てんかん学ハンドブック 第3版
てんかんの“小さな百科事典”、待望の改訂第3版!
もっと見る
てんかん臨床の第一人者の手による診療の手引き書を6年ぶりに改訂。専門医以外でもてんかんをスムーズに理解できる構成で、てんかんに長年携わってきた著者だからこそ書ける「事例」や「臨床メモ」が満載の“小さな百科事典”。近年本邦で使用可能となった抗てんかん薬による処方戦略など、最新知見も大幅増補。精神科医、神経内科医、小児科医、脳外科医のみならず、てんかんに遭遇するかもしれない医師は読んでおきたい1冊。
著 | 兼本 浩祐 |
---|---|
発行 | 2012年04月判型:A5頁:368 |
ISBN | 978-4-260-01539-4 |
定価 | 4,180円 (本体3,800円+税) |
- 販売終了
更新情報
-
更新情報はありません。
お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。
- 序文
- 目次
- 書評
序文
開く
第3版の序
本書を改訂しなくてはならなくなった理由は2つある。1つは,ガバペンチン,トピラマート,ラモトリギン,レベチラセタムといった有用性の高い新薬が相次いで本邦でも使用可能となり,このため具体的な処方戦略の見直しが必要となっていることである。もう1つは,従来の国際てんかん分類を,基本的にはてんかん症候群の集合体として定義し直し,大分類を解体しようという動きが2000年以降行われており,何らかの形でこの改定を意識する必要があると考えたからである。
ただし,2つの点で第3版は,今後の小改訂をあらかじめ予想する形で書かざるをえなかった。1つは新規抗てんかん薬の保険適応の問題である。新規抗てんかん薬は本来は単剤療法が可能であり,さらにいえば多くの場面で単剤療法でなければその十分な有用性を発揮しないが,現在は本邦では併用療法でないと適用外使用となる。したがって,新規薬剤の単剤療法の保険適応が通った場合,それに応じた若干の改訂が必要となることが当然予想される。
もう1つは複雑部分発作という用語に関わる問題である。2010年の国際分類案では,複雑部分発作は,意識障害を伴う焦点性発作“focal seizure with impairment of consciousness or awareness”あるいは認知不全発作“dyscognitive focal seizure”と呼び変えられているが,「凝視→口部自動症→発作後もうろう状態」という一連の流れから構成されるまとまった臨床単位としての複雑部分発作の病態像が前者では見失われるし,後者では失語発作や既知感の一部も含まれた広範な状態が字義通りとれば含まれてしまうことになり,いずれも目下のところ実臨床でそのまま使用することが難しい。意識障害を伴う焦点性発作をFS-ICというように略号化することで臨床単位としての一体感を強める,精神運動発作という以前の用語を復活させるなどいくつかの案が考えられるがいずれも現時点では汎用されている用語法とは乖離してしまうと思われる。本書では,2010年国際分類とも可能な限り整合性をもたせるように,例えば単純部分発作は前兆および焦点性運動発作という用語で置き換えたが,複雑部分発作などいくつかの用語については十分に熟した術語の置き換えは現時点では不可能であると判断し,従来の複雑部分発作という術語をそのまま用いることとした。このため全体としてはちぐはぐな印象を残すこととなったが,どの方向に術語が熟すかを待つ間の正しい経過措置であると考えている(本文の視点・論点2を参照)。新分類は全体として評価されず用いられないままに終わる可能性もまだ十分にあるからである。
