 LASIK後への対処
①多施設共同研究
和文索引
欧文索引
付録web動画の使い方
書評
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ICL手術の教科書は本書一択!
書評者:根岸 一乃(慶大教授・眼科学)
ICL(Visian ICL:STAAR Surgical社)は,1997年にCEマークを取得し,2010年2月に日本で初めて薬事承認を得た有水晶体眼内レンズで,現在ではおよそ70か国で使用されています。現在使用されている最新モデルは,清水公也教授が考案した光学部中心に極小の貫通孔のあるICL KS-AquaPORT®(2011年CEマーク取得,2014年に国内薬事承認)をベースにレンズ全体の大きさを変えずに有効光学径を拡大したEVO+ Visian ICL®です。ICL KS-AquaPORT®のレンズは中央に0.36 mmの貫通孔を開けたことにより,視機能への影響はなく,かつLI(レーザー虹彩切開術)やPI(周辺虹彩切除術)をせずとも,房水循環の維持を可能とし,従来型での問題であった術後合併症である白内障の発症を限りなく低減させました。この,日本発の画期的なアイデアがイノベーションを起こし,世界中に広まったことは,同じ日本人として非常に誇らしく,これを考案された清水先生にはあらためて敬仰します。
さて,本書は本邦初のICL手術の教科書です。編集は,ICL KS-AquaPORT®の考案者である清水先生と,その下でともに長年にわたりICL手術に関するデータを世界に発信され,エビデンスを積み上げてこられた神谷和孝先生で,執筆者にはICLの臨床経験が豊富なエキスパートの先生方が名を連ねられています。
本書では,歴史,適応,手術手技,コツ,合併症への対処など,ICL手術に関する全てがわかりやすく解説されています。手術手技の教科書にありがちな術者の経験談の披露に終わらず,論文化されたエビデンスに基づく記載がなされていることも本書の特徴といえます。さらに秀逸なのは,各手技の動画を閲覧できることです。やはり手術手技の習得は「百聞は一見にしかず」であり,模範的な手技を閲覧できることは何にも代えがたいものです。
神谷先生,清水先生は,この本の編集(神谷先生は,本書の大部分の執筆にもあたっていらっしゃいます)にあたり,内容を取捨選択され,的確かつ端的なものとすべく,膨大な時間を費やされたことと思います。数々の要職をお勤めになりながら,この本を完成された能力と熱意に心より敬意を表します。
これからICL手術を始める初心者からすでに多数例を経験している術者まで,ICLの教科書としてはこれ一択,ぜひ手元においていただきたいと思います。
読みやすく,情報をみつけやすい。ICL手術の良書
書評者:ビッセン 宮島 弘子(東京歯科大水道橋病院特任教授・眼科)
有水晶体眼内レンズは,眼科医のみでなく一般の方にも認知されるようになり,近年,その手術件数は増え続けている。本書は『有水晶体眼内レンズ手術』と題されているが,実際には,数あるレンズの中で最も普及し,国内承認を得ているImplantable collamer lens:ICL(アイ・シー・エル)挿入に関する内容である。
さて,このICLは,編集の労をとられた清水公也先生の地道な臨床例の積み重ねに加え,一般眼科医が思いつかない独自のアイディアによって,今日の普及に至ったと思う。白内障手術時の無水晶体眼に用いる眼内レンズは,前房型,虹彩把持型,後房型と複数のデザインが登場し,最終的に残ったのが後房型である。有水晶体眼に挿入する眼内レンズも同様のデザインで開発されたが,水晶体を温存した有水晶体の状態で挿入するため,水晶体への影響,すなわち白内障の併発が懸念された。その水晶体に最も近い位置に挿入する後房型のICLであるが,清水先生が巻頭言で述べられているように,レンズの中央に貫通孔を設けるという奇想天外なアイディアで,術後の房水循環不全による白内障の軽減を実現させた。そして,もう1名の編集者である神谷和孝先生らとともに,基礎実験に加え,臨床例を国内外の学会で報告かつ論文化し,ICLの安全性と有効性を世界中の眼科医に納得させるまでに至った。
このように,ICLを最も知りつくしていると言っても過言ではない編集者のもと,臨床経験豊富な著者が加わって完成された本書は,ICLについて学びたい初心者から熟練者にとって,他に類のない至れり尽くせりの内容となっている。実際に挿入を始めたい場合に必要な講習会の受け方から認定手術のチェックポイントが詳しく説明され,術前検査と適応判断は,読者があたかも著者と一緒に検査結果をみながら適応を決め,度数決定まで進むような流れになっている。ICL手術で重要なサイズ決定は,最近の論文で注目されているAIを用いた方法まで紹介され,すでにICL手術を行っている眼科医も知識のアップデートができる。手術手技は,ウェブ動画でIDとパスワードを入力することで,プログラムから選択可能となっている。実際に動画を見せていただき,とても洗練された手術であることはもちろん,画像のセンタリングからピント合わせまで,教育用画像として細かな気配りがなされたものである。また,症例を重ねれば起こり得る合併症への対応,応用編としてのピギーバック法まで含まれていて,どのレベルの眼科医にとっても,申し分のない内容となっている。
最後に,このような1つの手技に関して複数の著者で執筆された本は,各著者の章で内容が重複していたり,知りたい情報が書かれている章を探すのに時間を要したりすることがある。本書は,最初から最後まで,あたかも1名の著者がまとめたような読みやすさと,特定の情報を見つけやすい構成になっている。海外でもICLに関する多くの著書が出版されている中,本書のように基礎から実技,応用まで非常に読みやすく,またコンパクトにまとまった本は筆者の知る限り出版されていない。海外の眼科医が本書の特徴を知ったらぜひ英語版を希望することは間違いない,非常に有用な本である。本書は,ICL手術をする眼科医のみならず,関係する眼科スタッフ,またICL希望症例や術後症例の診療をなさる眼科医にぜひ熟読いただきたい。