ジョン・ヒューリングス・ジャクソンの有名な箴言の1つに,「よい臨床家であるためにはわれわれは植物学者であるとともに庭師でなくてはならない」という言葉がある。新分類を考えるとき,この言葉は含蓄深い。庭師は仕事を頼まれた木をみたときに,その木を見栄えよく枯れないように育てるためにはどの枝を切るべきかの判断をその場で迫られる。それは木の本来の系統発生を問う植物学者の目からみれば最も整合性の高そうな分類とは若干のずれが生ずることもあるかもしれないが,庭師に必要なのは目の前の枝を今どのように剪定すればよいのかについて具体的な指針を与えてくれる枠組みなのである。
2012年2月
兼本浩祐
本書を改訂しなくてはならなくなった理由は2つある。1つは,ガバペンチン,トピラマート,ラモトリギン,レベチラセタムといった有用性の高い新薬が相次いで本邦でも使用可能となり,このため具体的な処方戦略の見直しが必要となっていることである。もう1つは,従来の国際てんかん分類を,基本的にはてんかん症候群の集合体として定義し直し,大分類を解体しようという動きが2000年以降行われており,何らかの形でこの改定を意識する必要があると考えたからである。
ただし,2つの点で第3版は,今後の小改訂をあらかじめ予想する形で書かざるをえなかった。1つは新規抗てんかん薬の保険適応の問題である。新規抗てんかん薬は本来は単剤療法が可能であり,さらにいえば多くの場面で単剤療法でなければその十分な有用性を発揮しないが,現在は本邦では併用療法でないと適用外使用となる。したがって,新規薬剤の単剤療法の保険適応が通った場合,それに応じた若干の改訂が必要となることが当然予想される。
もう1つは複雑部分発作という用語に関わる問題である。2010年の国際分類案では,複雑部分発作は,意識障害を伴う焦点性発作“focal seizure with impairment of consciousness or awareness”あるいは認知不全発作“dyscognitive focal seizure”と呼び変えられているが,「凝視→口部自動症→発作後もうろう状態」という一連の流れから構成されるまとまった臨床単位としての複雑部分発作の病態像が前者では見失われるし,後者では失語発作や既知感の一部も含まれた広範な状態が字義通りとれば含まれてしまうことになり,いずれも目下のところ実臨床でそのまま使用することが難しい。意識障害を伴う焦点性発作をFS-ICというように略号化することで臨床単位としての一体感を強める,精神運動発作という以前の用語を復活させるなどいくつかの案が考えられるがいずれも現時点では汎用されている用語法とは乖離してしまうと思われる。本書では,2010年国際分類とも可能な限り整合性をもたせるように,例えば単純部分発作は前兆および焦点性運動発作という用語で置き換えたが,複雑部分発作などいくつかの用語については十分に熟した術語の置き換えは現時点では不可能であると判断し,従来の複雑部分発作という術語をそのまま用いることとした。このため全体としてはちぐはぐな印象を残すこととなったが,どの方向に術語が熟すかを待つ間の正しい経過措置であると考えている(本文の視点・論点2を参照)。新分類は全体として評価されず用いられないままに終わる可能性もまだ十分にあるからである。
ジョン・ヒューリングス・ジャクソンの有名な箴言の1つに,「よい臨床家であるためにはわれわれは植物学者であるとともに庭師でなくてはならない」という言葉がある。新分類を考えるとき,この言葉は含蓄深い。庭師は仕事を頼まれた木をみたときに,その木を見栄えよく枯れないように育てるためにはどの枝を切るべきかの判断をその場で迫られる。それは木の本来の系統発生を問う植物学者の目からみれば最も整合性の高そうな分類とは若干のずれが生ずることもあるかもしれないが,庭師に必要なのは目の前の枝を今どのように剪定すればよいのかについて具体的な指針を与えてくれる枠組みなのである。
2012年2月
兼本浩祐
目次
開く
第1章 てんかん学の基礎
A.てんかん診療のフローチャート
B.てんかんの定義と非てんかん
C.てんかん4大類型の予後と治療
D.てんかん4大類型の診断のしかた
第2章 治療
A.年齢依存性焦点性てんかん群
B.特発性全般てんかん群
C.年齢非依存性焦点性てんかん群(睡眠時大発作も含む)
D.レンノックス症候群とその関連症候群
E.高齢発症のてんかん
F.進行性ミオクローヌスてんかん
G.けいれん発作重積状態の初期治療
H.迷走神経刺激療法
I.てんかんの外科手術
第3章 脳波
A.てんかんにおける脳波判読の原則
B.てんかん特異性電位
C.てんかん特異性電位と混同しやすい波形
第4章 鑑別診断
A.発作性のけいれんとけいれん様症状
B.転倒発作(大発作を除く)を主症状とする場合
C.意識・記憶・反応性の発作性の消失・減損が主症状(転倒を伴わない)
D.突然出現した錯乱状態
E.発作性の主観的体験を主症状とする場合
F.発作性の笑いを主訴とする場合
第5章 てんかん症候群とてんかん類似疾患
本書でのてんかんとてんかん類似疾患の分類
1.年齢依存性てんかん
2.特発性全般てんかん群
3.てんかん性脳症群
4.年齢非依存性焦点性てんかん群
5.その他のてんかん症候群
6.状況依存性機会性けいれん
7.進行性ミオクローヌスてんかん
8.反射てんかん
9.発作重積状態
10.てんかんと時に混同される可能性のある疾患
第6章 抗てんかん薬
A.抗てんかん薬の簡易薬理学
B.バルプロ酸(VPA)
C.カルバマゼピン(CBZ)
D.トピラマート(TPM)
E.ラモトリギン(LTG)
F.レベチラセタム(LEV)
G.ガバペンチン(GBP)
H.ゾニサミド(ZNS)
I.エトスクシミド(ESM)
J.フェニトイン(PHT)
K.フェノバルビタール(PB)
L.プリミドン(PRM)
M.ベンゾジアゼピン
第7章 遺伝
A.遺伝・遺伝子関係の用語解説
B.遺伝性疾患の種類とてんかんを主症状とする症候群・疾患の対応関係
C.遺伝要因が発病を規定していることが判明しているてんかん関連疾患・症候群
D.多因子遺伝あるいはtrait markerが不明なその他のてんかん症候群
第8章 診療アラカルト
A.初回発作の治療
B.頭部外傷とてんかん
C.脳血管障害・頭蓋内出血に伴うてんかん発作
D.妊娠とてんかん
E.海馬硬化を伴う側頭葉てんかんの外科手術
F.自動車の運転
G.てんかんと熱性けいれんをもつ人への予防接種
H.抗てんかん薬による薬疹
I.自閉症
J.投薬の終了
索引
事例
1.排尿後失神のため失職しそうになったお抱え運転手
2.家庭内暴力をてんかんと診断されPRMが投与されていた高校生
3.発作ではなく脳波を治療されて成績の下がった小学生
4.朝上肢がピクつく高校生
5.複雑部分発作を欠神発作と誤診され失職した女性
6.統合失調症様の交代性精神病を呈した1例
7.発作後に急性の躁状態となり精神科病院への入退院を繰り返す市会議員
8.PHTとPBによって多動・攻撃性の増大をきたした精神遅滞を伴う1例
9.出社前になると倒れてしばらく動けなくなる会社員
10.姿勢発作を心因性発作と誤診され抗うつ薬と多量のベンゾジアゼピンを
投与された1例
11.採血や運動で左半身のけいれんが誘発された高齢の男性
12.解離・転換性障害によるオピストトーヌスを疑われたNMDA受容体脳炎の
ツアー・コンダクター
13.SPECTで側頭葉てんかんを疑われたピアニスト
14.心因性非てんかん性発作に側頭葉てんかんが隠されていた1例
15.時々ブツブツと独り言を言う介護福祉士
16.小声でブツブツ囁くディスコの女王
17.発作を反抗的な態度と誤解され,繰り返し体罰を受けていた青年
18.数時間の耐えがたい「眠気」を主訴とする中年女性
19.数時間の間,事務処理能力が低下する中間管理職の男性
20.長年蟄居生活を送っていたヤンツ症候群の青年
21.当初ヤンツ症候群に似た症状を呈した青年
22.手術によって発作後精神病と新興宗教への信心が消失した側頭葉てんかん
23.毎夜ベッドの上で飛び跳ねる青年実業家
24.突発行動の目立つ辺縁系前頭葉てんかんの女性
25.失語になってから頭部が右へ向く歯科衛生士
26.7色の糸巻きが右視野に見える高校生
27.交通事故後ジャクソン発作を起こした1例
28.発作重積状態の診断で運ばれて来た洗濯工場で働く女性
29.PHTを錠剤から散剤(末)に変更したために発作重積状態となった青年
30.フェノバール中毒のため2年間這って暮らしていた女性
臨床メモ
1.誤診されやすい発作-ミオクロニー発作とジャクソン発作
2.誤診されやすい複雑部分発作と欠神発作
3.意識障害の精神病理学
4.特発性全般てんかん各症候群での定型欠神発作の比較
5.覚醒てんかんの性格
6.代謝・病巣性ウェスト症候群と特発性ウェスト症候群
7.ミオクロニー発作とてんかん性スパスムの相違
8.レンノックス症候群の側頭部焦点
9.過剰連結症候群
10.閉眼と発作誘発
11.前兆としての不安・恐怖と扁桃核
12.血中アンモニア値
視点論点
1.“特発性”とは何か
2.精神運動発作,複雑部分発作,意識障害を伴う焦点性発作
3.二次性全般化発作と両側性けいれんに展開する焦点性てんかん
4.分類は何のためにあるのか-2006年清野論文
5.抗てんかん薬と抑うつ・興奮,そして陰陽
6.てんかんでみられる“うつ病”
7.チャンネル病としてのてんかん
A.てんかん診療のフローチャート
B.てんかんの定義と非てんかん
C.てんかん4大類型の予後と治療
D.てんかん4大類型の診断のしかた
第2章 治療
A.年齢依存性焦点性てんかん群
B.特発性全般てんかん群
C.年齢非依存性焦点性てんかん群(睡眠時大発作も含む)
D.レンノックス症候群とその関連症候群
E.高齢発症のてんかん
F.進行性ミオクローヌスてんかん
G.けいれん発作重積状態の初期治療
H.迷走神経刺激療法
I.てんかんの外科手術
第3章 脳波
A.てんかんにおける脳波判読の原則
B.てんかん特異性電位
C.てんかん特異性電位と混同しやすい波形
第4章 鑑別診断
A.発作性のけいれんとけいれん様症状
B.転倒発作(大発作を除く)を主症状とする場合
C.意識・記憶・反応性の発作性の消失・減損が主症状(転倒を伴わない)
D.突然出現した錯乱状態
E.発作性の主観的体験を主症状とする場合
F.発作性の笑いを主訴とする場合
第5章 てんかん症候群とてんかん類似疾患
本書でのてんかんとてんかん類似疾患の分類
1.年齢依存性てんかん
2.特発性全般てんかん群
3.てんかん性脳症群
4.年齢非依存性焦点性てんかん群
5.その他のてんかん症候群
6.状況依存性機会性けいれん
7.進行性ミオクローヌスてんかん
8.反射てんかん
9.発作重積状態
10.てんかんと時に混同される可能性のある疾患
第6章 抗てんかん薬
A.抗てんかん薬の簡易薬理学
B.バルプロ酸(VPA)
C.カルバマゼピン(CBZ)
D.トピラマート(TPM)
E.ラモトリギン(LTG)
F.レベチラセタム(LEV)
G.ガバペンチン(GBP)
H.ゾニサミド(ZNS)
I.エトスクシミド(ESM)
J.フェニトイン(PHT)
K.フェノバルビタール(PB)
L.プリミドン(PRM)
M.ベンゾジアゼピン
第7章 遺伝
A.遺伝・遺伝子関係の用語解説
B.遺伝性疾患の種類とてんかんを主症状とする症候群・疾患の対応関係
C.遺伝要因が発病を規定していることが判明しているてんかん関連疾患・症候群
D.多因子遺伝あるいはtrait markerが不明なその他のてんかん症候群
第8章 診療アラカルト
A.初回発作の治療
B.頭部外傷とてんかん
C.脳血管障害・頭蓋内出血に伴うてんかん発作
D.妊娠とてんかん
E.海馬硬化を伴う側頭葉てんかんの外科手術
F.自動車の運転
G.てんかんと熱性けいれんをもつ人への予防接種
H.抗てんかん薬による薬疹
I.自閉症
J.投薬の終了
索引
事例
1.排尿後失神のため失職しそうになったお抱え運転手
2.家庭内暴力をてんかんと診断されPRMが投与されていた高校生
3.発作ではなく脳波を治療されて成績の下がった小学生
4.朝上肢がピクつく高校生
5.複雑部分発作を欠神発作と誤診され失職した女性
6.統合失調症様の交代性精神病を呈した1例
7.発作後に急性の躁状態となり精神科病院への入退院を繰り返す市会議員
8.PHTとPBによって多動・攻撃性の増大をきたした精神遅滞を伴う1例
9.出社前になると倒れてしばらく動けなくなる会社員
10.姿勢発作を心因性発作と誤診され抗うつ薬と多量のベンゾジアゼピンを
投与された1例
11.採血や運動で左半身のけいれんが誘発された高齢の男性
12.解離・転換性障害によるオピストトーヌスを疑われたNMDA受容体脳炎の
ツアー・コンダクター
13.SPECTで側頭葉てんかんを疑われたピアニスト
14.心因性非てんかん性発作に側頭葉てんかんが隠されていた1例
15.時々ブツブツと独り言を言う介護福祉士
16.小声でブツブツ囁くディスコの女王
17.発作を反抗的な態度と誤解され,繰り返し体罰を受けていた青年
18.数時間の耐えがたい「眠気」を主訴とする中年女性
19.数時間の間,事務処理能力が低下する中間管理職の男性
20.長年蟄居生活を送っていたヤンツ症候群の青年
21.当初ヤンツ症候群に似た症状を呈した青年
22.手術によって発作後精神病と新興宗教への信心が消失した側頭葉てんかん
23.毎夜ベッドの上で飛び跳ねる青年実業家
24.突発行動の目立つ辺縁系前頭葉てんかんの女性
25.失語になってから頭部が右へ向く歯科衛生士
26.7色の糸巻きが右視野に見える高校生
27.交通事故後ジャクソン発作を起こした1例
28.発作重積状態の診断で運ばれて来た洗濯工場で働く女性
29.PHTを錠剤から散剤(末)に変更したために発作重積状態となった青年
30.フェノバール中毒のため2年間這って暮らしていた女性
臨床メモ
1.誤診されやすい発作-ミオクロニー発作とジャクソン発作
2.誤診されやすい複雑部分発作と欠神発作
3.意識障害の精神病理学
4.特発性全般てんかん各症候群での定型欠神発作の比較
5.覚醒てんかんの性格
6.代謝・病巣性ウェスト症候群と特発性ウェスト症候群
7.ミオクロニー発作とてんかん性スパスムの相違
8.レンノックス症候群の側頭部焦点
9.過剰連結症候群
10.閉眼と発作誘発
11.前兆としての不安・恐怖と扁桃核
12.血中アンモニア値
視点論点
1.“特発性”とは何か
2.精神運動発作,複雑部分発作,意識障害を伴う焦点性発作
3.二次性全般化発作と両側性けいれんに展開する焦点性てんかん
4.分類は何のためにあるのか-2006年清野論文
5.抗てんかん薬と抑うつ・興奮,そして陰陽
6.てんかんでみられる“うつ病”
7.チャンネル病としてのてんかん
書評
開く
臨床てんかん学の面白さ,重要さを実感できる充実の一冊
書評者: 池田 昭夫 (京大准教授・臨床神経学)
医学書院から,このたび,愛知医科大学精神科教授の兼本浩祐先生による『てんかん学ハンドブック 第3版』が新たに出版されました。本書は1996年に初版が出版され,その後2006年に第2版,そして第3版が2012年に出版されました。
本書の特徴は次の二つと考えられます。一つは,臨床てんかん学の特に臨床的な内容が非常にコンパクトでありながらも広く網羅されていることです。二番目は,本書が兼本先生の単独執筆による著書であることです。
昨今は,いろんな雑誌の特集号でも分担執筆されているものが非常に多く,また国内外の書籍においても分担執筆によるものが非常に多い状況です。単独執筆の特徴は,単独の著者が全体を綿密に構成かつ俯瞰して,あるポリシーを持って一貫した内容に仕上げられることです。それによって読者は一貫した内容をその本に学ぶことができます。それはもちろんその単独著者がこの分野に最も精通した専門家でなければ不可能で,また同時に筋の通った考え方(臨床的哲学)がなければ逆に浅薄な内容となってしまいます。その点において,兼本先生は,精神科の立場から,学問的にも臨床的にも長い経験と豊富な知識を持ち,日本の臨床てんかん学分野の最も傑出したリーダーのお一人です。
神経内科の分野では,Adams and Victorの“Principles of Neurology”という教科書があります。これは1000ページあまりの本ですが,第4版まではAdams教授とVictor教授による2名のみの共著で,1980年代は名著の評判がすこぶる高かった臨床神経学の教科書です。小生は第3版で勉強しましたが,いたるところに著者の考えが一貫して散りばめられて,また各章間で記載に矛盾がなく前後の記載が有機的に結びついていました。読破することで単に知識を学ぶだけではなく先達のphylosophyを同時に学んだ気がして大変充実感があったことをいまだに覚えています(概して,読書とは他人の頭でものを考えることと言われるゆえんでしょう)。本書も全く同様で,兼本先生の一貫した考え方で構成されています。本書の中には,事例,臨床メモ,視点論点,などが各所に効果的に散りばめられています。これは上述したように,兼本先生の「臨床的哲学」が垣間見える部分です。もちろん本来の基軸となる骨格的内容には,最新の文献的内容も文献とともにわかりやすくポイントを押さえて記載されています。新規抗てんかん薬の記載も充実したものになっています。
兼本先生の学会などでの講演をお聞きになるとすぐわかることですが,その話が大変面白いことは定評のあるところです。それは,学問的にも臨床的にも長い経験と豊富な知識と筋の通った考え方がしなやかに組み合わさっているからでしょう。特にてんかんの初学者は,本書を手に取っていただくと,臨床てんかん学の面白さ,重要さを実感されることと思います。
簡潔・明瞭かつ楽しい教科書
書評者: 中里 信和 (東北大大学院教授・てんかん学)
本書の著者,兼本浩祐先生にはファンが多い。患者や同僚たちのほか,彼の講演を聞いた聴衆たちが次々とファンになるのである。著者の豊富な知識と経験だけではなく,人間的な魅力に惚れていくのである。直感的とも感じられる鋭い洞察力,患者に対する優しさ,そして軽妙な語り口。同じ理由で本書『てんかん学ハンドブック』は,前版から多くのファンを抱えていた。簡潔・明瞭で,かつ楽しい教科書というものは,そうあるものではない。
てんかんは有病率約1%の「ありふれた病」であるが,けっして安易に診療できる疾患ではない。日本の患者の約8割は,てんかん診療の専門的トレーニングを受けていない医師によって治療されているといわれる。したがって一部の専門医のためだけの教科書よりは,非専門医や医学生,あるいは患者が手に取ってみたくなるような教科書が必要とされていた。
てんかんという疾患に対して,本書は基礎・診断・治療までの広い範囲をカバーしつつも,簡潔かつ明瞭にという著者の執筆方針が貫かれている。専門的な最新情報に関しても,改訂を重ねるたびに組み込まれ,決して専門医を飽きさせることがない充実度である。この第3版では新規に登場した抗てんかん薬についても掲載されている。2010年の国際分類に対する戸惑いについても触れられており,これは多くの臨床医が同意するところであろう。
本書のファンになる近道は,コラム「事例」に紹介された物語に目を通すことである。「排尿後失神のため失職しそうになったお抱え運転手」から「フェノバール中毒のため2年間這って暮らしていた女性」までの30例に,てんかん学の面白さが凝縮されている。オリヴァー・サックスの名著『妻を帽子とまちがえた男』と同様の技法である。正しい知識と丁寧な診療が一人の患者の人生を次々に変えていく。この「事例」を読めば,本書の中身をもっと詳しく読みたいと思うようになるだろう。てんかん診療医には,別のコラム「臨床メモ」と「視点論点」も面白いはずだ。著者はこのコラムを書きたいが故に,本書を出版したのではないかと私は勝手に想像している。
教科書の本文には,よく整理された目次と包括的な索引が用意されている。医師も学生も疑問が生じた時点で辞書のように使うのが良いと思う。読んだところには,次々と赤鉛筆でアンダーラインを引き,ポストイットを挟み,あるいは自分のメモを書き込むのが良い。これから私は大学病院てんかん科に臨床実習でやってくる学生たちに,初日に本書を紹介したいと考えている。実習期間内に本書の全部を読み終える必要はないが,てんかん学とはこのように奥深く,かつ楽しいものであることを理解して欲しいからである。さらに私は,ツイッターとフェイスブック上でフォロワーたちにも本書を薦めている。そのうち患者が本書にしおりを挟んで病院にやってくる日がくるかもしれない。
書評者: 池田 昭夫 (京大准教授・臨床神経学)
医学書院から,このたび,愛知医科大学精神科教授の兼本浩祐先生による『てんかん学ハンドブック 第3版』が新たに出版されました。本書は1996年に初版が出版され,その後2006年に第2版,そして第3版が2012年に出版されました。
本書の特徴は次の二つと考えられます。一つは,臨床てんかん学の特に臨床的な内容が非常にコンパクトでありながらも広く網羅されていることです。二番目は,本書が兼本先生の単独執筆による著書であることです。
昨今は,いろんな雑誌の特集号でも分担執筆されているものが非常に多く,また国内外の書籍においても分担執筆によるものが非常に多い状況です。単独執筆の特徴は,単独の著者が全体を綿密に構成かつ俯瞰して,あるポリシーを持って一貫した内容に仕上げられることです。それによって読者は一貫した内容をその本に学ぶことができます。それはもちろんその単独著者がこの分野に最も精通した専門家でなければ不可能で,また同時に筋の通った考え方(臨床的哲学)がなければ逆に浅薄な内容となってしまいます。その点において,兼本先生は,精神科の立場から,学問的にも臨床的にも長い経験と豊富な知識を持ち,日本の臨床てんかん学分野の最も傑出したリーダーのお一人です。
神経内科の分野では,Adams and Victorの“Principles of Neurology”という教科書があります。これは1000ページあまりの本ですが,第4版まではAdams教授とVictor教授による2名のみの共著で,1980年代は名著の評判がすこぶる高かった臨床神経学の教科書です。小生は第3版で勉強しましたが,いたるところに著者の考えが一貫して散りばめられて,また各章間で記載に矛盾がなく前後の記載が有機的に結びついていました。読破することで単に知識を学ぶだけではなく先達のphylosophyを同時に学んだ気がして大変充実感があったことをいまだに覚えています(概して,読書とは他人の頭でものを考えることと言われるゆえんでしょう)。本書も全く同様で,兼本先生の一貫した考え方で構成されています。本書の中には,事例,臨床メモ,視点論点,などが各所に効果的に散りばめられています。これは上述したように,兼本先生の「臨床的哲学」が垣間見える部分です。もちろん本来の基軸となる骨格的内容には,最新の文献的内容も文献とともにわかりやすくポイントを押さえて記載されています。新規抗てんかん薬の記載も充実したものになっています。
兼本先生の学会などでの講演をお聞きになるとすぐわかることですが,その話が大変面白いことは定評のあるところです。それは,学問的にも臨床的にも長い経験と豊富な知識と筋の通った考え方がしなやかに組み合わさっているからでしょう。特にてんかんの初学者は,本書を手に取っていただくと,臨床てんかん学の面白さ,重要さを実感されることと思います。
簡潔・明瞭かつ楽しい教科書
書評者: 中里 信和 (東北大大学院教授・てんかん学)
本書の著者,兼本浩祐先生にはファンが多い。患者や同僚たちのほか,彼の講演を聞いた聴衆たちが次々とファンになるのである。著者の豊富な知識と経験だけではなく,人間的な魅力に惚れていくのである。直感的とも感じられる鋭い洞察力,患者に対する優しさ,そして軽妙な語り口。同じ理由で本書『てんかん学ハンドブック』は,前版から多くのファンを抱えていた。簡潔・明瞭で,かつ楽しい教科書というものは,そうあるものではない。
てんかんは有病率約1%の「ありふれた病」であるが,けっして安易に診療できる疾患ではない。日本の患者の約8割は,てんかん診療の専門的トレーニングを受けていない医師によって治療されているといわれる。したがって一部の専門医のためだけの教科書よりは,非専門医や医学生,あるいは患者が手に取ってみたくなるような教科書が必要とされていた。
てんかんという疾患に対して,本書は基礎・診断・治療までの広い範囲をカバーしつつも,簡潔かつ明瞭にという著者の執筆方針が貫かれている。専門的な最新情報に関しても,改訂を重ねるたびに組み込まれ,決して専門医を飽きさせることがない充実度である。この第3版では新規に登場した抗てんかん薬についても掲載されている。2010年の国際分類に対する戸惑いについても触れられており,これは多くの臨床医が同意するところであろう。
本書のファンになる近道は,コラム「事例」に紹介された物語に目を通すことである。「排尿後失神のため失職しそうになったお抱え運転手」から「フェノバール中毒のため2年間這って暮らしていた女性」までの30例に,てんかん学の面白さが凝縮されている。オリヴァー・サックスの名著『妻を帽子とまちがえた男』と同様の技法である。正しい知識と丁寧な診療が一人の患者の人生を次々に変えていく。この「事例」を読めば,本書の中身をもっと詳しく読みたいと思うようになるだろう。てんかん診療医には,別のコラム「臨床メモ」と「視点論点」も面白いはずだ。著者はこのコラムを書きたいが故に,本書を出版したのではないかと私は勝手に想像している。
教科書の本文には,よく整理された目次と包括的な索引が用意されている。医師も学生も疑問が生じた時点で辞書のように使うのが良いと思う。読んだところには,次々と赤鉛筆でアンダーラインを引き,ポストイットを挟み,あるいは自分のメモを書き込むのが良い。これから私は大学病院てんかん科に臨床実習でやってくる学生たちに,初日に本書を紹介したいと考えている。実習期間内に本書の全部を読み終える必要はないが,てんかん学とはこのように奥深く,かつ楽しいものであることを理解して欲しいからである。さらに私は,ツイッターとフェイスブック上でフォロワーたちにも本書を薦めている。そのうち患者が本書にしおりを挟んで病院にやってくる日がくるかもしれない。
更新情報
-
更新情報はありません。
お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。